2スレ目>>449~>>474


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──どこかの空き地──

薫「(今日はせんせぇはお仕事でいない)」

薫「(たしか、じーでぃーえふのけんきゅーじょに行くって言ってた)」

薫「(だから、今のうちに練習しておかないと……!)」

裕美に魔法の込められたビー玉を貰って以降、薫は独力で魔法の練習を始めていた。
ビー玉を使えばそれなりの魔法を行使できるが、それらは使い捨てだった。
少し前にカースに襲われ、結果的に助かったものの、何も出来ず歯痒い思いをした。
魔法を練習するのはいざという時に自分と、自分の大切な人を守る為の、より信頼できる力を持つ必要性を感じた結果だった。


薫「(たしかひろみさんはこうやって……)」

薫は見様見真似で両手を前面に突き出し構えを取る。

薫「えいっ!」ピューッ

精神を集中させ水の噴出をイメージすると、何も無い空間から水が飛び出した。
……水鉄砲程度の勢いで。

薫「やった……っ! できた!!」

それでも、練習を始めた最初の頃に比べると、上達しているのが分かる。
今までは安定して水を出すことすら困難だった。

薫「(もっと練習して、このまえのばけものをやっつけられるくらいにならないと!)」

 

少し離れた場所で、薫の事を見つめる人影が二つ。
以前薫に敵意を剥き出しにしていた昼子ことブリュンヒルデと、その従者蘭子だ。
二人は(主にブリュンヒルデの方がだが)薫の魔法練習の様子を観察していた。

蘭子「……」チラッ

昼子「……」ジーッ

蘭子「……」

蘭子「あの……昼子ちゃん?」

昼子「なんだ?」

蘭子「そんなにあの子……薫ちゃんだったっけ?」 

蘭子「あの子の事が気になるなら、お話をしに行けばいいのに」

昼子「世迷言をぬかすな……我は奴と馴れ合うつもりなど毛頭無い」

蘭子「(すごい真剣に見守ってるように見えるんだけどなぁ……)」

昼子「我は、あの娘が魔族にとって脅威たり得るのかそうでないのか、監視しているだけだ」

蘭子「……」

 

昼子「しかし解せん……なぜ奴は『魔法』を使っている?」

昼子「竜族の魔力を以ってすれば魔術の行使もたやすいはず」

昼子「それに以前……初めて奴に出会った時は竜言語魔法を発動させていたというのに……」

ブリュンヒルデが観察していた限りでは、魔法しか使っていない。
それもたどたどしく、実戦での使用などとても出来ないような状態だ。


昼子「む……邪気が来たか……?」

昼子が周囲の異変を察知する。
どうやら、カースが近づいてきているらしい。

 

薫「これで……10回せいこう……」ハァハァ

薫は慣れない魔法の行使に息を切らしながらも、満足そうに呟く。
この調子で練習を続ければ、いつか裕美のように自由に魔法を使えるようになるだろうか。

薫「(ん……? 何か、へんなかんじがする……)」

薫もカースの存在による違和感を感じとったが、その時にはそれは既にすぐ近くにまで迫っていた。
薫が逃げる間もなく付近の草むらから、小人のようなカースが飛び出してきた。

薫「!!」


『ヤア、人間ノ皆サン、カワイイ幸子ノ眷属ノボクガ』

『カワイイ幸子ノカワイサヲ広メニ来テアゲマシタヨ』

小人のカースはなにやらよく分からない事を口走っているが、すぐに襲い掛かってくるというようなことは無いらしい。
しかし、以前大型のカースに襲われた記憶がトラウマとなっていた薫は、首から下げた巾着袋を開くと赤いビー玉を取り出した。

薫「あっち行って!!」

ビー玉を握りしめ、目の前の敵を焼き尽くすイメージを固め、念じる。
すると、今まで薫が練習していたものより数倍強力な魔法が発動した。
瞬く間にカースは炎に包まれる。

薫「や……やった……?」

炎の勢いが強く、カースの様子は確認できない。
手元のビー玉を見てみると、赤い色は失われただのガラス玉のようになっていた。

 

