2スレ目>>224~>>236


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

七つの大罪を司る悪魔。それは人間界の書物にも記録が残っている。

しかし、その書物の情報と現在人間界で目撃されている七つの大罪の悪魔の容姿はあまりにも違う。

何故か?

もちろん、悪魔にも人間ほど短くはないが寿命はあり、歳をとる。

…ここまで言って察した人はいるだろうか?…そう、重要な役職を持つ悪魔の名は襲名制なのである。

しかし、人間界でよくあるように弟子や子が名を引き継ぐのではない。

その先代の悪魔の命が散った時に、その悪魔の持っていた武器や装飾具が次の主を決め、新たな主がその名を襲名するのだ。

そして、竜族との戦争で多くの悪魔がその命を散らした。七つの大罪を司る者たちも大半が死んだ。

そして、その役職の名と力はまだ力をコントロールしきれないような年齢の悪魔が引き継いでしまった。

もちろん、その役職とは七つの大罪だけではないわけで…


様々な世界の狭間。普通の者は入ることすらままならず、少しでも歩き方を間違えれば別世界へと飛ばされてしまうような危険な場所。

金の糸で太陽を、銀の糸で月を刺繍した黒いフード付きのコートを着た少女がそんな場所を歩いていた。

星をスノードームに閉じ込めたような水晶が先端にはめられた杖を振りながら歩けば、水晶から僅かな光が飛び出し、道案内をするように少女の先を飛ぶ。

暫く歩くと、湧いて出てきたように塔のような建物が現れる。少女はそれが当たり前の様で、特にリアクションもなく塔に入る。

完全に扉が閉まると塔は姿を消した。


塔の内部は割とシンプルで、大きなクリスタルが中央に鎮座している事以外は研究室のようにも見えた。

少女がじっとクリスタルを見つめ、すぐに部屋の中の窓のような物を開け閉めしていた。

彼女の名はユズ。魔力管理人という大役を引き継いだ、元々は死神で魂の運搬担当だった少女だ。

魔力管理人は代々杖に選ばれた者がなり、杖の力で魔力等、様々な力の流れを見る事が可能なのだ。

そしてこの世界の狭間で全ての世界の魔力の流れの中心に浮かび続ける塔で、魔力のインフレ・デフレが起こらないようにしている重要な役職。

管理人の権限として、個人単位での魔力操作もある程度可能とされ、魔法や魔術を専門とする者は逆らうことは困難だ。

そして自らの体内の魔力だけでなく、大気中の魔力も攻撃に使用できる。

その性質故か、管理人は争いを好まない性格の者が選ばれている。

管理人のルールさえ守ればあとは自由だ。

「ふぅ…今日はこんな所かなー?」

一通り魔力の流れを見て満足気にソファに腰を掛ける。

暫く休んでいると、塔にベルのような音が鳴り響いた。

こんな場所に連絡ができるのはただ一人だけ。そのベルを持った唯一の悪魔。

「…サタン様?」


時は数年前に遡る。

憤怒を司り、魔界を統一する偉大なる魔王サタンが竜帝を倒し、戦争に終止符が打たれた。しかし、役職持ちの悪魔の多くが戦死した。

ユズは杖に選ばれ、魔力管理人になり、今まで以上の力を手に入れ…一言でいえば『調子に乗っていた』。

魔翌力の調整が終われば街に繰り出し、気の向くままに行動をしていた。

死神としての仕事もやる必要もなく、自由な時間が増えたのもあるだろう、しかし、管理人としての役職は最低限しか果たしていなかった。

…ある日、ユズは魔王に呼び出された。

職務怠慢で注意されるのだろうか?ユズは好奇心半分、不安半分ではあるが魔王の下へ行き、その発言を聞き、驚愕した。


「え?け、決闘…ですか?」

「そうだ。…不満か?それとも勝機がないとでも言いたいか?魔翌力管理人よ。」

管理人のルールの一つに、決闘での勝者への服従があった。つまり負ければ自由はないということで。

「…う、受けますって!決闘!します!」

でもユズはこの大量の配下と魔王本人を前に断ることができなかった。

魔王の間にいた魔王の配下たちが歓声を上げた。魔王と魔力管理人。滅多に見られる戦いではないからだ。

魔界の決闘はどちらかが気絶するか、降参するまで続く、何でもアリの1対1の崇高なものだ。

魔王が所持する決闘場で行われ、観客も大勢いる。もちろん万が一にも備えて回復魔術使いが大勢控えている。

緊張こそしてはいたが、ユズにも勝機が無いわけではなかった。

(魔術さえ封じてしまえばあとは逃げつつ戦える…!)

