ひどく現実離れした御伽噺だが、その魔女は自分が蒐集していたアンティークに魔術を
かけるために、自らの血を分け与えた。
その数、実に九十九。
そして魔女の死後──彼女の血を分け与えられたことで魔力が宿ったアンティークたち
は、《魔女の遺産》と呼ばれ、この街のあちこちで奇怪な事件を起こしている。
「落ち着いて、冬夜くん。今から色々説明するから。まず、ウィッチクラフトはこの音原
市から出ることができないんだ。魔女が生前に張った結界のおかげで」
「結界って……要は、ウィッチクラフトを街の外に逃がさないようにしたのか?」
「遺産No.っていうのは、九十九のウィッチクラフトがすべて揃ったときに魔女がそれ
ぞれに与えた数字のこと。能力はどうあれ数字が若いほどたくさんの血液が使われていて、
その分多くの魔力が込められている。いわば、序列みたいなものかな」
「そう。第二段階になったら、ウィッチクラフトの意志が所有者の精神に何らかの影響を
与えるかもしれない」
「じゃあ、第三段階っていうのは……」
「いわゆる、暴走ね。自分の精神を完全にウィッチクラフトに支配されて、制御できなく
なる。それに、第三段階が長く続いたら……最悪の場合、所有者は廃人になっちゃう可能
性だってあるの」
段階 | 症状 |
第一段階 | 《蒼柩》なしで道具形態のウィッチクラフトの声が聞こえる |
第二段階 | ウィッチクラフトの意思が使用者に影響を与える |
第三段階 | ウィッチクラフトに洗脳され時間経過と共に廃人 声が性別に関係なくウィッチクラフトの残留思念の声になる |
「せっかくだから教えてあげるよ。冬夜くんも戦闘用のウィッチクラフトが所有者の身体
をある程度強化することは知ってるでしょ? そのおかげで、所有者は常人よりも優れた
治癒能力や運動能力を手に入れることができる。要は、瞬転もそれと同じなんだ」
(中略)
「これは辻峰家に魔女が遺した文献に書かれていたことなんだけど、戦闘用ウィッチクラ
フトは所有者に強化の力を三割程度しか引き出せないようにリミッターがかけられている
の。なぜかと言うと、それ以上引き出したら反動で所有者の身体が壊れちゃうから」