『アチチチ……イキナリ燃ヤシテクルナンテ、ヒドイジャナイデスカ』

『ソウデスカ、アナタハ幸子ノカワイサヲ理解デキマセンカ』

薫「な……なんで……あれでもだめなの?」

裕美から貰ったビー玉の力を使ってもこのカースは倒せなかったらしい。
そうなれば薫自身の魔法も当然効かないだろう。

『ソンナカワイソウナアナタハ、生キテイテモショウガナイデショウ』

『優シイボクガ、ソノ無価値ナ生ヲ終ワラセテアゲマスヨ』ドヤァ

薫「やだ……来ないで!」

目の前のカースは、小人大から2メートル近くまで大きくなっている。
薫の目前にまで迫り、もはや絶体絶命かと思われたその時、凛然とした声が空き地に響いた。


「虚空をそよぐ風よ、プロヴァンスの名において命ず」

「万象を刻む刃となりて、我が敵を切り裂け!!」


声が止むと同時に、薫の眼前のカースがあれよあれよという間に細切れになっていく。

薫「え……なに……これ?」

薫は咄嗟の出来事に理解が追い付かない。
カースの黒い泥が切り刻まれると、ビー玉ほど黄色い核が転げ落ちた。

「フン……この程度か、他愛もない」

声の主と思われる人影が薫の前に進み出て、転がり落ちたカースの核を躊躇いなく踏み砕いた。
薫は命の恩人であるその人物を見上げる。

 

薫「あ……この前の……おねえちゃん」

薫を助けたのは、以前薫に対して敵意を露わにして詰め寄ったあの少女──ブリュンヒルデだった。」

昼子「貴様……あの程度の雑魚に手間取るとは……同じ魔界に住まう者として情けない」

薫「かおるのこと、助けてくれたの……?」

昼子「勘違いするな、貴様ら竜族は我ら魔族の宿敵」

昼子「そこらの有象無象にやられるなどということは、あってはならんのだ」

昼子「決して貴様を助ける為に今の雑魚を散らした訳ではない」

薫「……」


薫「……でも、おねえちゃんが、かおるのこと助けてくれたのはほんとうだよ?」

薫「だから、ありがとう!」

昼子「……」

昼子「フン……勝手にしろ」

 

──その頃・とあるカースドヒューマンの隠れ家──

幸子「むっ!」

薫の下に現れたカースの主である少女──輿水幸子は常時浮かべている不遜な笑みを珍しく崩した。
その様子を見ていた同居人の岡崎泰葉は、ただ事ではない雰囲気を察すると幸子に尋ねた。

泰葉「幸子ちゃん、何があったの……?」

幸子「ボクのカワイさを世に広めるべく使いに出していたカースの反応が、途絶えました……」

幸子「恐らく、ヒーローだとかいう連中に、やられたんだと思います」

泰葉「っ!」


泰葉「(またか……)」

泰葉「(何も知らない……何も考えていない愚かな連中が、また私達の邪魔をするのか)」ギリッ

泰葉「(一度、私が直々に出向いて、カースの力を知らしめてやる必要があるのかもしれない)」

泰葉「幸子ちゃん、その、幸子ちゃんのカースを倒したのが誰かって、分かる?」

幸子「あれ? 泰葉さんもしかして、ボクの為に怒ってくれてます?」ニヤニヤ

泰葉「そうね……可愛い妹分のために、ひと肌脱ごうかという気にはなっているかな」

軽口を意に介さない泰葉の態度に、幸子は多少の恐怖心を抱く。
だが、自分のカースのために憤りを感じてくれているというのが分かると、なんとも言えない嬉しさを感じた。
もし自分に、一般的に姉といわれる存在がいたとしたなら、こんな風にあやしてくれたりしたのだろうか。

 

