唯「ぎいたにくびったけ!」 ss部のみ その7


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唯「ぎいたにくびったけ!」7

てんこう!

始業式の日、帰り際に梓はクラスメイトが3年に転校してきたという人物の噂をしているのを聞いた。

クラスメイト1「なんかすごく頭がよくて美人らしいよ」
クラスメイト2「でもさ、なんか転校してくる前はあそこのなかよし学校にいたって話なんだけど」
クラスメイト1「え、池沼ってこと!?池沼がどうやって転校してこれるのよ」
クラスメイト2「いや、噂だけど。まあ、まさかね」

梓「まさか…」

梓は純を誘って3年の教室へ行ってみるが、彼女はすでに帰った後だった。律たちの姿もない。
そこでその足で部室に行ってみる。
扉を開けると、そこに彼女はいた。

憂「あ、あずにゃ~ん!ひさしぶりだねぇ」ダキッ
梓「う…唯先輩。どうして」
澪「今日から唯も軽音部に入ったんだよ」
紬「ギターが2本になったから、曲作りの幅が広がるわ~」
律「部費も増えるしな!」
憂「ぶひぶひ~」

律たちは目の前にいる唯という存在を現実として受け止める選択肢をとった。
梓は純と顔を見合わせる。

純「ま、いいんじゃない。じゃあ私、ジャズ研行くね。唯先輩、また」
憂「純ちゃんまたね~」

まあいいだろう。
どんな形であれ憂の幸せがそこにあるなら。私たちはその寸劇に最後まで付き合おう。
そう考える梓だった。

憂「みんながくれたギー太、大切に使ってるよ」

そう言って憂がケースからギターを取り出す。
それを見て梓は息を飲んだ。
本物のギブソンの、レスポールスタンダード。
以前池沼の唯に与えた偽物ではなく。

律「ギターが2人に増えたことだし、それじゃあ早速」
梓「練習ですね!」

梓は顔を輝かせる。以前に憂の演奏を聴いたとき、悔しくてそれまでに増して練習するようになった。
そして、いつか憂と合わせてみたいと思っていたのだ。

紬「お茶にしましょう~」
梓「ですよねぇ~…」

がくさい!

それからは夢のような時間が過ぎていった。
毎日のティータイム、そして練習。
修学旅行。
近所で行われた夏祭りには、憂と梓は2人でユニットを組んで出場した。
合宿でいった夏フェス。その夜皆で見上げた星空。
あっという間に半年が過ぎた。

そして今日。軽音部が「放課後ティータイム」として活動する、最後の学祭のステージ。憂達は顧問のさわ子が徹夜で作ってくれたTシャツを着て、幕が上がるのを待つ。

和『それでは桜高祭の目玉イベント、放課後ティータイムの演奏です!』
律「ハードル上げるな…」

幕が上がる。

律「…って…あれ?」
憂「な何コレー!?」
澪「みんな私達と同じTシャツ着てる…」

客席にいる人たち、ステージの真下に陣取っているクラスメイト達は皆、メンバーと同じTシャツを着ていた。
ステージの袖にいるさわ子がVサインを出す。

憂「さわちゃん…ありがとう…」

憂はあふれ出る涙を押さえ、マイクに向かう。

憂「それじゃあ私たち放課後ティータイムの曲…聞いてくださいっ!!」
 ワァァァァァ

メンバー達は想いの全てを演奏にぶつけた。
それまでにない最高の演奏だった。
観客は皆、彼女達の世界へ引き込まれて行く。
あっという間に時間が過ぎ、最後の曲になった。

憂「それでは最後の曲、聴いてください!」

澪がスランプに陥った時、憂が初めて作詞した曲。
憂はギー太をしっかりと抱きしめ、叫ぶ。

憂「U&I!」
 ウワアアアアア

律のフィルが響き、梓のギターが被さる。
そして憂がありったけの想いを歌に乗せる。

『キミがいないと何もできないよ
 キミのごはんが食べたいよ
 もしキミが帰ってきたら
 とびっきりの笑顔で抱きつくよ』

『キミがそばにいるだけでいつも勇気もらってた
 いつまででも一緒にいたい
 この気持ちを伝えたいよ』

『ありったけの「ありがとう」
 歌に乗せて届けたい
 この気持ちはずっとずっと忘れないよ』

『思いよ 届け』

腫れた秋空に憂の歌が響くのだった。

それからのことはよく覚えていない。
気がつくとメンバーは部室の壁に背をもたれかけ、放心していた。

澪「何かあっという間に終わっちゃったな」
紬「ちゃんと演奏できてたかしら。もう全然覚えてないわ」
律「ていうかTシャツのサプライズでもう全部ふっとんだ!!」
梓「私もですー。もう何が何だか…」
憂「…でもすっごく楽しかったよね!」
澪「うん。ギー太も喜んでるんじゃないか!?」
憂「うん!」

