2スレ目>>375~>>399


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幸子「いやぁ、それにつけてもボクはカワイイですよねぇ……」

――大手を振って、太陽の下をカースドヒューマンが歩いていた。

――うぞうぞと不定形の眷属を引き連れて、堂々と人だかりをかき分けていく。

――周りの目も何のその。

――好奇の視線も彼女にとっては羨望の眼差しであり、

――優越を感じこそすれ、そこに羞恥を覚えることなど無く。

――どころか物足りないとすら思っている、図太い神経の持ち主。

――輿水幸子。

――彼女はその身に異形を宿した少女である。

幸子「ボクのカワイさを知らない人が一人でもいるということは世界にとっての損失です!」

幸子「ということで、ボクのカワイさをもっと知ってもらいましょう!」

幸子「ああ、ボクってカワイイだけじゃなくて、何て寛大なんでしょう……」

幸子「なんてったって、その為にわざわざ人通りの多いところを選んで通ってあげてるんですから」

幸子「皆さん、感謝なんてしなくても構いませんよ?」

幸子「ボクがカワイイのは当たり前なので!!」

――『傲慢』

――それが彼女の背負った業である。


幸子「つ、い、で、に! 皆さんの『傲慢』をいただいて、ボクのカースを増やしてしまう」

幸子「一石二鳥の無駄のない計画です!」

幸子「ボクって頭も良いんですねぇ」

――彼女は今、自分の『可愛さ』をひけらかすため『だけ』に、外を出歩いている。

――それは結果として自身の眷属を増やすことにも繋がっているのだが、

――それは飽くまで『おまけ』でしかない。

―――――カースは、人の負の感情から生まれ、同時にそれを糧とする。

――しかし、人一人の不平不満など、小さなもので、

――どころか常にそういった感情を抱いている者などほぼいない。

――が、それらが集まれば話は別で、

――その特性から、彼らは人の多い場所に現れる確率が高い。

――更には、その人数が多ければ多いほど、より強大になるのだ。

――つまり……。


幸子「さて、随分増えて来ましたね」

――幸子の周りを、常に一定の形を保つこと無く、ぐねぐねと追随する存在……、

――『傲慢』のカース。

――主に従い行軍しながら、その場に漂う『傲慢』を食らうと、次々に数を増やし、

――増えた仲間が、またこの奇妙な一員の中に加わり、どんどん大所帯になっていく。

――それらは、背の低い幸子の、その腰にも及ばないほど小さく、かわりに数が多い。

――どうやら別段辺りに危害を加えるでもなく、ただ幸子の通る方に付いて来て、

――黙っているのかと思いきや、よく聞くと口々に彼女の『可愛さ』を褒め称えているようだ。

―――――異常な光景だ。

――人の往来の多い中、

――見た目にはただの少女である幸子を先頭にカースの行列ができていて、

――そしてその行列は、最後尾からぽこぽこと、数が増えていき、

――だんだんと長くなってきているのだ。

――なにより不可思議なのが、

――大量にいるカースが、ただ一体として暴れていない、ということに尽きた。

――幸子は、『傲慢』のカースであれば、従わせることができる。

――即ち、彼女が命令しないかぎりはカースが周りを襲うことが無い。

――幸子にとって、カースを暴れさせること、というのは、

――あまり関心のない行為だった。


―――――カースだ。

――当然周りも気付く。

――気付いて、しかし、見過ごす。

――カースといえば、多くの者にとって恐怖の対象だ。

――見た瞬間はぎょっとする。

――しかし、暴れていない。

――ざわめいているが、騒ぎも起こっていない。

――どうやら襲っては来ないらしい。

――物珍しいが、なら、自分には関係ない。

――人々は異常に慣れてきていた。

――そんなこともあるんだろう、

――なら、この光景も取り立てて慌てるようなものではない。

――皆が皆、そう思うことによって働く集団真理が、

――幸いにもこの場の混乱を抑えていた。



幸子「それではそろそろ帰りましょうか」

