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日が暮れて間もない頃、「怠惰」を司る悪魔「ベルフェゴール」こと「三好紗南」は街へと繰り出していた。しかしカースの発生や、カースドヒューマンを作り出す為にに街へ繰り出したわけでは無い。彼女は街の大型ゲームショップにいた。
彼女の能力である情報獲得は彼女が一度「見た」対象の情報を全て取り込む、いわばダウンロード。彼女が「見た」対象がゲームソフトであれば、そのゲームの内容を全て取り込むことができ、その内容をゲーム機に移し替えれば一々購入せずともゲームのプレイが可能。 そして攻略情報までも完全に獲得してしまう為、彼女がゲームで詰むことは無い。
やりがいこそ無いが彼女の暇を潰すには充分なものだった。
紗南「(ゲームの世界観やキャラを見てるだけでも面白いしね)」
紗南「(さてと、ちゃちゃっと新作を取り込ませてもらおうかな!)」
ベルフェゴールは店内に並べられたゲームソフトを一瞥し、それらの内容を脳に取り込み、それをゲーム機に移し替えていく。彼女はこの世界がどうなるかにはまるで興味が無い。ゲームをプレイして1日を潰す。それが彼女の人間界での生き方だった。
紗南「(…よし、コンプリートっと!)」
紗南「(それじゃ、学校の屋上に戻ろっかな)」
目的を遂行し、お気に入りの場所へと帰還しようとした時、背後から魔の力を感じた。その力はどうも自分に向けられているらしい。
「へへっ、やっと一人見つけたよ♪」
その力を持つ者は明るい少女の声で、そう言い放つ。
「今の魔力…悪魔のモノだね?」
紗南「…なんだか面倒なバグを見つけちゃったね」
ベルフェゴールは少女を一瞥し、その情報を取り込む。
紗南「ユズ…死神さんかぁ」
紗南「サタンさんの直属…あたしとは相性悪そうだね」
努力や鍛錬の素晴らしさを謳う、魔王サタン。「怠惰」を司るベルフェゴールには、これ以上に無く煙たい存在だった。
ユズ「大人しく捕えられてくれれば、危害は加えないよ?」
紗南「そうなの?」
ベルフェゴールは、ユズの感情を読み取る。
紗南「―――死神さんにとって、魂を狩るアクションは危害とは言わないのかな?」
ユズ「―――さーてね」
対峙。
紗南「…はぁ~」
どうも見逃してくれる気は無いらしい。これじゃあ、ゲームをプレイする時間が減ってしまう。
紗南「フィールド、変えようか」
―――とある中学校の屋上
夜も更け、月明かりが二人を映し出している。
紗南「随分と素直に付いてくるんだね」
ユズ「人間の多いところじゃ、混乱を招いちゃうでしょ?」
ユズ「アタシは人間に危害を加えるつもりは無いよ」
紗南「この身体は人間のモノだけど?」
ベルフェゴールは人間である「三好紗南」の肉体と精神を乗っ取り、この人間界に存在している。下手に魔術を使えば、人間の肉体であるその身体はひとたまりもないだろう。死神とはいえ、寿命を迎えるわけでも無い人間を自身の判断で殺めるのはルール違反だ。
ユズ「だったら貴女の魂を外に追い出せば良いだけだよ♪」
そう言うと、ユズは服に付けたバッジを手に取り鎌に変形させる。
紗南「…簡単に言ってくれるね」
ベルフェゴールは呆れたように息をつき、そして…
紗南「悪いけど、ゲームが出来なくなるからあたしの魂を狩らせるわけにはいかないね」
紗南「それに死神如きが魔術も使わず七つの大罪を司る悪魔を狩るなんて…」
紗南「―――イージーモードじゃないんだよっ!」
「三好紗南」の身体に閉じ込めた魔力を一気に解放させた。
ユズ「魔力を使わないとは言ってないよ!」
ユズは服に付けたもう一つのバッジを手に取り、それを杖へと変形させて構える。
ユズ「貴女の魔力を遮断する分には、その子の身体には危害は加わらない!」
紗南「―――!」
杖を振りかざしてしまえば、ベルフェゴールの魔力を遮断し吹き飛ばすことが出来る。あとは人間の身体能力同然になったベルフェゴールを捕まえ、その魂だけを狩りとれば良い。
―――しかし、それは浅はかな考えだった。
ユズ「…!?」
ユズは杖を振りかざし、そして降ろす。しかし、ベルフェゴールが解放した魔力はおろか体内に残る魔力さえ、減る気配を感じない。
ユズ「ど、どうして…?」
紗南「簡単なことだよ」
ベルフェゴールがゲーム機を手にしながら、口を開く。
紗南「あたしの魔力が瞬時にフル回復してるだけ」
紗南「つまりあたしは常にゲージMAX状態」
紗南「魔力を練る時間が省けるのは「怠惰」の属性ゆえだね♪」
ユズ「なっ…!?」
「怠惰」を司るベルフェゴール。
その属性の性質ゆえか、自身の再生能力に非常に優れており、肉体に傷を負おうが魔力を放出しようが瞬時に元の状態へ回復することが出来る。
ユズ「(魔力が無くならない魔族なんて聞いたことないよ…)」
ユズはベルフェゴールが告げる事実に思わず声を失ってしまう。
ベルフェゴールはゲーム機の画面の見つめながら、その心の声に答える。
紗南「そりゃあそうだろうね」
紗南「そもそも、あたしは戦闘魔族じゃないし」
紗南「…そうだ!死神さんもさ、あたしの能力を与えてあげようか?」
ユズ「…なんだって?」
目の前の悪魔が思いがけない提案をする。ベルフェゴールはさらに続ける。
