4スレ目・その1

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<dl style="padding-top:10px;"><dt id="a3"><span class="resnum">3</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆n8e7PTy/8c</span><span class="info">[sage]:2013/07/11(木) 15:33:27.13 ID:jhoAHeXh0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><span style="color:#0000FF;">&gt;&gt;1</span><br /> 乙です。<br /><br /> 橘ありす、ギリギリアウトですが投下させていただきます。<br /> 注意書き<br /> 初SSで形にすることで尽きたので会話形式と地の分が混ざっており、稚拙なものとなっていると思います。<br /> 特に句読点は投げ出しているのでそこはスルーしてくれるとありがたいです。</dd> <dt id="a4">4:<span class="name" style="color:#008000;">◆n8e7PTy/8c</span><span class="info">[sage]:2013/07/11(木) 15:37:54.27 ID:jhoAHeXh0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 橘ありすは自身の名前にコンプレックスを持っている。その要因としては同級生にからかわれるという側面もあるだろうが「橘」という名字に対して合わないと言う事が彼女の中で占める大部分だ。<br /><br /> しかしありすはその名前を嫌悪しているわけでもない、なぜならありすという名前が彼女と親を繋ぐ唯一の記憶だからだ。<br /><br /> ありすは物心がつく前からとある田舎町の橘という老夫婦の養子として育ってきた。養父母が言うには「段ボールに『拾ってください、名前はありすです。』と書いてあったから拾ってきた。」というが当時のありすにも(嘘だな)と感じられた。<br /><br /> しかし、ありすという名前を両親が付けたのは本当らしくその名前で呼ばれるたびにありすは両親とのつながりと「なぜ両親は自分を手放したのか」という感情が混ざりあい、苦手意識を持ってしまうのである。<br /><br /> 「あの日」後も(彼女自身は)特に変わりもなく暮らしていた。<br /><br /> 学校がそれなりの長期休暇に入り寮から橘家に帰省して何日か経ったある日、養父母が結婚記念日なのでありすは「家事は寮生活で大体学びましたので大丈夫です、ごゆっくりどうぞ!」半ば無理やり2人っきりで出かけさせた。<br /><br /> 家に一人となったありすは養父母が何時もいる部屋に行き辺りを物色し始めた、両親の情報が少しでも無いか探しているのである。<br /><br /> 小1時間ほど経ってありすは押入れの奥に大事そうに保管されているものを見つける。それは今世間で出回っているタブレット…少なくとも外見はそれに近いものであった。<br /><br /> そんな最近のものがこんな田舎に、そして何年も放置されていたかの様に埃をかぶっている事に強烈な違和感を覚えながらもよく確認するため埃を掃おうとディスプレイに手を触れた瞬間それは起動した。</dd> <dt id="a5">5:<span class="name" style="color:#008000;">◆n8e7PTy/8c</span><span class="info">[sage]:2013/07/11(木) 15:41:58.42 ID:jhoAHeXh0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 自分には理解できない、否、おそらく地球上のどの地域でもにも使われていない言語が続いた。そしてディスプレイにVorpalと表示され音声が聞こえてきた。<br /><br /> ???「おはようございます、マスター」<br /><br /> ありすはその言葉が自分が持っているタブレットから出ていることを認識すると思わず手を放しかけてしまった。もしありすが「あの日」以降こういう事項に多少でも慣れていなければそのまま壁に叩きつけていたかもしれない。<br /><br /> ありす「貴方は…何ですか…?」<br /><br /> ???「何?と言われましても…それは貴方がよく知っているはずでは?」<br /><br /> ありす「何が起こってるのかすらわかりません…」<br /><br /> ???「橘さんから知らされて無い…?いや、それにしては冷静すぎる…」<br /><br /> ありす「養父さんと養母さんは…えと、貴方の事を知っているんですか!?」<br /><br /> ???「!ああ、申し訳ありません。マスターの方が聞きたいことが多いでしょうね」<br /><br /> ???「とりあえず私の事はヴォーパルとでも呼んでください、マスター」<br /><br /> さて、そのヴォーパルとやらに貴方は誰?何故こんなとこにいたの?と質問を投げかけるありすだったが「それについては私が話してもいいのか判断できない、橘さん達が帰ってくるのを待ちましょう」の言葉で止められてしまい、<br /> 逆にヴォーパルからなぜそこまで冷静なのかと尋ねられ今の世界について教える羽目になってしまった。<br /><br /> やけに今の世界の話に興味深々なヴォーパルに付き合っているうちに養父母が最寄りの駅に帰ってくる時刻となった。<br /><br /> 一刻も早く養父母にヴォーパルについて聞きたかったありすは駅まで迎えに行くことにした。</dd> <dt id="a6">6:<span class="name" style="color:#008000;">◆n8e7PTy/8c</span><span class="info">[sage]:2013/07/11(木) 15:42:42.42 ID:jhoAHeXh0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> ほぼ同時刻 駅付近の路地裏<br /><br /> ???「指定された地点は…ここか」<br /><br /> ???「ジェノサイド爆弾やGDFとは全くと言っていいほど関係ないとこだが…あいつらにとっては些細な問題か」<br /><br /> ???「道具は宇宙人から横流ししてもらった中古のこいつ1体だけ…能力者も珍しく無い世の中だってのにこれでやれると思ってんのかね?」<br /><br /> ???「と言っても仕事だからやるしかないか、辺りの人たちご愁傷さん」<br /><br /> そうぼやきながらその人物は手にある端末を操作する。<br /><br /> ???「精々暴れまわって依頼者に胸張って言える成果を残してくれよ?」<br /><br /><br /><br /> ありす「あれは、巨大ロボット!?侵略者!?何でこんな時に!!」<br /><br /> ヴォーパル「…いや、違います。あんな型落ちの旧式を、しかも単騎で運用という事は少なくとも侵略目的ではないでしょう。GDFとやらで対処できる代物です」<br /><br /> ありす「そんなことはどうでもいいです!!このままじゃあお養父さんとお養母さんが…!」<br /><br /> ヴォーパル「…マスターは助けたいですか?」<br /><br /> ありす「え?」<br /><br /> ヴォーパル「私、いえマスターにはこの状況を打開するだけの力があります。それを欲しいと、そのためには安くは無い代償を払う事が出来ると、胸を張って私に言えますか?」<br /><br /> ありす「…抽象的すぎます、よく解りません」<br /><br /> ヴォーパル「私から言えるのはこれだけです。私はマスターの、貴方の意思に従います」<br /><br /> ありす「…」<br /><br /> この状況をヴォーパルが作り出したと言われても納得してしまうほどトントン拍子に進んでいた事を考えると、あの時の私は柄にもなく軽率だったと思う。<br /><br /> ありす「私は…私はお養父さんとお養母さん、そして街の皆を守りたいです。」<br /><br /> でも、私は既にヴォーパルに親しみを感じていた。<br /><br /> ありす「だから、協力して!!ヴォーパル!!」<br /><br /> この世界の事を知ろうとして必死に検索し、新しい知識が増えるたびにやけに嬉しそうな声を出す彼の事をもっと知りたいと、願っていた。</dd> <dt id="a7">7:<span class="name" style="color:#008000;">◆n8e7PTy/8c</span><span class="info">[sage]:2013/07/11(木) 15:46:49.56 ID:jhoAHeXh0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> ヴォーパル「了解です、『Jabberwock 我が呼び声に応えよ』」<br /><br /> ヴォーパルがそうつぶやいた途端突風を感じありすは思わず手で目を覆う。目を開けるとそこには純白の荒々しい獣の様な雰囲気を持ち、装甲には植物の意匠がくまなく施された巨人らしき物体が鎮座していた。<br /><br /> ありす「ロボット!?これが…力?」<br /><br /> ヴォーパル「そう、ジャバウォックは貴方の為の…ロボット、という解釈でいいでしょう。さあ、こちらへ」<br /><br /> ジャバウォックに乗り込んだありすはある事に気づく、こういうロボットにあるはずの操縦桿が無い、それどころかスイッチなども見当たらないのだ。<br /><br /> ヴォーパル「大丈夫です、私を目の前の穴に押し込んでください。」<br /><br /> 言われるがままにヴォーパルを穴の中に差し込むと丁度の大きさで、すっぽりと入っていった。<br /><br /> ヴォーパル「接続完了、Jabberwock 起動せよ!!」<br /><br /> ロボットの中で声が響いたと思ったらジャバウォックが光に包まれる、獣のような外見は見る間に鎧を着た闘士の姿になり、白1色だったボディも様々な色に変化していく。<br /><br /> その光景を例えるなら「理性無きものが理性を得ていく様」を早回しで見せられているようだった。<br /><br /> ヴォーパル「起動完了です、マスター。操縦は基本私がやりますから…マスター?」<br /><br /> ヴォーパルは不機嫌そうなありすを見て疑問形でありすを呼んだ。<br /><br /> ありす「私って本当にここにいる必要があるんですか…?」<br /><br /> ヴォーパル「はい、マスターがいないと起動できませんから」<br /><br /> 「それって単なる鍵役じゃないですか!!」そう叫びかけたありすの口は、駅に向かって急発進したジャバウォックのスピートに閉めざるを得なかった。</dd> <dt id="a8">8:<span class="name" style="color:#008000;">◆n8e7PTy/8c</span><span class="info">[sage]:2013/07/11(木) 15:53:24.57 ID:jhoAHeXh0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 命令通り破壊活動を実行しようとした旧式はセンサーに反応したある物体に対して一瞬だけ動きを止めた。<br /><br /> 「それ」は文字通り突然現れた。旧式とはいえ以前の地球からは考え付かないほどのテクノロジーで生まれたものであり、実用的にする以上既存の兵器、技術に対して反応し、最適な行動(スペック上、取れる行動は限られるが)を取ることをコンセプトに作られていた。<br /><br /> そのセンサーが感知できなかったものが突然現れた。自分の知っている兵器の延長上のものなどではない根本から全く違うもの。<br /><br /> それは旧式に取ってアンノウンと呼称するべきものだった。故に旧式は動きを止めてしまった。<br /><br /> それを見た???が顔をしかめる。<br /><br /> ???「おいおいまじかよ、出てきた早々故障とかない…ん?」<br /><br /> ???「急接近してくる物体?能力者か?いや、それにしちゃあ…」<br /><br /> ???「早すぎるし、速すぎるし、何よりでかすぎる」<br /><br /> そうつぶやくのと旧式に何かが突っ込んで行くのを目視するのはほぼ同時だった。<br /><br /> ジャバウォックの拳が旧式のボディにクリーンヒットし、バランスが崩れる。ジャバウォックはそのまま相手をつかみ、今いる駅付近から山の方に投げ飛ばした。<br /><br /> 旧式は備え付けのバーニアを全力で噴射して何とか姿勢を制御しようとする。ジャバウォックはその隙に追い付いて旧式の足をつかみ、山の中腹に引きずり降ろしダウンさせる。<br /><br /> ダウンしたまま動きを止める旧式、近づくジャバウォック、後1歩で拳が届く距離という所で突然旧式の頭部が光を発した。<br /><br /> ヴォーパル「想定内、むしろ予想通りです!!」<br /><br /> そう言いながら不意打ちの頭部レーザーを華麗に回避し、そのまま拳を旧式の頭部に打ち込んだ。<br /><br /> 旧式はAIを破壊され、完全に沈黙した。<br /><br /> ???「何だよあれ、こっちの情報にはあんなのは…まあいい、それよりも依頼主に報告が先だ。誰であろうと向こう側がぶっ壊したんだ、俺に責任は無い。」</dd> <dt id="a9"><span class="resnum">9</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆n8e7PTy/8c</span><span class="info">[sage]:2013/07/11(木) 15:54:13.10 ID:jhoAHeXh0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> ヴォーパル「戦闘終了。マスター、いい指示でした。」<br /><br /> ありす「全部貴方が勝手に動かしてたんじゃないですか…そもそも戦い始めてから何も言ってないです。」<br /><br /> 少々すねた風に口を開くありす。<br /><br /> ヴォーパル「何言ってるんです?さっき言ったじゃないですか。『私は…私はお養父さんとお養母さん、そして街の皆を守りたいです。』」<br /><br /> ありす「ッ!!!!? な、なな何でそんな音声が残ってるんですか!!!」<br /><br /> ヴォーパル「…? ジャバウォックは私の接続とマスターの乗りたいという意思が無いと起動しませんから、データとして残しとかないといけないんですよ。」<br /><br /> ありす「消して下さい!今ここで!」<br /><br /> ヴォーパル「お断りします、マスターの事をもっと理解したいので。」<br /><br /> ありす「!!…いいです、解りました。じゃあついでにもうひとつ教えてあげます」<br /><br /> ヴォーパル「何ですか?」<br /><br /> ありす「マスターって呼ぶのは…やめてください。変な気分になります。」<br /><br /> ヴォーパル「わかりました。これからはありすと…」<br /><br /> その発言がまたありすの機嫌を損ねることになるとは予想して無かったヴォーパルであった。<br /><br /> 第1話 終わり</dd> <dt id="a10">10 :<span class="name" style="color:#008000;"><b>@設定 </b>◆n8e7PTy/8c</span><span class="info">[sage]:2013/07/11(木) 16:36:21.59 ID:jhoAHeXh0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">橘 ありす<br /> 職業 ○○学校中等部 ←自由に設定化<br /> 属性 ロボット所有?者<br /> 能力 Vorpalに搭乗が出来る?(本人固有の能力があるかもしれないが現在ありす自身に自覚なし)<br /> 詳細説明<br /> 田舎の老夫妻橘家の養子、物心付く前から養子となっていたので養子になる前の事はほとんど覚えていない(母のぬくもりとかそんなレベル)<br /> あの日以前も以後もそこまで波乱に富んだ人生は送ってこなかったが、橘家に保管されていたタブレット(みたいなもの)に搭載されているAI「ヴォーパル」とそれに呼び出されたロボット「ジャバウォック」に出会い、彼女の運命は大きく動く…かもしれない。<br /><br /> ヴォーパル<br /> 職業 無し<br /> 属性 AI(ボイスは♂のつもりで書いた)<br /> 能力 通常のタブレットしての機能(ヴォーパル自身で操作できる)、ジャバウォックの呼び出し、操縦等々<br /> 詳細説明<br /> ありすが起動したタブレットに搭載されているAI、ありすの事をマスターと呼んでいた。(過去形)<br /> 少なくとも今現在の地上で作られたものではないのは確かであり、いろんなとこが欲しがるレベルの代物。<br /> すでに膨大な知識を持っているが人間で言う探究心みたいなものがかなりあり、知らないもの(たとえばあの日以降のもの)に出くわすとテンションが上がっているのが声で丸わかりになる。<br /> Pポジにするつもりがどうしてこうなっゲフンゲフン<br /><br /> ジャバウォック<br /> 職業 無し<br /> 属性 (設定的には)∀やらエヴァやらから少しずつお借りして出来たロボット的な何か<br /> 能力 周囲の魔翌力を吸収してエネルギーにしたりする。<br /> 詳細説明<br /> ヴォーパルが呼びだしたロボット、ジャバウォック自体はロボットなのかよく解らないがヴォーパルが接続されることによって装甲が変化し色も変わり、完成された姿となる。<br /> 動力源は魔翌力であり、基本は空気中にある魔翌力を吸収して活動するが、当然エネルギーが足りないので武装はほぼ封印され素手で戦う事になる(でも強い)。<br /> 武装を使うにはあらかじめ別の場所で魔翌力を溜めておくか、空気中以外からの供給源を確保するか、という風になる。<br /><br /> ???(旧式を町にけしかけた人)<br /> 不明<br /> 「例の爆弾で被害受けたアンダーワールド人から依頼された」らしい<br /> 物語書く上で相手にもロボが欲しくてひねり出した人、出来るだけ特徴をつけないように頑張ろうとした結果がこれ<br /> このままモブにしてもいいですし誰かが拾ってくれるならお願いします。<br />  </dd> <dt id="a11">11:<span class="name" style="color:#008000;">◆n8e7PTy/8c</span><span class="info">[sage]:2013/07/11(木) 16:42:00.68 ID:jhoAHeXh0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">以上です<br /> 妄想を文章にするって難しいですね<br /> アリスちゃんはこのままこの町に居座っても何か理由つけて飛び出していってどっかの団体入ってもはたまたヴォーパルと旅させて田舎にいるアイドル達と絡ませても構いません。<br /> 駄文にお付き合いありがとうございました。</dd> </dl><dl><dd> </dd> <dt id="a20">20:<span class="name" style="color:#008000;">◆I2ss/4dt7o</span><span class="info">[saga]:2013/07/11(木) 22:59:02.80 ID:wjxkF575O</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> ナチュルスター投下します。<br /><br /> あくまで支援のつもりで</dd> <dt id="a21"><span class="resnum">21</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆I2ss/4dt7o</span><span class="info">[saga]:2013/07/11(木) 23:00:24.57 ID:wjxkF575O</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 憤怒の街が一望できる高台の場所。<br /><br /> そこに三人の人影が見える。<br /><br /> 乃々「も、戻ってきちゃいました……私達の仕事コレで終わりで良かっんですけど……帰りたいんですけど…」<br /><br /> 巴「何言うてんじゃ?乃々。イヴの姉さんに裕美が頑張ってるんじゃ。うちらも根性みせないかんけえのう!」<br /><br /> ほたる「乃々ちゃん!巴ちゃん!今、ナチュラルラヴァースとラビッツムーンの二人が突入したのが見えました!」<br /><br /> ナチュルスターの三人だ。<br /><br /> 彼女達は救助した人達を病院に運んだあと、取材しにきた記者達を振り切り戻ってきたのだ。</dd> <dt id="a22">22:<span class="name" style="color:#008000;">◆I2ss/4dt7o</span><span class="info">[saga]:2013/07/11(木) 23:01:19.02<span class="id">ID:wjxkF575O</span></span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 乃々「じゃあ、任せちゃいましょうよ…私はもうむーりぃー!」<br /><br /> ほたる「乃々ちゃん!」<br /><br /> 巴「乃々!」<br /><br /> 乃々「ひぅっ!?」<br /><br /> いつものように弱気に言う乃々だが、二人の声と真剣な眼差しにビックリする。</dd> <dt id="a23">23:<span class="name" style="color:#008000;">◆I2ss/4dt7o</span><span class="info">[saga]:2013/07/11(木) 23:02:19.20 ID:wjxkF575O</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /> ほたる「大丈夫。私達も乃々ちゃんを支えます」<br /><br /> ほたるが優しく乃々の右手を両手で握る。<br /><br /> 巴「当たり前じゃ!乃々一人に任せるなんて真似はしないけえのう」<br /><br /> そして、巴も乃々の左手を両手で強く握る。</dd> <dt id="a24">24:<span class="name" style="color:#008000;">◆I2ss/4dt7o</span><span class="info">[saga]:2013/07/11(木) 23:03:19.52 ID:wjxkF575O</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 乃々「うぅ………もう少しだけ…頑張ってみます…」<br /><br /> 二人の熱意に押され、乃々は集中し、癒しのオーラを作り出し始めた。<br /><br /> それに、合わせるかのようにほたると巴の力が乃々へ注がれていく。<br /><br /> 街全体をまだ覆うことはできない……<br /><br /> だが……<br /><br /> ほたる「雨雲よ!力を貸して!」<br /><br /> そのオーラを雨雲へと変え、雨にすれば……</dd> <dt id="a25">25:<span class="name" style="color:#008000;">◆I2ss/4dt7o</span><span class="info">[saga]:2013/07/11(木) 23:05:12.83 ID:wjxkF575O</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> ポタッ……ポタッ……ザァーーザァーザァーーー!!!<br /><br /> 憤怒の街へ癒しの雨を降らす。<br /><br /> それは、強い個体のカースには効かないが、弱いカースや憤怒のカースに乗っ取られた人間を癒すことができる。<br /><br /> そして、この街の瘴気を少しでも和らげることができる。<br /><br /> コレで少しでも楽になれば……<br /><br /> 三人の少女の力は、この街を攻略するモノ達へと……<br /><br /><br /><br /><br /> 終わり</dd> <dt id="a26">26 :<span class="name" style="color:#008000;"><b>@設定</b>◆I2ss/4dt7o</span><span class="info">[saga]:2013/07/11(木) 23:06:31.94 ID:wjxkF575O</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /> イベント情報変化<br /><br /> ・ナチュルスターの力で癒しの雨が憤怒の街へ降り注ぎます。<br /><br /> ・憤怒の街の瘴気が若干和らぎました。<br /><br /> ・弱い個体のカースや憤怒のカースに乗っ取られた一般人達を浄化し、数が減ります。<br /><br /> ・ただし、強い個体や先輩達には効き目がない模様。まだまだ予断はできません。</dd> <dt id="a27">27 :<span class="name" style="color:#008000;"><b>@設定</b>◆I2ss/4dt7o</span><span class="info">[saga]:2013/07/11(木) 23:07:04.41 ID:wjxkF575O</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">以上です。<br /><br /> コレで少しでも役に立ってくれれば……</dd> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> </dd> <dt id="a29"><span class="resnum">29</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:00:48.62<span class="id">ID:0Lh97Fm6o</span></span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 緒方智絵里投下します</dd> <dt id="a30"><span class="resnum">30</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:01:33.73 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">ここはとある教会。<br /> 小さいながらも内装は立派で、主祭壇の上方には意匠をこらした十字架がある。<br /> そのさらに上には様々な色で作られたステンドグラスが教会内に光を取り入れている。