――もう、日が暮れる頃、

――『可愛さ』の喧伝と、眷属の増殖がひと通り済んだ所で、

――幸子は、共同関係にある二人、

――『怠惰』の杏と『憤怒』の泰葉、

――彼女たちと共に住んでいる隠れ家へ引き上げることにした。

――幸子と『傲慢』のカース御一行様、

――この賑やかな集団は、結局最後まで一般人を襲うこと無く、

――行儀よく帰路につく。

ヒカル「待てェーーいっ!!」

――……途中で、とうとうヒーローに見つかってしまった。

ヒカル「そこのぞろぞろとカースを引き連れた少女!!」

ヒカル「オマエは何者だ!?」

――現れたのはブライト・ヒカル。

――南条光が能力によって変身した姿だ。


幸子「おや、ヒーローさんですか」

幸子「フフン、聞かれたからには答えなければなりませんね」

幸子「カワイイカワイイこのボクは、輿水幸子!」

幸子「どうです? 名前までカワイイでしょう? パパとママがくれた名前です!」

ヒカル「むっ……」

――ヒカルは少々面食らってしまった。

――てっきり悪逆非道な相手だと思っていたが、両親への感謝とも取れることを口にしたのだ。

ヒカル(やりづらい相手かもしれないな……)

――とはいえカースを放っておくわけにもいかない。

――見たところ暴れてはいないようだが、それでもカースはカースだ。

ヒカル「アタシはブライト・ヒカル! 正義の味方だ!」

ヒカル「悪いがカースは平和を脅かす存在だ! 倒させてもらうぞ!!」

――言いながら、ポーズを構える。

――ブライト・ヒカルの戦闘態勢だ。

幸子「正義の味方……、なるほど……」

幸子「ふふっ、あなたみたいなタイプのヒーローさん、嫌いじゃないですよ?」

――対する幸子はそう言うと、

――周りのカースに命令を出し、自身を担ぎ上げさせた。

――少し妙なその格好が……、だが彼女の戦闘態勢らしい。


ヒカル「行くぞっ!!」

――掛け声と同時にヒカルが拳を突き上げる。

―――――瞬間、

―――――カッ、と辺りに光が満ちた。

――彼女の力は大雑把だが、それ故に強い。

――拳を握り、突き上げる、

――以上のプロセスで攻撃が完了するのだ。

――そして大抵はこの初撃で片がつく。

――が、しかし。

幸子「うわわっ!」

――ヒカルの拳から発せられた光の届かぬ範囲まで、

――『傲慢』のカース集団は、幸子の身体をバケツリレーよろしく、一瞬で運んだ。

ヒカル「なっ……!」

――これこそが幸子の強さ。

――小型カースの精密操作。

――そこら中に散らばったカースが、全て幸子の足場になり、

――敵の攻撃から、安全な場所まで高速で避難させてくれるのだ。

――無論、攻撃に転じれば『多勢に無勢』を体現するほどの猛攻を見舞うこともできる。

幸子「ああっ、せっかく集めたボクのカースが!」

――……『多勢』の殆どが消し飛んでしまった今は、それも難しいが。


ヒカル(だが、だいぶ片付けた!)

――ヒカルの攻撃によって、カースの大部分は消滅してしまった。

――幸子は無事だが、そもそも最初から傷つけるつもりなど無かった

―――――というか、あの光は人には無害である。カースドヒューマンにはわからないが――

――ので、問題は無い。

――この勝負、最早決した。


幸子「今―――」

幸子「『勝った』と」

幸子「そう思いましたね?」

幸子「まだ、カースは残ってるし、ボクもいるのに」

幸子「『今日も平和は守られた』と……」

幸子「そんなことを考えていましたね?」

幸子「あまつさえ」

幸子「『降参すれば見逃してやる』とか」

幸子「甘いことを言うつもりだったんでしょう?」

幸子「ふふっ」

幸子「なんて……

   『傲慢』

   なんでしょう」


――ぼこぼこっ、と、

――『傲慢』のカースがそこかしこから沸いて出た。

――先ほどの光景を逆再生するかのような物凄いスピードだ。

――完全に不意を付かれたヒカルに対して、いくつかのカースが物凄い勢いで飛び込んでいき、

――対処の遅れた彼女に体当たりを見舞わせ、吹き飛ばした。

ヒカル「ぐぅ……っ!!」

ヒカル(何、が……)

