勇者「美人な僧侶と魔法使いを」前編5 処刑の章

 279:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 00:46:47.26 ID:hpeqfj4Jo
―――翌朝 エルフの里 牢屋 

兵士「出ろ」 

勇者「……」 

僧侶「ついに……」 

魔法使い「ふぅー……」 

兵士「ついてこい」 

勇者「……」 

僧侶「まさか……こんな森の奥で死ぬことになるなんて……」 

魔法使い「はぁ……怖くなってきたわ……」 

僧侶「わ、私も体の震えが……止まりません……」 

勇者「……」 

魔法使い「アンタは?」 

勇者「え?」 

魔法使い「怖いでしょ?」 

勇者「僕だけなら相当怖かったですが、貴女たちがいるなら怖くありませんね。むしろ、緊張できなくて困るぐらいです」 




280:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 00:51:38.18 ID:hpeqfj4Jo
魔法使い「また強がり言って」 

勇者「本当ですよ」 

僧侶「相手はエルフですよ?!」 

勇者「僕は勇者です。そして貴女たちは有能な魔法使いと僧侶です」 

僧侶「そ、そんな真顔で言われても……」 

魔法使い「いい?!今までの魔物みたく本能で向かってきたり、魔法が簡単に通じる相手じゃないのよ?!」 

勇者「でしょうね。だからこそ、戦術が大事になります」 

僧侶「えぇ……」 

魔法使い「無理よ……。今度ばかりは……」 

勇者「できますよ」 

僧侶「どうして……そこまで断言できるのですか……?」 

勇者「貴女たちがすごい術者だからです」 

魔法使い「はぁ……なんの根拠もないってことね……」 

僧侶「うぅ……」 

勇者「絶対勝つぞー!!おー!!」 




281:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 00:56:45.96 ID:hpeqfj4Jo
―――処刑場 

長老「ではこれより、洗礼の儀を執り行う!!」 

長老「罪人よ。聖地へ足を踏み入れることを許可する」 

兵士「上がれ」 

勇者「……」 

僧侶「……っ」ガクガク 

魔法使い「できるだけ、苦しくない方法で殺して欲しいわね」 

僧侶「そ、そうですね……」 

長老「罪を流す者よ、聖地へ」 

神官「……」 

勇者「あの人たちが……神官ですか……」 

神官「……準備は整っております」 

神官「右に同じ」 

神官「いつでも、どうぞ」 

長老「罪深き者たちに洗礼を!!!」 




282:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01:02:57.69 ID:hpeqfj4Jo
勇者「では、手筈通りに」 

魔法使い「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね?」 

僧侶「勇者様……本当に私は抱きついているだけでいいのですか?」ギュゥゥ 

勇者「ぬほほぉ。―――はい」キリッ 

魔法使い「なんで私が矢面に……」 

勇者「貴女の能力なら大丈夫です」 

魔法使い「信じられないけど」 

勇者「向こうは魔法のプロフェッショナル。だからこそ、貴女たちの苦しみなど絶対に分からない」 

僧侶「それって……」 

神官「では……洗礼を始める」 

勇者「来ます!!」 

魔法使い「ええい!!もうどうせ死ぬなら……!!!」 

神官「炎よ!」ゴォォォ 

魔法使い「―――はぁ!!!」コォォォ 

神官「な……!!炎を掻き消した……?!」 




283:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01:08:03.14 ID:hpeqfj4Jo
長老「ん……?!なんだ……今のは……?」 

エルフ(まさか……全力ではないとはいえ、いとも簡単に……神官の魔法を……) 

魔法使い「ほ、炎なんて私には効かないわ!!」 

魔法使い(冷気を纏っただけだけど……) 

神官「面白い……では……!!―――凍れ!!!」コォォォ 

魔法使い「氷も効かない!!」ゴォォォ 

神官「なんだと……」 

神官「中々の能力者。注意せよ」 

神官「うむ」 

魔法使い「……っ」 

勇者「よし。警戒を強めた」 

僧侶「それって……本気にさせたってことですよね?」 

勇者「さあ、次行きますよ」 

僧侶「は、はい!」ギュゥゥ 

神官「では、手加減はしない。―――雷よ!!」バリバリ 




284:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01:12:37.33 ID:hpeqfj4Jo
勇者「雷!?」 

神官「終わりだ」 

僧侶「きゃぁぁ!!!」 

勇者「絶対に離れないでください!!」 

僧侶「は、はい!!」ギュゥゥゥ 

―――ドォォォォン!!!! 

長老「―――終わったか」 

エルフ「……」 

神官「儀式は終了」 

神官「では、死体の回収をおこな―――」 

勇者「―――はぁぁ!!!」ゴォッ 

神官「なに……!!」 

勇者「せいっ!!」ザンッ 

神官「バ……カ……な……」ドサッ 

勇者「砂塵を巻き上げては、敵を見失う。状況によっては今みたいに隙をつくることになります。覚えておいてください」 




285:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01:19:29.45 ID:hpeqfj4Jo
神官「理解不能」 

神官「何故、無傷でいる……。確かに直撃したはず……」 

勇者「結構痛いですよ。でも、僕は無敵なんで」 

僧侶「うっ……」ギュッ 

勇者「(大丈夫ですか?)」 

僧侶「(は、はい……)」 

長老「どうなっている……!?」 

エルフ「そんな馬鹿なこと……」 

勇者「これだけははっきり言っておきます。僕を倒すことはできないぞ!!!」 

神官「思考中」 

神官「魔力を解放する。肉体を滅裂させれば再生も不可能のはず」 

勇者「ああ、やっぱり力があるとそういう力押しができていいですねえ!!全くぅ!!」 

僧侶「(勇者様、流石に治癒が追いつかない傷を負えば……)」 

勇者「(分かっています)」 

魔法使い「(ちょっと、あれは多分指定した空間を爆発させる魔法よ?!どうするの?!)」 




286:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01:24:22.05 ID:hpeqfj4Jo
勇者「指定した空間を?」 

魔法使い「そうよ!!」 

勇者「やったー!!」ダダダッ 

僧侶「えぇ?!特攻?!」 

神官「なに……?!」 

勇者「爆発させる魔法は近距離では使えない。それは以前に聞きました」 

魔法使い「あ……」 

神官「くっ……!!」バッ 

勇者「遅いっ!!!」ズバッ 

神官「がっ……?!」ドサッ 

勇者「二人目だぁ!!!」 

神官「……」 

勇者「ふん。いくら魔法ができるからって、やりようはいくらでもある!!」 

神官「……」 

勇者「もう声も出ませんか?!ええ、おい!!」 




287:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01:29:56.02 ID:hpeqfj4Jo
神官「……」 

勇者「あーん?」 

神官「爆発」 

勇者「え―――」 

ドォォォォン!!!! 