<br /><br /> 静寂に包まれた教会で一人の少女が椅子に座っていた。<br /> その少女、緒方智絵里はそのステンドグラスをじっと見つめている。<br /><br /> そんな智絵里の後ろに一人の女性が近づいてきた。<br /><br /> クラリス「どうかしましたか?」<br /><br /> 智絵里「ひゃ!」<br /><br /> ステンドグラスに夢中になっているところ急に後ろから話しかけられたためか智絵里は肩を震わせ小さく悲鳴を上げた。<br /> そして恐る恐る智絵里は話しかけてきた女性、クラリスの方を向く。<br /><br /> 智絵里「あ……えーっと……」<br /><br /> 冷静に考えればクラリスは修道服を着ていたためこの教会のシスターであることはすぐわかるが、智絵里は何を話していいのかわからなくなっていた。</dd> <dt id="a31"><span class="resnum">31</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:02:30.53 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> クラリス「私はこの教会でシスターをしているクラリスと申します。貴女のお名前は?」<br /><br /> クラリスは智絵里に優しく微笑みかける。<br /><br /> 智絵里「あ……緒方……智絵里です」<br /><br /> クラリス「こんにちは、智絵里さん。この教会によくいらしてくださいました。奥でお茶でも出しましょう」<br /><br /> クラリスはそう言って教会の奥にある扉の方へと歩いていく。<br /> 智絵里はとりあえず立ち上がるが、おどおどしながら辺りを見回してその後<br /><br /> 智絵里「ごめんなさい!」<br /><br /> 頭を下げて謝った。しかしクラリスはなぜ謝られたのかわからなかった。<br /><br /> 智絵里「その……勝手に教会の中に入っちゃって、きれいだったから、その……」<br /><br /> クラリス「かまいませんよ。基本的に開放されてますし、ここをきれいだと言ってくれる人を無下になんかできませんわ」<br /><br /> 智絵里「あ……ありがとうございます」<br /><br /> それを聞いたクラリスは再び歩き出す。<br /><br /> クラリス「じゃあとっておきのお菓子を出しましょう。神父様には止められていましたけど、このかわいらしい客人をもてなさなければなりませんしね」</dd> <dt id="a32">32:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:03:40.22 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /><br /><br /> 教会の奥の小部屋でクラリスは紅茶を淹れたカップを手に取って口へと運ぶ。<br /><br /> クラリス「自分が入れた紅茶ですが、我ながらほれぼれしますね。完璧ですわ」<br /><br /> そう言ってさらにもう一口、紅茶を口へと運ぶ。<br /> そして机の上には小さな箱が置かれている。<br /><br /> クラリス「一つは神父様のですけど、今回ばかりは仕方ありませんね」<br /><br /> クラリスは箱のふたを開ける。<br /> 中にはショートケーキが二つ入っていた。<br /> クラリスは迷うことなく取り出して皿に乗せた後、一つを自分の元へ、一つを智絵里の元へと置いた。<br /><br /> クラリス「どうぞ食べてください。遠慮はしなくていいですよ」<br /><br /> そう言いつつもクラリスの手にはすでに小さなフォークを手にしてケーキを小さく切っていた。<br /><br /> 智絵里「あの……いただきます」<br /><br /> 智絵里は少し気が引けたのかまずクラリスの入れた紅茶から手を付けた。</dd> <dt id="a33">33:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:04:32.64 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 智絵里「……おいしい」<br /><br /> 智絵里は自然と言葉に出していた。<br /><br /> クラリス「ありがとうございます」<br /><br /> 智絵里の素直な感想にクラリスは微笑んだ。<br /><br /><br /> クラリスはケーキを食べる手を止めずに智絵里に話しかける。<br /><br /> クラリス「ところで、私が言うのは何ですけど、この教会の何に惹かれたんですか?」<br /><br /> 智絵里もケーキを食べながら答えた。<br /><br /> 智絵里「えと……なんというか……よくわからないんですけど、ちょっと懐かしい感じがしたというか……」<br /><br /> クラリス「なるほど、教会に何か思い出があるのですね」<br /><br /> 智絵里「はい、そんな感じです……それにこの教会、なんと言えばいいのかよくわからないんですけど……その、あったかいんです」<br /><br /> クラリス「ふふ……そう言ってもらえるとシスター冥利に尽きますね」<br /><br /> そう言ってクラリスはイチゴを口に入れた。</dd> <dt id="a34">34:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:05:20.75 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> クラリス「この教会には私は小さいころから通ってました。そのころからこの教会は私にとって居心地のいい場所でしたから、そのように言ってもらえるということは私もこの教会を守っていけているという自信にも繋がりますわ」<br /><br /> 智絵里「神様も……ちゃんとクラリスさんとこの教会のことを……見守ってくれてますよ!」<br /><br /> 智絵里は先ほどまでの控えめなしゃべり方よりも、はっきりと言った。<br /><br /><br /><br /><br /><br /> ケーキも食べ終わって、クラリスは2杯目の紅茶を淹れている。<br /><br /> 智絵里もかなり雰囲気に慣れてきたのか落ち着いて紅茶の香りを楽しんでいた。<br /><br /> そこにクラリスは急に思いついたように話を切り出す。</dd> <dt id="a37"><span class="resnum">37</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:07:33.38 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> クラリス「ところでせっかく教会に来たのですから、懺悔、とまではいかなくとも何か悩み事でもありませんか。話せる範囲でいいですよ。悩める子羊を救うのも聖職者の仕事ですからね」<br /><br /> クラリスは少しだけ胸を張ってそう言う。<br /> 智絵里は少しだけ下を向いて考えた後、そのまま上目遣いになってクラリスを見る。<br /><br /> 智絵里「じゃあ……すこしだけ、いいですか?」<br /><br /> 智絵里は控えめに話し始める。<br /><br /> 智絵里「前に、友達と喧嘩してしまったんです。ちょっとした考えの違いで……それ以来、会ってないんです」<br /><br /> クラリス「なるほど……それで仲直りをしたいということですか?」<br /><br /> 智絵里「あ……いえ、仲直りはしようとしてるんです。一度はしようとしたんだけど……結局だめでした」<br /><br /> そう言った後、智絵里は頭を伏せてしまった。<br /><br /> クラリス「あら……それは残念でしたね」<br /><br /> 智絵里「でも……今度こそ、仲直りしようと思って、いろいろ考えてるんです!」<br /><br /> 頭を下げていた智絵里は再び顔を上げてクラリスの方を向き直した。<br /><br /> 智絵里「でも、その仲直りの方法に、ちょっとだけ……自信が持てないんです」<br /><br /> クラリス「なるほど、それが悩みですか。その仲直りの方法というのは、自分の仲直りの手段ではなく相手のためにしようと思っているのですか?」<br /><br /> クラリスのその問いに対して智絵里は頷く。<br /><br /> 智絵里「もちろんです。また……みんなで楽しく、一緒にいたいですから」<br /><br /> クラリス「なら、貴女のその正しいと信じた方法を、自信をもってしましょう。その気持ちは相手に必ず伝わるはずですから。これは私の勝手な想像ですけど、相手もきっとあなたと仲直りしたいと思っていますよ」<br /><br /> クラリスは、相手が智絵里のことを嫌っているという可能性も考えていたがそれは口には出さなかった。<br /> この小さな少女が一生懸命になって悩んでいることだ。余計な不安を与えたくなかったのだ。<br /><br /> 智絵里「本当……ですか?」<br /><br /> クラリス「ええ、もちろんですわ」<br /><br /> 先ほどまで少し不安そうな表情で話していた智絵里だったが、その表情には笑顔が戻っていた。<br /><br /> 智絵里「ですよね……わ、わかりました!がんばります!」<br /><br /> クラリス「ふふ、きっとうまくいきますよ」<br /><br /><br /><br /><br />  </dd> <dt id="a38"><span class="resnum">38</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:08:02.13 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /><br /><br /><br /> 日も少し傾き始めており、クラリスと智絵里は教会の前にいた。<br /><br /> 智絵里「あのっ、今日は、ありがとうございました!」<br /><br /> クラリス「いえいえ、私も貴女と話ができて楽しかったですわ。よかったらまたいらしてください」<br /><br /> 智絵里「……はい!今度は、私の友達も一緒に来てもいいですか?」<br /><br /> クラリス「もちろん、大歓迎です」<br /><br /> 智絵里「では、また……です!」<br /><br /> クラリス「ええ、さようなら。また、ですね」<br /><br /> クラリスは去りながら手を振ってくる智絵里に対して小さく手を振り返した。<br /><br /><br />  </dd> <dt id="a39">39:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:09:11.04 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /><br /><br /><br /> 智絵里は日が沈み始めたころ、すこし人通りの多い通りを歩いていた。<br /> その笑顔はまぶしく、道行く人はその笑顔を見てに少し心が癒される。<br /><br /> ちょうど、智絵里と偶然すれ違った本田未央もその笑顔に癒されていた。<br /><br /> 未央(いやー、まったくかわいらしい子だったなー)<br /><br /> 未央「まるで天使みたいだったよー、って私が天使だったか。あっはっは」<br /><br /> などど一人芝居をしてるので周りからは智絵里とは違う意味で目立っていた。<br /><br /> 未央「あれ、そういえばあの子、どこかで見たことがあるようなー?」<br /><br /> 未央はそこで足を止めて少し考えるが<br /><br /> 未央「まぁいっかー。今日の晩御飯はなんだろなー!」<br /><br /> やはり本田未央に期待するだけ無駄だった。<br /><br /> そう言ってのんきにスキップしながら晩御飯に思いを馳せ自宅への道を進んでいく。<br /> もし、ここで未央が智絵里のことを思い出していたら、きっと大きく展開は変わっていただろう。<br /><br /> 智絵里を見逃したことを未央は後悔するのかはわからない。<br /><br /><br /><br />  </dd> <dt id="a40"><span class="resnum">40</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:10:04.71 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /><br /><br /> 智絵里はとあるカフェへと入った。<br /> 静かな雰囲気の店内では各々が自分の時間を過ごしている。<br /> 智絵里はそのまま店内を進み一番奥の席へと座った。<br /><br /> そこには先客として飴細工を駆使して作られたスイーツをどこから食べようかと悩む少女、大槻唯がいた。<br /><br /> 智絵里「ご、ごめんね。……ちょっと遅くなっちゃいました」<br /><br /> 智絵里は少し頭を下げる。<br /> その声でようやく智絵里が来たことに気づいたのか唯は視線を飴細工から智絵里へと移した。<br /><br /> 唯「待ってたよー。全くどこで道草食ってたのさ」<br /><br /> そう言って唯は頬を少し膨らませた。<br /><br /> 智絵里「ご、ごめんなさい!ちょっときれいな教会があったから、つい、ふらふらと、引き寄せられるように……」<br /><br /> 智絵里の声はだんだんと小さくなっていく。<br /><br /> 唯「協会?なんでまたそんなところに?」<br /><br /> 唯は首をかしげる。<br /><br /> 智絵里「その教会、神さまの加護がとっても強かったから、神さまのことが懐かしくなって、つい……」</dd> <dt id="a41">41:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:11:53.08 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 智絵里の言葉に唯はあきれたような顔をして飴細工を突っつく。<br /> その衝撃に立体的な形を作っていた飴細工は軽くバラバラになる。<br /> その飴をフォークで器用に口に入れた。<br /><br /> 唯「あのさ、あんまり全能神の目に留まるようなことは控えてほしいな。ゆいたちの行動に目をつけられたくないしね」<br /><br /> 智絵里「で、でもそこのシスターさんが、優しくてね、その……」<br /><br /> 智絵里は事の顛末を唯に話した。<br /> それを聞いた後唯はため息を吐いて、くだけた飴細工の降りかかったケーキを口に入れる。<br /><br /> 唯「なるほどね、つまり智絵里は、神の加護のある教会にホイホイ入っていって、そこのシスターに優しくされた上に、おいしい紅茶とケーキをごちそうになった挙句、悩み相談までしてもらったんだね」<br /><br /> そう言う唯の顔は満面の笑みだがそこはかとなく威圧感が滲み出している。<br /><br /> 智絵里「う……あ……ひうう……」<br /><br /> 唯のその威圧感に智絵里は少し涙目になっている。<br /><br /> 唯「あたしがいろんなところ走り回ってる間に、ずいぶんとのんきにすごして、その上、天使の智絵里が逆に悩み聞いてもらうってどういうことじゃー!」<br /><br /> 唯は立ち上がり両手を大きく振り上げ激昂する。<br /> 逆に智絵里はさらに体を縮こまって小さくなる。<br /><br /> 智絵里「その……いい人だったよ?」<br /><br /> 唯「そういうこと聞いてんじゃねー!あんたはほんとにやる気あんのかって聞いてんだじぇ!<br /><br /> 答えろや!『ルシフェル』!」</dd> <dt id="a42"><span class="resnum">42</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:12:49.72 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 唯は猫のように唸りながら息を整える。<br /> しかし智絵里はさっきまでのように怯えておらず、唯の方を向く。<br /><br /> 智絵里「当然、やる気はあるよ。唯ちゃん。私に計画の変更はない。宇宙も、地球も、アンダーワールドも、人間も、人外も、能力者も、一般人も、悪魔も、天 使も、魔界も、天界の、それらを遮る境界線を、意識の差を、格差を、正義を、悪を、全部取り払って、その後神さまと私、同じ目線から、高さから、この世界 を見て回る。それが私の信じた道だから」<br /><br /> その言葉に唯は目を丸くする。<br /> 智絵里の目の中にあるのは絶対的な自信どころではないことが唯にはわかった。<br /><br /> 唯(もはやこれは……盲信だね)<br /><br /> 自信の信じたことが絶対的に正しいと信じ切った目。その正しさがたとえ智絵里自身になくとも、それが正しいと思っている。<br /><br /> 唯「やっぱりあたしのようになんちゃって暴食じゃなくて、正真正銘の、傲慢だね、ルシフェル」<br /><br /> 唯はゆっくりと椅子に座りなおす。<br /><br /> 唯「そう、智絵里は、そういう子だった」<br /><br /> 智絵里「あ……す、すみません……」<br /><br /> ここで智絵里は我に返ったのか頭を下げて顔を隠す。<br /><br /> 智絵里「わ、私は……神さまに、2回、挑みました」</dd> <dt id="a43">43:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:13:59.16 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 1回目は、堕天前。人間の素晴らしさを、世界の素晴らしさを知って、人と暮らすために、他の天使とともに愛する神にその考えを理解してもらうために挑んだ。その考えは正しいと信じて。<br /><br /> 2回目は、堕天後。自分の考えを理解しなかった神への怒りと、それでも正しいと信じる自分の考えを愛する神も理解してくれるはずという傲慢と共に挑んだ。<br /><br /> 智絵里「だから3回目は直接は挑まない。だけどせめて私の考えがどんなものかを知ってもらう。少し強引にでも同じ視点で見てもらえば、神さまもわかってくれるだろうから……」<br /><br /> 唯「そう、そのための『神堕とし』、イルミナティの目的なんだから。もともとイルミナティを作ることを言い始めたのも、智絵里だからねー★」<br /><br /> 唯はそう言った後、飴細工の皿の傍らに置いてあるカフェラテのカップを手に取って口へ運ぶ。<br /><br /> 唯「智絵里も何か頼む?ここのスイーツ結構おいしいんだじぇー」<br /><br /> 唯は智絵里にメニューを差し出す。<br /><br /> 智絵里「あ……今はいいです。おなかいっぱいなので……」<br /><br /> 唯「ふーん、了解っす♪」<br /><br /> 差し出したメニューを唯は智絵里の少し隣に置いた。<br /><br /> 唯「というわけでー、とりあえずこれからのことを一旦おさらいしてみよっか<br /><br /> 『神堕とし』にも手段はいろいろあるけどさー。ゆいたちのしようとしてるのは『境界崩し』でいいんだよねっ」<br /><br /> 『神堕とし』を試みた悪魔や堕天使、はたまた人間はそれなりの数に及ぶ。<br /> 全能神は堕ちなかったが、様々な手段が模索されて、別の神では成功例もあった。<br /><br /> 『境界崩し』は実際に行われたことはないが、確実性が高い手法の一つとして考えられた。<br /> その名の通りこの『世界』と『天界』の境界を無くして上位の世界と考えられている天界そのものを堕とす事である。<br /><br /> 唯「でもこれがなかなか難しいんだよねー」</dd> <dt id="a44">44:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:14:55.50 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 世界の境界はバランスによって成り立っていて、たとえなくそうとしても全世界の復元力によってすぐに元に戻ってしまうからだ。<br /> しかし逆に言えばバランスを保ったまま、境界を無くせば状態を維持できるのだ。<br /> 天界に対する世界である魔界。その境界も同時に無くせば、バランスを保ち、維持できると考えたのである。<br /><br /> 唯「だからこその必要な条件は境界があいまいになりやすい『混沌とした世界』と世界を繋げるための『接点』が必要になるけどさ」<br /><br /> 智絵里「『あの日』のおかげで世界は、混沌としていますから、今がチャンス……なんです!」<br /><br /> 条件の一つはほぼ整っている。<br /> あとはもう一つ、『接点』が必要なのである。<br /><br /> 唯「うーん、アンダーワールドや宇宙人とのコネはあるんだけどねー。重要な天界と魔界の『接点』がないんだよねー。ベルちゃんには振られちゃったし」<br /><br /> 唯は腕を組みながらうなる。<br /><br /> 智絵里「あの……魔界の『接点』はたぶん大丈夫です。アザエルちゃんが、いるので」<br /><br /> 唯「あー……あー、なるほどなるほど、『暗示』はまだかけたままなんだよねっ?」</dd> <dt id="a45">45:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:16:08.42 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> かつてルシフェルは人間と共に暮らすために神に談判し、反抗した。<br /> ルシフェルは神とともに堕天をしたかったが、それを神は拒否したのだ。<br /><br /> ルシフェルは堕天して傲慢の悪魔ルシファーになっても変わらず神と共に堕ちることを願った。<br /> その2回目の反抗の際に負けたルシフェルは神によってほとんどの力を奪われて、消滅寸前にまで追い込まれたのだ。<br /><br /> 智絵里、ルシフェルはそうなることが、なんとなく予感はしていたので、その時ついて行こうとしたアザエルに暗示をかけたのだ。<br /><br /> 『傲慢の証を持つものを私、ルシフェルと認識すること』<br /><br /> それと傲慢の証にもある呪いを仕掛けた。<br /><br /> 『傲慢の証を持つものはアザエルを友人と認識し、傲慢の力を見たものはアザエルに関する違和感を感じなくなる』<br /><br /> その二つの暗示の力はいまだに智絵里によって制御されていた。<br /><br /> 智絵里「さすがに……アザエルちゃんを、あのとき連れていくわけにいかなかったから……」<br /><br /> 智絵里の友人を大切に思う気持ちはたとえ独善であっても本物である。<br /> ゆえに無事では済まない戦いに友人を連れていくのを拒んだのだ。</dd> <dt id="a46">46:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:17:07.71 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 唯「でもその暗示に使った力ってかなり強い力じゃなかったっけ?その力を残しておけば全能神にも勝てたかもーみたいなことはなかったの?」<br /><br /> 智絵里「え……まだ余裕はあった気がするけど……」<br /><br /> 唯「……智絵里って天使だったのに力はほんとに超・神級だよね~」<br /><br /> 智絵里「……とにかく、計画実行前には、暗示は解こうと、思ってるんです。きっと私以外の、お友達も……できたと思うので」<br /><br /> 智絵里はアザエルの交友関係の乏しさを心配していたので、そういった暗示をかけたのも理由の一つであった。<br /><br /> 唯「だけど、堕天使のアザエルだけじゃ魔界の『接点』としては弱いから純粋な悪魔も仲間に欲しいと思うんだよねー。<br /> だったらアザエルのお友達にも手伝ってもえればいいと思うな☆」<br /><br /> 智絵里「たしかに……それも、いいですね」<br /><br /> 唯(証持ちの悪魔、傲慢のルシファーなら『接点』としても申し分ないかも)<br /><br /> 唯「……うひひ、だけどアザエルに関しては、暫くはそのままにしておいた方がいいかも。多分今はちょーっと忙しいだろうしっ☆」<br /><br /> 智絵里「?」<br /><br /> 智絵里は何の事だかわからず首をかしげた。<br /><br /> 唯(泳がしておけば今のルシファーを魔界からつれてきてくれるだろうしね☆)<br /><br /><br /><br /> 唯「あとは天界の『接点』。どっかに天界の神とか天使でも落ちてればいいんだけどなっ!」<br /><br />  </dd> <dt id="a47">47 :<span class="name" style="color:#008000;"><b>@設定</b>◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:19:26.32 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">緒方智絵里(??)<br /> 職業 イルミナティ創設メンバー<br /> 属性 天使<br /> 能力 不明<br /><br /> かつて神にも等しい力を持ったといわれる大天使長、ルシフェル<br /> 人間と共に共に過ごすために、神と堕天をすることを目的に神に反乱を起こしたが失敗。<br /> その後魔界に落とされ、初代傲慢の悪魔ルシファーとなり再び神に挑むも失敗。その際に力をほぼすべて無くし、消滅寸前までになった。<br /> その後バアルに回収されて人間の世界ですごしてきた。『魔』の力はほぼすべて無くしていたが、天使としての力は回復していった。<br /> イルミナティ創設の言いだしっぺは彼女だが、あまり仕事はしていない。<br /> 人間であっても神であっても悪魔であっても誰にでも優しいマジ天使。<br /> ただし独善的であり、自分が正しいと思ったら絶対に曲げることはない。これが傲慢である理由になっている。<br /> 緒方智絵里は現在名乗っている名前。<br /> アザエルとは天界にいた頃からの友達。<br /><br /> 境界崩し<br /> 世界を隔てる境界線そのものを取り払う儀式。<br /> 必要条件として『混沌とした世界』と『接点』が必要。<br /> 混沌とした世界によって境界があいまいになり、その上で『接点』としてその世界と深いかかわりを持った者が必要。<br /> また世界の復元力によって境界をなくしてもすぐに再生してしまうので魔界と天界、両方の境界を同時に取り払ってバランスを保たなければならない。<br /> 『あの日』によって世界は混沌としているが、この儀式にはさらなる混沌が必要になる。<br /> また世界内のあらゆる『境界』を無くしておくと、さらに確実性は上がる。<br /> 智絵里たちではすでに魔界や天界とのつながりは途絶えているので『接点』にはなりえない。