――一体何が起きたのか。

幸子「って聞きたそうな顔ですね」

幸子「いいでしょう!」

幸子「ボクはカワイイだけじゃなく、とても優しいので教えてあげます!」

――幸子が得意げな顔をして、胸に手を当てる。

――こんなことをしている間にもカースは増えているのだが、

――今の攻撃でヒカルはしばらく動けない。


幸子「いいですか? この子たちは今……」

幸子「あなたの『傲慢』から生まれたんですよ」

ヒカル「な、にを言って……」

幸子「ふふふっ、だからボクはあなたみたいな人が好きなんです」

幸子「正義の味方、と名乗った時にピーンと来ました」

幸子「あなた『自分の力で人々を守る』とか思ってる人でしょう?」

――ヒカルは……、南条光は正義の味方に憧れていた。

――ずっと、皆を守るヒーローになりたかった。

――ある日それが叶った。

――嬉しかった。

――人の笑顔を、

――地球の平和を、

――自分の力で守ることができるんだ、と、

――そんな純粋な気持ちでずっと戦ってきた。

―――――果たしてそこに驕りはなかったか?

――悪人が悪事を働けば、それをやっつける。

――一般人にピンチが迫れば、それを助ける。

――『アタシにはそれができる』

――それは『傲慢』では無いのか?


ヒカル「違うっ!」

幸子「それはどうでしょう?」

幸子「ボクは『傲慢』のカースドヒューマン」

幸子「当然『傲慢』という感情には敏感ですよ」

幸子「そんなボクがあなたから『傲慢』を感じているんですから」

ヒカル「―――っ!」

幸子「と、いっても実はわずかではあるんですけどね」

――わずか、とはいえ、自分はこの力に自惚れていたのだろうか。

――そんな思いがヒカルを苛む。

――わからない。

――そんなこと、考えたことも無かった。

――心の隅に、気づかないほど小さな、そんな驕りが……。

――……。

――しかし、自分でも気づかないほど小さな感情が、

――こんなにもカースを生み出すものか?


