名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/07/20(土) 21:08:15.86 ID:tvpnfxwi0 [21/31]「あずきバーがおいしい季節だねー!」
「はいはい。買わないからな。」
涼とあずきは街中を歩いていた。さすがにこの季節になるとあずきの浴衣姿も少々目立たなくなるようだ。
『お仲間』を探したいらしく、勝手に一人で出かけることが結構あるのだが、帰って来ない事も多く、暇なときは一緒に行っているのだ。
…そもそも彼女の言う『お仲間』というのもよく分からないのだが。妖怪仲間だろうか?
ふと、視界の端にもこもこした何かが見えた。
「あっばくぞー!」
「涼さん涼さん!あそこになんか可愛いのがいる!」
「…こんな季節に着ぐるみ…。」
「…一緒に写真とかとらない?」
「とらない。それにアレが可愛い…?」
なんか妙に顔の辺りがリアルな気がして、涼的にはカワイイとは思えなかった。
「あーばーくーぞー!」
『俺はテストをしたくないあまりに仮病をした!』
『俺の書いてる小説で次死ぬのは校長だぁ!』
『ボク、女の人より男の人の方が好きぃ!』
『俺は妹と結婚したい!!』
妙なことに、そのキグルミの周りでは人々が大声で何やら叫んでる。
…そしてあの鳴き声。
「…あいつ、怪人とかいう類のやつじゃないか?」
「え、マスコットじゃないの!?」
「なんか『暴くぞー』とか言ってるし、碌な奴じゃなさそうだな…。」
「じゃあ退治しよう!退治したらあずきバー奢ってよ!なんか弱そう!」
「ちょ!?勝手に決めるなって!」
あずきは涼の脇をすり抜けて怪人を上空から半透明な腕で殴り掛かった。
昼間だから夜の時よりは小さいが、かなりの威力…のはずだった。
「あばー!」
打撃だったが故に、その怪人に全くダメージが通らなかったのだ。
「あれれー?…ていうかなんか湿ってるー!?やだやだー!」
半透明の腕を、水分を飛ばすように振る。もちろん、飛び散ったそれは本音液で…
『メイドのみくちゃんでいつもあんなことやこんなことの妄想をしてた!』
『たくみんと結婚したいよおおおおお!』
『ひなたん星人は俺の嫁ええええ!』
もちろん涼にもそれはかかっていた。
『せーの、うさちゃんピース!!』
「…はっ!?」
…少し前に親戚の子と一緒に行った遊園地でのとある出来事の一部である。
涼にとってはもう思い出したくもない、ずっと隠していたい記憶だった。
「あ…ああ…!」
顔が真っ赤になる。
「あばばばばー♪」
アバクーゾはご機嫌そうだ。スキップをしながら去って行こうとしていた。
「…絶対に許さないぞ…毛むくじゃら野郎!」
「え、あの…涼さーん?顔が怖いよー?」
『あずき、いつも持っている裁ち鋏を強化してから渡してくれないか。』
無意識の能力使用。それは付喪神…つまり物であるあずきにはあまりにも効果的だった。
「…はい。どうぞ涼様。」
「よし…。『アイツの毛を切れ!』」
鋏が涼の手から放たれ、アバクーゾの頭の毛を切り、ハゲの部分ができる。
「あばー!?」
アバクーゾは焦った。さすがに鋏が飛んでくるとは思ってもいなかったからだ。
物理は良いが斬られるのはダメだ。そういうのは相方の専門だ。
空中を執拗に追いかけてきながら舞う鋏を何とか回避しながらアバクーゾは全力疾走した。
しかし、真後ろから何かが高速で接近していた。
靴に能力を使い、飛行した涼が追いかけてきていたのだ。
今までそんな発想もなかったのに必死に追いかける方法を模索した結果、靴に能力を使うという発想が生まれたのだ。
怒りのパワーってすごい。
その後ろをあずきが追いかけているがアバクーゾには涼しか目に入っていない。
「逃げられると思ったか…!」
「あ!?あばくぞーっ!」
何なんだコイツは。怒らせちゃいけないタイプだったか。
取りあえず振り切るまで全力での鬼ごっこが始まった。
「涼さーん?どこー?」
あずきは涼からはぐれてしまった。今回はさすがにあっちが悪いから怒られることはないだろうが…今自分がいる場所さえ分からない。
「どうしよう…」
「はんてーん!」
「ん?」
どことなくさっきの毛むくじゃらと似た雰囲気を持つ茶色い怪人が、道を歩いていた。
「きゃーかわいいー!」
「はーんてーん!」
「オラ!邪魔だキモキャラ!」
「はん?!」
そこに少女が笑いながら駆け寄り、何故か罵って帰って行った。
(あの怪人のお仲間なら、居場所分かるかなー?)
涼はあの怪人を追いかけているのだからそっちの居場所が分かればいい。
それにあの茶色いのは人を襲っているようには見えなかった。
「あのー?」
「はーん?」
「けむくじゃらの怪人さんが知り合いにいませんかー?」
「はん!?」
コイツは何を言っている?アバクーゾに何かあったのか?
「あ、会話できない感じかな?…どうしよう」
そもそも無警戒に怪人に怪人と分かって話しかけてくるはずがない。罠がある。コイツは危険だ。そうハンテーンは考えた。
「はーん!」
「きゃあ!?」
毛針が容赦なくあずきに襲い掛かった。
「…和服はやっぱり時代遅れ…この時代、やっぱり洋服よ…」
「はーんてーん♪」
暗い性格の洋服好きになってしまったあずきを見て、ハンテーンはスタコラサッサと逃げていった。
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