</dd> <dt id="a48">48:<span class="name" style="color:#008000;">◆EBFgUqOyPQ</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 01:21:48.17 ID:0Lh97Fm6o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">以上です<br /><br /> 憤怒の街で盛り上がってる中このお話。<br /><br /> 憤怒の街というビッグウェーブにのるしかない。</dd> <dd> </dd> </dl><dl><dt id="a54"><span class="resnum">54</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆cAx53OjAIrfz</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/12(金) 01:49:24.80<span class="id">ID:9UNM1y4B0</span></span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">投下します<br /><br /> 櫻井桃華、三好紗南お借りします<br /><br /><span style="color:#0000FF;">&gt;&gt;53</span><br /><br /> 異星人!不思議ポイント倍点!キャバァーン!</dd> <dt id="a55"><span class="resnum">55</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆cAx53OjAIrfz</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/12(金) 01:50:03.32 ID:9UNM1y4B0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">П「……近いな」<br /><br /> 地価表の上下乱高下は、世間一般の大多数の人間には関係ない話だが。<br /> だがこの男、ひいては女子寮のオーナーたる、この男には死活問題ですらあるのだ。<br /><br /> 茄子「これは……結構、マズイんじゃあないんですかね?」<br /><br /> П「だよなぁ……」<br /><br /> 先ず隣の町がカースに占領され、アナーキズムの街と化した。<br /> そして街の地下からは多数の下水道が張り巡らされている、勿論いくつかはコチラに流れてきているだろう。<br /><br /> 下水処理場に流れ付けば、纏まって人間に襲いかかり兼ねないし、何より水に溶けているなら環境問題が叫ばれる現代社会。<br /> 間違いなく周囲の街の人口流出、ひいては地価の低下、更には安定した生活からはまた一歩離れ行くのだ。<br /><br /> П「ギリギリギリギリギリ」<br /><br /> 新聞を見れば、悪魔が空を天使とランデブー飛行。<br /> 改造人間4人大脱走、死神悪魔狩り継続中。<br /> GDF総司令官辞任、隣町の新型爆弾の責任とり。<br /> 親潮に流され塗れすけ少女、土左衛門ごっこが今年の流行か……<br /><br /> П「忌々しい世間を騒がせ、地価を落とし続ける奴らめ……」<br /><br /> 茄子「結局、あの空を飛んでた櫻井財閥の御令嬢も、悪魔でしたし……」<br /><br /> П「……せっつくか、各組織を」<br /><br /> そう言うと立ち上がり、地域の地図を取り出し時間を逆算する。<br /><br /> П「確か……あの御令嬢は各方面に『自分から情報を集めに』行った帰りだったな?」</dd> <dt id="a56">56:<span class="name" style="color:#008000;">◆cAx53OjAIrfz</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/12(金) 01:51:57.67 ID:9UNM1y4B0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> そして目配せをする、いつもの気だるげな顔ではなく、ゲスな顔をしていた。<br /> 何となく気持ちを察して、流れを少し読み回答に答える。<br /><br /> 茄子「そーですねぇ、GDFがいくら強くても『電波の薄い、超高度から超えてきたカースには、気が付かないかもしれませんね』」<br /><br /> П「あの御令嬢の事だ『常に自分の周りに、数人の能力者を配置する』だが、『人気取りのため、テレビの前で自分から手を下すことは出来ない』」<br /><br /> 地図に赤い線を引き、地図から引き出したい情報をより正確にしていく。<br /> 居間のテレビでは自分の業績だとばかりに、GDFや様々に団体に例の地図を手渡し、演説をしている少女の姿が目に映る。<br /><br /> П「俺は、ああいう手合いが大っ嫌いだ、政治家みたいなやつがな」<br /><br /> 茄子「あらあら、それはそれは」<br /><br /> そう言い、笑顔でラムネを呷る茄子。<br /><br /> П「そういう奴がする一番好きな顔がある」<br /><br /> 茄子「どんな顔なんです?」<br /><br /> いかにも知りませんよ?とした顔で聞いてくるので、少しイラッとしてデコピンした後、呟いた。<br /><br /> П「どんなに苦しくても、笑顔を作らなきゃいけないときの苦しみ混じりの笑顔だよ」</dd> <dt id="a57">57:<span class="name" style="color:#008000;">◆cAx53OjAIrfz</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/12(金) 01:53:15.57 ID:9UNM1y4B0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 遠征帰りの街宣のごとく、黒塗りのベンツに向けてオッサンオバサン、少年少女の歓声奇声が飛び交う。<br /> その中、Пは少し離れた公園で無言でコーラのグミを咀嚼し、空を見上げていた。<br /> 隣では、茄子が公園の購買で売っていたバニラアイスに、笑顔で齧り付き、咀嚼していた。<br /><br /> П「来たか」<br /><br /> 茄子「来ましたねぇ」<br /><br /> 事もなさげに空に映る小さな点が徐々に大きく、更に大きくなっている。<br /> それに気付いたビルの上に居た人間が3人、すっ転んで頭を打ち、熱く焼けたコンクリートに倒れこんで気絶した。<br /> 次に外周パレードのように理路整然と並んでいた中に、ポツリポツリと倒れる数人の人間、恐らく熱中症だろう。<br /><br /> П「後『能力者』は何人だと思う?」<br /><br /> 茄子「もう居ないと思いたいですねぇ」<br /><br /> П「……居ないさ、多分な」<br /><br /> アイスクリームを事もなさげに食べ終え、手を叩き鞄の中からナフキンで拭いた頃。<br /> 遠くから動物のような、低い声が微かに聞こえ、ゆっくり走っていた黒塗りのベンツのエンジンに、深々と泥のような色をした槍状の固形物が刺さり、動作を停止した。<br /> 歓声は悲鳴に、奇声は怒号、笑顔は叫び声に変わり、民衆はてんやわんやの中、出口を求め『黒塗りのベンツ』から散り散りに離れてゆく。<br /><br /> 茄子「流石に大きいですねぇ、アレ」<br /><br /> П「頃合いかね」</dd> <dt id="a58">58:<span class="name" style="color:#008000;">◆cAx53OjAIrfz</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/12(金) 01:54:56.67 ID:9UNM1y4B0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> カースは舌なめずりをしていた、地ベタに這いずり回り何も出来ないくせに、頭ひとつ抜けてるだけで決まり事を作る奴。<br /><br /> そんな決まり事にペコペコ頭を下げ、アリガタミを感じるチンケな虫けらども。<br /><br /> 決まり事に違反すると、心を苛む『道徳』を植え付ける、制度システム……<br /><br /> カース「イライラスルンダョォオオオオオ!!ブッコワシテヤルァアアアアアア!」<br /><br /> 先ずは、権力の象徴であるベンツを壊してやった、壊した瞬間ブツブツと毛穴が開き得体のしれない快感が身を焼く。<br /><br /> もっとだ!もっと俺は……力を得たのだから!<br /><br /> だが次の瞬間、全身が強烈な衝撃を受け、胸から下が消滅し落ちているのが分かった。<br /><br /> わけも分からず、公園のベンチに腰掛ける、うだつのあがらない男の顔を見た辺りでカースは掻き消えた。</dd> <dt id="a59">59:<span class="name" style="color:#008000;">◆cAx53OjAIrfz</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/12(金) 01:57:33.76 ID:9UNM1y4B0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> П「流石にデカイなぁ、音」<br /><br /> 茄子「いやぁスゴイですね、『隕石』って、私初めて見ちゃいました」<br /><br /> 耳栓を付けていてもうるさく感じる騒音、周囲に散らばる振動によって割れた都市の窓ガラス、そして呆然と空を見上げる人々を差し置き。<br /><br /> П「こんにちはぁ……初めまして、櫻井桃華……ちゃん?いやあ、偶然ってコワイねぇ?隕石とカースがこの車に向かってたんだってねぇ?まあ、両方ぶつかってかき消えちゃったけどね」<br /><br /> Пがニタァァと邪悪な笑みを浮かべ、窓ガラスにヒビの入ったベンツのドアを開けて、中の人物に挨拶をする。<br /> 外では、サクサクと音を立てて、笑顔で茄子がクッキーを食べているのが桃華からは見えた。<br /><br /> 桃華「……」<br /><br /> 三好「だ、誰…?」<br /><br /> П「ああ、申し遅れましたぁ、一応能力者のПっていう人なんだけどさぁ……まあ、出なよ演説の時間だぜ、桃ちゃん?舞台準備は万全だぁな?」<br /><br /> 桃華「……」<br /><br /> 不機嫌な表情のまま、Пを見返す桃華は何を考えてるかもわからず、Пもニヤニヤ笑みを浮かべる中、遠くからヘリコプターの音が聞こえてくる。<br /> 恐らく情報機関のヘリコプターだろう、何故かってここは報道局の近くだからだ、恐らくこの状況は偶然ではないのだろう。<br /><br /> П「ホラ言わなくちゃあ『GDFは何をしているんだ!民衆の税金で固めた装備はゴミクズ同然か!あんなカースを撃ち漏らすなんて!』ってさぁ?」<br /><br /> П「早く動いてない組織をせっつけよ!成りたいんだろぉ?支配者、じゃあならせてやろうじゃねぇか!善政をしく、『清く正しい支配者』に!」<br /><br /> П「そして、早く助けてみろよ!きっと新聞の1面記事に載るぜ!デカデカとよぉ!『櫻井財閥!勇ましき御令嬢主導となり、カースに支配された街を開放す』ってさぁ!」<br /><br /> 突然現れ、終いにはゲラゲラ笑う男と不機嫌な桃華を、見て紗南は困惑し続けるのだった。<br /><br /> П「後、不審な動きしたら……えーっと、こういうんだっけ、わ か る わ よ ね ?ってな」<br /><br /> П「だって、僕と君とは、お友達!だもんねぇ!だから確約してあげる!『君はどうあがこうが、今回の件ではヒーローとして讃えられる!』ってな!」<br /><br /> そう言うと、Пは益々不機嫌になった桃華のほっぺたを突っつき、ドアを閉めてゲラゲラ笑いながら立ち去っていくのだった。</dd> <dt id="a60">60:<span class="name" style="color:#008000;">◆cAx53OjAIrfz</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/12(金) 01:59:43.57 ID:9UNM1y4B0</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> やったね桃華ちゃま、救国の英雄として祭り上げられるよ!<br /><br /> 今日はここまで</dd> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> </dd> </dl><dl><dt id="a64"><span class="resnum">64</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆yIMyWm13ls</span><span class="info">[sage]:2013/07/12(金) 02:12:40.93 ID:fPI9dnL5o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">ちょっと投下。</dd> <dt id="a65"><span class="resnum">65</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆yIMyWm13ls</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 02:13:46.94 ID:fPI9dnL5o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">―<br /><br /> 「雨……」<br /><br /> 街の各地から結界のある病院に逃げてきた人たちで溢れかえる病院から私たちは空を見上げていました。<br /><br /> 見覚えのある蒼のオーラを覆うようにぽつり、ぽつりと雨が降ってきます。<br /><br /> 「乃々ちゃんたち、やってくれたみたいですねぇ~♪」<br /><br /> 「そっか、これがナチュルスターの……」<br /><br /> 癒しの力は、雨雲に乗って『憤怒の街』を覆い尽くし瘴気がみるみるうちに薄れていきます。<br /><br /> 「三人を帰した私の決断は正しかったですよねぇ~♪」<br /><br /> 少しだけ得意げなイヴさん。<br /><br /> 「これでネネさんを休ませてあげられるね」<br /><br /> 結界が不要なら『アイシクルケージ』だけで病院を守りきれる。<br /><br /> 長い長い時間この病院を守るために結界を張り続けた女の人。<br /><br /> 『お疲れさん!お嬢ちゃん!』<br /><br /> 『結局俺たちはお嬢ちゃんに守られてばっかだったな…』<br /><br /> 『俺なんか一回カースに呑まれかけたからな……』<br /><br /> 「わ、私が頑張れたのはみなさんのお陰ですからっ!」<br /><br /> …お疲れ様、ネネさん。</dd> <dt id="a66">66:<span class="name" style="color:#008000;">◆yIMyWm13ls</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 02:14:42.21 ID:fPI9dnL5o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「…あ、あれ?もしかしてカースの数も減ってますか?」<br /><br /> 氷の檻越しに外を見て呟くネネさん。<br /><br /> 「弱い個体は雨と一緒に溶けていっちゃいましたぁ~♪」<br /><br /> 「癒しの力でカースって消えるんだね」<br /><br /> …最近はただでさえ氷に潰されたり、地割れに飲み込まれたり<br /><br /> 雷撃に打ちのめされたりでロクな消え方してないカースばっかり見てるからなんだか少し安心したような…?<br /><br /> 「そろそろかな…?」<br /><br /> 「そろそろ、ですねぇ~♪」<br /><br /> 「そろそろって何がそろそろなんでしょう?」<br /><br /> ネネさんは不思議そうに首を傾げます。<br /><br /> 「うん、氷の檻の『張り直し』」<br /><br /> 「ちょっと妙なんですよねぇ~、この街のカースの『偏り』♪」<br /><br /> 「極端にカースの攻撃を受けて消耗の激しい檻とそうでない檻があるんだ」<br /><br /> 「えっと、つまりカースが大量に集まってる危険な場所があるってことでしょうか…?」</dd> <dt id="a67"><span class="resnum">67</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆yIMyWm13ls</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 02:16:15.29 ID:fPI9dnL5o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「今のところなんとか守れてるけどたまに張り直さなきゃ危ないから…」<br /><br /> 「それに助けが来たなら檻を無理やり壊して貰うか私たちで魔術を解かなくちゃだしね」<br /><br /> 「…早く助けが来るといいですね」<br /><br /> 「……うん…」<br /><br /> この街の人々を一人一人避難誘導するにはあまりに危ない。<br /><br /> それにもし私たちが街を出た瞬間に檻が壊されて中の人たちが襲われるなんて考えたら…。<br /><br /> 「心配性の裕美ちゃんにはこれをあげましょうか♪」<br /><br /> そう言ってイヴさんは何枚かの羊皮紙と羽ペンを私に手渡します。<br /><br /> 「これは?」<br /><br /> 「使い魔契約のスクロールと専用の羽ペンですっ♪炎、風、水の三枚だけだから大事に使ってくださいねぇ~♪」<br /><br /> 「…何で使い魔なのかな?」<br /><br /> 「知り合いがくれました、まぁ私にはブリッツェンが居ますからきっとこうしろってことなんでしょうねぇ~♪」<br /><br /> 「…使い捨てで使い魔くれる知り合いって何…?」<br /><br /> 「いつか会えるかもしれませんねぇ~♪」<br /><br /> 何年付き合ってても師匠のことはよく分からない。</dd> <dt id="a68">68:<span class="name" style="color:#008000;">◆yIMyWm13ls</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 02:18:10.96 ID:fPI9dnL5o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">―<br /><br /> 『アイシクルケージ』を貼ったショッピングモールへと向かってみる。<br /><br /> 「癒しの雨のお陰で初めて乃々ちゃんと初めて檻張りに行った時より行くのは楽になったね」<br /><br /> 「三人のお陰ですねぇ~♪」<br /><br /> 初めて会った時のこと、三人目のナチュルスターである巴さんが初めてやってきた時のことをふと思い出してなぜか笑顔が溢れる。<br /><br /> 「さぁさ、行きますよぉ~!」<br /><br /> 「う、うんっ!」<br /><br /> 気持ちを入れ替えてカースの攻撃を受けて傷ついた檻に向き合う。<br /><br /> 『合唱魔術の発動を宣言する!』<br /><br /> 『氷よ!大いなる我が力に従い、全てを覆い隠せ!アイシクルケージ!』<br /><br /> 元々あった檻が砕け、新たに地面から昇ってくるように氷の檻が現れる。<br /><br /><br /><br /><br /> 『…貴女たちだったんですね、この忌々しい檻は…!』<br /><br /> それと同時に私たちの背後に何かが振り下ろされる。<br /><br /> 「いきなりご挨拶ですねぇ~♪」<br /><br /> イヴさんが振り返って箒で振り下ろされた何か、カースの腕を払う。<br /><br /> …カースと…カースドヒューマン…あの人が…?<br /><br /> 「…檻張ったばっかりで殆ど魔力残ってないのにっ…!」<br /><br /> 慌てて羊皮紙に羽ペンで使い魔契約のサインを記す。<br /><br /> ――魔術管理人ユズは契約を行い、使い魔を託す。確実な信頼者 関裕美へ<br /><br /> 『みー!』<br /><br /> 「……か、可愛い…」<br /><br /> 突然現れた黄緑色の服を着た小さな女の子に思わず本音が漏れる。<br /><br /> …それどころじゃなかった。</dd> <dt id="a69">69:<span class="name" style="color:#008000;">◆yIMyWm13ls</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 02:19:46.12 ID:fPI9dnL5o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">「カースっ!」<br /><br /> 一体や二体どころじゃない…!<br /><br /> 取り囲むように大量のカースが私たちを包囲する。<br /><br /> 『なんですか、この檻…腹立たしい…!』<br /><br /> 『…邪魔…!さっさと退場してください…!』<br /><br /> 彼女のイライラとした声と共に大量のカースが一斉に私たちに襲い掛かってくる。<br /><br /> 『みぃー!!』<br /><br /> ぷちちゃんが高らかに声を出すと私とイヴさんの周りに小さな竜巻が発生する。<br /><br /> 竜巻は浄化の雨を巻き込み浄化の暴風となりある程度力のあるはずのカースまで核の状態にまで押し戻す。<br /><br /> 「ぷちちゃん凄い……!」<br /><br /> …この使い魔の持ち主の魔術管理人ユズって人が余計気になるなぁ…。<br /><br /> 『…なんですかそのちっちゃいの…!私のカースは雨で消されるし、この氷の檻は邪魔でしょうがないし…!』<br /><br /> 『腹立たしい!腹立たしい!!腹立たしい!!!』<br /><br /> …この人はなんでこんなに辛そうな目をしているんだろう。</dd> <dt id="a70"><span class="resnum">70</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆yIMyWm13ls</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 02:20:27.26 ID:fPI9dnL5o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 『…貴女たちに覚悟なんて無いくせにでしゃばって…!』<br /><br /> 『…私を殺す覚悟すらないくせに…!』<br /><br /> 「こ、殺すっ、な、何の話っ!?」<br /><br /> 何を言っているんだこの人は。<br /><br /> 『何の話…?私たちカースドヒューマンの核を砕けば死ぬ、当然の話でしょ…?』<br /><br /> 「…し、師匠…?」<br /><br /> 「……」<br /><br /> イヴさんは口を噤んだまま立ち尽くす。<br /><br /> 「ねっ、ねぇっ!」<br /><br /> 師匠じゃなくてイヴですって小突いてよ…!<br /><br /> 「…確かに今のところ侵食が進みすぎたカースドヒューマンを確実に救う方法は…無いですねぇ…」<br /><br /> 「…そんな……」<br /><br /> 彼女は嘲るように嗤う。<br /><br /> 『やっぱり殺す覚悟なんてないじゃないですか、正義の味方が笑わせますね』<br /><br /><br /><br /> 『ねぇ、私を殺してみてくださいよ?』</dd> <dt id="a71">71:<span class="name" style="color:#008000;">◆yIMyWm13ls</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 02:21:43.21 ID:fPI9dnL5o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">―<br /><br /> 「…ネネさん、ごめん」<br /><br /> 私は結局何も出来ないまま病院に戻ってきてしまった。<br /><br /> ネネさんに頭を下げる。深く、深く。<br /><br /> 「私、この街のカースの親玉みたいなのに会った…、だけど……倒せなかった…」<br /><br /> 「倒さなくちゃ、この街の人、救えないのに…、解放できないのに…」<br /><br /> 「ネネさんはずっと病院守っててくれたのに…私なんにも出来てないね…?」<br /><br /> 悔しくて、でもなにより情けなくて涙が出る、癒しの雨と一緒にこの気持ちも流れていっちゃえばいいのに。<br /><br /> 「…『お疲れ様』、裕美ちゃん」<br /><br /> 「みんな私にそう言ってくれましたから、『お疲れ様』」<br /><br /> ネネさんは私の頭をそっと包み込むようにきゅっと抱きしめてくれました。<br /><br /> …あったかい…。<br /><br /> 『みーっ!みーっ!』<br /><br /> 私を励ますように私の周りを黄緑のぷちちゃんが飛び回る。<br /><br /> 「…もうちょっと…頑張ってみる」<br /><br /> まだ私の手でも守れる人たちがいるから。</dd> <dt id="a72">72:<span class="name" style="color:#008000;">◆yIMyWm13ls</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 02:22:24.91 ID:fPI9dnL5o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">―<br /><br /> 『嬢ちゃんたち、見てるだけでいいのかい、お弟子さんなんだろ?』<br /><br /> 「ふふっ、若いっていいですよねぇ~♪」<br /><br /> 『俺たちからすりゃアンタも充分若いぞ』<br /><br /> 「褒めたって何にも出ませんよぉ~♪」<br /><br /> 『…嬢ちゃんも妹さんのことで色々悩んでたみたいだからな』<br /><br /> 「…遅かれ速かれ向き合わなくちゃいけないことってありますからぁ~♪」<br /><br /> 『やれやれ、食えないお師匠さんを持ってるな、あの娘も…』<br /><br /> 『一番弟子ですからっ、ちょっと特別扱いしても仕方ないですよねぇ~♪』</dd> <dt id="a73"><span class="resnum">73</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆yIMyWm13ls</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 02:23:08.56 ID:fPI9dnL5o</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">終わり。