幸子「周りの人の感情からカースが生まれるのだとすれば」

幸子「カースが周りの人の感情に影響を与えることも可能です」

幸子「ボクたちカースドヒューマンは、ちょっとばかりそれを増幅させることもできるんですよ」

幸子「まぁ、それ以上に……、ふふっ」

幸子「『自分には世界の平和を守るだけの力がある』……っ」

幸子「あははっ! 『傲慢』のスケールが大きすぎますよ!」

ヒカル「この力は! 皆の為に―――」

幸子「あははははっ! わからないんですか!? それが『傲慢』だっていうんですよ!」

幸子「あははははっ! これだからあなたみたいな人は!」

――心底おかしくて堪らない、というふうに幸子が笑う。

ヒカル「そう、なのか……? アタシのこの力は……」

――本当は、ヒカルに限らずヒーローの大多数は同じ『傲慢』を抱いている。

――彼ら、彼女らは、人々を守るため、世界を守るために戦っている。

――それができるだけの力を、自分は持っているから。

―――――しかしその思いは『傲慢』だ。


「でも、あなたのやったことは間違ってない」


――凍えた体に、ふわり、と柔らかい毛布を掛けられたような、暖かい感覚。

――突然現れた少女の声が、ヒカルの心に俄にそんな温もりを与えてくれた。


><><><><><

――少し前、幸子とヒカルの戦いを離れた場所で見守っている少女がいた。

聖「このままだと……ヒカルが……、光が……潰えてしまう……」

――望月聖。

――南条光に特別な力を与えた少女。

――彼女は、光に何がしかの将来性を見出しているらしい。

――だからこそ、光には様々な困難に打ち勝ってほしいし、

――なるべくなら手出しをしたくない。

――何より、彼女に自分の力を知られるのが、何となく憚られた。

――しかし今、光はかつて無い窮地に立たされている。

――聖にとって、幸子を倒すのは容易だ。

――だが、光が心に負った精神的なダメージを癒す方法を聖は知らない。

聖「どう……すれば……」

――その時、声が聞こえた。

雪美『…………聖……』

聖『雪美……?』

――佐城雪美。

――いつも側にいる彼女が、そういえば先程から見当たらない、

――雪美から届いた言葉が念話だったことで、聖は初めてそのことに気がついた。


聖『どうしたの……? どこに…いるの……?』

雪美『…………この子……なら………、きっと…………』

聖『……この子…?』

――雪美がだんだんとこちらに近づいてくるのを感じる。

――その側に、一緒に誰かがいるらしい。

――それは遠くからでもわかる程に、

――とても暖かい存在だった。

雪美「……聖…………」

――間もなく、雪美が一人の少女を連れて現れた。

藍子「あっ、あの、一体……?」

――それは、

――たまたま近くを散歩していた高森藍子だった。

聖「…その子は……?」

雪美「………わからない……でも……………」

聖「……うん…感じる……」


――ヒカリ。

――一際強く輝き、皆を導く明るさ。

――それが聖が光に見出したヒカリ。

――対して、

――木漏れ日のような、包み込んでくれる暖かさ。

――そんなヒカリを藍子に垣間見た。

――そして幻想した。

――柔らかく注ぐ日の光と、

――火照った体を冷ます涼しい影。

――それら二つが合わさって、

――丁度いい温度に中和され、

――しかし交じることなくマーブル模様を作り、

――風が吹けば、またさわさわと表情を変え、

――陽の当たらぬ箇所はなく、

――影のできぬ箇所もない。

――まどろんでしまうほど、落ち着く場所を。

聖「お願いが…あるの………」

――彼女ならきっと光を……。


><><><><><

――彼女を助けてあげて、と言われた。

――真剣な眼差しだった。

――自分にはそんな大それたことはできない。

――そんな思いがどこかへ吹き飛んでしまった。

――『必ず守るから』

――その言葉には心強い響きがあった。

――何の力も持たない自分でも、恐れを抱くことなく争いの場に赴けた。

――しかし、既に荒事は収まっているようだった。

――代わりに目の前で少女と少女が言い争っていた。

――『言い争う』というにはやや一方的だったが。

――何でも、『人が人を想う事が傲慢だ』と、極論すればそのような事を言っているらしかった。


藍子「でも、あなたのやったことは間違ってない」

――ヒカルが顔をあげる。

――誰だろうか、と訝しむ前にふわりと心が弾んだ。

――別に誰でもいいか、

――彼女になら、昔からの友人のように何でも話せそうな気がした。

藍子「だってあなたのおかげで守られた人がいるんでしょ?」

藍子「それは誰にだってできることじゃ無い、立派なことだと思うな」

ヒカル「でも……、それが……」

――そう思うことが『傲慢』だと。

藍子「それは『驕り』じゃなくて、『誇り』じゃないかなっ!」

――この時、

――藍子は、ちょっと上手いことを言った、と思った

――すぐに、そうではなく恥ずかしい事を言った、と自分の思考を訂正して顔を赤らめた。


ヒカル「『誇り』……」

――出来ればスルーして欲しいと思った単語が継がれてしまった。

――どうも光の中でしっくりきてしまったらしい。

藍子「う、うん。『誇り』ならいくら掲げてもいいでしょ?」

藍子「カースには、逆効果だったかもしれないけど」

――こうなれば藍子もヤケだ。

――ダジャレのつもりで言ったことが、少女一人の心を救えるなら安いものだ。

ヒカル「『誇り』か……、そうか……!」

――あの時、人々を守った事。

――あの時、笑顔を守った事。

――あの時、平和を守った事。

――それら一つ一つが、光の『誇り』だ。

――今でも全て覚えている。

――そして光に力を与えてくれる。

――南条光。

――聖が見出したヒカリは、まだ弱々しく小さいが、

――今、少し輝きを増したようだった。


幸子「くっ―――!」

――先程から黙っている幸子だが、

――『何なんですかあなたは!? いきなり現れてキレイ事ばかり並べて!!』

――と、本来ならもっと早い段階で、そう割って入っていたはずだった。

――しかし、藍子の姿をひと目見た瞬間、言葉が詰まり、

――藍子の声をひと声聞くと、さっきまでの昂揚がすぅっと収まってしまった。

――このままではいけない。

――感情の波が凪いでいくのがわかる。

――心の底に「まぁいいか」という気持ちが芽生えてきている。

――二人の会話を黙って眺めていたのも、そのせいだ。

――いや、そんなことなら、まだいい。

――幸子の根底にある『傲慢』という激情。

――それを、藍子という存在が揺らがせる。


別に、一番カワイく無くても―――。

 