魔力は完全に奪うことさえできないものの、上級魔術を中級魔術にしてしまうほどの魔力は奪える。

魔王はステータスこそ高いが、物理だけなら逃げつつ魔術で攻撃すればいい。それが戦略だった。


「決闘の開始を宣言するッス!」

魔王の配下の魔物の声で決闘は始まった。

ユズは杖を振りかざし、魔王を取り巻く空間の魔力を遮断する。これで魔王は体内の魔力しか使えない。

さらに杖を振り下ろし、魔王の体内の魔力を吹き飛ばした。全てではないものの、並の悪魔ならこれで完全に敗北するレベルのはずだ。

「ほう…やはりそうくるか。」

「行きます!『業火よ!大いなる我が力に従い、罪人の魂すら焼くその身で我が障害となる者の骨すら残さず焼き尽くせ!ヘルフレイム!』」

ユズの杖から巨大な火炎の波が吹き出し魔王に襲い掛かる。観客も、ユズも、魔力をほとんど失った魔王には抵抗手段はないと思っていた。

しかし、魔王が腕に僅かな魔力を纏わせ、その腕で炎を振り払うと、炎は暴風の中の蝋燭の炎のように消えてしまった。

「!?」

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」

ユズの動揺は気にせずに観客が大歓声を上げる。

「魔力管理人よ、その程度か?」


「まだだよ!『水よ、雷よ、暴風よ!大いなる魔力管理者である我の力に答え、自然の理を読み解きその身を重ね、天災の嵐となりて我が敵を跡形もなく消し飛ばせ!テンペスト!』」

魔力の流れが分かる管理者のみに許された魔術の同時発動。それを合体させ、災害級の力が構成されてゆく。

今度は魔王がにやりと笑ったと思えば、魔術を詠唱し始めた。

『火炎よ!大いなる我が力に従い、その高温の身を槍に変え、我に刃向うことの愚かさを我が敵の身に焼き付けよ!フレイムスピア!』

中級の魔術だ。これには観客もざわめく。

(勝った!この空間ならあの魔術は初級レベルの強さ!)

そしてお互いの魔術がぶつかり合った。


しかし、爆音と砂埃が収まった時、観客が目撃したのは、全身から血を流し、体中が火傷だらけ、もはや服が服の役目を果たしていない程にボロボロの姿のユズだった。

「え…?なん、で…?」

「簡単な事よ、先代の魔力管理人から少しばかり『コツ』を教えてもらっていただけの事。魔力の穴を突き、崩れた魔術に少し力を加えただけで貴様の魔術はこちらの物となったのだ。」

