1スレ目>>200~>>205

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<div>ずっと、ひとりぼっちだった。</div> <div> </div> <div>生まれたときから、みんなとちがったから。</div> <div> </div> <div>ひとりでエサが取れるようになったら、すぐに群れからおい出された。</div> <div> </div> <div>それから、ずっと、たったひとりで。</div> <div> </div> <div>「―――――お、気がついた?」</div> <div> </div> <div>高いがけから落っこちて、たぶんこのまま死んじゃうんだろうな、って。</div> <div> </div> <div>そう思ってたのに。</div> <div> </div> <div>「じっとしててよー?そりゃーもう色んなとこボロボロだったんだから、しばらく安静にね」</div> <div> </div> <div>なんで、ウチはまだ生きてるんだろう?それに、コイツはいったい誰だろう?</div> <div> </div> <div>怪我と疲れのせいで頭がぼーっとしていても、それがとても気になった。</div> <div> </div> <div> </div> <div>「『誰だコイツ』って顔してるから名乗らせてもらうけど、あたしは塩見周子。おせっかい焼きの妖怪さんだよん♪」</div> <div> </div> <div>しゅーこ。コイツは、シューコっていうのか。『ようかい』っていうのは何なのかよくわからない。</div> <div> </div> <div>「ん、わかんなかった?んー、実際見せたほうが早いかな・・・」</div> <div> </div> <div>そういってシューコが、ぱちん、と指を鳴らすと、その頭からぴょこんと耳が生えてきた。</div> <div> </div> <div>それと、腰からはふさふさしたしっぽが何本も。びっくりして後ずさろうとして、傷が痛んですっころんだ。</div> <div> </div> <div>「わわ、ごめんごめん、いきなり姿が変わってびっくりした?痛かったでしょ」</div> <div> </div> <div>確かにびっくりしたけど、気になったのはそこじゃない。</div> <div> </div> <div>よしよし、となでてくる手をふりはらって、ウチは意識を集中する。</div> <div> </div> <div>「・・・おー、もうそんだけコントロールできるんだ。誰かに教えてもらったんでもなさそうだったけど」</div> <div> </div> <div>やっぱり、この状態は体がつるつるしてへんな感じがする。でも、こうしないと言いたいことが伝わらないし。</div> <div> </div> <div>「・・・・・・ウチも、その『ようかい』なのか?」</div> <div> </div> <div>それが、ウチが狼の姿から変身して、初めてしっかり口にした言葉だった。</div> <div> </div> <div> </div> <div>それからシューコは、妖怪のことや変身したあとの体のことを―――こっちは『人間』っていうらしい―――いろいろ教えてくれた。</div> <div> </div> <div> シューコが言うには、ウチは人狼の『先祖返り』っていうやつらしく、何回練習しても耳と左目が狼のまんまになってしまうのは、ウチがぶきっちょなわけではないそうだ。</div> <div> </div> <div>人間の姿の方がいろいろ便利だから、ということで、耳は服についてた『ふーど』っていう帽子で、左目は眼帯を付けて隠すことにした。</div> <div> </div> <div>それからしばらくして、片目が見えないことにも慣れて、たんすに小指をぶつけることも少なくなってきたころ。</div> <div> </div> <div>「シューコッ!!またウチがとっといたずんだ餅かってに食べただろッ!!!」</div> <div> </div> <div>「あーごめんごめんおなかすいちゃってつい」</div> <div> </div> <div>「棒読みにもほどがあるぞっ!?ぜったい反省してないだろっ」</div> <div> </div> <div>こんな風にちょっとしたことで喧嘩できるくらい、他の誰かと話すことにも慣れてきたころだった。</div> <div> </div> <div>「おぉ、周子くん、ここにいたかね」</div> <div> </div> <div>いきなり知らないおじさんがやって来たもんだから、びっくりしてシューコの後ろに隠れてしまった。知らない人は、やっぱりまだこわい。</div> <div> </div> <div>「・・・ずいぶん、怖がらせてしまったかな?」</div> <div> </div> <div>「あはは、ちょっと人見知りなだけだよ。・・・ほら、自己紹介して。大丈夫、このおじさん優しいから」</div> <div> </div> <div>おじっ、と言っておじさんが固まった。どうしたんだろう。</div> <div> </div> <div>まぁ、あやしいヤツならとっととシューコが追い払ってるはずだし、悪いヤツじゃないのは本当だろう。</div> <div> </div> <div>「・・・・・・美玲」</div> <div> </div> <div>でもやっぱりこわいので、ちょっと顔をのぞかせて、ぼそっと名前だけ名乗った。</div> <div> </div> <div>美玲。名前がないのは不便だ、っていってシューコがつけてくれた、シューコからもらったもので一番すきなもの。