紗南「そんな「何を言ってるんだコイツ」みたいな顔しないでよ」
紗南「あたしの悪魔としての本分は他の者を「堕落」させること」
紗南「何も不思議な提案じゃないよ?」
紗南「あなたもさ、一時期は怠惰な生活をしていたみたいじゃん?」
ベルフェゴールの言う通り。ユズは一時期は自身の力に溺れ、気ままな生活をし、職務も怠慢気味だった。
紗南「全てを知ることが出来て、傷つくことも知らない」
紗南「まぁ、運命や未来のことまではわからないけどね。興味無いけど」
紗南「どう?便利な生活だよ?」
ユズ「……」
ベルフェゴールの、この提案は決して仲魔を増やしたいからというわけでは無い。ただ一刻もこの面倒なエンカウントを終わらして、携帯ゲームをプレイしたいからだ。
紗南「サタンさんの命とはいえ、カースに大罪の悪魔狩り…」
紗南「はたまた、お姫様の監視までやってるんでしょ?」
ベルフェゴールがユズの情報を読み取り、それを読み上げる。
―――「お姫様」
ユズが忠誠を誓う、敬愛すべきサタンの娘。ブリュンヒルデのことだ。
紗南「そんないつエンディングを迎えるかわからない作業ゲーを続けるのも疲れるだけでしょ?」
紗南「だから、そんなクソゲーなんてリセットして、あたしと楽な人生ゲームを歩もうよ?」
紗南「―――読み取った情報によれば、サタンさんも残り短い寿命なんでしょ?」
ユズ「……っ!!」
魔王サタン。竜帝の呪いにより、その命は残り少ない。
紗南「そんな人のためにさ、頑張る必要なんて―――」
ユズ「―――ちょっと黙ってもらえるかな?」
ユズがベルフェゴールの言葉を遮る。その瞳にはサタンに似た「憤怒」が宿されていた。
ユズ「確かにアタシにも、貴女の言う通り、怠惰な生活をしていた時期はあったよ」
ユズ「面倒なことはやりたくないし、努力と鍛錬なんてもってのほか」
ユズ「でもね、サタン様は教えてくれたんだ」
ユズ「そんなどうしょうもなかったアタシに努力と鍛錬の素晴らしさを」
紗南「……」
ユズ「「怠惰」は確かに快適な生活かもしれない」
ユズ「―――だけど」
ユズ「「怠惰」の先には何も無いっ!」
ユズ「そこで終わりなんだ!」
今のユズにとって自身の成長や夢や目標を掴むことを否定することは、敬愛するサタンを冒涜すること。ユズがベルフェゴールに「憤怒」の感情を表すには充分な理由だった。
ユズ「そして誰かの為に頑張ることを否定した貴女を…」
ユズ「アタシは許さないよっ!!!」
紗南「―――「たたかう」コマンド一択ってわけかぁ」
ユズが鎌を手に取り、構える。相手の魔力を消し去れないなら、それで良い。その魔力相手に全身全霊で立ち向かうだけだ。
紗南「もう一度言っておくけど、あたしを狩るのはハードモードだよ?」
紗南「魔術攻撃にしても物理攻撃にしても…」
紗南「あたしはあなたがどんな攻撃を仕掛けようとしてるのか、その心を読み取ることが出来るんだから」
紗南「まぁ、人間の肉体を傷つけないつもりなら選択肢は一つしか残されていないみたいだけど」
ユズ「ご丁寧な忠告、どーも♪」
ユズ「けど、その能力はアタシの運命や未来の情報までは読み取れないんでしょ?」
ユズ「だったら、貴女の予測を上回る動きをすれば良いんだよねっ!!」
ユズが高速でベルフェゴールに向って突撃する。確かにユズの言う通り、情報獲得能力には攻撃を仕掛けてくる対象の心理は読み取れても、最終的にそれに対応するのはベルフェゴール自身。対象がベルフェゴールの身体能力を上回る動きさえすれば、例え予測されようと一撃を与えることは不可能ではない。
ユズ「はぁっ!!」
ユズがベルフェゴールの左胸に向かって鎌を振り下ろす。「三好紗南」の肉体ごと傷つけるつもりは無い。あくまでベルフェゴールの魂だけを狩り取るつもりだ。
そしてユズの振り下ろした鎌の速度は、ベルフェゴールの対応をわずかだけ上回っていた。
ユズ「(もらった!!)」
―――ザシュッ!!
―――刃が物体を切り付けた音が鳴り響く
ユズ「あ…ぐっ…!?」
からん。ユズが手に持っていた鎌をコンクリートの地面に落とす。
紗南「……今のは焦ったかな」
額に冷や汗を浮かべながら「無傷」のベルフェゴールはそう呟く。
紗南「流石のあたしも魂のローディングは出来ないからね」
紗南「―――さて、もうこの場所じゃおちおちとゲームも出来ないね」
紗南「また別の学校の屋上でも探しに行こうかな」
紗南「あっ、あたし、殺しは趣味じゃないからさ」
紗南「見逃してあげるから、もうあたしのこと探したりしないでよねっ。ゲームオーバー!」
紗南「それじゃ、ばいばいっ」
そう言い残し、ベルフェゴールは屋上を飛び下りて再び夜の街へと消えていった。
ユズ「…ぐ、うっ…がはっ…!!」
コンクリートの床が赤く濁る。血を流し、血を吐いているのはアタシ。
目の前には、何も見えない。それでもベルフェゴールに一撃を与えようとした、まさにその瞬間。
―――傷を負っていたのアタシだった。
―――アタシはあの一瞬で何をされたのか?
―――今はわからないまま、その場に蹲ることしかできなかった
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