僧侶「きゃぁ?!」 

魔法使い「なっ……!?自爆?!」 

勇者「うっぁ……ずっ……」 

僧侶「勇者様ぁ!!!」タタタッ 

神官「損傷甚大……」 

勇者「まさ……か……捨て身……とは……」 

僧侶「今、治癒を……!!」ギュッ 

勇者「あ、ありがとうございます」 

神官「治癒開始」 

魔法使い「一撃でしとめないと、向こうも回復しちゃうわね……」 




288:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01:33:51.14 ID:hpeqfj4Jo
神官「爆炎放出」ゴォォォ 

僧侶「きゃぁ?!」 

魔法使い「炎なら!!」コォォォ 

神官「……」 

魔法使い「効かないわ」 

神官「氷塊放出」 

魔法使い「無駄よ!!」ゴォォォ 

神官「……」 

魔法使い「はぁ……はぁ……」 

勇者(これ以上はまずい……タネがバレたら……) 

僧侶「うぅ……」ギュゥゥ 

神官「解析完了」 

魔法使い「え……?」 

神官「炎、継続放出開始」ゴォォォ 

魔法使い「なっ……!!」コォォォ 




289:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01:39:26.11 ID:hpeqfj4Jo
神官「貴殿、魔法放出不可」 

魔法使い「ちょっ……!!」 

勇者「まずい……!!早くトドメを……!!!」ダダダッ 

僧侶「勇者様!!」 

勇者「うおぉぉぉ!!!!」 

神官「爆炎放出」ゴォォォ 

勇者「うぁ!!」 

魔法使い「馬鹿!!なにやって―――」 

神官「最大出力」ゴォォォォ 

魔法使い「やめて……よ……!!もう……魔力が……!!!」コォォォ 

僧侶「ど、どちらに抱きつけば……!!」オロオロ 

神官「貴殿、魔力残量皆無」 

魔法使い「うる……さい……やれる……これぐら、い……!!!」 

神官「諦観推奨」 

魔法使い「そ、そんなこと……奨めないでよ……!!」 




291:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01:53:15.22 ID:hpeqfj4Jo
長老「どういうことだ……これは……?」 

エルフ「あの二人の術者。少し様子が変ですね」 

長老「うむ。神官の魔法を相殺できるほどの魔力を放出しておいて、それを攻撃に転換しないとは」 

エルフ「しないというより、できないのでは?」 

長老「む……それは……」 

エルフ「できるのであれば、治癒も抱きつくほど密着する必要はないですし、魔法で攻撃するのも安全な遠距離で行うはず」 

長老「相手との力量が違いすぎるから奇をてらった方法を用いているのではないか?」 

エルフ「攻撃魔法を防御に使うのはありえますが、それなら先ほど神官が弱っているときに追撃をかけないのが不自然です」 

長老「そういえばあの術者たちは魔法について学びたいを言っておったな……」 

エルフ「魔法を上手く使いこなせないということでしょうね」 

長老「そういうことか。分かってしまえばどうということはないな」 

エルフ「ええ。時間をかければ終わります。エルフの魔力量は人間の数十から数百倍ですからね」 

長老「ああ……。人間にとっては無限に等しいだろう」 

エルフ「儀式終了も時間の問題ですね……」 

エルフ(悪く思わないで……。これも全て貴方たちが魔王と戦おうとするから……) 




297:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21:22:48.89 ID:hpeqfj4Jo
勇者(このままじゃ……!!) 

神官「……」ゴォォォ 

魔法使い「くぅ……ぁ……ん……!」コォォ 

僧侶「……っ」タタタッ 

魔法使い「え……?」 

僧侶「……」ギュッ 

魔法使い「あんた……!!」 

僧侶「うぅ……」ガクガク 

魔法使い「……もう!!」コォォォ 

神官「無意味」ゴォォ 

魔法使い「死にたくないから足掻くのよ!!悪い?!」 

僧侶「うぅぅ……ぅ……ぐすっ……ゆう……しゃさま……たすけて……」 

勇者「あ……!!」 

勇者(あ、いや……上手くいくかはわからない……それ以前に二人を危険な目に合わせてしまう……) 

勇者(だが……迷ってはいられない……!!) 




298:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21:27:34.01 ID:hpeqfj4Jo
勇者「わかった!!諦める!!」 

神官「……」ピクッ 

魔法使い「ど、うし……て……」 

僧侶「そ、んな……」 

勇者「もうお二人を苦しませないでください」 

神官「……」 

魔法使い「まだ……やれる……のに……」 

勇者「もう無理ですよ。やめましょう。お二人とも、もう魔力が……」 

僧侶「あぁ……うぅ……」ガクッ 

魔法使い「しっかりして!」 

僧侶「私たち……ここで……終わり……なんですね……」ウルウル 

勇者「残念ですが……治癒する術が無い以上、勝ち目はありません」スッ 

僧侶「……」 

勇者「申し訳ありません。僕が不甲斐ないばかりに……」 

僧侶「いえ……」 




299:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21:34:02.58 ID:hpeqfj4Jo
魔法使い「やめて……」 