<br /><br /> 裕美ちゃんはなぜこんなにウジウジパートが似合うのか。<br /> ネネさんはお姉さん可愛い。</dd> </dl><dl><dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> </dd> <dt id="a103"><span class="resnum">103</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:18:59.79 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> さて、疑問に思われたからには書かねばなるまい…奈緒ちゃん成分少ない奈緒ちゃん話投下します。<br /><br /> 時間軸は憤怒の街とは関係ないところです<br /><br /> だがディープに書きすぎた気もするんだ!<br /> いつも通り※えげつない設定注意です!※</dd> <dt id="a104"><span class="resnum">104</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY<span class="namenum">2</span>y<span class="namenum">1</span>UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:19:27.36 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 久々に宇宙管理局にネバーディスペアを呼び出し、数日間、とある検査を行っていた。<br /><br /> 一見すればただの身体検査だが…本来の目的は奈緒の血を採取することだった。<br /><br /> 奈緒は身体にコンプレックスを抱いている。だからあくまで自然に手に入れる必要があった。<br /><br /> 加蓮という少女。…彼女は一度死んだそうだ。<br /><br /> 物事の本質を常に見ているきらりが言うのだから間違いのはずがない。<br /><br /> しかし、生き返った。その理由が奈緒の血だという。</dd> <dt id="a105">105:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:20:00.36 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> …血だ。奈緒の血には何かがある。そこで行われた実験で成果を得られたのがとある実験。<br /><br /> 2匹のネズミ。1匹は毒で弱り今にも死にそうなネズミ。もう1匹は元気なネズミ。<br /><br /> どちらにも血を飲ませ、放置する。<br /><br /> 驚くべきことに奈緒の血は数時間も温度と鮮度を保っていた。この血の温度が失われる頃にまた血を飲ませる。<br /><br /> 毒に侵されていたネズミが死んだのと同時に健康なネズミを埋め込んでいた電撃装置で一撃で殺す。<br /><br /> しばらくして毒に侵されていたネズミだけが動き出し、さらに異常な力でケージを壊し、眠っている奈緒の部屋に飛び込んで奈緒に溶けるように同化した。</dd> <dt id="a106"><span class="resnum">106</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:20:32.44 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> …自分は極秘に入手されていた奈緒達を改造した研究員のレポート、資料をひっくり返すように調べた。<br /><br /> 奈緒の過去をもっと知る必要がある。そう判断したのだ。<br /><br /> 一度上層部から与えられた情報では足りない。奈緒が星を食らう怪物と言う事しか知らない。<br /><br /> だから、彼女に無断で彼女の過去に触れることにした。</dd> <dt id="a107"><span class="resnum">107</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:21:24.53 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 誘拐され、キメラにされた奈緒。…童話の星を食らう怪物は様々な生物の特徴を持っていたらしい。<br /><br /> 奈緒はキメラ化されてから自己再生能力はあった。<br /><br /> しかし、現在の…腕を切っても腕の方から戻ってくるようなものではなく、腕を切ったらしばらくくっつけていれば繋がる程度のもの。<br /><br /> レポートによれば組み込まれた生物の生きようとする意思がそうするらしいが…真偽は定かではない。<br /><br /> しかし、どこまで再生能力があるかを研究員達は奈緒を玩具のように扱って確かめ続けた。<br /><br /> 元々キメラ化も不安定なものだったらしく、数日ごとに動物化している部分も変わっていたこともあり、本当に玩具のように思われていたように思える。<br /><br /> 斬首、銃殺、毒殺…他にもえげつない物ばかりだ。彼女の無知に付けこんだ虐待をしている時もあったようだ。<br /><br /> 最後に猛獣に生きながら食われてついに発狂。研究員の一人に重傷を負わせ、地下深くに閉じ込められた。</dd> <dt id="a108">108:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:22:35.03 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> …それからかなりの期間が開いてレポートが再開された。<br /><br /> カースの核を埋め込む実験。所長が奈緒に埋め込むことを望んだようだ。<br /><br /> …奈緒自身に暴食への適性はなかった。無理に埋め込まれたせいか、かなりの時間苦しみ続けていたようだ。<br /><br /> しかし、奈緒は組み込まれていたキメラとしてのデータを泥に投影することで生物の生きる事への渇望…食欲で核への適性を得た。<br /><br /> 核も内部の生物たちも同時に大人しくさせることで苦しみから解放され、肉体の変化も止まり…異常なカースドヒューマンと化した。<br /><br /> 自己再生能力も異常な進化を遂げ、奈緒の意思さえ関係なしに肉体を常に同じ状態に保とうとする。<br /><br /> 髪を切っても再生するレベルで肉体の変化を拒んでいるのだ。<br /><br /> それが生きる事への渇望の弊害だそうだ。奈緒自身の変化は望めないとレポートにも残念そうに書かれている。<br /><br /> 発狂したままで正気を失っていたが…正気だったならばきらりの浄化もうまくいったかは定かではない。</dd> <dt id="a109">109:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:23:43.67 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 現在管理局にある情報によれば、暴食のカースドヒューマン3人組は好物を武器にするらしい。それはもちろん料理だ。<br /><br /> しかし奈緒は生物を生きたまま食らい、その生物が激しい感情を発した時に自身の一部とする…らしい。<br /><br /> だから感情の塊であるカースの泥を食らい、さらにその力は膨れ上がる。<br /><br /> その仕組みは解読班も完全に読み解けなかったようではあるが、これまでの読み取れるところから推測すると…<br /><br /> 生きたま食らうことで奈緒の内部でその命は死んでしまう。<br /><br /> …しかしその理不尽な死の瞬間こそ、その命はもっとも生きることを望む瞬間ではないだろうか。<br /><br /> カースは感情の塊だから一部になりやすい。<br /><br /> 加蓮や先ほどのネズミのように、生きながら死を悟りそして死んでゆく…その時に無意識にでも生きることを強く望むのではないだろうか。<br /><br /> しかし、それでは加蓮が奈緒に同化しなかった理由が分からない。<br /><br /> ネズミと加蓮の違い…核だろうか?<br /><br /> 核が文字通りにその取り込まれたはずの者の姿を保つ核になり、取り込まれずに済むのではないだろうか。<br /><br /> あくまで予測でしかない事。まだ分からないことが多い。<br /><br /> 例えば…何故奈緒があの生物たちに乗っ取られずにいられるか…とか…</dd> <dt id="a110">110:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:24:16.02 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">          『お兄ちゃんは』<br /><br /> 『人間の姿じゃなかったら…』<br /><br /> 『化け物だったら今みたいに受け入れてくれたの?』</dd> <dt id="a111">111:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:24:52.97 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">「!?」<br /><br /> 耳元で囁くように幼い少女の声がした。<br /><br /> 振り返って、入り口にパジャマ姿の奈緒が…ぬいぐるみを抱きかかえながら虚ろな目をして立っていた。<br /><br /> 「…奈緒?どうした!?大丈夫か!?」<br /><br /> 慌てて駆け寄り、声をかける。するとハッとするように意識が戻った。<br /><br /> 「…あれ?あたしなんでここに…」<br /><br /> 「…大丈夫か?」<br /><br /> 「うん…多分喉が渇いてたのかも。」<br /><br /> 「寝ぼけていたのか…?」<br /><br /> さっきの背筋が凍るような目は何だったのだろう。気のせいだったのか?<br /><br /> 「?」<br /><br /> 「まぁ…早く寝るんだ。明日地球に戻るからな。」<br /><br /> 「うん。きらりが待ってると思うし、戻るよ。」<br /><br /> 「奈緒はきらりが好きだなぁ…」<br /><br /> 「!?ち、違うし!きらりの方から来るだけだし!」<br /><br /> 「はは、取りあえず帰りな。」<br /><br /> 「…うん。」<br /><br /> 奈緒が帰っていくのを見送り、再び作業に戻る。<br /><br /> さっきの声はきっと幻聴だろう。耳元で声なんて聞こえるはずがないのだから。</dd> <dt id="a112">112:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:25:51.40 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 部屋の隅で小さな黒い物体が蠢く。<br /><br /> 『本当は好きなの』<br /><br /> 『眠るときは怖い夢から守ってくれるの』<br /><br /> 『素直じゃないでしょ?奈緒はいつもそうなんだ。変だよね?』<br /><br /> 『お兄ちゃん?』<br /><br /> 『…お兄ちゃん、あたしの声…も、もう聞こえないの…?』<br /><br /> 『せっかくひとりぼっちじゃなくなったと思ったのに…』<br /><br /> 『寝て起きたらあたしはまた…!』<br /><br /> 『やだ、やだ!怖い夢なんて見たくない!』<br /><br /> 『奈緒なんて大っ嫌いだ!』<br /><br /> 黒い物体は奈緒に引き寄せられるように消えていった。</dd> <dt id="a113">113 :<span class="name" style="color:#008000;"><b>@設定</b>◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:27:03.97 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 奈緒の中のなにか・3<br /> 意識の集合体である「僕ら」「私たち」とは違い、自立した意識を持つなにか。<br /> 確かに奈緒の一部のはずなのだが、奈緒にも「僕ら」にも「私たち」にも認識されない異質の存在。<br /> 幼い少女のような声と性格で、しかしどこかおかしい感じが漂う。<br /> 何事にも素直で、好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。<br /> 奈緒の意識が薄いときは肉体をある程度操作でき、数分は小さな黒い泥として分離もできるらしく、「僕ら」「私たち」よりは上位の存在である。<br /> それでも意識が浮上するのは数週間に一度で、その間の意識は「怖い夢」に溺れている。<br /> だがその声と姿は肉体の外の人間にも認識されにくく、常に孤独。<br /> 『家族』に憧れており、ネバーディスペアを『家族』と認識している。<br /> その為、自分を閉じ込めてさらには『家族』までいる奈緒を嫌っている。</dd> <dt id="a114"><span class="resnum">114</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆zvY2y1UzWw</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/12(金) 23:28:47.98 ID:4nIslPv50</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">以上です<br /> 暴走フラグ入れつつここの奈緒ちゃんはロリだからなアピール<br /> …ダークな話書いてる時が一番筆が進むんです。助けてください</dd> </dl><dl><dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> </dd> <dt id="a118"><span class="resnum">118</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS<span class="namenum">0</span>ZYdV.M</span><span class="info">[sage]:2013/07/12(金) 23:45:13.29 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">おつおつ<br /> 奈緒と何か…二つに救いはあるのだろうか…<br /><br /> 次から投下します</dd> <dt id="a119"><span class="resnum">119</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS<span class="namenum">0</span>ZYdV.M</span><span class="info">[sage]:2013/07/12(金) 23:46:06.99<span class="id">ID:0hhRbZowo</span></span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> ―――光達の中学の屋上<br /><br /> ルシファーの『傲慢』なる残酷な提案に屈さず、自らの『誇り』と『自信』を手に入れた小関麗奈。<br /> 望月聖にも、その身に秘めた希望の光を見出され、悪のカリスマから正義のヒーローへと転職。<br /><br /><br /> ―――かと思われたが<br /><br /><br /> 麗奈「ところで南条。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」<br /><br /> 光「ん?なんだ?」<br /><br /> 麗奈「アンタと望月って昔からの知り合いなんでしょ?」<br /><br /> 麗奈「なんか、アイツの弱点とか知らないわけ?」<br /><br /> 光「へ?」<br /><br /> 過去に自らの悪事を聖によって邪魔されたことを未だに根を持っており、未だにその復讐を企てていた。</dd> <dt id="a120"><span class="resnum">120</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS0ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:47:01.49 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 光「昔からの知り合いって…聖はまだ転校してきてそんなに日は経ってないぞ?」<br /><br /> しかし光からの返答は麗奈にとっては間の抜けた返答そのものである。<br /><br /> 麗奈「そういうことじゃないわよッ!」<br /><br /> 麗奈「アイツが転校してくる前から、アンタ達は仲間だってんでしょって聞いてんのッ!」<br /><br /> 光「アタシと聖が?」<br /><br /> 光「いや、それならもっと再開の喜びを分かち合ってると思うぞ!」<br /><br /> 麗奈「……」<br /><br /> 麗奈からすれば光はバカそのもの。<br /> しかしその正義感は身を持って体験しているため、決して都合の悪いことを誤魔化したりするような奴では無いこともわかっている。<br /><br /> 麗奈「…ホントに知らないわけ?」<br /><br /> 光「あぁ!昔からの友人なら忘れるわけも無いからな!」<br /><br /> 麗奈「…はぁ」<br /><br /> 麗奈「(じゃあ、アイツは一体何者なのよ…)」<br /><br /> 光とは全く無関係なまた別のヒーロー?<br /> そう考えると世界征服を企てる麗奈にとっては現時点では聖相手に成すすべも無い。<br /> 頭の痛くなる存在だ。</dd> <dt id="a122"><span class="resnum">122</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS<span class="namenum">0</span>ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:47:30.43<span class="id">ID:0hhRbZowo</span></span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 麗奈「(けど、そんな奴がアタシ達のクラスに転校してくるって、いくらなんでも偶然が過ぎない?)」<br /><br /> 麗奈「(流石に光との関係性が何かしらはあるとは思うんだけど…)」<br /><br /> 小関麗奈。<br /> 世界征服を企てるほどの大口を叩くだけあって、本人は中々に頭が回る。<br /><br /> 麗奈「(まぁ、でも…)」<br /><br /> 麗奈「(そういうことなら南条を利用さえすれば、アイツは手を出せないっていうことじゃ…)」<br /><br /> しかし、その考えは中々にこすい。<br /><br /> 光「?」<br /><br /> 光「麗奈、どうした?」<br /><br /> 麗奈「なんでもないわよっ」<br /><br /> 麗奈「ほら、教室戻るわよ。授業始まっちゃうから」<br /><br /> 光「おっと、そうだなっ!サボりはよくない!」<br /><br /> 麗奈と光が屋上を後にし、自らの教室へと戻っていく。<br /> その姿を望月聖と佐城雪美は物陰に隠れながら見守っていた。</dd> <dt id="a123"><span class="resnum">123</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS0ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:48:20.13 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 聖「私も…教室に戻らなきゃ……」<br /><br /> 雪美「……」<br /><br /> 仮の姿とは言えど、学生の本分は学業である。<br /> その本分を聖が疎かにするのは聖なる天使としてはあるまじき行為である。<br /> しかし佐城雪美は面白くなさそうな顔をしていた。<br /><br /> 聖「そんな顔…しないで…?」<br /><br /> 雪美「……バッグの中……狭い……」<br /><br /> 聖「…授業中に猫を机に置くわけにもいかないの……」<br /><br /> 聖はお留守番に対して異を唱える雪美に根負けをし、自らの学生バッグの中に入って大人しくしているならという条件で連れてきた。<br /> 猫がダメなら自分も転校生にと雪美は言うが、人間時の雪美の姿では中学生というのは無理はある。<br /><br /> 雪美「……ぶー……」<br /><br /> 聖「ふてくされたりしないで…」<br /><br /> 聖がいつものように雪美を宥める。<br /><br /><br /> ―――その刹那だった<br /><br /><br /> 聖「…!!」<br /><br /> 雪美「…!!」<br /><br /> なんの変哲もなく広がる青空。<br /> しかし二人は感じた。<br /> この世の物では無い、邪悪な存在の魔力を。<br /><br /> 「あなたはミカエルね?……隣の子は誰?」</dd> <dt id="a125"><span class="resnum">125</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS<span class="namenum">0</span>ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:48:53.62<span class="id">ID:0hhRbZowo</span></span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> その少女は人間の肉体を持っていた。<br /> しかし、普通の人間とは異なる。<br /> 何故ならその少女は巨大な魔力を放ち、そして背中には黒き翼が生えていたのだから。<br /><br /> 千鶴「あなたがいるなら私が求めているモノにもたどり着ける?」<br /><br /> 少女の名は『松尾千鶴』<br /> しかしそれは、人間の肉体の名。<br /> 少女は乗っ取られている。<br /><br /> 聖「貴女……アザエル……!」<br /><br /> 千鶴「ふぅん。天界を堕ちた私でも名前は覚えていてもらえるのね」<br /><br /><br /> ―――堕天使『アザエル』<br /><br /><br /> 『傲慢』のルシファーと共に天界から堕ち、自ら堕天使へと生まれ変わった元天使。<br /> 『神により強くされた者』の異名を持つ、その巨大な存在。<br /> 天界の四大天使である『聖ミカエル』こと聖が知らないはずは無かった。<br /><br /> 聖「……どうして、貴女が…」<br /><br /> 千鶴「ふんっ……どうしてですって?」</dd> <dt id="a126"><span class="resnum">126</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS0ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:49:37.05 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 千鶴「あなたに言う筋合いは無い」<br /><br /> 千鶴「……ルシファーを倒した存在を手っ取り早く見つける為には」<br /><br /> 千鶴「破壊活動をして騒ぎを起こせば良いのだから…」<br /><br /> 聖「……」<br /><br /> 雪美「……聖……あの人……おしゃべり……」<br /><br /> 聖「……彼女…独り言が多いの」<br /><br /> 千鶴「…ハッ!?」<br /><br /> しかしその独り言はとても見過ごせるものではない。<br /> ルシファーが討伐され、そのルシファーと『アザエル』の関係性は聖自身も知っている。<br /> つまり要約すれば『アザエル』は力の持たない一般人を巻き込んでルシファーの敵討ちを目論んでいるということ。<br /><br /> 聖「そんなことはさせない……!」<br /><br /> 聖がその背中に純白の翼をはためかせる。<br /> 一般人は無論のこと、まだ精神的に未熟な光や新たな希望となりうる麗奈を天使や悪魔の戦いに巻き込むわけにはいかない。<br /> それはあまりにも早すぎる。<br /><br /> 雪美「………!!」<br /><br /> 雪美も聖の信念を感じ取ったのか本来の姿である『グリフォン』へと戻り、聖に加勢しようとする。<br /> しかし、それは聖によって制されてしまう。</dd> <dt id="a127">127:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS0ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:50:05.53 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 雪美「…聖……どうして……?」<br /><br /> 聖「貴女の力は信用している…」<br /><br /> 聖「だからこそ…」<br /><br /> 聖「―――彼女相手には、命取りなの」<br /><br /> 千鶴「……やっぱり私、独り言多いな…」<br /><br /> 千鶴「…ハッ!?」<br /><br /> 千鶴「勝手に話を進めないでもらえる?」<br /><br /> 千鶴「別に、私は貴女には興味無いのだけれど?」<br /><br /> 平静を取り繕う『アザエル』<br /> しかしそれは表面上だけのものでは無い。<br /><br /> 千鶴「まぁ…」<br /><br /> 千鶴「―――あなたが望むなら倒してしまっても構わないけど」<br /><br /> 聖「……!!」<br /><br /> ルシファーから教えられた『傲慢』の感情。<br /> その『傲慢』はハッタリでは無く、聖相手にも絶対的自信を持っているからこそだった。</dd> <dt id="a128">128:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS0ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:50:43.54 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">聖「……確かに」<br /><br /> 聖「貴女の力…私でも退けないかもしれない……」<br /><br /> 雪美「……!?」