泰葉が仕返しをしてくれるというからには、自分のカースを倒した存在の情報を教えるべきだろう。
幸子は意識を集中させ、倒されたカースが見聞きしていた情報を掘り返す。

幸子「えっと……そのカースの反応が途絶える直前の視界は……こんな感じですね」

泰葉と幸子は、お互いの意識を同調させ、交感する。
このことで、幸子が受け取ったカースからの映像を、泰葉も確認することができる。
カースドヒューマン同士だからこそできる便利能力……とでも言えよう。

泰葉「こんな……子供が?」

幸子「さあ、これ以上の詳細は分かりません、他にも何かが居たかもしれませんよ」

泰葉「まあいい、とりあえずこの子には、きっちりとお礼をしてあげないとね……」

 

──数日後──

薫「(今日もせんせぇは居ない)」

薫「(ふるほんやの友だちに会いに行くって言ってた)」

薫「(だから、今のうちに練習しておこう……!)」

例によって薫は、魔法の練習をするために近所の空き地にやってきていた。
ちなみに、今度カースに襲われた時は、相手をしないで全力で逃げると決めている。

 

少し離れた場所で、薫の事を見つめる人影が一つ。
数日前から、同居人の配下のカースを倒した人間を見つけるべく動き回っていたカースドヒューマン、泰葉である。
自らもカースを生み出し色んな場所を調べたが、結局、今回の事の発端となったこの空き地で目標を見つけたのだった。

泰葉「(しばらく観察してみたものの、やっぱりあんな子供が幸子ちゃんのカースを倒したとは思えない……)」

泰葉「(けどまあ、そんなことはどうでもいい)」

泰葉「(あの場に居たって事は、カースが倒されたことと全く無関係では無いって事)」

泰葉「(この子を締め上げれば、本命が現れるかもしれないしね)」

 

薫「……!!」

カースに二度も襲われた経験のある薫は、いい加減その手の気配に敏感になっていた。

薫「(またへんなかんじがする……逃げなきゃ!)」

人気のある場所まで逃げようと振り向くと、少し前方に一人の少女が立っていた。
どうやらカースの気配はその少女から発せられているらしい。

泰葉「ねえ、そこのあなた」

薫「!」


抑揚のない人間離れした声色で少女から話しかけられる。
薫はその殺気の籠った声に思わず竦み上がってしまう。

泰葉「何日か前に、ここで小っちゃなカースを見たでしょう」

泰葉「その子がどうなったか、教えてくれない?」

この人は普通じゃない、怖い……そういう感情に飲み込まれる。
本能は逃げ出さないといけないと訴えかけているが、身体が思うように動かない。
とりあえず何か口を開かないと……機嫌を損ねたらどうなるかわかったもんじゃない。

薫「お、おねえちゃんは……だれ?」

泰葉「私? 私は岡崎泰葉っていうの」

謎の少女は岡崎泰葉と名乗った。
一見人間のように見えるが、纏っている気配が人間のそれとは明らかに違う。

 

泰葉「私の質問にも、答えて欲しいな」

とりあえず、逆らうのはよしておいた方が良さそうだ。
そう考えた薫は、数日前の記憶を思い出しながら話す。

薫「えっと……かおるのほうに寄ってきたから……ほのおの魔法で退治しようとしたんだけど」

薫「それでたおせなくて、逆におこらせちゃって……」

泰葉「……」

泰葉「そう……やっぱりあなたも、私達の邪魔をしていたのね……」

泰葉「私が司るのは憤怒のカース」

泰葉「そして、あなたが倒してくれたのは私の妹分の大事な眷属よ……」

薫「!?」

泰葉は薫の方へ向かって歩き出した。
相変わらず、薫の身体は動かない。

泰葉「弱い者イジメをする趣味は無いんだけど、あなたが悪いのよ」

薫「そ、そんなの……先におそってきたのはそっちだもん!」

泰葉「ふふっ、そうね……確かに、あなたの言う通りかもね」

泰葉「でも、そんなことはどうだっていいの」

泰葉「私はただ、この湧き上がる怒りを晴らせれば、どうだって……」

 

なんなんだこの人は、いきなり現れて滅茶苦茶だ、理不尽だ。
薫の方にも、怒りに似た感情が湧き上がってくる。
どうして自分はこんな目に合わなければならないのか。
ただ、日々を平穏に過ごしていたいだけなのに……と。