勇者「……」 

魔法使い「アンタはいつも諦めなかったじゃない……!!」 

勇者「勝算があったからですよ」 

魔法使い「何よ……今はないっていうの……?」 

勇者「はい」 

魔法使い「どうしてよ!?綺麗なお嫁さんと側室を10人はべらせるんでしょ?!」 

勇者「志半ばで力尽きる人が殆どですよ」 

魔法使い「なんで……やめて……」 

勇者「本当に申し訳ありません。自分が馬鹿なことをしなければ、貴方達を巻き込むこともなかったのに……」 

魔法使い「……」 

勇者「僕から処刑しろ」 

神官「……」 

魔法使い「本気なの……」 

僧侶「勇者様……」 




300:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21:38:30.61 ID:hpeqfj4Jo
長老「観念したのか……致し方ないな……。所詮は人間だったか……」 

エルフ「……」 

神官「処刑容認」スッ 

勇者「魔法で殺すのか……?」 

神官「肯定」 

勇者「できるだけ痛くないように頼みます」 

神官「了解」 

勇者「ふぅー……」 

魔法使い「いや……だ……め……」 

僧侶「……」 

神官「―――爆破」 

勇者「……っ」 

僧侶「―――やめてぇ!!!」バッ 

神官「!?」 

ドォォォン!!! 




301:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21:43:23.75 ID:hpeqfj4Jo
魔法使い「なっ……!!」 

長老「どうした!!」 

エルフ「庇ったの……?」 

僧侶「ぅ……ぁ……」 

勇者「……!!」 

神官「失敗」 

勇者「……」 

魔法使い「いやぁぁぁ!!!!」 

神官「処刑開始」スッ 

勇者「くっ……!!」ジリジリ 

神官「撤退不可。抵抗無意味」スタスタ 

勇者「……っ」 

魔法使い「あぁ……ぁ……!!!」ガクガク 

神官「処刑開始」スッ 

勇者「……」 




303:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21:50:17.96 ID:hpeqfj4Jo
僧侶「……」スクッ 

長老「なに?!」 

エルフ「え……!?」 

神官「……?!」バッ 

僧侶「……」 

神官「理解不能……!!」スッ 

勇者「―――でぁぁぁ!!!」 

神官「……!!」 

勇者「あぁぁぁぁ!!!!」ザンッ 

神官「はっ……ぁ……!?」 

勇者「はぁ……はぁ……戦闘中に背中を向ける奴が……あるか……ど素人め……!!」 

魔法使い「え……どうして……?」 

僧侶「や……やりま……し……」フラッ 

勇者「危ない!!」パシッ 

僧侶「ゆう……しゃ……さま……」ニコッ 




306:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21:56:27.63 ID:hpeqfj4Jo
長老「馬鹿な……神官の魔法を受けて……立ち上がるなんて……!!」 

勇者「彼女は常に治癒魔法が漏れている状態なんです」 

エルフ「え?」 

勇者「だから、魔力さえ残っていれば自動的に自分を治癒する」 

魔法使い「でも……もう治癒できるだけの魔力は……」 

勇者「魔力を回復させれば問題はありません。たとえ雀の涙ほどでも魔力があるなら、多少なりとも傷は癒えます」 

魔法使い「それはそうだけど……どうやって回復させたわけ……?」 

勇者「大丈夫ですか?」 

僧侶「気絶しなかったのが……奇跡……ですね……」 

勇者「本当に。だから、危ない賭けでした」 

僧侶「ふふ……私でも……お役に……立て……ましたか……?」 

勇者「ええ……」 

僧侶「うれ……し……ぃ……」 

魔法使い「大丈夫なの!?」 

勇者「気を失っただけです。問題ありません。でも、絶対安静ですね……」 




307:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22:02:11.87 ID:hpeqfj4Jo
長老「馬鹿な……人間に……負けるとは……」 

エルフ「こんなことって……」 

勇者「まずは彼女の休む場所を用意してください」 

魔法使い「大丈夫!?ねえ!!」 

僧侶「うぅ……」 

勇者「魔力はもう残っていないでしょうね。傷が殆ど癒えていない」 

長老「そんな……こんなことあってはならん……!!」 

エルフ「長老……」 

長老「人間に……我々が……!!」 

エルフ「長老、しっかりしてください」 

勇者「慢心した結果だ。人間は貴方たちが思っているほど、弱くはない」 

長老「数の暴力しか知らぬ……野蛮な種族……のはず……なのに……」 

勇者「お願いします。今は一刻も早く、彼女を休ませてあげたいのです」 

エルフ「……こちらに」 

僧侶「ぁ……ぅ……」 




308:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22:05:01.60 ID:hpeqfj4Jo
―――エルフの家 

エルフ「……」パァァ 

僧侶「うぅ……ぅ……」 

エルフ「これで大丈夫でしょう」 

勇者「本当ですか?」 

エルフ「ええ」 

魔法使い「よかったぁ……」 

エルフ「だけど、しばらくは安静にしておかないと……」 

勇者「……」 

エルフ「それでは、ボクはこれで」 

勇者「待ってください」 

エルフ「なに?」 

勇者「……ありがとうございました」 

エルフ「……ごゆっくり」 

勇者「……」 




309:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22:10:35.29 ID:hpeqfj4Jo
僧侶「すぅ……すぅ……」 

魔法使い「本当によかった……」 

勇者「いやー、死ぬかと思いましたね」 

魔法使い「ねえ……どういうことなの?この子は魔力がなくなってたはずなのに」 

勇者「以前、彼女に携帯させた物を使ったのですよ」 

魔法使い「え?」 

勇者「すぐに魔力が枯渇する彼女にとって最大の武器に成り得る……これを」スッ 

魔法使い「それ……非常食?」 

勇者「僕を庇う直前に食べるように言っておきました。魔力は睡眠か食事を取ることで回復するとのことですので」 

魔法使い「死んだらどうするつもりだったの?」 

勇者「そのときは……諦めるしか……」 

魔法使い「……」 

勇者「申し訳ありません。僕は最低の手段を選び、彼女を危険に晒しました。どんな罰も受けるつもりです」 

魔法使い「私に言われても……困るわ……」 

勇者「申し訳……ありません……」 




310:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22:18:44.04 ID:hpeqfj4Jo
―――長老の家 