<br /><br /> 雪美は驚いた。<br /> 聖の強さは知っている。<br /> 『聖ミカエル』は天使の中でも最強の存在だってこともわかっている。<br /> その聖が退くことの出来ない存在。<br /> 彼女にはとても考えられなかった。<br /><br /> 千鶴「わかってるの?なら敵意を向けるのやめてよね」<br /><br /> 千鶴「あなたの力は私の……いや、お喋りが過ぎたわね」<br /><br /> 『アザエル』がすんでのところで独り言を飲み込む。<br /><br /> 聖「雪美……彼女の力はルシファーに似ていて…」<br /><br /> 聖「けれど…ルシファーより強力……」<br /><br /> 千鶴「…ちょっと!?人がせっかく独り言を飲み込んだのに…!」<br /><br /> 『アザエル』の抗議の声。<br /> しかし聖は構わず続ける。<br /><br /> 聖「彼女の力…」<br /><br /> 聖「―――相手の能力を先読みして相手に返すこと」</dd> <dt id="a129">129:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS0ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:51:11.04 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 雪美「……能力を……返す……?」<br /><br /> 千鶴「……」<br /><br /> 千鶴「まぁ…」<br /><br /> 千鶴「知られたところでどうにかなるとも思わないけど」<br /><br /> 『アザエル』は諦めて傍観する。<br /> 聖が雪美に説明している間に行動を起こさないのは『傲慢』たる余裕だろうか。<br /><br /> 聖「例えば…彼女の魔力を吹き飛ばす魔術を使おうとする…」<br /><br /> 聖「けれど……使おうとしたときにはもう…こちらの魔力が吹き飛ばされている…」<br /><br /> 聖「炎の魔術を使えば……先に燃やされているのはこちらの方…」<br /><br /> 聖「こちらが何か仕掛けようとした時には、アザエルがもう既にその能力を使っている……」<br /><br /> 聖「つまり彼女は…」<br /><br /> 聖「―――私達の能力を、私達より先にそのまま使うことが出来る」<br /><br /> 雪美「……!!」<br /><br /> 聖「けれどルシファーと違って、自在に使えるわけじゃない…」</dd> <dt id="a130">130:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS0ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:51:43.52 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 聖「ルシファーは私たちに変化して、その性質さえも己のモノにする……」<br /><br /> 聖「でも、アザエルはこちらが能力を使わない限り、その能力を己のモノにすることは出来ない…」<br /><br /> 聖「さらに彼女が使える能力は、彼女自身に対して向けられた能力のみ…」<br /><br /> 聖「ルシファーの姿形を変える『変化』……『怠惰』のベルフェゴールの『自己再生能力』といった能力は己のモノに出来ない…」<br /><br /> 雪美「……直接……叩くのは?」<br /><br /> 聖「物理攻撃なら……彼女に打撃を与えることは可能……」<br /><br /> 聖「だけど…」<br /><br /> 千鶴「それに対応出来るだけのポテンシャルは私にはあるの」<br /><br /> 聖「……」<br /><br /> 聖の説明に痺れを切らしたのか『アザエル』が横から口を挟んでくる。<br /><br /> 千鶴「―――お喋りの時間は、終わりよ」<br /><br /> 聖「…!!」<br /><br /> 千鶴が魔力を解放する。<br /> 魔力抵抗が無い者ならば空間を纏う魔力にあてられただけで、気後れしてしまうであろう。<br /> それに対して聖はひるむことなく、強い眼差しで千鶴のことを見据える。<br /> 自分ならば多少なりとも『アザエル』の足止めは出来るはず。<br /> 聖に制された雪美も負けじと『アザエル』をキッと睨む。<br /><br /> しかし『アザエル』の取った行動は二人の予期せぬものだった。</dd> <dt id="a131">131:<span class="name" style="color:#008000;">◆lbKlS0ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:52:53.62 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 千鶴「多くの魔力の集まりを感じる…」<br /><br /> 千鶴「あなたを倒すよりは、よっぽど有意義ね」<br /><br /> 千鶴「……労せず、探し求めている人物に辿り着けそう」<br /><br /> 聖「…!?」<br /><br /> 『アザエル』はあろうことか身を翻し、聖たちの前を後にし羽ばたいていく。<br /> 決して聖たちに臆したわけではない。<br /> 自分の目的はあくまで『ルシファー』を討伐した者との交戦、撃墜。<br /><br /><br /> ―――そして<br /><br /><br /> 千鶴「―――全ての生命を巻き込んで、戦争を、起こすのよ」<br /><br /> 聖「……逃がさない!」<br /><br /> 雪美「……!!」<br /><br /> それを追うように聖と雪美もそれぞれの翼をはためかせ『アザエル』を追いかける。<br /> ルシファーと違い『アザエル』は既に目的の誰かを手にかけることを公言し、それに実行を移しだそうとしている。<br /> そのためには手段は選んだりはしない。<br /> 彼女はそういった『堕天使』だ。<br /> 無駄な犠牲を増やさないためにも、ここで逃がすわけにはいかない。<br /><br /><br /> ―――『アザエル』が魔力の集まりを感じ、それを辿って向かった先<br /><br /><br /> ―――『聖なる天使』と『堕ちた天使』が今『憤怒の街』へと降り立とうとしていた</dd> <dt id="a132">132 :<span class="name" style="color:#008000;"><b>@設定</b>◆lbKlS0ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:53:33.56 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> ・『神により強くされた『傲慢』の力』<br /><br /> 自分に向けられた術を自分の術にして、そのまま相手へと返す能力。<br /> 反射とは違い、先読みしての発動の為、相手の虚をついた攻撃が出来る。<br /> 術の効果は対象の魔力に依存する為、対象の魔力が高ければ高いほど、その効果は絶大なものになる。<br /><br /> ただしこの能力は、自分に対して向けられた術にしか意味を成さず、自己の能力を高めるといった術は自分のモノには出来ない。<br /> また反射する能力ではない為、魔力を込められた打撃や斬撃などの物理攻撃には無意味。</dd> <dt id="a133"><span class="resnum">133</span>:<span class="name" style="color:#008000;"><b>@設定</b>◆lbKlS0ZYdV.M</span><span class="info">[saga]:2013/07/12(金) 23:55:05.37 ID:0hhRbZowo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">おわりです<br /><br /> ひじりん達と松尾ちゃんを憤怒の街へ向かわせました<br /> ひじりんと誰かを共闘させてもよし<br /> 違う誰かを松尾ちゃんと交戦させてもよし<br /><br /> 自分でも色々考えますが自由に使ってくだせー</dd> </dl><dl><dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> </dd> <dt id="a141"><span class="resnum">141</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆<span class="namenum">3</span>Y/<span class="namenum">5</span>nAqmZM</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 01:25:40.28 ID:js/ArNnko</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">投下するよー!</dd> <dt id="a142"><span class="resnum">142</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆<span class="namenum">3</span>Y/<span class="namenum">5</span>nAqmZM</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/13(土) 01:26:47.90 ID:js/ArNnko</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「あ、アタシが夕美さんの代役ですか!?」<br /><br /> 突然言い渡されたそのとんでもない提案に、工藤忍は大きな声をあげた。<br /><br /> 「ああ。収録予定の歌番組がったんだが、彼女は例の『カースの街』へ向かう事になったらしくてね。こういう時には、キミが『同盟』に参加していなことが助かるよ」<br /><br /> 担当プロデューサーが苦笑まじりに呟く。<br /><br /> 雪女である忍は、やろうと思えばカース位ならばカチカチに凍りつかせることもでき、アイドルヒーローとして活動できるだけの能力を持っている。<br /><br /> これが最後、と意気込んで受けたオーディションで思いきってカミングアウトして以来、アイドルヒーローとして活動してみないか、とプロダクションから何度か提案されていた。<br /><br /> もちろん、それだけが決め手になったわけではなく、アイドルとしての素質があると見込んだから合格させた、とは社長の弁であり、実際何度か断ってもアイドルとして活動させてくれているので、嘘ではないのだろう。<br /><br /> 「や、む、無理ですよっ。アタシみたいな駆け出しが、夕美さんみたいな売れっ子の代わりなんて」<br /><br /> ぶんぶん、と手をふり首をふり自信がないことを伝える忍。デビュー間もない自分に、すでに各所で活躍している先輩アイドルの代役など務まるはずがない、と。<br /><br /> だが、プロデューサーは忍にこの仕事を受けるように説得を続ける。<br /><br /> 「こんな言い方は正直気分が悪いかもしれないが、これは忍にとってまたとないチャンスなんだ。忍は、きっと今よりもっと大きなステージで輝ける。<br /><br /> その為の足がかりとして、この仕事は是非受けておくべきだと俺は考えている」<br /><br /> 非常事態の救援に向かったという仕方のない事情があるとはいえ、本来彼女が受けるべき仕事を横取りする形になるわけで、それも忍には気がかりなことだった。<br /><br /> だが、彼の言う事にも一理あることは忍にもわかっている。本来なら、駆け出しの自分にはどうやったって立つことができないステージ。正に降って湧いたチャンスだ。<br /><br /> ここで良い印象を与えられれば、今後の活動においても大きなアドバンテージになるだろう。<br /><br /> 「忍、俺は、忍なら絶対に大丈夫だと思って、この仕事をお前に回すようにしてもらった。俺を信じてくれないか?」<br /><br /> しっかりと目をみて、真摯に語りかけるプロデューサー。<br /><br /> 「・・・もう一日だけ、考えさせてください。明日までには、絶対答えを出しますから」<br /><br /> 「わかった。明日は、午後からダンスレッスンだったな。その時に答えを聞かせてもらうよ」<br /><br /> 忍にはまだ答えが出せなかった。それでも一言も責めることなく待つと言ってくれたプロデューサーに感謝しながら、忍はため息交じりに事務所を後にした。</dd> <dt id="a143">143:<span class="name" style="color:#008000;">◆3Y/5nAqmZM</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/13(土) 01:27:46.21 ID:js/ArNnko</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 浜口あやめは、己の不甲斐無さが悔しかった。<br /><br /> 『憤怒の街』。憤怒のカースドヒューマン、岡崎泰葉の作りだしたカースによって占拠され、未だに多くの人々がその中に取り残されている街。<br /><br /> 櫻井財閥によって内部の詳細が少なからず暴かれ、すでにナチュルスターをはじめ数名のヒーロー達が突入を開始しているという話だ。<br /><br /> しかし、あやめには同じように『街』へと向かうだけの力が無かった。幼くして免許皆伝を受けた忍術の天才とはいえ、あやめ自身は特殊な能力を持つわけではない、ただの中学生なのだ。<br /><br /> 街中に出現するのとは違い、そこかしこから際限なくカースが現れる『街』においては、彼女にできることは決して多くない。<br /><br /> せいぜいが、周辺で『街』から出て来ようとするカースの足止めが関の山だろう。それも、GDFがその役目を担っている以上、自分が行ったところでその和を乱すだけだ。<br /><br /> 何か良い方法は無いだろうかと、先ごろに出会い行動を共にするようになった丹羽仁美に相談してみたところ、<br /><br /> 「うーん、アタシたちがあそこに行ってもしょうがないのは本当だしねぇ。普段通り、この辺で暴れてるカースとか悪人を止めることに専念するのが一番じゃないかな」<br /><br /> と、にべもない返答が返ってきた。<br /><br /> 違う、そうではない。あやめは、どうにかして『憤怒の街で正義を成す方法』は無いのかが聞きたかったのだ。<br /><br /> 決して、『行くだけ無駄だ』などと冷たい答えが欲しかったわけではない。<br /><br /> 「あやめは・・・あやめは、どうしてこんなにも無力なのでしょうか・・・」<br /><br /> 夕暮れの公園、ベンチに腰かけて俯きながら、あやめはひとりごちた。<br /><br /> 「「はぁ・・・」」<br /><br /> と、溜息を一つつくと、隣からも溜息。<br /><br /> ふと顔をあげて横を見てみると、何やら自分と同じく落ち込んだ表情の少女と目が合った。</dd> <dt id="a144">144:<span class="name" style="color:#008000;">◆3Y/5nAqmZM</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/13(土) 01:28:31.36 ID:js/ArNnko</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「多分、その人が言いたかったのって、『諦めろ』ってことじゃないと思うんだ」<br /><br /> 奇妙な縁を感じた忍とあやめは、お互いに軽く自己紹介をすると、互いの悩みを打ち明けあった。初対面の相手にこんなことを相談しても、と二人とも思ったが、不思議と話してしまったのだ。<br /><br /> 無論、あやめは自身がヒーローとして活動していることはぼかして話したし、忍も先輩がヒーローとして『街』へ向かったことは黙っていたが。<br /><br /> そして、あやめの話を聞いた忍は、あやめの『普段通りにするのが一番』という言葉の受け取り方に疑問を持った。<br /><br /> 「と、言われますと?」<br /><br /> 「えっと、上手く伝わらなかったらゴメンね?たぶんその人は、『あやめちゃんが無理することはないんだよ』って、そう言いたかったんじゃないかな」<br /><br /> そう切り出して、忍は自分の感じたことを言葉に紡いでいく。<br /><br /> 「んー、なんて言えばいいのかな。その場所に人が集まってるってことは、本来その人が居るべきところから人がいなくなるでしょ?<br /><br /> きっと、そういう人たちのフォローに回るのが今の自分たちの役目だ、って。無理にあやめちゃんが他の人の役目を代わることないんだよって、そう言いたかったんじゃないかな」<br /><br /> うーあー、何か上手く言葉が出てこないー、と手足をバタつかせる忍。しかし、あやめには彼女の言わんとすることがなんとなく理解できた。<br /><br /> 確かに、在野にしろ同盟に所属するにしろ、『街』を攻略せんとヒーローが一か所に集まれば、本来彼らがカース等から守っている街が手薄になってしまう。<br /><br /> それをフォローし、『街』の外の平和を守ることもまた、ヒーローたる自分の役目だと、そういうことなのだ。<br /><br /> そう思い至って、あやめは『自分は不甲斐無い』などと考えていたことを恥じた。己の成すべきことを放りだしておきながら何が『力が無いのが悔しい』だ、情けないやつめ。</dd> <dt id="a145">145:<span class="name" style="color:#008000;">◆3Y/5nAqmZM</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/13(土) 01:28:58.30 ID:js/ArNnko</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「っていうか、そのフォローもできてないアタシが言っても説得力ないか、あはは・・・」<br /><br /> 「・・・いえ、ありがとうございます、忍どの。おかげ様で、胸のつかえが取れた気分です」<br /><br /> 「そっか、なら良いんだけど。・・・うん、決めた」<br /><br /> 穏やかな表情で頭を下げるあやめの姿を見て、忍もまた決意を固めた。<br /><br /> 「アタシ、仕事受けるよ。あやめちゃんに偉そうに言った手前、アタシが何もしないのもおかしな話だもんね」<br /><br /> 自信が無い事には変わりはないが、『街』へ向かった先輩たちをフォローすることが、今の忍に与えられた役割なのだろう。<br /><br /> もちろん、一人で何もかも背負い込むつもりはないが、出来る限りのことはやってみよう。そう思う事が出来た。<br /><br /> 「ありがとね、あやめちゃん。話聞いてくれて」<br /><br /> 「いえいえこちらこそ、助言までいただいて。お互い、頑張りましょうね」<br /><br /> 「うん!・・・じゃあ、またね」<br /><br /> 「ええ。お仕事、成功することを祈っています。しからば」<br /><br /> そうして、二人はそれぞれに歩きだした。<br /><br /> 忍は、恐らくまだプロデューサーが残っているだろう事務所へ向かって。<br /><br /> あやめは、先ほどこっそりと確認した、仁美からのメールに書かれたカースの現れたという場所へ。</dd> <dt id="a146">146:<span class="name" style="color:#008000;">◆3Y/5nAqmZM</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/13(土) 01:29:25.93 ID:js/ArNnko</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">「プロデューサー」<br /><br /> 「・・・ん、忍か。今日はもう家に戻るんじゃなかったか?」<br /><br /> 「アタシ、夕実さんの代わりの仕事、受けるよ」<br /><br /> 「・・・・・・そうか。早速向こうさんに連絡しとくよ。これまでより一層厳しく行くからな、覚悟しとけ?」<br /><br /> 「へへっ、どんとこい、だよ。見てほしい相手ができたんだからっ」<br /><br /><br /><br /> 「忍法『疾風弾導破』ッ!!」<br /><br /> 『ヌォッ、グ、アアアアアアァッッ!!!?』<br /><br /> 「・・・おぉ、一発。なんかあやめっち、気合入ってる?」<br /><br /> 「えぇ。あやめは、今のあやめに出来ることを精一杯成すことにしましたから」<br /><br /> 「ん、そっか。こりゃアタシたちも負けてらんないかなー?」<br /><br /> 『おい、「たち」って何だ「たち」って。オレはべつに張り合うつもりはねーぞ』<br /><br /> 「もー、松風ノリ悪いー」<br /><br /> 「・・・それに、守りたい相手ができましたからね。ニンッ」</dd> <dt id="a147"><span class="resnum">147</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆3Y/5nAqmZM</span><span class="info">[saga sage]:2013/07/13(土) 01:30:07.57 ID:js/ArNnko</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> というわけで、お留守番組のお話。<br /> 忍ちん、夕美ちゃん達のプロダクションの後輩にしてみました。</dd> </dl><dl><dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> </dd> <dt id="a154"><span class="resnum">154</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆<span class="namenum">6</span>osdZ<span class="namenum">663</span>So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 16:56:17.40 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 少々遅れちゃったけど小日向ちゃん投下します</dd> <dt id="a155">155:<span class="name" style="color:#008000;">◆<span class="namenum">6</span>osdZ<span class="namenum">663</span>So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 16:56:54.00 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /> 小日向美穂は普通の少女である。<br /><br /><br /> 実はあの日、目覚めた能力者の一人で、<br /><br /> 日夜秘密結社と戦ってるとか。<br /><br /><br /> 実は宇宙から来た異星人で、<br /><br /> 地上を侵略するために活動しているだとか。<br /><br /><br /> 実は地下帝国の技術者で、<br /><br /> マッドなアイテムやロボットをクリエイトしているだとか。<br /><br /><br /> 実は魔界から来た悪魔で、<br /><br /> 悪意と呪いをばら撒いているだとか。<br /><br /><br /> そのような設定はない。<br /><br /> 取り立てて、ごく普通、一般的な、<br /><br /> 現代の、地上に住む、能力を持たない、人間の、女子高生であった。</dd> <dt id="a156"><span class="resnum">156</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 16:57:33.00 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 卯月「さっきの授業難しくなかった?」<br /><br /> 美穂「難しかったねー、茜ちゃんは・・・・・・。」<br /><br /> 茜「・・・・・・。」 プスプス<br /><br /> 美穂「だ、大丈夫?」<br /><br /> 卯月「煙出てるね。」<br /><br /> 茜「え、Xが少なくなるとYが増えて、そこにZとnがやってきて・・・・・・。」<br /><br /> 茜「X・・・・・・Y・・・・・XとYの関係・・・・・あれ、Xが攻めでYが受け?」<br /><br /> 美穂「茜ちゃん、その数学はたぶん戻って来れなくなる奴だからやめた方が。」<br /><br /> 卯月「Xはヘタレ攻めだよね!」<br /><br /> 美穂「卯月ちゃんも乗らないで!」<br /><br /><br /> ――私達の日常は平和だ。</dd> <dt id="a157">157:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 16:59:32.53 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 卯月「そう言えば、」<br /><br /> 卯月「カースに襲われたって街は大丈夫なのかな?」<br /><br /> 美穂「今朝のニュースでもやってたけど、救出作戦難航してるみたい」<br /><br /> 卯月「心配だね。」<br /><br /> 美穂「うん。」<br /><br /> 茜「きっと大丈夫だよ!」<br /><br /> 美穂「茜ちゃん?」<br /><br /> 茜「ヒーローはもちろんだけど、他にも世界平和のために活動してる人たちはたくさん居ますから!(亜子の事です)」<br /><br /> 茜「最後に勝つのは、正義の味方です!」<br /><br /> 美穂「・・・・・・うん、きっとそうだよね!」<br /><br /> 美穂「GDFとか歌姫さんとか死神さんも居るし!」<br /><br /> 卯月「私達が明日、能力に目覚めてババンと活躍しちゃうかもしれないし!」<br /><br /> 美穂「それはどうかな・・・・・・?できたらいいなとは思うけど」<br /><br /> 卯月「ウサミン、ウサミン、メルヘンチェン~ジ♪」 シュバッ<br /><br /> 茜「安部菜々さんだね!ポーズそっくり!」<br /><br /> 卯月「えへへ、いつか私が活躍する時の為に練習したんだー。」<br /><br /> 美穂「菜々ちゃん、私達と同じ年でヒーローアイドルやってるなんてすごいよね!」