薫「!!」キッ

薫は、眼前まで迫った泰葉を、せめてもの抵抗とばかりに思い切り睨み付ける。
それを見た泰葉は、嬉しそうに笑った。

泰葉「あなたにも分かるのね、理不尽に晒されて湧き上がる、やり場のない怒りが」

泰葉「その怒りをもっとぶつけてみせて……? そうでなくちゃ、張合いが無いから」

そう言うと泰葉は拳を振り上げて攻撃態勢に入る。
薫は怯まずに歯を食いしばり、泰葉を睨み続けている。

 

もはや絶体絶命かと思われたその時、またもや凛然とした声が空き地に響いた。


「そこまでだ!」


泰葉は突然響いた声の主を思わず探してしまう。
それは、空中から二人の間に割って入るかのように降りてきた。

昼子「此度の勝負は、このブリュンヒルデの名において預からせてもらおう」

泰葉「何、あなた? 乱入してくるとはとんでもない奴ね」

泰葉は謎の闖入者に食って掛かる。

昼子「二度も言わせるな、この娘から手を引けと言っている」

泰葉「……いきなり現れて、大したご挨拶ね」

泰葉「あなたの方から先に潰してあげてもいいけど?」

昼子「ほう……人間風情が大きく出たな」

昼子「いや、貴様は人間ですらなかったな、自らの闇に飲まれた哀れな存在よ」

泰葉「!!」

 

昼子「残念だが、貴様では私の相手は務まらん」

昼子「とっとと失せた方が身のためだぞ?」

泰葉「なんですって……?」

ブリュンヒルデの発言(別段挑発したという訳ではないのだが)に激昂した泰葉は、空中高く飛び上がる。

泰葉「見くびるなああぁ!」

そのまま落下の勢いを利用し、ブリュンヒルデ目がけ殴りかかる。
しかし、その拳は地面を大きく穿っただけで、手ごたえは無かった。
ブリュンヒルデはというと、背から翼を生やし空を飛んでいた。

昼子「ただの力押しとは……性根だけでなく、戦い方まで醜いのだな……」

昼子「言ったであろう、貴様では相手にならんと」

泰葉「ッ!!」ギリッ

昼子「フン……どうしてもやろうというなら──!?」

空から地上を眺めていたブリュンヒルデは、薫が未だに空き地に突っ立っている事に気づく。

昼子「(あの馬鹿者! 何故逃げていないのだ!)」

昼子は急降下すると、薫の元へ駆け寄る。

 

薫「!?」ハッ

薫は、泰葉が地面を抉った際の衝撃で意識を取り戻した。
泰葉の理不尽さに憤りを感じていた事は覚えているが、他の出来事が何故か記憶から抜け落ちている。
気を失っていたという訳では無さそうなのだが、薫自身にも訳が分からなかった。

薫「ん……何か……痛い?」ズキ

薫は頬に痛みを感じ、触ってみる。
すると、手に少しの血が付いた。
恐らく、泰葉が地面を抉った際に飛び散った破片がかすめたのだろう。

薫「これ……血? ……う、ああ」

それが血であると認識すると、どくんっと心臓が跳ねた。
体中が熱くなり、激しい動悸に見舞われる。

薫「(な、なに……これ……うぅぅ)」

薫がかつて経験したことの無い現象に悶えていると、頭の中に声が響いてくる。

 

『目覚めよ……』

 

薫「えっ?」

 

『目覚めるのだ……!』

 

薫「な、なに? だれ!?」

その声は、天の高みから聞こえてくるようであり、地の底から響いてくるようでもあった。

 

『本能を……竜の血を否定するな……』

 

『破壊し、焼き尽くせ……』

 

『その力に、身を任せるのだ……!』

 

薫「やだ……! いやだ!! こわいよ!!」

 

『恐れることはない……』

 

『目覚めるのだ、竜の子よ!!』

 


 