長老「魔王様……」 

魔王『結果は?』 

長老「勇者は生きております」 

魔王『殺し損ねたか。下等種族では荷が勝ちすぎていたか?』 

長老「勇者らの体質を知っていれば、負けはしませんでした」 

魔王『言い訳はよい。して、体質とはなんだ?』 

長老「勇者は魔法の類を一切使えぬ人間であり、剣術に長けています」 

魔王『ふむ……』 

長老「そして二人の術者ですが……こやつ等が一癖ありまして……」 

魔王『早く言え』 

長老「一人は魔力の放出ができず、相手に接触しなければ傷を負わせることが叶いません」 

長老「治癒魔法を操る者は常に魔力が漏れている状態で、魔力が尽きぬ限りは自身と自身に触れた者を癒します。ですが、魔力はすぐに尽きてしまいます」 

魔王『欠陥の特異体質というわけか。ふはははは……そうか……感謝するぞ、エルフの長よ。これで我の勝利は約束された』 

長老「はい……」 




311:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22:24:08.84 ID:hpeqfj4Jo
―――エルフの家 

僧侶「……」 

勇者「……」 

魔法使い「いい加減、休んだら?」 

勇者「……」 

魔法使い「目が覚めるまでもう少しかかるわよ」 

勇者「ですが……」 

魔法使い「いいから。もしかしてアンタ、無意味に服を脱がせたりしようなんて考えてないわよね?」 

勇者「そんなこと考えていません」 

魔法使い「本当かしらぁ?」 

勇者「僕の所為で……彼女は……」 

魔法使い「……いいから、休んで。アンタだって、傷ついてヘトヘトのはずよ?」 

勇者「……」 

魔法使い「これは命令。休め」 

勇者「わかりました……」 




313:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22:31:15.38 ID:hpeqfj4Jo
―――エルフの里 

勇者「……」 

エルフ「何をしている?」 

勇者「……」 

エルフ「怒っているの?」 

勇者「はい」 

エルフ「でも、貴方たちだってボクたちに対して……色々と酷い仕打ちを……」 

勇者「自分が許せません」 

エルフ「え……?」 

勇者「僕が囮になるべきだった……!!」 

エルフ「……」 

勇者「生き残れる可能性があると分かったとき……僕は最も可能性が高い方法を手にとってしまった……」 

勇者「二人を守る立場にいる僕が……」 

エルフ「でも、誰が囮になっても失敗したらみんな死んでいた。なら、成功率が高い手段を選ぶのは当然だと思うけど……」 

勇者「誰が囮になってもよかったのなら……僕がなるべきだったんです……!!」 




314:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22:38:47.20 ID:hpeqfj4Jo
エルフ「……」 

勇者「すいません。貴女にこんなことを言っても……仕方ないですね……」 

エルフ「別に……」 

勇者「……」 

エルフ「貴方達三名は現時刻をもって、解放されることになりました」 

勇者「ありがとうございます」 

エルフ「できればすぐにでも立ち去ってもらいたいのですが」 

勇者「それは……」 

エルフ「わかっています。一人は重傷ですから、暫くの間は面倒を見ます」 

勇者「もしかして僕だけを……?」 

エルフ「ええ。元はといえば、貴方が騒ぎを大きくしたわけですから。貴方がこの里からいなくなれば、誰も文句はいいません」 

勇者「わかりました。なら彼女たちだけでも―――いや、それはしないほうがいいですね……」 

エルフ「え?」 

勇者「こちらの弱点は魔王を通じて他の魔族にも伝わっているはず。彼女たちだけを置いていくことは……もう出来ません」 

エルフ「そうですか……」 




315:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22:44:35.08 ID:hpeqfj4Jo
勇者「……」 

エルフ「道中、お気をつけて」 

勇者「はい?」 

エルフ「それでは」 

勇者「ちょっと待ってください!!」 

エルフ「なんですか?」 

勇者「おかしいなことを言わないでください」 

エルフ「は?」 

勇者「貴女がどうして旅の成功を祈る側にいるのですか?」 

エルフ「だって……」 

勇者「貴女は祈られる側ですよね?」 

エルフ「なんで?!」 

勇者「あれー?約束……忘れたなんて言わないですよね?誇り高きエルフ族が、そんな馬鹿なこと……」 

エルフ「な、なんのこと……?」 

勇者「僕たちが勝てば貴女は僕の側室になるって約束……しましたよね?」 




316:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22:49:36.00 ID:hpeqfj4Jo
エルフ「あ……!!!」 

勇者「ぬほほぉ!!」 

エルフ「ボクは……!!」 

勇者「ダメ」 

エルフ「待って!!ボクはエルフだ!!人間と関係を持つことは許されない!!そういう戒律がある!!」 

勇者「あっそ。いや、でも、約束は守ってくださいね」 

エルフ「待って!!エルフ族に伝わる妖精の剣と鎧を貴方に差し上げるから!!!」 

勇者「そんなのいりません」 

エルフ「じゃあ、盾もつける!!」 

勇者「いりませんて」 

エルフ「兜もあげるぅ!!!」 

勇者「僕はね……貴女が欲しいのですよ」キリッ 

エルフ「そんなぁ……」 

勇者「では、すぐに支度を整えてください」 

エルフ「待って!!お願い!!あれはなかったことにぃ!!!」 




317:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22:58:15.98 ID:hpeqfj4Jo
―――エルフの家 

魔法使い(アイツ……大丈夫かしら……) 

魔法使い(すごく自分を追い詰めてたみたいだけど……) 

魔法使い「はぁ……ああいうとき……どう声をかけたらよかったの……?」 

魔法使い「ねえ……?」 

僧侶「すぅ……すぅ……」 

魔法使い「私って……やっぱり……ダメね……」 

魔法使い「気の利いたことも言えないなんて……」 

勇者「ただいま戻りました」 

魔法使い「あ。さっきは―――え?」 

エルフ「おねがいしますぅぅ!!!許してくださぁぁぁい!!妖精の妙薬もあげますからぁぁぁ!!!」ギュゥゥゥ 

勇者「だから、貴女以外いらないのですよ。分からない人ですねぇ」 

エルフ「戒律を破るとボクが処刑されるんですよぉ!!!」 

勇者「なら僕が生涯をかけて匿ってあげます。ほら、解決した」 

エルフ「ちがうぅぅ!!!そういう問題じゃないぃぃ!!!」 




320:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23:06:56.47 ID:hpeqfj4Jo
魔法使い(元気そうね……) 

