それは四メートルはあろうかという魚だった。
一対の長い髯を生やした怪魚が、宙をのたくりながらゆっくりと降下してくる。やがて
地上へと舞い降りた巨大魚は、そのまま月長の周辺をグルグルと旋回し始めた。
異様な光景だった。
紫の美しい鱗に覆われた全身をくねらせ、怪魚は水もない空間を遊泳している。よく見
るとその体は薄く透過しており、グラデーションのように尾ビレが消失していた。
強烈な発光と共に、全身が膨張する。一対の長い髯が二対となり、天に向けて逆立つ。
胸ビレは翼のごとく鋭利に伸張し、飛行機のようなフォルムになっていた。
滝を逆さにしたような凄まじい水流が、考巳たちの半径三メートルほどの空間を切り取
るように呑み込む。まるで水のシェルターだった。