<br /><br /><br /> ――世間は騒がしいけど、私の周りの世界は相変らず穏やかで、<br /><br /> ――こんな私も平穏無事に過ごしている<br /><br /><br /><br /> ――だけどその平和は</dd> <dt id="a158"><span class="resnum">158</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:01:04.97 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /> テレビ『こんばんは』<br /><br /> テレビ『ニュースの時間です。』<br /><br /> テレビ『本日も大量発生したカースに占拠された街の様子をお送りいたします。』<br /><br /> テレビ『今映っていますのは、隣街から撮影した映像です。』<br /><br /> テレビ『幾つかの機関のヒーローたちが乗り込み、カースを討伐しているようですが、』<br /><br /> テレビ『現在もカースは街に溢れているようです。』<br /><br /> テレビ『GDFはこの件に関して・・・・・・<br /><br /><br /> 美穂「・・・・・・。」<br /><br /><br /> ――その平和は、私たちを守ってくれる誰かが、<br /><br /> ――私たちの代わりに戦ってくれるから作られていて、<br /><br /> ――そしてきっと、その裏では誰かが傷ついてて・・・・・・<br /><br /><br /> ――そんな風に考えると<br /><br /> ――この平穏は、いとも簡単に壊れてしまうんじゃないか<br /><br /> ――なんて・・・・・・思ってしまうことがある。</dd> <dt id="a159">159:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:01:38.85 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> ――それでもいつまでも平和が続くように信じたくて<br /><br /><br /> 美穂(私にできることはないのかな。)<br /><br /><br /> 美穂(強くなれたらいいのにな。)<br /><br /><br /> 美穂(みんなを守れるヒーローみたいに。)<br /><br /><br /> 美穂(私もなれならな。)</dd> <dt id="a160">160:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:02:16.44 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /> ――<br /><br /> ――<br /><br /><br /> 美穂の住む街には「万年桜」と呼ばれる、<br /><br /> 名前の通り、年がら年中、けっして枯れることなく<br /><br /> 咲き続ける桜の木がある。<br /><br /> ”あの日”からその桜は、<br /><br /> 春も、夏も、秋も、冬も、<br /><br /> 晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、風の日も、<br /><br /> ずっと、ずっと咲き誇っているのだ。<br /><br /><br /> その「万年桜」のある公園に、美穂は来ていた。<br /><br /> 本日は日曜日。<br /><br /> 学校は休み。<br /><br /> 天気は晴れ。<br /><br /><br /> すなわち絶好の日向ぼっこ日和なり。</dd> <dt id="a161">161:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:03:11.32 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「万年桜」の近くでは、数人の子供達が遊んでいた。<br /><br /> すぐそばでは奥様方が談笑している。<br /><br /> よくある普通の公園の風景だ。<br /><br /><br /> 一年中咲く桜なんてあれば大いに賑わいそうなものだが、<br /><br /> 実際は、それほど人気のスポットではなかった。<br /><br /><br /> いや、「あの日」からしばらくは観光名所になるのではと、<br /><br /> 思われるほどに賑わっていたのだが、<br /><br /> 宇宙産の機械だとか、異世界の魔法だとか、特別な能力だとかが珍しくなくなってくると、<br /><br /> 「一年中咲いてる桜?なんか地味。」<br /><br /> と言う理由で飽きられてしまい、<br /><br /> 気がつけば「万年桜」の公園は、普通の公園の有り様に戻っていた。</dd> <dt id="a162">162:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:04:58.81 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">それでも<br /><br /> いや、だからこそ、<br /><br /> 美穂はこの場所が気に入っていた。<br /><br /> 一年中うららかであたたかな香りが漂う、<br /><br /> この適度に静かな公園の、傍らにあるベンチで、<br /><br /> 日向ぼっこをするのが、彼女の週末の主な過ごし方になっていた。<br /><br /><br /><br /> そんな訳で、本日も、この公園にある特等席にやってきたのだが、<br /><br /> 「すー・・・・・・・すー・・・・・・・」<br /><br /> どうやら今日は先客が居るようであった。<br /><br /><br /> 美穂「寝ちゃってるのかな?」<br /><br /> 「うーん・・・・・・・おじいちゃん・・・・・・・」<br /><br /><br /> その少女は頭にスカーフを巻いていて、<br /><br /> 背に5本の筒の様な袋を背負った、<br /><br /> どこか桜が似合う女の子であった。<br /><br /> 「・・・・・・めんいんぶらっくは・・・・・・・いかすみうどんのことじゃ・・・・・・ないよ・・・・・・・・」<br /><br /> 「すー・・・・・・すー・・・・・・」<br /><br /><br /> 美穂「ふふっ、どんな夢見てるのかな?」<br /><br /> きっと彼女も、この場所の暖かさに居心地がよくなり、<br /><br /> つい、眠くなってしまったのだろう。<br /><br /> 美穂は仲間を見つけたような気分で、少し嬉しかった。<br /><br /><br /> 美穂「起こしちゃったら悪いよね。」<br /><br /> 少女を起こさないように、美穂はその場を離れることにした。</dd> <dt id="a163"><span class="resnum">163</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:06:28.27 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /> ――<br /><br /> ――<br /><br /><br /> 美穂は公園を出て、駅前の方に歩き始める。<br /><br /> 今日は日向ぼっこの予定を変えて、お買い物にでも行くことにしよう。<br /><br /> 友達を誘うのもいいかもしれない。<br /><br /> 卯月ちゃんは、予定あいてるかな?<br /><br /> そんな事を考えながら、しばらく進んだ先で<br /><br /> 彼女は出会うことになる。<br /><br /><br /> 彼女の平和を侵すその存在に。</dd> <dt id="a164">164:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:08:25.88 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /><br /> 美穂(アレは?)<br /><br /><br /> はじめは遠くから、少しずつ迫ってくるそれが何かはわからなかった。<br /><br /> そして、甘い香りと共にやってきたそれが、<br /><br /> ”カース”だと気づいた頃には<br /><br /> 何もかもが遅かった。<br /><br /><br /> 『アゲル・・・・・・アゲル』<br /><br /><br /> そのカースの、まるで蜘蛛のようなシルエットを認識した途端、<br /><br /> 美穂は全身から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。<br /><br /> 他に居た通行人達もみな、同じ様に倒れこんでしまう。<br /><br /><br /> カースは、倒れ伏した通行者の一人に近づくと、<br /><br /> 体から黒い糸の様な影を吐き出して、<br /><br /> 器用に捕らえて、自らの中に引きずり込んでいった。<br /><br /><br /> 「た、助け・・・・・・」<br /><br /> 『イザナッテ・・・アゲル・・・・・・』<br /><br /> 『ノミコンデ・・・アゲル・・・・・・』<br /><br /> 『タベテ・・・アゲル・・・・・・』<br /><br /> 『クスクスクスクスクス!!』<br /><br /><br /> 美穂も含めて、周囲に居る人間は誰も逃げようとしない。<br /><br /><br /> 美穂「なん・・・・・・で・・・?」<br /><br /> 美穂(逃げないとダメなのに・・・)<br /><br /> 美穂(体が動かない!)<br /><br /><br /> 逃げないのではなく、逃げられない。<br /><br /> 『色欲』の大蜘蛛の持つ性質は『捕らえること』<br /><br /> そのカースが発する毒の如き”色気”に飲まれれば、<br /><br /> その時点で体の自由は奪われ、逃げることは許されず、<br /><br /> ゆっくりと影に飲み込まれるだけであった。</dd> <dt id="a165">165:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:10:03.21 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 大蜘蛛は時間をかけながら、<br /><br /> 一人一人順番に、周りの人間を飲み込んでいき、<br /><br /> そしてようやく、美穂の番になった。<br /><br /> 『アナタモ・・・・・・ワタシノナカニ・・・・・・』<br /><br /> 『クスクスクスクス!』<br /><br /> 蜘蛛が近づいてくる。<br /><br /><br /> 美穂(逃げ・・・・・・ないと・・・・・・)<br /><br /> そう思いながら足を動かそうとしても、体は言う事を聞かない。<br /><br /> 美穂「うぅ・・・ああっ・・・・・・。」<br /><br /> 逃げることも、叫ぶこともできない。<br /><br /><br /> 蜘蛛が影の糸を繰り出す。<br /><br /> 美穂(いや・・・・・・いや・・・・・・)<br /><br /> それは美穂の足元まで伸びてきて・・・・・・<br /><br /><br /> 突如、上から振ってきた何かがその影に突き刺さった。<br /><br /><br /> 『ギャァアア!?』<br /><br /> 慌てて蜘蛛は自分の体に糸を引っ込める。<br /><br /><br /> 美穂(たすかった・・・?)<br /><br /> 美穂(なにが落ちてきて・・・・・・)<br /><br /> 美穂(・・・・・・かたな?)<br /><br /><br /> 果たして、どういうわけか。<br /><br /> 美穂の目の前に突き刺さっていたのは、<br /><br /> 鞘に収まった一本の刀であった。</dd> <dt id="a166">166:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:11:57.74 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /> ところ変わって、うららかな万年桜の公園では。<br /><br /><br /> 肇「ふわぁ」<br /><br /><br /> 鬼の孫娘が目を覚まし、大きなあくびをしていた。<br /><br /><br /> 肇「よく寝たなぁ・・・・・・あれ?」<br /><br /><br /> 目覚めて、すぐに彼女は違和感に気づく。<br /><br /><br /> 肇「一本足りない?」<br /><br /> 寝てる間に、背中にあった刀の数が6本から、5本に減っていた。<br /><br /><br /> 肇「・・・・・・『小春日和』、またどこか行っちゃったんだ。」<br /><br /><br /> 無くなった刀の名前は『小春日和』。<br /><br /> 刀匠、藤原一心の作り出した『鬼神の七振り』の一本。<br /><br /><br /> 肇の言葉は、<br /><br /> そのような大事なものを”どこかになくしてしまった”と言う意味ではない。<br /><br /> 本当に”勝手にどこかに行ってしまった”のだ。<br /><br /><br /> 肇「『小春日和』は傲慢のカースの核が埋め込まれた、日本一、横暴な刀。」<br /><br /> 肇「だからプライドが高くて、人に”使われる”ことを極端に嫌う刀。」<br /><br /> 肇「勝手に動くのは、持ち主探しを”自分でしたい”って事だと思うけど・・・・・・・」<br /><br /><br /> 鬼の孫娘は手元から離れてしまった刀に、思いを馳せる。</dd> <dt id="a167">167:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:13:55.00 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /> ――<br /><br /><br /> 漆黒に塗られた鞘に収まったその刀は、<br /><br /> 刃が隠されているその状態にも関わらず、<br /><br /> どのようにしてかカースの影の糸を断ち切り、<br /><br /> 地面を抉って、真っ直ぐと目の前に突き刺さっていた。<br /><br /><br /> その奥でカースが蠢く<br /><br /> 『ユルシテ・・・・・・アゲナイ』<br /><br /> 『アナタハワタシノナカデ・・・・・・』<br /><br /> 『カワイガッテアゲル・・・・・・・』<br /><br /> 『オカシテ、オカシテ、オカシテアゲル!』<br /><br /> 『クスクスクスクスクスクス!』<br /><br /> カースの体から鞭の様な影の糸が、何十本も作り出される。<br /><br /><br /> 美穂(私は・・・・・・)<br /><br /><br /> 美穂が手を伸ばせば、目の前の刀を鞘から引き抜けるだろう。<br /><br /> そのくらいの動作ならば、今の美穂でも出来る気がした。<br /><br /> 刀の方もまるでそれを待っているかの様に見えた。<br /><br /><br /> 美穂(強くなりたい・・・・・・)<br /><br /> 美穂(自分を、友達を、誰かを)<br /><br /> 美穂「守れるだけの力が欲しい!」<br /><br /><br /> 少女は、目の前の刀の柄を掴んだ。<br /><br /><br /> そうして、その妖刀が姿を顕にする。</dd> <dt id="a168">168:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:16:05.67 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 引き抜かれたその刀は、<br /><br /> 見た目はごく普通の日本刀であった。<br /><br /> 燃え盛るような『怒り』も、荒々しい『野性味』も感じさせない、<br /><br /> それでもあえて形容するならば「静けさ」であろう。<br /><br /> ただ静かに、<br /><br /> だが確かに、<br /><br /> その存在を主張する。<br /><br /> まるでその姿こそが、誇り高き「刀本来の姿」であるのだ。と言うかのように。<br /><br /><br /> 美穂「あっ?!」<br /><br /> そうして美穂の中に刀から”何か”が流れ込んでくる。<br /><br /><br /><br /> 『クスクスクスクスクス!!』<br /><br /> そうしてる間にも、四方八方からカースの糸が襲い掛かる!<br /><br /><br /> 『クスクス・・・・・・?』<br /><br /><br /> カースが気がつけばその糸は<br /><br /> 美穂に届く前に全て、綺麗に切り落とされていた。<br /><br /> 『ンァアアッ!?』<br /><br /><br /> 美穂「・・・・・・・」<br /><br /><br /> 美穂「ふはっ」<br /><br /><br /> 刀を構えた少女は、どこか獰猛さを感じさせる笑みを浮かべる。<br /><br /><br /> ――馴染む</dd> <dt id="a169">169:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:16:55.23 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">  <br /> 美穂「ふふふふっ!」<br /><br /><br /> ――馴染む<br /><br /><br /> 美穂「あはははははっ!」<br /><br /><br /> ――この”身体”は実に馴染む<br /><br /><br /> 美穂「あ~はっはっはっはっはっ!!」<br /><br /><br /> ――ついに<br /><br /> ――ついに”私”は<br /><br /> ――最高の”所有者”に出会えたのだ</dd> <dt id="a170">170:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:17:28.75 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /><br /> 肇「『小春日和』はおじいちゃんの作った七振りの中でも、最も我が強い刀。」<br /><br /><br /> 肇「『刀が人に使われる』ことを極端に嫌っていて、」<br /><br /><br /> 肇「むしろ逆に、」<br /><br /><br /> 肇「『刀が人を使う』ことを良しとする。」<br /><br /><br /> 肇「そのために、刀が所有者の肉体、精神、人格を支配して、制御しようとする。」<br /><br /><br /> 肇「だから日本一、横暴な刀。」<br /><br /><br /> 肇「どこかで迷惑かけてなければいいけど・・・・・・。」<br /><br /><br /><br /> ――</dd> <dt id="a171"><span class="resnum">171</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:18:57.28 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 美穂「は~はっはっはっはっはっは!!」<br /><br /> 少女は高らかに笑う。<br /><br /><br /> ――体つきは華奢だが、問題はない<br /><br /> ――肉体も、刃も、負の念を帯びて、幾らでも強くなれる<br /><br /> ――必要なのは精神だ<br /><br /> ――純粋に『誰かを守るヒーローの様になりたい』と言う意思<br /><br /> ――その意思は”私の人格”として”使う”のに丁度良い<br /><br /><br /> 美穂「私は・・・・・・」<br /><br /><br /> ――”私”は小日向美穂のヒーローになりたいと言う意思<br /><br /> ――そして彼女が思い描くヒーロー像を使って<br /><br /> ――妖刀『小春日和』により作り上げられた人格だ<br /><br /> ――故に小日向美穂でありながら小日向美穂ではなく、<br /><br /> ――『小春日和』でありながら、『小春日和』でない。<br /><br /> ――ならば、新しく名前が必要だろう<br /><br /><br /><br /> 美穂「私は!『ひなたん星人』ナリ!!」<br /><br /><br /> 小日向美穂のヒーロー像から作られたその人格は、自信満々に名乗り上げた。</dd> <dt id="a172">172:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:19:49.72 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /> 美穂「この街はまるごとつるっと!」<br /><br /><br /> 美穂「ぜ~んぶ!私のものひなたっ☆」キラッ<br /><br /><br /> さらにチャーミングなポーズを決めて、口上を続ける少女。<br /><br /><br /> そこに、カースの足が少女を踏み潰そうと襲い掛かる。<br /><br /> 『クスクスクスクス!』<br /><br /><br /> 彼女はそれを飛び上がってかわした。<br /><br /> そしてそのままカースの頭上に着地する。<br /><br /> 『エエッ!?』<br /><br /> カースが驚くのも仕方ない。<br /><br /> それはただの人間の少女にはあり得ない跳躍。<br /><br /><br /> 美穂「むぅー、ヒーローの前口上に返事もしないで、」<br /><br /> 美穂「すぐに攻撃するなんて失礼なカースナリ」 <br /><br /> 美穂「そんな悪い子は♪私がお仕置きしちゃうぞひなたっ☆」</dd> <dt id="a173">173:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:21:12.48 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /> 頭上に立つ少女を振り落とそうと、<br /><br /> カースは体を大きく揺さぶるが、<br /><br /> 彼女は少しも慌てず、飛び上がると<br /><br /> バランスを崩さず、綺麗に地面に着地する。<br /><br /><br /> 美穂「ひなたん星人の秘密☆その1!」<br /><br /> 美穂「遠い宇宙の果てからやって来たひなたんは、」<br /><br /> 美穂「重力を自在に操ることができる!ひなたっ☆」<br /><br /><br /> 美穂「そして!」<br /><br /> 『小春日和』を構える少女。<br /><br /> 目の前のカースは、前足を振り上げている。<br /><br /><br /> 美穂「ひなたん星人の秘密☆その2!」<br /><br /> 美穂「この星の精霊に選ばれたひなたんは、」<br /><br /> 美穂「不浄の存在を愛と正義のパワーで浄化することができるナリ!」<br /><br /><br /> 美穂「食らえ!」<br /><br /> 美穂「ラブリージャスティスひなたんビーム!」<br /><br /><br /> 『キャアアアアッ!』<br /><br /><br /> 見事な”袈裟切り”であった。<br /><br /> カースの前足二本が同時に切り落とされる。<br /><br /><br /> 妖刀『小春日和』は、その潜在能力を発揮するために、<br /><br /> 所有者の肉体の動作を刀自体が制御し、<br /><br /> さらに刀に溜め込まれた負のエネルギーが、その力を増幅して補う。<br /><br /> これによって所有者は、どんなにか弱い人間でも、<br /><br /> 日本一の剣豪と同等の技術、そして超人的な身体能力を発揮する事ができるのだ。<br /><br /><br /> なお重力制御能力だとか、愛と正義の浄化能力は一切関係ない。</dd> <dt id="a174">174:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:22:25.26 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /> 足を切り落とされて、姿勢を崩したカースは前方に転倒する。<br /><br /><br /> 美穂「ひなたん星人の秘密☆その3」<br /><br /> 美穂「天からの使者に授かった、この千里眼!」<br /><br /> 美穂「あなたの核の位置もまるっとお見通しひなたっ☆」<br /><br /> 美穂「きっとそのお腹の中にあるナリ☆」<br /><br /><br /> 呪いの刀に埋め込まれた核の、共鳴によって、<br /><br /> 『鬼神の七振り』の所有者は、カースの核の位置がなんとなくわかる。<br /><br /> 当然だが、彼女に千里眼のような能力はない。<br /><br /><br /> 転倒したカースの足の再生が終わる前に、<br /><br /> 少女は刀を振りぬいて、その腹を裂く。<br /><br /> 『キャァ・・・アアアア』<br /><br /><br /> その時、彼女のアホ毛が揺れ動いた。<br /><br /><br /> 美穂「むむっ、レーダーが生命反応をキャッチしたナリ」<br /><br /><br /> 呪いの刀が、カースの内部に居る人間の負の感情を感知したのだろう。<br /><br /> もちろん、彼女にレーダーなんて搭載されてない。</dd> <dt id="a175">175:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:24:19.96 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /> 切り裂いた大蜘蛛の腹を横に大きく広げ、<br /><br /> 少女はするりとその中に入り込む。<br /><br /><br /> 蜘蛛の内部には、ドーム状の空間になっており、<br /><br /> 泥の肉壁には、蜘蛛に取り込まれた人間が<br /><br /> まだ生かされた状態で埋め込まれていた。<br /><br /><br /> 美穂「・・・・・・今助けるからね」<br /><br /><br /> 少女は刀を、空間の中心に宙吊りにされている桃色の核に向ける。<br /><br /> 泥の壁から何百本もの触手が産まれる。<br /><br /> 『コロシテ・・・・・・アゲル』<br /><br /> それらは一斉に彼女に向かって襲い掛かってきた。<br /><br /><br /> 美穂「ひなたん星人の秘密!その・・・・・・幾つだっけ?」<br /><br /> 美穂「まあいいひなたっ!」<br /><br /> 美穂「この刀は、人の為に作られた呪いの刀『小春日和』!」<br /><br /> 美穂「斬ったものや周囲の感情から負のエネルギーを吸い取って、」<br /><br /> 美穂「自分のものにする、『傲慢』なる刀ナリ!」