それを聞いてもユズは納得できなかった。魔力をほとんど失っていたはずの魔王に一回も物理攻撃が使われなかったのだから。

杖を支えにし、何とか立ち、呪文を唱えようとするも声さえ出ない。

観客席からは嘲笑うような声さえ聞こえる。

それでも必死に、痴態をさらしてでもユズは一矢を報いようとした。

「―ぁ、ああああああ゙!」

もはや悲鳴にも似た、咆哮のような声。

しかし、答えるように杖が光を放ち、まるで雪の降る夜のような幻を生んだ。

「…ム?」

魔王が驚いたような表情をみせる。

それを見逃さず、神秘的な雪のような光が一瞬止まったかと思うと、魔王に降り注いだ。

再び砂埃が舞い、そして晴れる。ユズは完全に気を失い、そこに立っていた魔王は左手が凍り付いていた。

「勝負ありッス!勝者、魔王サタン様!」

観客が爆音のような歓声を上げる。ユズが回復魔術使い達に回収されたのを確認して、魔王は高笑いしながらその場を後にした。


ユズが目を覚ますと、回復魔術使い達がドタバタと慌ただしくなり、しばらくして、魔王が病室に入ってきた。

「…完敗しました。魔力管理人のルールに勝者への服従があります。こんな未熟者、自害でもなんでも命じてください。」

「いや…貴様は完敗などしてはおらん。我が左腕に魔法を被弾させるとはな。気に入ったぞ。」

「はい?」

「我が下僕となるなら、毎日の鍛錬はしてもらわないと困る。悪魔が鍛錬をしないこの風潮、我は好きではない。」

「た、鍛錬!?」

「それだけではない。魔力管理人なら、我が娘の魔術教師もやってもらおうではないか!」

「え!?娘って姫様!?え?」

「そして、これが管理人の服従相手のみが持てるというベルだな?これで逃げられんな!ハハハハハ!」

…これがユズと魔王の出会いと服従の始まった日。

そしてユズの価値観の変わり始めた日だった。

役職なんて強さには関係ない。努力次第では不利な状況でも勝てないものはない。と思う様になっていた。


時は戻って現在。ユズは呼び出された魔王の間にテレポートの魔法で到着していた。

「サタン様、お久しぶりです。何の用ですか?」

魔王を見ると、少し魔力の流れがおかしい。少し疑問には思ったが、口には出さずに魔王の言葉を待った。

「…これから我から3つの依頼を出す。」

ユズはゴクリと唾をのんだ。そんなこと今までなかったのだ。

「ユズよ…最近、人間界に現れるカースという存在は知っているな?」

「あ、はい!今その研究もしています!」

「ならば丁度いい。そのカースを最近から我ら大罪の悪魔が生み出せるようになっている事は知っているな?」

「…はい。でも人間界のは殆どが自然発生だったはずでは?」

「それがな、他の大罪の悪魔たちが人間界で度々目撃されているのだ。」

「…!それってまさか!」

「そうだ。人間に召喚されずに人間界に行き、混乱を生んでいる。1つ目だ。その大罪の悪魔たちを最悪、首だけでもいい。捕えて来い。」

「でもそれは特に罪ではないんじゃ…?」

ユズが聞くと魔王は一枚の紙を取り出した。

「…議会で法を変えてきた。抜かりはない。」

慌ててその紙を読む。確かに『法の変更により、人間の召喚、又は魔王の許可無しでの人間界での活動を禁ずる。』と書いてあった。

ユズはこの時点でゾッとした。本気だ。彼は本気だ。


「2つ目だ。簡単だろうが我が娘、ブリュンヒルデに危機が迫ればその敵を排除せよ。…だが、決して経験の場を奪ってはならぬ。」

「は、はいっ!」

「3つ目。自然発生するカースの出現理由の捜査だ。可能ならば封印しろ。」

「…魔王様、お言葉ですが2つの依頼は魔王様自身のお力でできそうなのでは…?」

「…ユズよ。…我の哀れな姿を見るか?」

魔王が上着を軽く脱ぐ。そこにはびっしりと竜の言語で書かれた呪いがびっしりと刻まれていた。

ユズは言葉を失う。魔力の流れがおかしかったのはこの呪いが原因だったのだ。

「…竜帝との戦いの際に刻まれた小さな呪いだ。我が力で抑えてはいたものの、最近の負のエネルギーの増加で一気に進行してしまった。」

少し悲しそうな表情で魔王は続ける。

「…このままでは娘の一人前の姿を見る前には呪いに殺されるだろう。そして、その呪いのせいで我はこの世界に留まらざるを得ないのだ。」

「サタンさま…嫌、死んじゃ嫌…!」

「行け、ユズよ。」

魔王の命令により、ユズはその場から消えた。


魔王は誰も聞いていない独り言を呟いた。

「まだ数年は持つだろう。しかし、その時憤怒を誰が受け継ぐのだろうな。娘がそれまでに一人前になってくれればいいが…。」

「…まだ我の3分の1も生きていない若者どもが人間を混乱させている。このままでは魔界も人間界も異星の者に滅ぼされるだろうよ。いや、奴らはそれが望みか?そうでなければなんと愚かな事か!」

「…フハハ、力は衰えていないというのに死が近いとはな…!」


その日から人間界でユズは一人カースを狩りながら大罪の悪魔を殺すべく生きている。

大罪の悪魔は隠蔽が得意なようで、魔力さえ感知しづらい。

人間の姿で人ごみに紛れて彼女はターゲットを探す。

「…カースだ。」

フードについていたバッヂを鎌の形に戻すと、空を飛んで、夜の街へ繰り出した。

月を背後に、街をさまようカースを狩る。

「さあ、ユズのショータイムだよ♪」

魔力で作られたカースは魔力を搾り取ってやれば消滅した。

感情から生まれたカースは鎌で核を切り裂いた。

今日も彼女は任務をこなす。休むことはない。彼に残された時間は少ないのだから。

「…全てはサタン様の為に…!」