 


幸子「あぁ―――っ!!!!」

――幸子自身、気づかぬ間に攻撃の命令を下していた。

――全力全身を持って、

――『殺せ』

――と。

――呼応するように、カースの大群が突如波となって二人を襲う。

――光が対応できる速度では無かった。

――遠くから見ていた聖の反応も一瞬遅れた。

――藍子にできることは呆然と眺めていることだけだ。

――二人の頭上を逃れ得ぬ死が覆い。

――そして、

――飲み込んだ。


藍子「あ、あれ……?」

ヒカル「平気だ……」

――誰もが二人の死を確信した。

――だが、確信は覆された。

幸子「な……、んで……?」

聖「まさか……」

――その場にいた全ての者が驚愕した。

――カースの塊が、

――まるで油の浮いた水に洗剤を一滴垂らしたかのように、

――『藍子を中心に避けて落ちた』。



ヒカル「アンタ能力者だったのか!」

藍子「え……、私?」

ヒカル「違うのか?」

――藍子は、思ってもみなかった結果に驚きながら周りを見渡した。

――すると、藍子の視線上に入ったカースが尽くビクッと萎縮し、

――ずぞぞ……、と、彼女から距離を取る。

藍子「まさか、そんなはず……」

――口を開けば、今度は声の届く範囲の全てがしぼみ、

――特に彼女に近い者ほど顕著で、

――中には核が露出し、浄化されてしまう個体もあった。

藍子「……」

――藍子は黙って、すっと立ちあがった。

――カース達が一様にビクリと震える。

――彼女がゆっくりと一歩を踏み出すと、

――その瞬間、全部が一目散に幸子の元へ逃げ帰ってしまった。

藍子「これが……?」

――藍子の能力は、周りの者を癒し、優しい気持ちにするというものだ。

――呪いや怨嗟、激情や欲望。

――負の感情から生まれたカースにとって、

――真逆の感情を振りまく藍子は、

――天敵以外の何者でもない。


幸子「な、何をやってるんですか! 行きなさい!」

――これは何かの間違いだ。

――動転しながらも、幸子は再び攻撃をけしかける。

――数体のカースが弾丸のような速度で撃ちだされ、

―――――やはり直前で藍子を避けて、左右の地面に着弾した。

――じゅわぁー、という音を立て、

――撃ちだされたカースが浄化されていく。

藍子「そっか……」

藍子「ねぇ、私にも誰かを守れるみたい」

ヒカル「あぁ……、凄いな……」

――ヒカルの称賛は、藍子の能力に対してではなく、

――藍子本人の落ち着きはらった態度へと贈られたものだ。

――目の前の少女は今、普通から、普通では無くなった。

――とはいえ以前から備わっていた力なので、ただの認識の問題だが……。

――そんな状況で、優しく微笑みながら『これで誰かを守れる』、と言うのだ。

――その姿に、ヒカルは素直に尊敬を抱いた。


幸子「変ですねぇ!! 今日は何だか調子が悪いみたいです!!」

幸子「今回は勝ちを譲って上げます!! カワイイボクが万が一怪我でもしたら大変なので!!」

幸子「それではっ!!」

――これ以上はまずい、と感じた幸子は、脱兎の如く藍子から逃げ去った。

――カースが、カースの攻撃が、全く効かなかった。

――近づいただけで、触れることもなく、無条件で浄化されてしまった。

――カースにとって藍子が天敵なら、

――カースドヒューマンにとっても同じだ。

――関わってはいけなかった。

――もっと早くに逃げていれば良かった。

――既に幸子の心の奥には、じわりとした柔らかい感情が根付き、

――藍子のことを思い出す度に、優しく疼く。

幸子「ボクは……、カワイイ……、ボクが……、一番……」

カース『サチコハカワイイ! サチコガイチバン!』

――人の欲望は、強い。

――だからこそ『七つの大罪』とわざわざ喚起し、律されている。

――この程度の安らぎに『傲慢』が折れることはない。

――しかし、以前ほどの絶対的な自信を持つことは、

――幸子にはもうできなくなってしまったようだ。