昼子「おい! 貴様! すぐにここから……」

昼子「ッ!?」

薫の様子を見に来たブリュンヒルデは、その顔を覗き込んで驚愕する。

昼子「(この眼は……戦闘態勢に入った竜族のもの……!)」

昼子「(やはりこの娘……力を隠していたのか!?)」

昼子「(流石の我も、この場に留まっていては危険だ!)」


ブリュンヒルデは薫の持つ竜の力の発動を察知し、その場を離れる。
取り残された泰葉は、その行動が理解できずにいた。

泰葉「(なんだ……? 逃げたのか?)」

泰葉「(いきなり現れて、あれだけ大口を叩いておいて、何もせずに逃げるなんて……どういうこと?)」

泰葉「(まあいい、当初の予定通り、あの子にカースの力を見せつけてあげないと)」

 

泰葉「お待たせ……さっきの続きよ」

泰葉「それとも、あなたの怒りはもう収まってしまったかな?」

薫「ウ……グ…………ッ」

泰葉が薫のもとへと戻ると、どうにも様子がおかしい。
顔を伏せ、両手で自らの身体を抱きかかえて震えている。

泰葉「どうしたの? 恐怖が怒りに勝ってしまったのかしら?」

薫「ウァ……アァ……アアァ!!」

泰葉「……?」

薫が突然叫び声を上げる。
その様子を見て泰葉はため息を吐いた。

泰葉「(恐怖のあまり発狂したか……つまらないな)」

そんな風に考えて薫への注意をそらした瞬間、恐ろしい程の殺気が泰葉を襲った。
驚いて振り返ると、人間のそれとは全く異なった両目が、泰葉を見据えていた。

 

薫「ガアアアァッ!!」

薫が"吼える"と、凄まじい灼熱が泰葉を襲った。
それはまるで、この世の『憤怒』を体現したかの様な炎だった。
完全に気を抜いていた泰葉は、その業火をモロに浴びてしまう。

泰葉「う、うわああああっ!!」

泰葉「(な、何が起こった? 目の前の娘が、突然炎を……!?)」

あまりの出来事に理解が追い付かなかった。
逃げようにも、不意打ちによるダメージで身体が思うように動かない。


泰葉「(まずい……もう一回は……耐えられない……)」

目の前で、とどめと刺そうと大きく息を吸い込んでいる少女を見ながら考える。

泰葉「(ああ……私が居なくなっても、あの二人はちゃんと生きていけるかな……)」

諦めの境地に達した時、泰葉の脳裏をよぎったのは同居人の二人の少女の姿だった。

 

薫の炎が目の前に迫るのを見ながら死を覚悟した泰葉だったが、その身体が焼かれることは無かった。
眼前には今まで立っていた空き地が小さく見える、どうやら空を飛んでいるらしい。

「いやー、危なかったですね! このカワイイボクに冷や汗をかかせるなんて、泰葉さんも罪な人ですね!」

「……元はと言えば幸子のカースの敵討ちに出かけてたんでしょ……それに私まで巻き込んでくれてさぁ」

泰葉「幸子ちゃん……杏さん?」

泰葉は、例の同居人……輿水幸子と双葉杏の両脇に抱えられていた。
どうやら、二人があの炎から助け上げてくれたらしい。

幸子「ボクはカワイイ上に賢いので、泰葉さんの様子をこっそり伺っていたんです!」

幸子「ボクのカースを倒した相手は、詳しく調べたらどうやらあの子供じゃなかったみたいだったので!」

泰葉「そういう事は……もっと早く教えておいてよね」

幸子「だって、泰葉さん全然『家』に帰って来ないんですもん」

幸子「それに、想定外でしたけど、あの子供も十分に危険だったわけですから」

幸子「結果的に、ボクは正しかったって事です」ドヤァ

泰葉「……」


幸子のカースを倒したのがさっきの子供でないのだとしたら、本当の犯人は恐らくあの乱入者だろう。
今回は、あの乱入者にも子供にも、良いようにやられてしまった。

泰葉「あいつら……次に会った時は絶対に……絶対に叩きのめしてやる……!!」

幸子「泰葉さん、怒り狂うのは別に止めませんけど、今は大人しくしててくださいね」

杏「そーだよ、暴れだしたりしたら腕を離すからね」

泰葉「……」

 