<br /><br /><br /> 日本一、横暴な刀はこの空間に満ちるあらゆる負の感情を、<br /><br /> 己のエネルギーに変えてゆく。<br /><br /> 美穂の体から黄色いオーラが迸る。<br /><br /> 美穂「はぁああ!!」<br /><br /><br /> 少女は襲い掛かってくる触手を全て薙ぎ払いながら、突き進み、<br /><br /> そして、核に向けて刀を振り上げる。<br /><br /><br /> 美穂「でこぽぉんんっ!!!」<br /><br /><br /> 桃色の核が砕かれる</dd> <dt id="a176">176:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:25:12.23 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /><br /> 『ンァアアアアアアッ!!???』<br /><br /><br /> 核の破壊によって、<br /><br /> 大蜘蛛の体は泥の様に崩れ、じょじょに溶けていく。<br /><br /> そうして最後は何も無かったかのように、消失した。<br /><br /><br /> その場には倒れ伏す人々と<br /><br /> 刀を持った少女が残される。<br /><br /><br /> 美穂「は~はっはっはっはっは!!」<br /><br /><br /> カースに勝利した少女が高らかに笑う。<br /><br /><br /> 美穂「愛と正義のはにかみ侵略者!ひなたん星人に敵うものはいないナリ!」<br /><br /><br /> 美穂「今日もまるごとつるっとぜ~んぶ!守ってみせたひなたっ☆」 キャピピーン<br /><br /><br /> 最後に勝利のポーズ。<br /><br /><br /> そして、少女は足元に落ちてた刀の鞘を拾い上げて、<br /><br /> 『小春日和』を収めた。<br /><br /><br /> 美穂「・・・・・・。」<br /><br /><br /> 美穂「・・・・・・はっ!」</dd> <dt id="a177">177:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:26:08.41 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /> 美穂「い、今・・・私何をして・・・・・・。」<br /><br /><br /> 刀を浄化の鞘に納めたことで、『ひなたん星人』の人格が引っ込んだ。<br /><br /> 今ここに立っているのは紛れも無い小日向美穂、本人そのものの人格だ。<br /><br /><br /> 美穂「・・・・・・。」<br /><br /><br /> 記憶が無いわけではない。<br /><br /> 彼女ははっきりと覚えている。<br /><br /> 刀のおかげで、まるでヒーローのようにカースを討伐できたも覚えているし、<br /><br /> 自分が何を喋っていたのかも、一語一句はっきり思い出せる。<br /><br /><br /> 黙って周囲を見渡す。<br /><br /> 状況を見れば、どうやら先ほどまでの事は夢ではなかったようだ。<br /><br /><br /> 気絶して倒れてる者も少なくはなかったが、<br /><br /> 目覚めている者は全て、彼女に目を向けていた。<br /><br /><br /> 「ありがとう」<br /><br /> 誰かが言った。<br /><br /> 「ありがとー、ひなたん星人!」</dd> <dt id="a178">178:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:27:12.01 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /> 「ひなたん!ありがとう!!」<br /><br /> 「カッコよかったよ!ひなたん!!」<br /><br /> 「ひなたん星人って、ウサミン星人と関係あるの?」<br /><br /> 「ひなたん!ひなたん!ひなたん!」<br /><br /><br /> 彼女に助けられた大勢の人から称賛の声があがる。<br /><br /><br /> 美穂「は・・・・はは・・・・・・」<br /><br /><br /> 美穂「はずかしぃいい!!!!」<br /><br /><br /> たまらず小日向美穂はその場から逃げ出した。<br /><br /> その腕に呪いの刀を抱えたまま。<br /><br /><br /> 少し離れた場所からその様子を見守る者が居た。<br /><br /><br /> 肇「・・・・・・。」<br /><br /> 肇「お爺ちゃん、『小春日和』はいい持ち主を見つけたみたい。」<br /><br /> 肇「彼女ならきっと、あの子を正しく使って・・・・・・いや、使われて?」<br /><br /> 肇「・・・・・・。」<br /><br /> 肇「たぶん大丈夫だよね。うん。」<br /><br /> どこか自分に言い聞かせるように呟いて、鬼の少女は美穂を見送った。</dd> <dt id="a179">179:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:27:56.44 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――後日<br /><br /> 卯月「そう言えば、最近この辺りで新しいヒーローが活躍してるらしいよ。」<br /><br /> 茜「へぇー、どんなヒーローなの?」<br /><br /> 卯月「ひなたん星人って言うんだって」<br /><br /> 美穂「ぶふっ!」<br /><br /> 卯月「ど、どうしたの美穂ちゃん!?急に吹き出したりして!?」<br /><br /> 美穂「な、なんでもない!!なんでもないよ!?」<br /><br /><br /> あの時以来、美穂は何度かカース討伐を行っていた。<br /><br /> 拾った刀、『小春日和』と言うらしいが、<br /><br /> あの刀を持っていると、時々、『カースを狩らなければならない。』<br /><br /> と言う焦燥感に襲われる。<br /><br /><br /> 美穂(カースからみんなを守れるヒーローに憧れてたから、その事はいいけれど)<br /><br /><br /> 戦うために刀を抜けば、『あの人格』が出てくるのが問題なのだ。<br /><br /><br /> 卯月「みんみん、うっさみーん♪」<br /><br /> 美穂「菜々ちゃん、って本当にすごいよね。」<br /><br /> 卯月「?」<br /><br /> 茜「あっ、そう言えば、最近美穂ちゃん木刀の袋持ってるよね!」<br /><br /> 卯月「剣道でも始めたの?最近物騒だもんね!」<br /><br /> 美穂「そ、そんなところ・・・・・・かな?あの、できれば気にしないで。」<br /><br /> 美穂(あの姿、友達だけには見せられない!)</dd> <dt id="a180">180:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:28:49.08 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /><br /> 刀を手放すことも考えたが、結局それはできなかった。<br /><br /> と言うより一度、何処かに置き忘れて、<br /><br /> 家に帰ったら、『小春日和』が先に部屋に帰っていたので、<br /><br /> たぶんずっと手放せないのだろう。<br /><br /><br /> 今日も街の何処かで、刀を持った少女のアホ毛が揺れ動く。<br /><br /><br /> 美穂「カースの気配ナリ」<br /><br /><br /> 美穂「私は愛と正義のはにかみ侵略者!ひなたん星人!」<br /><br /><br /> 美穂「カースはまるごとつるっとぜ~んぶ!私が倒しちゃうひなたっ☆」キラッ<br /><br /><br /> 美穂「あ~はっはっはっはっはっ!!」<br /><br /><br /><br /> それから、街のあっちこっちで<br /><br /> 「ひなたん星人」を名乗り、カースを狩る少女が目撃されてるとか。<br /><br /><br /> おしまい</dd> <dt id="a181">181:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:29:35.32 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">小日向美穂<br /><br /> 所属:高校生<br /> 属性:人間<br /> 能力:特になし<br /><br /> 最近まで普通だった女の子。<br /> 友達を守れる力を持ったヒーローに憧れていた。<br /> 鬼神の七振りの一本『小春日和』に所有者(使われ手)として選ばれたせいで、<br /> 刀に振り回される毎日を過ごしている。<br /><br /><br /> 『小春日和』<br /><br /> 『鬼神の七振り』の1本で、日本一、横暴な刀。<br /> 黒一色に三輪の菊が描かれた鞘には、見た目には地味でごく普通の刀が納まっている。<br /> 『傲慢』のカースの核が埋め込まれているためか、プライドが高く<br /> ”刀が人に使われる”のを良しとせず、”刀が人を使う”関係を理想とする。<br /> そのために使われ手(使い手ではない)は『小春日和』自身が選び、<br /> 所有者の中に新たな人格を作り上げて、内側から支配する。日本一、横暴な刀である所以。<br /> 所有者は刀に精神的にも肉体的にも支配され、体の動作を刀の作った人格に行わされるために、<br /> 例え刀の扱いを知らない少女でも、日本一の剣豪と同等の技術を発揮することができる。<br /> また精神的に支配されるために、他の精神攻撃をシャットアウトできるのも特徴。<br /> カースを斬れば斬るほど、刀に負のエネルギーが溜まる。<br /> これにより肉体動作を補うエネルギーは増えるので身体的にはより強くなるが、<br /> 刀の精神支配力も強まるので、浄化の鞘に収めないまま長時間の使用は望ましくない。<br /><br /><br /> 『ひなたん星人』<br /><br /> 日本一、横暴な刀『小春日和』によって、小日向美穂の中に作られた人格。<br /> 小日向美穂の考えるヒーロー像をベースにして作られており、<br /> 美穂が『小春日和』を鞘から抜いた時のみ、ひなたん星人の人格は現れる。<br /> 「愛と正義のはにかみ侵略者」を自称。戦闘中に自らの「設定」を語るが、<br /> 彼女が語る「設定」はどれも明確には定まっておらず、ヒーローか侵略者なのかも曖昧。<br /> これでも一応はカースを狩るために作られた人格だと言う自覚はあるらしい。<br /> 彼女の人格は小日向美穂のものなのか、『小春日和』のものなのか、彼女自身よくわかっていないようだ。<br /> 趣味は高笑い、侵略、カース狩り。あと日向ぼっこ。<br /> 中でもカース狩りに関しては、刀に溜まっている負のエネルギーが尽きると人格消失さえありえるため死活問題。<br /> そのため、鞘に『小春日和』が収まってる間も、積極的に美穂をカースの下に連れ出そうと誘導する。<br /> 戦闘スタイルは負のエネルギーを肉体と刀に纏わせて、敵を「斬る」だけ。<br /> 『小春日和』の精神支配によって日本一の剣術使いと同等の能力を持つが、やはりやる事は「斬る」だけ。<br /> ちなみに彼女の人格が出ている間、小日向美穂の意識と記憶が消えたりすることはない。</dd> <dt id="a182">182:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:31:24.49 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">『万年桜』<br /><br /> 名前の通り、ずっと花が咲き続けてる桜の木。<br /> 雨で萎れようが、風で散ろうが、虫に食われようが、人が枝を切ろうが、<br /> 次の日には満開の桜を咲かせてると言う、ヤバいくらい気合入ってる木。<br /> なぜこの桜だけずっと咲き続けてるのか、原因も原理も未だに不明。<br /> この桜のある公園は一年中あたたかな空気に包まれている。<br /><br /> (小日向ちゃんに外で日向ぼっこさせたかったけど、<br /> 季節を温かい時期に限定したくなかったから作った設定。)<br /><br /><br /> 『大蜘蛛のカース』<br /><br /> ただのやられ役の癖に妙に強い能力と高い知能を持った蜘蛛型の『色欲』のカース。<br /> 体から人間の思考力を麻痺させるフェロモンを出しており、<br /> 獲物がその毒にやられてる隙に、糸状の影を絡めて捕らえる。<br /> 捕らえた獲物は体内に貯蔵しつつ、快楽を与えてやることで、<br /> 生じた『色欲』の感情を自らのエネルギーにする。<br /> フェロモンの影響を受けない機械などにはめっぽう弱い。<br /> 美穂は『小春日和』によって精神を支配されていたために、フェロモンが効かなかった。<br /> 何者かに作られたものなのか、感情由来のカースが独自に進化したものか、詳細は不明。</dd> <dt id="a183">183:<span class="name" style="color:#008000;">◆6osdZ663So</span><span class="info">[sage saga]:2013/07/13(土) 17:32:11.41 ID:CtDAb6Apo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 刀に人格を乗っ取られる女の子って萌えるよね、って話でした。</dd> </dl><dl><dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> </dd> <dt id="a193"><span class="resnum">193</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB<span class="namenum">8</span>Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:50:59.15<span class="id">ID:+W9EwcPAo</span></span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 速水奏お借りして『憤怒の街』以降の時系列で投下します</dd> <dt id="a194"><span class="resnum">194</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:51:38.82<span class="id">ID:+W9EwcPAo</span></span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">  速水奏は退屈していた。<br /> それというのも、昨今の事情に多少の『飽き』が来てしまったからだ。<br /><br /> 普通の人間へと色欲の力を注ぎこみ分け与えると、その人間の周りの環境が徐々に崩れていく。<br /> 本人に言わせてみれば『あるべきカタチにしてあげた』だけではあるがそれはなかなかに愉快だった。<br /> 隠していた本音を、くだらない秘密を暴き、曝す。それを受けた相手が焦ったり、答えたり。<br /> 悪魔らしくもない『いいコト』をしてあげたとすら思っていた。<br /><br /> たまに、弱い能力を持った人間もいた。注ぎ込んだ力と反発して気が狂ってしまった時は『これでは面白くない』と反省したものだ。<br /> 相性の問題か、アスモデウスの力を注ぎ込んだ状態でまともに能力を行使できた人間はいなかった。<br /> これでは普通の人間に注ぐのと変わらない。つまらないな、とアスモデウスは溜息を吐いた。<br /><br /> 『色欲』は自己のみでの完結ではなく、相手をもってして成すものだ。<br /> 注ぎ込み、器が受ける。彼女は自らを人の身に偽装こそしていたものの何かに宿ることを良しとしなかった。<br /> それに相応しい器が見つからないから。彼女へと注がれるべき力をすべて出し切り、全力であるためには彼女は彼女自身であるしかなかったから。<br /> それゆえ、死神などの面倒な相手との接触が起きないよう十全に気を付ける必要があることも彼女を飽き飽きさせていた。</dd> <dt id="a195"><span class="resnum">195</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:52:05.27 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">  あるいは、同じ悪魔であり、友人であるベルゼブブが憑いている海老原菜帆ならば受け止められるのかもしれない。<br /> 色欲の力を注いで、それをそのまま昇華させることができるなら。面白いではないか、と。<br /> 友人の大切なものを、自らのものへと変質させてしまう。そんな背徳的な感情がたまらなく彼女を興奮させた。<br /> しかしどうも最近は忙しいらしく、うまい接触方法も思いつかない。深い策を練るのは苦手ではないが、退屈だった。<br /><br /> あるいは、力を少し多めに注いだ子供をこともなさげに浄化させてみせたあの女に力を注いだらどうなるのかも気になっていた。<br /> どのような生物であれ、生殖を必要とする以上は『色欲』と離れることは不可能だ。<br /> その流れを、繋がりを見ることができる彼女にとって、相思相愛であるなんて見せかけは三流のコメディのようなものだ。<br /> 誰であれ、より優秀な相手と結ばれたがる。本能ではそういうものであるし、それが正しいのだから。<br /> しかし、その女の持つ繋がりは。『どこへも繋がっていなかった』のだ。<br /><br /> 正確には、繋がりが光に溶けて消えていた。<br /> どこへでもつながり、どこへもつながらない。矛盾した、生き物とはかけ離れた性質。<br /> なのに、確かに鼓動を感じる。世界への、周囲への好意を感じる。<br /> 無生物のような特質と、生物らしい性質。そんな生き物が『特定の誰か』への好意や悪意を持つことになったらどれほど愉快だろう?<br /> 困惑するのだろうか、それとも――<br /><br /> しかし、その女の行方は結局知れずまま。どうやらそこそこに強力な『ヒーロー』の『チームリーダー』らしい。<br /> なんともそそられる響きだ。周囲との関係が崩れた時、どうなってしまうのだろう? 彼女の好奇心は沸き立った。<br /> しかし、かかわれば必然的に目立ってしまう。刹那の快楽に身を落とすことも嫌いではないが、面倒事を起こしてまでというほどの強欲ではない。<br /> それゆえ、こちらも保留ということになってしまっている。<br /><br /> 彼女は色欲の悪魔、アスモデウス。<br /> 新しいおもちゃを探し、街をさまよっていた。</dd> <dt id="a196">196:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:53:09.95 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /> とある街の小さなアロマショップ。ドアにかけられた札はCloseになっている。<br /> その中で、2人の女性と1人の男が話し合いをしていた。<br /><br /> 「やっぱり、連絡はつかないのか?」<br /><br /> 「……そうね、残念だけどさっぱり。こんな時代だからいろいろあるんだとは思うけど」<br /><br /> 男が確認するように口にすると、少し間をあけてセクシーな恰好をした女性が答える。<br /> アロマショップの制服であるエプロンをつけたままの男の姿との対比はなかなかにシュールだ。<br /> 奥の部屋から、同じくエプロンをつけた女性がコーヒーを持ち出してきて置いた。<br /><br /> 「とりあえず……消えなかった私はともかく、レナは一度は能力が消えたはずですし。他のみんなもまた力を取り戻しているかもしれないですよね」<br /><br /> 「それよね。まぁ……私はともかく、美優みたいに大変なことになってるかも」<br /><br /> 「………レナ?」<br /><br /> 「ふふっ、冗談よ。ごめんね?」<br /><br /> 運ばれてきたコーヒーをレナが口へ運ぶ。美優は頬を膨らせて不満を表した。<br /> 『彼女たち』は、一度は世界を救った身。ベテランの魔法少女だ。<br /> 辛い時も、苦しいときも、楽しいときも、そして全てを終わらせた時だっていっしょに戦ってきた仲間。<br /> この場にいない仲間のことを思い、店長は小さくため息をついた。ないものねだりをしても仕方がない</dd> <dt id="a197">197:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:53:54.24 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「レナは……これから、どうするつもりかは決めてるのか?」<br /><br /> 「え? ……どうって、どういう意味?」<br /><br /> 店長がレナへと質問をすると、レナは最初何を言われたのかわからないようなリアクションをした。<br /> しかしその意味を理解すると、今度は少し語気を強めて聞き返す。<br /><br /> 「……そのままの意味だ。もう子供じゃない。戦うのにはいろいろなものを捨てなきゃいけない」<br /><br /> 店長が目を細める。彼の店は決して流行っているわけではない。<br /> しかし大きなケガをしてしまえば店の経営に関わってしまうし、その結果として店に来てくれる人たちへ『迷惑』をかけてしまうこともある。<br /> 自営業だからこそ、多少の無茶も利く。しかし、普通の職ならばそれが原因で自身の生活にも影響がでてしまうかもしれない。<br /><br /> 「俺の店だ、お客さんには悪いけど無茶だってできるだろう、でも」<br /><br /> 「……私にもいろいろあるでしょう、って? まぁ確かに、そこそこいいお仕事してるけど」<br /><br /> 「なら、そっちを優先してくれてもかまわない。ヒーローは他にもいるし、無理をする必要だってない」<br /><br /> これは正論だ。世界にはヒーローがあふれ、守るための組織もあり、自分たちは特別でなくなっている。<br /> そんな中で、失うものがあるのに。無理に戦い続けることはない、と。<br /> 正義の味方であったからといってそうあり続ける必要は、ない。そう店長はレナへと告げた。<br /><br /> しばらくの沈黙が流れていく。まるで突き放すような言い方に美優が店長を咎めるべきか悩んでいる。<br /> レナは一度大きく息を吐くと、にやりと不敵な笑みを浮かべて答えた。</dd> <dt id="a198">198:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:54:21.24 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「『1人でなんでもできるなんて思うな。思いやりは押し付けるものでも無理やりすることでもないんだ』……でしょう?」<br /><br /> 「……!」<br /><br /> 店長が驚き、言葉を失う。<br /> レナはまるでイタズラな子供のような笑顔を浮かべてつづけた。<br /><br /> 「店長……いえ。『背広マスク』さん? 私の人生はとっくの昔に最高の友人たちと過ごすために、ってベットしてあるの」<br /><br /> 「……いいのか?」<br /><br /> 「もちろん。ほかのみんなだってきっとそう……わかってるんじゃないの?」<br /><br /> 店長はばつが悪そうに頭をポリポリとかいた。<br /> 確かにそう考えてはいたが、傲慢な考えだと感じてもいたのでズバリと言われると恥ずかしい。<br /> それに、心配しているというのも本音だ。<br /><br /> 「だいたい、美優のことは巻き込むのに私は巻き込まないなんて水臭いわよ。いいのいいの」<br /><br /> 「それはまぁ……美優とは、長いしな。力の扱いにも慣れてるし」<br /><br /> 「そうですね……確かに。レナは大丈夫なんですか?」<br /><br /> 「昔と同じぐらいには使えるつもりよ。平気……その言い方だと美優はいろいろできるようになったみたいね」<br /><br /> 「一応……ね。その、変身は恥ずかしいですけど……」<br /><br /> ふぅん、とレナが相槌を打つ。<br /> 当時から可愛らしいポーズに対して抵抗があった美優だ。大人になってしまえば余計に辛いのだろう。<br /> からかいがいもあるし、見ている分にはとても楽しいのだけれど。</dd> <dt id="a199">199:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:55:12.45 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「そのあたりは、また今度話そうかしら?」<br /><br /> 時計を見上げたレナがそう言った。<br /> 話し合いを始めてから結構な時間がたっている。<br /><br /> 「……そうだな。送っていこうか」<br /><br /> 「いいの?」<br /><br /> 「今日はどちらにしろ休みにしたし、な。どうせなら職場を見せてもらおうかと思って」<br /><br /> 「そう、ならちょっと遊んでいく?」<br /><br /> レナがイタズラっぽく笑う。彼女は今、ネオトーキョーのカジノでディーラーとして働いているらしい。<br /> 人との話や駆け引きといったものに長けていたこともあり、割と有名なのだとか。<br /><br /> 「誘いは嬉しいけど、俺は賭け事は弱くてなぁ……」<br /><br /> 「うん、知ってる。カモにはしないわよ?」<br /><br /> 「多少はむしる気なんだな……強かだよ、ほんと」<br /><br /> 「ふふっ、私にも生活がある。でしょう?」<br /><br /> 先ほどレナの身を心配するために投げたセリフを返され、店長は頭をかいて苦笑する。<br /> 和やかな時間。あり方が変わっても昔のままだと確かめられたようで、美優は自然と笑みがこぼれた。</dd> <dt id="a200">200:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:55:40.52 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">――<br /><br /> 気まぐれな悪魔は、ギラギラと輝くネオンに照らされた街道を歩いていた。<br /> 表面上は美しく、賑やかなこの街、ネオトーキョー。<br /><br /> なるほど豊かで理想的な街だ――――表面上は、だが。<br /> 少し裏路地へと目をやれば、違法なやりとりや金や仕事を無くして絶望している人間の気配がする。<br /> アスモデウスにとってはこのわざとらしい明かりよりも、その黒い欲望が渦巻く方へと興味がわいた。