夏草、夢の跡
奥平の駅にある、枕木を数本束ねてレールの上に置いただけの粗末な車止め、その先にもしばらくレールは続いている。
放棄されて幾星霜、枕木はとうに朽ち果て土に還り、赤茶けた錆に覆われた二条のレールだけが、森の中を延びてゆく。
この鉄道が出来た頃は、鉄道を谷のさらに奥地へ向けて敷く計画があったと聞く。
鉄路の目指す先が鉱山なのか原生林なのか、はたまた山を越えて村や町を繋ぐ筈だったのか。
また、その計画がなぜ日の目を見なかったのか、今となってはそれすらもわからない。
ただただ、草叢に覆われ、森に呑まれゆく線路が、忘却の彼方に置き去りにされた計画の存在を語り継いでいく。
最終更新:2013年06月10日 20:56