勇者「まだ、目覚めてないのですか?」 

魔法使い「ええ」 

勇者「少々酷ですがいつでもここを発てるようにしておいてください」 

魔法使い「え……!!でも!!」 

勇者「エルフ族は仲間意識が非情に強いですから。ここに留まることは危険です。色々と」 

魔法使い「それって……他の魔物を呼んで私たちを……」 

エルフ「そんなことはしない!!」 

魔法使い「でも……魔族は魔族でしょ?―――あと、ソイツから離れてくれない?」 

エルフ「あ……」パッ 

勇者「ちっ」 

エルフ「我々は人間と友好関係を築いていた過去がある。そのため、他の魔族からは敵視されているぐらいだ」 

魔法使い「じゃあ、魔王とも敵対関係なの?」 

エルフ「中立……といいたいところだけど、魔王が何か命令してきたら逆らえない。逆らえばきっと……一族が滅びるから」 

勇者「それは酷い。こんなに美しい一族を葬るなんて……魔王!!許さん!!」 




321:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23:13:41.27 ID:hpeqfj4Jo
魔法使い「まあ、いいわ。要するに魔王には絶対服従なのね?」 

エルフ「……」 

勇者「僕たちは魔王に目をつけられていますからね。処刑命令が出てもおかしくありません」 

魔法使い「わ、私は嫌よ!!もう一度、エルフと戦うなんて!!」 

勇者「それは僕もです。だから、彼女が目覚め次第、いつでも動けるようにしておきましょう」 

魔法使い「……仕方ないわね」 

勇者「貴女もですよ」 

エルフ「ちょっ……!?」 

魔法使い「え?どういうこと?」 

勇者「彼女とは約束しましたからね。僕たちが勝てば僕の側室になると」 

魔法使い「あー……」 

エルフ「だ、だからぁ!!!あれはその場の勢いで……!!!」 

勇者「約束も守れないのか!!!それでも誉れ高きエルフ族か?!えぇ!!おい!!!こっちは命かけたんだ!!お前も命かけろ!!!」 

エルフ「め、めちゃくちゃじゃないですか……」ウルウル 

勇者「おっと。すいません。つい熱くなってしまいました。でも、大丈夫です。僕の側室になれば将来は約束されたようなものですから」 




322:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23:18:56.07 ID:hpeqfj4Jo
エルフ「いやぁ……なんで……こんなことにぃ……」メソメソ 

勇者「僕に惚れられたのが運の尽きですね」 

エルフ「全くです……」 

魔法使い「ちょっと……ということは、このエルフもこれから一緒に行動するの?」 

勇者「はい」 

魔法使い「それって……あの……」 

エルフ「あの……妖精の笛もつけますから」 

勇者「そんなに嫌ですか?」 

エルフ「はい……」 

勇者「わかりました……」 

エルフ「えっ?!」 

勇者「そこまで嫌だというなら……僕も考えましょう」 

エルフ「ほ、ほんとうに?!」 

勇者「無理強いなんてさせたくありませんからね」 

エルフ「よ、よかった……理解ある人間で……」 




323:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23:25:45.47 ID:hpeqfj4Jo
勇者「貴女が一緒にこないというなら、僕たちはこの里のことを号外で人間たちに伝えます」 

エルフ「えぇぇぇ?!」 

魔法使い「それは流石に……!!」 

勇者「そうなったらこの森に何万という人員が投入され、貴方達は……喰われますよー!!がおー!!!」 

エルフ「いやぁぁぁ!!!」 

勇者「さぁ!!!どうする?!貴女一人が犠牲になって里を救うか、それとも人間たちから逃げ隠れる道を選ぶか!!!」 

エルフ「そんなの酷いっ!!」 

勇者「好きなほうを選んでください。無理強いなんてさせたくないですから」 

魔法使い「あんた……悪魔なの……?」 

勇者「さぁ?どうするんですかぁ?」 

エルフ「くっ……」ウルウル 

勇者「ぬほほぉ……」 

エルフ「……ます……」 

勇者「え?」 

エルフ「行きます!!ボクも連れて行ってぇ!!!」 




324:NIPPERがお送りします(岡山県):2012/06/13(水) 23:29:06.34 ID:ZE2EHKqao
容赦なくなってきたな 




325:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23:30:12.87 ID:hpeqfj4Jo
―――夜 

魔法使い「一応、いつでも出発できるようにはしておいたわ」 

勇者「ありがとうございます」 

魔法使い「……」 

勇者「軽蔑しますか?」 

魔法使い「いや……アンタらしくないなと思って……」 

勇者「どうしても必要でした」 

魔法使い「側室に?」 

勇者「……はい」 

魔法使い「あきれた……」 

勇者「……」 

魔法使い「ねえ……それじゃあ……私たちはここまでなの?」 

勇者「え?」 

魔法使い「エルフがいるなら……私たちはいらない……でしょ?エルフ一人で攻撃も治癒もできる……し……」 

勇者「何を言ってるんです?」 




326:NIPPERがお送りします(東京都):2012/06/13(水) 23:30:33.94 ID:wMTPuDUAo
鬼畜にも劣る下種だなこの勇者…… 
やはり変態紳士の名は伊達ではないということか 




328:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23:36:45.33 ID:hpeqfj4Jo
魔法使い「だって……」 