</div> <div> </div> <div> </div> <div>「ふむ、美玲くんか。『美しいさま』を表す字が二つ、うんうん、名前通りの可愛らしい子だね」</div> <div> </div> <div>名前を褒められて、それを考えてくれたシューコのことも褒められたみたいでうれしくなる。</div> <div> </div> <div>悪いヤツじゃないっていうの、ちょっとなら認めてやってもいいかもしれない。</div> <div> </div> <div>「それで、わざわざどうしたの、社長さん?」</div> <div> </div> <div>「おぉ、そうだそうだ。周子くん、君に是非頼みたいことがあってね」</div> <div> </div> <div>「うん?また何か始めたの?」</div> <div> </div> <div>「うむ。今回の『プロダクション』は、なかなか期待できそうでね。周子くんには、そこでカウンセラーのようなことをやってもらいたいんだよ」</div> <div> </div> <div>「え、カウンセラー?あたしそんな難しいことできないよ?」</div> <div> </div> <div> 「いやいや、あまり難しく考えなくてもいいんだ。能力を持つがゆえに疎んじられたり、傷つけられた子たちの話し相手になってもらえれば、というだけの話さ」</div> <div> </div> <div>「うーん、そう言われてもねぇ」</div> <div> </div> <div>「できれば、また周子くんの力を借りられればと思ったんだが・・・」</div> <div> </div> <div>・・・なんか難しい話みたいだけど、ちょっと気になった。</div> <div> </div> <div>「シューコ」</div> <div> </div> <div>「ん?どったの美玲?」</div> <div> </div> <div>「えっと、今の話ってさ。『前までのウチ』みたいなヤツのことを助けてあげられる、ってことで良いのか?」</div> <div> </div> <div>「あー、うん、まーだいたいあってるかな。もしかしたら、美玲よりもっとふさぎ込んじゃった子もいるかもしんないけど」</div> <div> </div> <div>やっぱり、そういうことみたいだ。だったら―――</div> <div> </div> <div> </div> <div>「―――だったら、ウチ、それやりたい」</div> <div> </div> <div>「・・・へ?ちょ、ちょっと美玲?」</div> <div> </div> <div>「だって、だって!!それって、すっごく良いことだろッ!?ウチ、シューコと話して、名前もらって、それで、えと、えっと!」</div> <div> </div> <div>言いたいことがいっぱいでてきて、うまく言葉にならない。それでも、シューコもおじさんも、ウチの考えがまとまるのを待ってくれた。</div> <div> </div> <div> 「えっと・・・ウチ、生きていていいんだって、シューコに会って初めてそう思ったんだ!だから、前までのウチとおんなじヤツがいるなら、そいつのこと助けてあげたいんだ!」</div> <div> </div> <div>生まれてすぐ、みんなからのけものにされてきたウチが、初めて生きていることを嬉しいと思ったのは、シューコがいたからだ。</div> <div> </div> <div>ウチも、そうやって、『誰かが生きていていいと思える人』になれるなら、それってすごいことだと思った。―――ウチはヒトじゃなくて狼だけど。</div> <div> </div> <div>「・・・美玲にそこまで言われちゃうと、ちょっとノーとは言えないよねぇ・・・・・・」</div> <div> </div> <div>しばらく考え込んでいたシューコが、苦笑いしながらそう言った。っていうことは・・・</div> <div> </div> <div>「おぉ、引き受けてくれるかね!いやぁ助かったよ」</div> <div> </div> <div>「んーん、あたしやんないよ?やるのは美玲」</div> <div> </div> <div>・・・・・・ん?</div> <div> </div> <div> </div> <div>「・・・・・・え!?う、ウチひとりでやるのかッ!?」</div> <div> </div> <div>「いんや、もちろんお手伝いくらいはするよ?でも、あくまでこれは美玲のお仕事。そういう条件なら受けるけど、どうする、社長さん?」</div> <div> </div> <div>「ふむ・・・ティンと来た!良いだろう、その方向で話を進めよう!周子くんがサポートについてくれるなら、万が一ということもないだろうしね」</div> <div> </div> <div>・・・なんだろう、なんか大変なことになっちゃった気がする。けど、やりたいって言いだしたのはウチだし、その気持ちに嘘はない。</div> <div> </div> <div>「とりあえず、一度うちの事務所まで来てもらえるかな?プロデューサーの彼とも顔合わせをしておいた方がいいだろう」</div> <div> </div> <div>・・・嘘じゃないんだけど。</div> <div> </div> <div>「・・・みれいー?しがみつかれたまんまだと、あたし動けないんだけどー?」</div> <div> </div> <div>やっぱり、知らない人に会うのは、まだちょっとこわい。</div>

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