泰葉「そういえば、杏さんまで助けに来てくれたのは意外だったな」

泰葉の知る双葉杏という少女は、例え寝食を共にする相手さえ面倒だと思えば見捨てるような存在だったはずだ。

杏「んー、ぶっちゃけめんどかったんだけどさー」

杏「『将来楽するために今苦労する』っていうの?」

杏「今泰葉に居なくなられたら、後々もっと面倒になるかなって思ったから……杏の世話をする人が居なくなる的な意味で」

泰葉「そうですか……」

杏「ま、今回の件で、向こう一か月くらいは杏の家事当番は免除してもらいたいとこだね」


今まで好き勝手に動いていたはずの二人が、自分の危機に助けに来てくれた。
その事実に、泰葉は得も言われぬ感情を抱いていた。
この三人の間には、いわゆる『絆』と呼ばれるものがあるのではないかと……
あるいは、三人は『仲間』という関係であると言えるのかも知れない。

やはり勝手な思い込みだと言われればそうかもしれないが、
泰葉の胸中は、怒りではない穏やかな感情で満たされていくのだった。

 

──一方その頃──

力を使い果たし倒れていた薫をブリュンヒルデが抱き上げる。
気を失っているらしく、何も反応は無い。

昼子「(この娘……竜の力を使うのに、人の姿のままだったな)」

昼子「(やはり、力を抑制されているのか)」

昼子「(……あの時一緒にいたあの男の下へ行くか)」


用事を済ませ家に帰った龍崎博士は、薫が居ないことに気が付いた。
ただ事ではないと家を飛び出し、丁度そこで薫を連れてきた人物に出会った。

博士「君はあの時の……確か、悪姫ブリュンヒルデ……だったか」

博士はこの状況に内心酷く動揺していたが、悪魔相手に弱みを見せて付け込まれないために平静を装う。

昼子「ほう、我が真名を覚えているとは、見上げたものだな人間」

昼子「この娘に関しては案ずる事は無い、気を失っているだけだ」


ブリュンヒルデは今日あった出来事の顛末を博士に語る。
博士はその間、黙って聞いているのだった。
あらかた語り終えると、昼子は薫についての質問をいくつかした後、本題に入った。

 

昼子「我が問いたいのは、この娘の力の封印に関してだ」

昼子「大方、貴様が何らかの術を施したのであろう?」

竜族を危険視しているなら、薫の実情を知ってもらえば、手を出されることも無くなるのではないか。
そう考えた博士はブリュンヒルデの問いに素直に答える。

博士「この子の力は、この髪留めによって制限しているのだ」

博士「人間界で暮らしていくには、竜の力は過ぎた物だからな」

昼子「(人間の封印では所詮この程度か)」

昼子「竜族が本気を出せば、この程度の拘束、容易く破られよう」

博士もそれは理解していた、事実、何度か薫の力の暴発を目の当たりにしている。

昼子「今はまだこの娘もそれ程の力を有してはいないが」

昼子「これから先、日を追うごとに封印が破られる危険は増すだろう」

昼子「貴様は、いずれこの娘に身を焼かれることになるのやも知れんのだぞ?」

博士「……」

博士「もしそうなった時は、それは仕方の無い事だと思う」

実際薫が暴走してしまえば、博士のみならず周囲にいる大勢の人間にも被害が及ぶだろう。
そう考えるとほとほと無責任であると言われるかもしれないが、
我が子の様に接してきた薫を今更どうこうする事は、博士には出来なかったし、これから先も出来ないだろう。

昼子「フン……人間の考えはやはり理解できんな」

 