勇者「お二人も必要ですよ。無論、連れて行きます」 

魔法使い「でも……一回、別れてるし……」 

勇者「こうして再会できました。これも赤い糸で結ばれている証拠ですよ」 

魔法使い「はぁ!?」 

勇者「それに一緒に行動してもらわないと困ります。魔王は僕たち三人を狙っているわけですから」 

魔法使い「そうだけど」 

勇者「もう休んでください。彼女の看病は僕が引き受けましょう」 

魔法使い「……」 

勇者「どうしました?」 

魔法使い「あ……ありがとう……」 

勇者「何に対してですか?」 

魔法使い「バーカ」 

勇者「……?」 

勇者「まあ、いいか」 




329:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23:41:56.00 ID:hpeqfj4Jo
勇者「……」 

僧侶「……」 

勇者「……申し訳……ありません……」 

僧侶「……勇者様……自分を責めないでください……」 

勇者「……!!」 

僧侶「あのときはああするしか……無かった……」 

勇者「しかし……」 

僧侶「貴方は最善の策を……」 

勇者「違う。貴女を危険に晒すことなく突破できた……のに……」 

僧侶「それだと……勇者様が……私のような目に……」 

勇者「……」 

僧侶「いつもそうですね……」 

勇者「なにがですか?」 

僧侶「貴方はいつも……全部一人で解決しようとしていました……。わざと別行動をとったのも……」 

勇者「やめてください。あれは僕の失言が原因です。意図もなにもありません」 




331:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23:53:07.42 ID:hpeqfj4Jo
僧侶「エルフを探そうと考えたのは……私たちだけではドラゴンに……魔王に勝てないと判断したからですよね?」 

勇者「魔王。今まで誰も魔王と対峙することが叶わず散っていったために、その力は未知数でした」 

勇者「ですが、おとぎ話の怪物を従えていると分かり、愕然としました。恐らく……いや、確実に人間では敵わないと悟った」 

僧侶「……」 

勇者「貴女たちの能力が劣っているから、僕が勇者としては未熟だからなんて理由ではない。絶望的な力の差がある」 

僧侶「だから……私たちを突き放して……同じおとぎ話のエルフ族を仲間に……?」 

勇者「貴女たちの目的が復讐だと聞き、きっと簡単には別れてくれないと思いました。だから……」 

僧侶「勇者様……」 

勇者「あの時は酷いことを……そしてこの度も……」 

僧侶「よかった……」 

勇者「何がでしょうか?」 

僧侶「少しだけ……あれは本心だったのではないかって疑っていました……でも……勇者様はやはり……お優しい……」 

勇者「……」 

僧侶「好きです……そんな勇者様が……。だから……傍にいさせてください……」 

勇者「……何を言っているのですか。貴女は側室候補。傍にいてもらわないと僕が困りますよ、はい」 




332:NIPPERがお送りします:2012/06/14(木) 00:03:19.30 ID:hpeqfj4Jo
僧侶「ふふ……嬉しい……」 

勇者「え?」 

僧侶「私は側室で構いません……よ……?」 

勇者「えっ?」 

僧侶「……」 

勇者「あの……」 

僧侶「すぅ……すぅ……」 

勇者「……おやすみなさい」 

エルフ「あのー」 

勇者「おや、どうされました?」 

エルフ「いつ出発するの?」 

勇者「明朝にします」 

エルフ「わかった。ボクは森の外で待ってるから……」 

勇者「こっそり出るのですね」 

エルフ「当然でしょ!?見つかれば極刑だし……。もうこの里には戻れないし……うぅ……」ウルウル 




339:NIPPERがお送りします:2012/06/14(木) 23:26:18.34 ID:hpeqfj4Jo
―――翌朝 

魔法使い「起きて……ねえ……起きて……」ユサユサ 

勇者「ん……?」 

魔法使い「ほら、顔でも洗ってきて」 

勇者「あ……はい……」 

魔法使い「もう……」 

僧侶「おはようございます」 

勇者「おお!!もう大丈夫なのですか?」 

僧侶「はいっ。勇者様が一晩中、お傍にいてくれたおかげです」 

勇者「それはよかった」 

僧侶「ふふ……」 

勇者「……」 

僧侶「あの……なにか?」 

勇者「いえ。では、洗顔してきます。そのあと、すぐに出発しましょう」 

僧侶「はい」 




340:NIPPERがお送りします:2012/06/14(木) 23:32:59.69 ID:hpeqfj4Jo
魔法使い「顔色もいいし、もう大丈夫みたいね」 

僧侶「ご心配をおかけしました」 

魔法使い「いいのよ。―――それよりも……アイツが心配だわ」 

僧侶「勇者様がですか?」 

魔法使い「あんたを傷つけたって、すごく落ち込んでたから」 

僧侶「そうみたいですね……」 

魔法使い「まだ引き摺ってなきゃいいけど……」 

僧侶「……」 

勇者「―――お待たせしました」 

魔法使い「はい、荷物」 

勇者「ありがとうございます」 

魔法使い「さ、行きましょ」 

勇者「そうですね。きっとボクっ娘さんも待っていますし」 

僧侶「え?誰ですか?」 

魔法使い「エルフよ。こいつ、ついに人外にまで手を出したのよ。呆れちゃうでしょ?」 




341:NIPPERがお送りします:2012/06/14(木) 23:39:13.91 ID:hpeqfj4Jo
僧侶「その方も……側室候補なのですか?」 

勇者「はい」 

僧侶「そうですか」 

魔法使い「それだけ?もっと批難すべきよ、これは」 

僧侶「いえ。人間とエルフの恋は実際にあったと聞きます」 

魔法使い「え?」 

僧侶「それは悲恋だったようですが……。でも、勇者様ならきっとエルフとも純愛を貫けると思います」 

魔法使い「ちょっと!!側室10人って時点で不純じゃないの!!」 

僧侶「私は……勇者様のお傍に居られたら……」 

魔法使い「はぁ?!」 

僧侶「あ……すいません。失言ですね」 

魔法使い「……」 

勇者「ふっ。僕は正妻と10人の側室を区別しません。変わらぬ愛情を注ぐ覚悟があります」 

僧侶「それで十分です……勇者様……」 

魔法使い「あの……え……?」 




342:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00:03:53.80 ID:hpeqfj4Jo
―――エルフの森 

