2スレ目>>410~>>416


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ネバーディスペアの一員である神谷奈緒。今日彼女は特にやることもなく、街をぶらついていた。

大きなヘッドホンで虎の耳を隠し、左腕は肘から先をギプスで覆うことで虎の手を隠し、蛇の尻尾は…諦めた。

獣人という存在がいるこの世界ではある程度は受け入れられるだろうが、奈緒は完全に受け入れられる事は無理だと悟っていた。

散歩中の犬とすれ違えばどんなに大人しい犬でも奈緒に吠えるし、ペットショップの前なんて通ればたちまち動物たちはパニックを起こす。


神谷奈緒という存在は、様々な生命体の集合体の一部に過ぎない。

正気を保っていなければそれらの一部に成り果ててしまう。ウサミン星人の作りだした究極生命体という怪物に。

本来ならば彼女は人類…否、全ての生物だけでなく、星すら食らう怪物に成り果てていたと、計画書を読んで知った時は震えが止まらなかった。

そして動物たちは敏感に奈緒の中のその大きな生命体を感じ取ってしまうのだ。

彼女の奥底の恐怖の塊。それを知って受け入れる者はどれほどいるだろうか?

だから彼女は真実を知っても受け入れてくれる仲間を大切にする。彼女達の盾となり、剣となる。自分はどうせ死なない…死ねないのだから。


…ハッとして頭の中の負の感情を慌てて消す。体内の核が反応しないとも限らないのだから。

アニメのDVDレンタルでもしようか。まだあのシリーズは見終えていないから丁度いいだろう。

いつものレンタルショップへと足を向ける。しかし、彼女の優秀な目はカースの出現を見逃さなかった。

しかも逃げ惑う人々の悲鳴に反して、そのカースは全く人を襲う気配がない。

…そして触手のようなその姿。

(アレか。奇妙な色欲のカース。)

ギプスを外し、連絡を取る。

「夏樹!例の色欲のカースだ!現在地は…」

現在地を細かく伝える。目の届かない位置への穴の作成には必要なものだ。

「了解!いまからだりーを連れていく!」

「…きらりは?連絡にも応答がないんだ。」

「あ…きらりは今、携帯家に忘れたまま出かけているんだ…。」

「ハァ!?」

仮にもリーダーがそれでいいのか…

「…まぁ、色欲相手だし…今回は許しておいてやろうな?」

「…。」


通話を切った数秒後に穴から夏樹と李衣菜が飛び出してくる。

一般人の避難を補助した後、付近の建物の上で待機していた。

「…本当に人を襲わないカースだね…。なんでだろ?」

「さあな。奈緒、時間は?」

「カウントダウン!5,4,3,2,1,0!5分経過!」

「っし!いくぞ!」

夏樹が穴を生み出し、奈緒と李衣菜が飛び込む。夏樹はもう一つの穴を生み出すとそちらに飛び込んだ。

二人はカースのすぐそば。夏樹はそこから少し距離を取った位置。

戦闘開始だ。


夏樹のレーザーが触手を焼き、李衣菜が触手を千切っては投げ千切っては投げ、奈緒が切り裂いてゆく。

流石に攻撃を食らったからか、カースも行動を攻撃に変えてきた。

…色欲のカースは付近にいるのにもかかわらず、李衣菜と奈緒の二人には見向きもしない。

なぜか、遠くにいる夏樹を狙っていた。

その理由は簡単。二人には『犯す部分が残っていない』からだ。

蘇生の際に不要と判断された部分全てに機械を埋め込まれた李衣菜と、本人に自覚はないが体内の仕組みさえ泥のようになっている奈緒。犯すことができるだろうか?

色欲はその欲を満たすために、辛うじて犯せる部分が残っている夏樹を狙うのだ。

もちろん、遠くにいる夏樹だけを狙うことは愚かな行為で、近づくことさえ許されずに男性のそれに似た触手が次々に破壊され減ってゆく。

ネバーディスペアの戦い方は、LPによって鍛え上げられたもっとも本人の力を生かす戦法。容赦もなければ映像のえげつなさに気を使うこともない。

よって、もっとも狩りやすいカースは、遠距離担当に向かって必死に届かない触手を伸ばし続ける色欲なのである。

触手を再生してもそれより早く破壊され、丸裸になった桃色の核が李衣菜に握りつぶされたことで数分も経たずに戦闘は終わりを告げた。


その頃、とある公園で千枝は正気に戻っていた。

「あ…また…千枝は…」

意識が虚ろになり、漠然と残る罪悪感。

「…お兄さん、千枝はいけない子ですか…?悪い子ですか…?」

泣きそうになる。悪いことをした気がするのだ。でも何も覚えていない。

テレビで犯罪者が似たようなことを言っていた気がした。千枝も悪い子なのかもしれない。

「…どうしたのー?」

そこに、不意に背の大きなお姉さんが話しかけてきた。


「悲しいの?きらりがお悩みきいてあげるよー?」

知らない人のはずなのに、不思議と警戒心が生まれない。この人は…何なのだろう。

「…聞いてくれますか…?」

千枝は話した。自分の悩みを。自分の中の謎の罪悪感を。

訳が分からないかもしれない。興味ないかもしれない。けれど話せば少し楽になっていた。

話が終わると、そのお姉さんは千枝を優しく抱きしめた。

「…きらり、難しい事よく分かんない。でもね、ちえちゃんが悲しいのは分かるよ?」

「ずっと悲しかったよね。でもね、世界はこんなに綺麗!悲しいことがあっても、世界はずっとキレイキレイ。見えなくても星は絶対に光ってるんだにぃ。」

そう言う彼女の瞳には星が煌めいているように見えた。

「ちえちゃんはきっと、『誰かの力』なんて使わなくてもそのお悩み、解決できるよ。」

「きらりが信じてる。ね?はぴはぴでしょ?」

きらりの両手から光が放たれる。

その光は千枝の体の中にあった『悪い何か』を洗い流し、これから生きる事だって勇気づけてくれるようだった。

「…はい!」

「うん!はぴはぴだ!きらりすっごく嬉しい!」

きらりが笑い、千枝も笑う。その光景はとても希望に満ちていた。

…そして遠くからその光景をアスモデウスが面白そうに眺めていた事を、誰も知らない。