<br /><br /> ためらうことなくそちらへ踏み込む。周りの雰囲気が明らかに変わる。<br /> 人の欲望が渦巻くそこは、地獄よりも地獄らしい一面まで持ち合わせているかもしれない。<br /> 魔界の法は窮屈になってしまって、まるで面白くも楽しくもなくなってしまったのだから。<br /><br /> ――人間が悪魔に近づいているのかもしれない。<br /> そこまで考えて、アスモデウスはくすりと笑った。<br /><br /> それはそれで愉快だ。悪魔を縛り、人を害するななどという『オヒトヨシ』はどう思うだろう?<br /> 進化して、強くなった人々は。悪魔と同等のことができるようになった人間は。<br /> 本来『あるべき』悪魔と同じことをしようとすると知ったら――<br /><br /> ――深く物事を考えるのは、面倒だ。<br /> 楽しそうではあるけれど、それはその時の楽しみでいいだろう。<br /> それよりも今は目の前にあることを楽しむ。それがアスモデウスの生き方だ。</dd> <dt id="a201">201:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:56:29.56 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">  裏路地の奥へと速水奏は歩いていく。<br /> 欲望にまみれた視線が浴びせられるのを感じて精神が高揚した。<br /><br /> さて、どう来るのだろうか。声をかけられるだろうか? ナンパ? 売春? それとも無理やり?<br /> 何かしらの接触を楽しみに、奏はわざとらしく無防備な風を装って歩いて見せた。<br /><br /> 「なぁ、姉ちゃん」<br /><br /> そしてすぐに反応がある。<br /> 振り返ればそこに男が立っていた。浮浪者然とした薄汚れた格好は清潔感をまったく感じさせない。<br /> なにかよからぬ企みがあるということを隠そうともしない声のトーンは、普通の女性にとっては嫌悪感を抱く対象だろう。<br /> あぁ、本当に人間はやりやすい――にやける顔をおさえ、奏は答えた。<br /><br /> 「あら、何かしら?」<br /><br /> 「フフ、そっちは危ないぜ。最近は物騒なんだ」<br /><br /> 「へぇ……どんなふうに?」<br /><br /> 「それはさ……こんな、風、にぃッ!」<br /><br /> 男の身体が不自然に盛り上がり、その背中からいくつもの機械製の足が生えて持ち上がっていく。<br /> 下品な笑い声をあげながら、奏のことを見下ろした。</dd> <dt id="a202">202:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:57:12.64 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">「………」<br /><br /> 「へへ、驚いてるのかいお嬢ちゃん? こいつぁな、俺を見捨てやがった奴の――」<br /><br /> 奏が思わず固まってしまったのを見て、男はさらに下卑た顔をする。<br /> それとは対照的に、奏の表情は冷たくさめきっていた。<br /><br /> 「あなたって、死姦が趣味なの?」<br /><br /> 「へ、へへ。そうだなぁ、無駄な抵抗はしないほうが楽に逝けるぜ?」<br /><br /> 「そう……シてから殺すのは?」<br /><br /> 「そっちがお望みかい? じゃあ存分にしてやるよ……ほら、お嬢ちゃん……」<br /><br /> 威圧感を与えるためにわざと大きく、おおげさに背中に生えた足を使って男が一歩近づく。<br /> どう嬲り、どう殺し、どう楽しもうか。そう下衆な考えをしながら――<br /><br /> その瞬間、踏み込んだ機械の足が折れてバランスを崩した。<br /><br /> 「んなっ……!?」<br /><br /> 「……たまにはそういうのも悪くない、ケド………アナタ、趣味じゃないわ」<br /><br /> とん、と軽く地面を蹴って奏が男との距離をゼロにする。<br /> 何が起きたか理解できないまま、男はアスモデウスの口づけを受けた。<br /><br /> 「だから、最後のプレゼント……♪」</dd> <dt id="a203"><span class="resnum">203</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:58:18.32 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「なっ……な、なんだお嬢ちゃん。能力者か。たのしみた、いっ……!?」<br /><br /> キスに戸惑ったがすぐに調子を取り戻し、今度こそと襲おうとした男の表情が驚愕に見開く。<br /> 制御を失ったように背中に生えた脚があたりを切り裂き、苦しみを抑えられないうめき声をあげた。<br /> 全身に走る痛みと、とめどなく湧いてくる欲望に自らの喉と胸を掻き毟り、呼吸は乱れて全身から汗を吹き出す。<br /><br /> 「かっ……は、ぁっ……! ぅ……!」<br /><br /> 「あんまり綺麗じゃないけど……まぁ、いいわ。楽しませてちょうだい?」<br /><br /> くすりとアスモデウスが笑う。男の目は正気を無くし、口からは涎を垂らしている。<br /><br /> 「最近、溜まってるのよ。ほら……あっちのほうが人がいっぱいいるわよ?」<br /><br /> 男の背中を押し、そちらへと意識を促す。<br /> 何も映してはいない男の瞳が、明るい街並みの中を歩く人々の方へ向いた。<br /><br /> 「さぁ、いってらっしゃい。私の分まで――」<br /><br /> 「う、お、ぉぉぉぉォォオオオオオオオオ!」<br /><br /> 既に男の叫びは人間の声ですらなくなっている。<br /> 狂ったように飛び上がり、明るい街並みへと向かっていった。</dd> <dt id="a204">204:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 22:59:29.71 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「すごい街だな……都会っていうか、なんというか」<br /><br /> 店長がビルを見上げてつぶやく。<br /> 輝くネオンに巨大なビル群。経済特区ネオトーキョーは夜を知らない。<br /><br /> 「最近は物騒なこともいろいろあるけどね。そっちはいかないほうが無難よ?」<br /><br /> 「うん……そう……ね?」<br /><br /> レナがそういった直後に、細い道から黒い影が飛び出した。<br /><br /> 「ウオオォォォォォォッ……!」<br /><br /> 「……マジ?」<br /><br /> 黒く染まった全身は、その像自体がブレているようでかろうじて人型を保っているような状態だ。<br /> 背中からはいくつもの銀の機械の脚が生え、アンバランスなコントラストを見せている。<br /><br /> 首の角度がありえないほうへとねじ曲がり、あたりをぐるぐると見回す。<br /> 周囲を歩いていた人たちも悲鳴を上げて逃げ出した。<br /> 避難を促す警報が発令され、即座に提携した組織からの能力者の派遣が指示される。</dd> <dt id="a205">205:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:00:02.06 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">  怪物と化した男が、逃げ遅れた女性へと飛びかかる。<br /> しかしその銀の脚が女性へと届くことはなく、横っ面へと店長の蹴りが入って妨害される。<br /> 空中に浮いていた分、多少吹き飛ばされはしたが特にダメージはなさそうに男はすぐに体勢を取り直した。<br /><br /> 「……早く逃げろ!」<br /><br /> 「こっちよ、近場のシェルターはB5区の……うん、大丈夫ね? ほら、店長と美優も――」<br /><br /> レナが女性へと避難所の位置を教え、店長と美優にも早く逃げるように促そうとする。<br /> しかし、2人ともじっと男の方を見つめて動かない。<br /> 男もまた、2人のほうを真っ黒な瞳で睨み付けていた。<br /><br /> 「任せておいても、誰か来るんだろうけどな……」<br /><br /> 「逃げたら追いかけてきそうだろ?」と軽めに店長が言う。<br /> 確かに、隙を見せたら今にも男が襲い掛かって来そうだ。<br /><br /> やれやれ、とレナが肩をすくめて隣に立つ。<br /><br /> 「変身する気はあまりないんじゃなかったの?」<br /><br /> 「あの人……なんだか、とても嫌な感じがしますから」<br /><br /> 止めないと、と続ける美優にレナは苦笑する。<br /> ――まったく、あの頃と変わってない。</dd> <dt id="a206">206:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:00:34.24 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「なら、早めに済ませちゃいましょ。目立つのは嫌でしょ?」<br /><br /> 「……えぇ!」<br /><br /> 2人が同時に構え、空へと手をかざして叫んだ。<br /><br /> 「ハートアップ!」<br /><br /> 「リライザブル!」<br /><br /> 光が身体からあふれ出し、全身を包んでいく。<br /> 髪が自然とまとまりリボンで結ばれ、腕は布のガントレットで保護される。<br /> そして、胸と腰に光が強く凝縮されて希望の印のエンブレムが胸へ。<br /> そこを起点に胸部を覆う可愛らしく力強いイメージのドレス。<br /> 美優はヘソ出しルックにミニのスカート。レナはセクシーな胸元を強調する形へ。<br /><br /> 「魔法少女、エンジェリックカインド! ……きゃはっ☆」<br /><br /> 「魔法少女、エンジェリックグレイス! ……うふっ☆」<br /><br /> そして、キメポーズと共にセリフを。<br /> 並び立った魔法少女を見て、男は戸惑うどころか聞いているだけで不快になるような笑い声をあげた。<br /> その気味の悪さに2人も思わず後ずさりしてしまう。</dd> <dt id="a207">207:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:01:23.46 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「悪いけど、あんまり相手してられないの……いろいろと、ねっ!」<br /><br /> 嫌悪感と、少しの恐怖を飲み込んでグレイスが飛び上がる。<br /> 腕を掲げると、光が宙を舞いその手の中へと吸い込まれ、集束していく。<br /> それは次第に形となり、剣が生み出された。<br /><br /> 「グレイスフル、ソードッ!」<br /><br /> ごく一般的なカース程度なら撫でつけるようだけで倒せるほどの気力をまとわせて切りかかる。<br /> しかし、空中からの速度も合わせた神速の剣は男に当たらず、いたはずの空間を裂くにとどまった。<br /> どこへ行ったのかをグレイスが判断するよりも早くその身へと男の銀の脚が無数に迫るも、こちらはカインドが放った光の矢によって阻まれる。<br /><br /> 「グレイス、気を付けて!」<br /><br /> 「うん、わかってる……助かったわ」<br /><br /> グレイスが地面を蹴って男との距離をとった。<br /> 完全にとらえたと思った必殺の剣が躱された焦りは、既にその理由を分析する方向へとシフトしている。<br /><br /> 男は変わらず、不快感を煽るような気持ちの悪い笑い声を上げ続けていた。<br /><br /> 「グヒッ、グヒヒヒッ! ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」<br /><br /> 「まったく……ちょっと面倒かもしれないわね」<br /><br /> グレイスがそう呟くのと、男が動き出したのは同時だった。<br /> 地面を抉るほど強力に地面を機械の脚で蹴り、弾丸のように飛び出す。</dd> <dt id="a208">208:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:02:34.98 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">「――ッ!?」<br /><br /> その飛び込みにかろうじて合わせるようにグレイスは剣を突き出すも、ぶつかる直前で男は地面へと脚を刺し方向を急激に変える。<br /> グレイスをフォローしようと踏み出していたカインドはそれに対応できず、押し倒されるような形で倒れた。<br /><br /> 「っ……あ……!」<br /><br /> 「ヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! ヒグッ!」<br /><br /> そのまま胸元へと男の手が迫るが横からシビルマスクの蹴りが入り邪魔をする。<br /> いつの間にやら、彼も服装が変わりマスクを装着していた。<br /><br /> 「こいつ……完全に女性狙いってことか?」<br /><br /> 一度ならず二度までも阻止されて男が不快そうに顔を歪めた。<br /> しかしすぐにグレイスとカインドの方へと顔をやり、また不快な笑みを浮かべる。<br /><br /> 「この速さ……やっかいね。なんか見られているだけで寒気もするし……」<br /><br /> 「エンジェルハウリングもこのままだと当たらなそう………」<br /><br /> 「とりあえず足止めを俺がする。2人は俺ごと――」<br /><br /> 「却下。もう若くないんだから無理しないで」<br /><br /> シビルマスクが囮を買ってでるが、グレイスに止められてしまう。<br /> そもそもこの速度相手だと、食い止めることすら困難だろう……彼はあくまでもただの人間なのだから。</dd> <dt id="a209">209:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:03:01.56 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「……私に考えがあります」<br /><br /> 「どうするつもり?」<br /><br /> 「………少しだけ集中させて。うまくいけば速度を落とせるはずだから」<br /><br /> カインドのそのセリフにグレイスはただうなずいた。<br /> 彼女がそういうのならば、大丈夫だろう。理由を聞く時間の分も集中に回してほしいと考えたからだ。<br /> カインドが目を瞑って集中しだしたのを確認して、飛びかかりかけていた男の足元へと剣を投げつけて牽制した。<br /><br /> 「じゃあ、シビルマスクさん……時間稼ぎ、いくわよ!」<br /><br /> 「無理はするなよ、グレイス!」<br /><br /> そのまま素早く駆け寄ると、刺さった剣を引き抜いて逆袈裟に切り上げた。<br /> 男は空中へと飛び上がりその攻撃を避けてみせると、脚を数本繰り出して切りつける。<br /> 致命傷にはならないが機動力を奪うことを狙っているような軌道で手足を削りにかかった。<br /><br /> 「グヒッ、ヒヒヒヒヒ!」<br /><br /> 「ちょっ……!? やっぱり気持ち悪いっ!」<br /><br /> 時間を稼ぐことが目的なので激しい攻撃は仕掛けていないが、やはりグレイス側の攻撃は当たらないままだ。<br /> 少しずつあちこちへと傷が刻まれ、そのたびに男が楽しげに気色の悪い笑い声をあげる。<br /><br /> 時々カインドの方へと意識が向きそうになるのはシビルマスクが防いではいるが、金属製の脚を持つ男相手では基本の徒手空拳では分が悪い。<br /> それどころか、グレイスへの攻撃までもを無理に防ごうとしている節まであった。</dd> <dt id="a210">210:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:03:41.79 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「これなら、普段から持ち歩いとくべきだったか……なっ!」<br /><br /> 何度目かの突進を、シビルマスクがすくいあげるようにして男を投げて防いだ。<br /> 鋭い刃のついた脚には極力触らないようにはしているがそれでも腕にはいくつも切り傷が刻まれている。<br /><br /> 「それってなんの話?」<br /><br /> 「サンタクロースの相棒さんからの贈り物をね……そろそろ手が痛い」<br /><br /> 軽口を叩いてはいるものの、そろそろ体力も厳しくなっている。<br /> 偶然もらった『お守り』がかさばるとはいえ、出先に持ってこなかったのは失敗だったかと店長は笑った。<br /> もっとも、その場合はレナの店に入店拒否をされていた可能性もあるので致し方ないのではあるが。<br /><br /> 男がまたかがんで飛びかかろうとしている。<br /> 正面から受けるのは厳しいし、避けようとしても急転換して追いかけてくるこの攻撃は非常に厄介だ。<br /> なによりその嫌悪感を煽るような笑い方が、グレイスやカインドに接近させた場合によくないことがおきそうだと思わせていた。<br /><br /> 「レナ、店長! 大丈夫です、避けてください!」<br /><br /> 2人の後ろからカインドの声が響く。男との射線を開けるようにシビルマスクとグレイスが避けた。<br /> 飛びかかろうとしていた男は一瞬戸惑ったものの、正面にカインドの姿を見つけてまた歪んだ笑顔をたたえる。<br /><br /> 「グヒヒヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!」<br /><br /> そしてそのまま、すさまじい勢いでもってカインドを浚わんと襲い掛かった。</dd> <dt id="a211">211:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:04:16.92 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">  男は、ほとんど本能でもって感じていた。<br /><br /> ――さっきの矢ならば、もう見た。すさまじい速さだが前へと脚を突き出せば突破されることはない。<br /><br /> 事実、数発撃ちこんだ矢はほとんどダメージを与えることができなかった。<br /> 『色欲』に侵された男はだんだんと速度も火力も強く激しくなっていっている。<br /><br /> ほぼ人型を失いつつある身体でも、だんだんと冷静さと残酷さ、性衝動は増している。<br /> 邪魔をし続けられているが、それを差し置いてもいい女だ。めちゃくちゃに犯して、壊してしまいたい。<br /> この突進で気絶させ、邪魔が入らないようにしてからたっぷりと嬲ってやろう。<br /><br /> そんな、どす黒い欲望との塊と化した男が迫るもカインドは冷静なままだった。<br /><br /> 「カインディング……アロー」<br /><br /> ポウ、と空中に浮かんでいた玉が強く光ったかと思うと突き出した脚へと突き刺さる。<br /> 勢いは全く死んでおらず、男もこの程度ならば問題ないと判断してさらに欲望を増大させる。<br /><br /> ――さぁ、どう嬲ってやろうか。<br /> その考えが脳に伝わり、また不快な笑い声を響かせるよりも早く。男は光の奔流へと飲み込まれた。</dd> <dt id="a212">212:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:05:43.33 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">「ふぅ……」<br /><br /> 「……スゴっ」<br /><br /> 思わずグレイスが驚嘆の声をあげる。<br /> カインドは疲れたようにその場に座り込んだ。<br /><br /> カインドの『アロー』はエネルギーを空中に生み出して、それを凝縮させて放つ技だ。<br /> 本来は一発ずつ、その速度でもって撃ちぬくようにして使うのだが、今回カインドは空中にいくつものエネルギーを留めさせ同時に発射させたらしい。<br /> その量は数え切れなかったが、速度も威力も損なうことなく停止させておくなどとんだ技術だ。<br /><br /> 一斉に発射された矢は、まるで大きなひとつの槍のように男の身体を飲み込み押し流し壁へと叩きつけた。<br /> 正面から受けていた脚は破損し、気も失っている。完全に無力化したようだ。<br /><br /> 「よいしょ……大丈夫ですか、2人とも?」<br /><br /> 「うん、まぁ。腕のいいお医者さんならすぐに治してくれるんじゃないか?」<br /><br /> カインドは変身をといてどうにか立ち上がると2人の心配をし始めた。<br /> マスクを外した店長は切り裂かれた両腕をあげて笑って見せるが痛々しいことこの上ない。<br /><br /> 魔法少女は、多少の傷ならば治るし身体だって一般人よりはるかに頑丈なのだ。<br /> レナも変身をとくと、あまり無茶はしてくれるな、と店長へ説教を始めた。</dd> <dt id="a213">213:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:07:13.87 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> 「いやぁ、次からは気を付けるよ……流石に入店拒否されるかな?」<br /><br /> 「いいから病院にいって! もうっ」<br /><br /> 「そういうなよ、なぁ美優……」<br /><br /> 「私も同感です。集中できて助かりましたけど……そんなに、無茶をしなくても……」<br /><br /> 「……つい、昔みたいにかっこつけたくってなぁ」<br /><br /> 「……はぁ。美優、腕のいい医者だったらあっちの通りの病院がいいわよ」<br /><br /> 「うん、ありがとう……今度、また改めていくから」<br /><br /> 「オッケー。助かったけど無茶はあんまりしないようにね?」<br /><br /> 「善処するよ、うん」<br /><br /> 「……店長?」<br /><br /> 「ははは、わかったわかった……」<br /><br /><br /> あえてへらへらと笑ってみせつつ、店長『シビルマスク』は考えていた。<br /> あの男は女性だけを狙っていたように見えた。ただ単に女を犯すことを求めていたにしては行動が単純すぎたように見えたから。<br /><br /> ――『女性に接触すること』自体が目的なのではなかったか?<br /> そう感じたからこそ、グレイスにも極力触れられないようフォローに回ったのだ。</dd> <dt id="a214">214:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:07:40.45 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"><br /> 一応は長く戦ってきたつもりだし、助けてきたからこそ覚えた違和感。<br /> ただの異常者だったのならば、それでいい。思い過しで結構だ。<br /><br /> ただ、それでも。万にひとつでも彼女たちの生活を壊してしまうのは避けたかった。<br /><br /> 『背広マスク』は強くはなかった。<br /> 彼女たちが苦しいとき、支えることしかできなかったから。<br /> 敵の策に翻弄され、罠にはまり。助けを求める彼女たちを問答無用で救いあげる力などなかったから。<br /><br /> 今度は、そうなる前に助けてやりたかった。<br /> そうなってしまってからではきっと無能力者の自分にできることなど多くないから。<br /><br /> 「店長?」<br /><br /> 「うん? あぁ、すまん……無理に動いたから腰がなぁ……」<br /><br /> 「無理はしないでくださいね、肩貸しますから」<br /><br /> 隣で微笑む美優を見て、彼は再び決心した。<br /><br /> ――彼女たちを不幸にはしない、と。</dd> <dt id="a215"><span class="resnum">215</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:08:14.32 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;">「ふぅん……?」<br /><br /> どうも騒ぎが大きくならない、と覗いてみれば『注いで』あげた男が光の奔流に飲まれているところだった。<br /> 光が飛んできた方へと目をやれば珍妙な恰好の男と、女が2人。<br /><br /> 能力者へ彼女の力をただ注ぎ込めば大抵は狂ってしまう。<br /> それだけでは面白い玩具にはならず、かといってただの人間だけに注いだだけでは面白くはない。<br /><br /> だから、アスモデウスは方法を考えた。一旦無能力の男へ注ぎ、能力を持つ女へと精ごと力を注ぐ。<br /> うまくやれば母体へと人間として能力が吸収され、『色欲』を持たせた上で正気の能力者の女を生み出せるのではないか、と。<br /><br /> さらに、それで子が成れば? 能力者であり、色欲の悪魔の子が生まれるのでは?<br /> 単なる思い付きにしては結構面白いのでは、と思っていたのだが失敗だ。<br /><br /> 能力者を見つけるところまでは悪くなかったのだがどうやらあの男はろくに注ぎ込めずに終わってしまったようだ。<br /><br /> 「まぁ、いいか」<br /><br /> 計画を潰した3人の繋がりを見てみれば、なかなかに面白そうなことがわかったらしく。<br /> 新しい玩具を買ってもらった子供のように、嬉しそうにアスモデウスが笑った。</dd> <dt id="a216"><span class="resnum">216</span>:<span class="name" style="color:#008000;">◆IRWVB8Juyg</span><span class="info">[saga]:2013/07/13(土) 23:09:37.14 ID:+W9EwcPAo</span></dt> <dd style="margin-bottom:18px;margin-top:5px;line-height:17.5px;"> とりあえず〆。アスモデウスと戦わせようと思ったら出会いすらしてなかった<br /> 何を言ってるかわからねーと思うが、俺もなにがなんだかわからない<br /><br /> 「憤怒の街」関係の前にさしこんでもいいです。とりあえず同時期ではないってことで</dd> </dl><p><a href="http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/369.html">その2へ</a></p>

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