勇者「それでは色々とお世話になりました」 

僧侶「ありがとうございました」 

魔法使い「本当、色々とお世話になったわね」 

長老「……もう会うことはないだろう」 

勇者「あの、一つだけよろしいですか?」 

長老「なんだ?」 

勇者「この里、随分と見つかりやすい場所にあったようですが……今まで、人間に見つかったことはないのですか?」 

長老「おぬしらが倒した神官たちの力を合わせれば、結界を張り集落そのものを不可視にすることも可能だ」 

魔法使い「不可視ですって?」 

僧侶「そんな……でも……私たちには今もこうして見えてますよね?」 

勇者「そのようなことができるのに、僕たちの侵入を許したのですか?」 

魔法使い(そうよね。こんなにあっさり見つけられるんじゃ、大勢の人間に見つかっているはず……) 

長老「……」 

勇者「やはり魔王ですか?」 




343:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00:12:55.34 ID:hpeqfj4Jo
長老「魔王から勇者一行が近くにいると伝えられた。そして勇者が目の前に現れれば、その能力を測れともな」 

勇者「やはりそうでしたか」 

長老「初めは一人だけだったから、また我らの身柄を狙う不貞の輩と思ったがな」 

勇者「不可視にできるのに拉致されるのですね」 

長老「人物そのものを透明にすることはできん。特定の場所に結界を張ることで初めて不可視になるのだからな」 

勇者「透明人間……というわけではないと?」 

長老「そんな魔法ありはせん。誘拐されるエルフは決まって狩りの最中だからな。結界の中に居続けるのは難しいからな」 

勇者「優秀な神官がいるからこそ広範囲で不可視にできるが、個人だと範囲が狭まると?」 

長老「そういうことだ。その範囲も人一人で限界だろう」 

勇者「……」 

魔法使い「覗きに使えるとか思ってないでしょうね?」 

勇者「どうして僕はエルフじゃないのでしょうか。神様は酷いことをしますね」 

魔法使い「この……!!」 

長老「さぁ、もういいだろう。早く行ってくれ」 

勇者「はっ。それでは、お元気で」 




344:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00:19:39.30 ID:hpeqfj4Jo
勇者「里が見えなくなっていく……」 

僧侶「すごい……」 

魔法使い「あー!!!」 

勇者「どうしました?下着を着忘れたとか!?」 

魔法使い「違うわよ!!私たちの重大な欠点を直して貰うっていう目的があったじゃない!!」 

僧侶「そうでした。色々あって忘れていましたね」 

勇者「欠点?」 

魔法使い「魔力を上手くコントロールできるようになるかもって思って、私たちはこの森にきたのよ」 

勇者「僕の側室になるために追ってきたのではないのですか?」 

魔法使い「違うわよ!!あんたからも言ってあげて!!」 

僧侶「……」モジモジ 

魔法使い「え?」 

勇者「まあまあ、とにかく今は森を出ましょう。―――外でエルフが待っているのですから」 

魔法使い「そうよ……そうだったわ。エルフが仲間になったのよね」 

僧侶「そうですね。ボクっ娘さんというエルフが仲間になってくれたのなら、私たちの欠点を改善することも―――」 





345:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00:24:35.00 ID:hpeqfj4Jo
―――フィールド 

エルフ「無理」 

魔法使い「え……」 

僧侶「本当ですか?」 

エルフ「貴女たちはそういう特異体質だから。魔力を調整することで改善されることはないよ」 

魔法使い「そんなぁ……」 

勇者「残念でしたね」 

魔法使い「他人事だと思って……!!」 

エルフ「でも……補強はできるかもしれない」 

僧侶「補強?」 

エルフ「定期的に魔術による補強を行えば魔力が一時的に漏れないようにすることはできる」 

魔法使い「それでもいいわ」 

僧侶「お願いします」 

エルフ「かなり面倒だけど……。まあ、これから先のことを考えれば―――」 

勇者「ゆるさんっ!!!!」 




346:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00:30:50.22 ID:hpeqfj4Jo
魔法使い「なっ?!」 

僧侶「ひぐっ」ビクッ 

エルフ「どうして?」 

勇者「ならん!!!お母さんから貰った体を大切にしないやつなんて、俺は嫌いだ!!!」 

魔法使い「何言ってるのよ?!旅を続けるなら―――」 

勇者「ダメー!!!!絶対にノー!!!ノォォォ!!!!」 

エルフ「ど、どうしてそこまで……」 

僧侶「勇者様……?」 

魔法使い「どうしてよ!?私たちが一般的な魔力の扱い方ができれば、戦いだって劇的に楽になるわよ?!」 

勇者「貴女たちの体質が改善される……それすなわち、他の魔法使いや僧侶と同じになるということ」 

僧侶「そ、そうですね」 

勇者「つまり、治癒をするとき対象の人物に触れなくても大丈夫になるってことですね?」 

僧侶「はい」 

魔法使い「いちいちくっつきに行くのはタイムロスだし、離れた場所からでも治癒ができるって相当いいことじゃない」 

勇者「没個性じゃん!!!なにいってんのぉ?!」 




347:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00:37:05.33 ID:hpeqfj4Jo
エルフ「没個性って……。そんな考えで魔王と戦うつもりだったの?」 

勇者「何か問題でも?」 

エルフ「いや……」 

魔法使い「ちょっと。アンタの足りない脳みそでよく考えなさいよ」 

勇者「僕の頭には欲望がぎっしり詰まってますが」 

魔法使い「いい?私たちは基本的に前線で戦えない」 

勇者「当然です。前に出て戦うのは僕の役目ですから」 

魔法使い「でしょ?なら、離れたところから治癒ができるってすごく便利よね?」 

勇者「そうですね」 

魔法使い「分かってくれたのね」 

勇者「はい」 

魔法使い「じゃあ、補強を―――」 

勇者「ならんっ!!!」 

魔法使い「なんでよ?!」 

勇者「するなら魔力が漏れないようにするだけ!!治癒は今までどおり抱きつかないとできないようにしなさい!!!」 




348:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00:42:48.41 ID:hpeqfj4Jo
魔法使い「なんの解決にもならないでしょ!?」 