博士「私からも、質問をしていいかね?」

博士は、ずっと気になっていた疑問をぶつける。

博士「何故君は、薫に固執するのだ?」

博士「薫は……一体何者なんだ?」

昼子「……」


ブリュンヒルデは博士の問いにどう答えようかと逡巡すると、ぽつぽつと語りだした。

昼子「かつて父上から聞いた話だ」

昼子「『竜族の王』竜帝と、その妃の間には、一体の子竜がいた」

昼子「父上は竜帝を倒し、竜妃を子竜諸共魔術で吹き飛ばしたものの、その子竜の亡骸だけは見つからなかったらしい」

昼子「恐らく、竜妃がなんらかの転移魔法で別の場所へ飛ばしたのだろうという話であったが……」

博士「では、薫が……その、竜帝の子だと?」

昼子「確証はない……が、貴様とこの娘の出会いを考えれば、まず間違いないだろう」

博士「……」

昼子「魔王の娘である我と、竜帝の娘である此奴との間には、断てぬ因縁があるのだ」

昼子「いずれ、かつての父上と竜帝のように、雌雄を決さねばならぬ時が来るであろう」


ブリュンヒルデの口から語られた薫の出自は、博士の予想を大きく超える壮絶な物だった。
今までは、魔族と竜族の二つの種族がなぜ反目しあっているのかなど博士の知る由では無かった。
だからこそ、もしかすると同郷のよしみで、薫と仲良くしてもらえないか、などと考えていたのだが……

博士「(やはり……何も事情を知らない人間のエゴ……だったか)」

博士「(今の彼女の話を聞けば、薫と仲良くしてやってくれなどと、言えるはずがない)」

博士「(だがしかしそうすると、薫は故郷を知らずに、一人で生きていくことになるのか……)」

博士「(一応『プロダクション』の皆や、イヴさんや裕美くんはいるが)」

博士「(薫の力の事を考えると、彼らに迷惑はかけられない……)」


娘同然に育ててきた薫の将来を案じ、何かしてやりたいと願う一心から、博士の思いが口をついて出てしまう。

博士「何も知らない、愚かな人間の戯れ言だと思って聞いてくれ」

博士「もし……もし君が、薫を受け入れてくれるなら……」

博士「どうか……薫と共に……」

薫と共に生きてくれないか──言いかけて博士は口を噤む。
薫と、目の前の魔族の姫との因縁を聞かされてなお、このような甘い考えを持っていられる自分に腹が立った。

博士「……」

博士「いや……なんでもない、今の言葉は忘れて欲しい」

昼子「……」

 

昼子「人間よ、貴様の言いたいことは分かっているぞ」

昼子「人間界において孤立しているこの娘と、魔界出身の者同士仲良くしてやって欲しい」

昼子「そのような事を考えていたのであろう」

博士「!?」

流石は魔王の娘と言ったところか。
見事に自分の心の内を言い当てられ博士は焦りつつも、開き直る。

博士「そこまで知られたからには、もう打ち明けるしかないな……」

博士「私とっては、魔族と竜族の因縁など知ったことではない……」

博士「だからどうか! 薫と仲良くしてやって欲しい!」

博士「どうかこの通り!」ドゲザァ

魔族に土下座という文化があるのかは分からないが、博士の精いっぱいの願意の表れだった。


昼子「……」

昼子「人間よ、頭を上げよ」

昼子「残念だが、我は此奴と馴れ合うつもりは無い」

博士「ッ!」

昼子「笑えぬ冗談だ……互いに殺し合う仲で友人ごっこに興じろと?」

博士「……」

昼子「……」

 

博士が消沈しているのを見て、どこか楽しげな表情でブリュンヒルデが口を開いた。

昼子「だがしかし、この娘もこのままここで甘やかされていれば」

昼子「我に肩を並べる程にまで成長するのに、どれほどの歳月を要するか分からぬからな」

昼子「此奴がある程度の力をつけるまで、面倒を見てやるというのもやぶさかではない」

博士「!?」


博士「と、言うことは……」

昼子「勘違いするなよ? あくまで、鍛えてやるだけだ!」

博士「……」

博士「それでも、言わせてほしい」

博士「ありがとう……」

博士「そして、薫の事を……どうか、よろしくお願いします」

昼子「……」

昼子「フン……勝手にしろ」