憂はギー太を抱きしめる。
梓はそれを微笑ましそうに見ていたが、やがて意を決したように口を開いた。

梓「…ねえ、憂」

これまでずっと唯として振る舞ってきた憂の名を、あえて梓は呼んだ。
皆の笑い声が不意に聞こえなくなる。
梓は憂の目をまっすぐに見た。

梓「聞こえた?唯先輩の『ありがとう』が」

憂は目を見開く。

梓「私は聞こえたよ。だってあの歌は唯先輩の想い。そうでしょ?」

唯『うーい!ありがとう!(^q^)』

憂は目を細め、唯と最後に交わした言葉を思い返していた。

梓「楽しかったよね。ずっと。軽音部に入って、いっぱい練習して、合宿行って。
そして今日のライブは最高だった。憂は、十分唯先輩を幸せにしたんだよ」

言いながら、梓は自らのツインテールを縛っているヘアゴムを外す。

梓「もう、いいよね。これからは憂自身の幸せを探していこうよ」

憂の前髪をとめているヘアピンを外した。

梓「唯先輩。憂を解放してあげて」

そう優しく言い、ヘアゴムで憂の髪を縛った。

憂「う、うわああああん!!」

憂は梓の胸に顔を埋め、子供のように泣きじゃくった。
梓は憂をしかりと抱きしめる。

梓「おかえり、憂」

傾きかけた夕日が部室を赤く染める。
校舎は文化祭が終わった後の余韻に包まれていた。

 ドーン

窓の外から狼煙の音が聞こえた。
それまで黙って成り行きを見つめていた律が口を開いた。

律「お、後夜祭の時間だな」
紬「行きましょう、梓ちゃん、憂ちゃん」
憂「はい!」

憂は涙を拭き、立ち上がる。

梓「いこっ、憂!純も誘って!」
憂「うん!」

憂は梓に手を引かれ、走り出すのだった。

えぴろーぐ!

平沢憂としての自分を取り戻した憂だったが、社会的にはもう死んだという事実を覆すことはできず、平沢唯として生きていくことを余儀なくされた。
が、憂自身も、梓や純もそれでかまわないと思っていた。

冬、軽音部の3年生はそろって同じ女子大に合格することができた。

憂たちが卒業した後は梓1人だけになってしまった軽音部だったが、純が入部し、新入生も確保することができた。

大学へ行ってしまった憂たちはみな寮に入ったので、今までのように毎日放課後に練習するということができなくなってしまったが、それでも月に2度ほどは会い、放課後ティータイムとしての活動は続けていた。

1年が経ち、梓も憂たちの待つ女子大に入学した。

そして今日、放課後ティータイムはあこがれの舞台に立つ。
若手のバンドフェスに駄目もとで応募したのが、最終審査まで残ることが出来たのだ。
メンバーは最終審査が行われる武道館のステージ袖で、前のバンドの演奏を聴いていた。

律「さすがにみんなうまいなー」
憂「でも、私たちのほうが、もっともっとすごいよ」
澪「そうだな!」
梓「最高のライブにしましょう!」
紬「紅茶とケーキ持ってきたから、終わったらお茶にしましょうね」

いつものHTTだ。
そんな会話を繰り広げている間に前のバンドの演奏が終わり、ステージから降りてくる。

律「おつかれさんっした~」
澪「よし!」
律「行くか!」
紬「お~」

メンバーはステージに向かう階段を登る。
途中で憂が足を止める。
梓が振り返った。

梓「憂…」

梓は憂を促そうとしてやめた。
憂は髪をほどく。そしてポケットから取り出したヘアピンで前髪を留めた。
鏡がないので、梓が階段を下りてヘアピンの位置を直してやる。

憂「ありがとう、あずにゃん」

梓がクスリと笑い、再び階段を登る。

憂「…行こうか、お姉ちゃん」

そう呟くと憂は唯が愛したギー太をしっかりと抱きしめ、まばゆいばかりの照明と歓声の中へ歩き出すのだった。

 ('q')おわり('q')