僧侶「それに魔力の漏れを防いでしまうと、密着しての治癒は不可能になりますよ」 

勇者「そうなのですか?!じゃあ、だめ!!今のままでいい!!自然体っていいですよね!!!」 

僧侶「え……」 

勇者「ね!?」 

僧侶「は、はい……」 

勇者「さあ、いざ行かん!!魔王の城!!!」 

エルフ「え?結局、補強はしなくてもいいってこと?」 

魔法使い「ちょっと!!デメリットが消せるのよ!?」 

勇者「黙ってくださいよぉ!!」 

魔法使い「拒む理由を言って!!」 

勇者「理由?そんなの……一つしかないですよ……」 

エルフ「あ……もしかして、二人の特異体質を利用して相手の意表を突く作戦を色々考えているとか?」 

魔法使い「そうなの?」 

勇者「違う。―――僕がぁ!!!いや、俺がぁ!!!合法的に女体に触る機会が減るでしょう!?分かってくださいよぉ!!!」 




351:NIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/06/15(金) 00:46:44.42 ID:HYAX4iBoo
ゲスっぷりが素晴らしいな 




352:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00:50:48.30 ID:hpeqfj4Jo
エルフ「は……?」 

勇者「普段からガード固いくせに……更に強化するとか……マジで勘弁してくださいよぉぉ……」ウルウル 

魔法使い「……」 

僧侶「勇者様……私に抱きつかれるの……お嫌いじゃないんですか?」 

勇者「なんで?!むしろ好きですよぉ!!!」 

僧侶「そ、そうですか……よかった……」ホッ 

魔法使い「待って」 

勇者「なんですか?」 

魔法使い「あの……その……なんて言ったらいいか……分からないんだけど……」 

エルフ「サイテー……こんな人間が勇者って……」 

僧侶「あの……きっと勇者様にもお考えがあってのことでは?」 

魔法使い「考えって!!たった今、本音を語ったじゃない!!!」 

僧侶「目に見えること全てが本質とは限りません」 

エルフ「やけに肩持つね。何かあったの?」 

僧侶「い、いえ……私は勇者様のことを信頼しているだけでして……」 




353:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00:59:09.07 ID:hpeqfj4Jo
勇者「流石ですね。貴女の側室度が5ポイント上がりました」 

僧侶「わーい」 

魔法使い「ちょっと!!!なによその不愉快なポイントは!!」 

勇者「ええい!!とにかく、今のままで何も問題はありません!!!」 

魔法使い「嘘でしょ……」 

勇者「本当です」 

エルフ「ボクはどっちでもいいけど……どうする?」 

勇者「……」 

魔法使い「……私はまだいいわ。でも、こっちはどうするのよ」 

僧侶「わ、私ですか?」 

魔法使い「この子は常に魔力が漏れている状態、休んだり食事をとったりしないと1時間ほどで魔力が無くなるのよ?」 

勇者「……」 

魔法使い「今後、内部が複雑な塔や洞窟を探索するようなことがあればどうするの?」 

勇者「そのためにエルフ族を仲間にしたのですが?」 

魔法使い「おい!!!いい加減にしなさいよ!!!」 




354:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 01:07:07.62 ID:hpeqfj4Jo
僧侶「えっと……勇者様……私は……不必要ということですか?」 

勇者「何を言っているのですか。貴重な側室候補なのに、必要ですよ」 

僧侶「ゆうしゃさまぁ……」 

エルフ「あのー……」 

魔法使い「あのねえ!!!!」 

勇者「とまあ、冗談はこれぐらいにして」 

エルフ「どういうこと?」 

勇者「定期的に魔術を施しても一時的にしか効果が得られないのであれば、労力の無駄遣いでしょう」 

エルフ「それは……」 

魔法使い「……」 

勇者「もっと効率のいい方法はないですか?―――例えば普段は魔力漏れを完全に遮断し、治癒が必要なときだけそれを解放させるとか」 

僧侶「いいですね」 

勇者「ええ。それなら長時間の活動もできるようになります」 

エルフ「なるほど。うん。それなら魔力を封じる装飾品を身につければできるかもしれない」 

魔法使い(反論したいけど……できないわ……悔しい……) 




355:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 01:13:48.05 ID:hpeqfj4Jo
勇者「では、その方法で試してみましょう」 

エルフ「わかった。じゃあ、作業に集中できる場所に行きたいのだけど」 

勇者「それなら街に向かいましょう。宿屋で道具の製作を」 

エルフ「街……か……」 

勇者「……?」 

僧侶「この道をまっすぐいけば着くはずです」 

魔法使い「これからのこともそこで考えたほうがいいわね」 

勇者「はい。情報収集もしないといけませんし」 

僧侶「あの……勇者様」 

勇者「なんでしょうか?」 

僧侶「人身売買を行っている組織のことご存知ですか?」 

勇者「人身売買?」 

魔法使い「ちょっと」 

僧侶「今から行く街にその組織があると……噂で……」 

勇者「……」 




357:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 01:21:20.79 ID:hpeqfj4Jo
魔法使い「それ今、言っても仕方ないでしょ?」 

僧侶「でも、私は放っておけません」 

勇者「人身売買……ですか。組織ぐるみでそんなことを」 

僧侶「もしかしたらエルフ族を拉致している人もいるかもしれません。いえ、きっと居ます」 

エルフ「だろうね。人間はそういう生き物だ。見方によってはボクだって誘拐されたようなものだし」 

勇者「営利誘拐です」 

エルフ「はっきり言わないで」 

勇者「わかりました。勇者としてもそのような非人道的行為を看過することは出来ません」 

僧侶「ありがとうございます」 

魔法使い「でも、裏世界の話よ?どうやって調べるの?」 

勇者「裏世界の人物に聞けばいいだけの話です」 

僧侶「どうやって……?」 

勇者「こちらには今、いいエサもありますし。ね?」 

エルフ「え?」 

魔法使い「まさか……」 

 

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最終更新:2013年06月01日 00:47