唯「ぎいたにくびったけ!」 ss部のみ その6

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唯「ぎいたにくびったけ!」(その6) さいかい! 憂「お姉ちゃんたら、どこへ行ったのよ…」 暗くなっても戻らない唯を心配し、憂も家を出た。 おそらく他人にぎいたを見せびらかして褒めてもらうためにどこかへ行ったのだろうが、それにしても帰りが遅すぎる。 唯は池沼なので外出先で様々なトラブルを起こす。コンビニでアイスを万引きしたり、小さい子供からおもちゃを取り上げたりして袋だたきに遭うことも珍しくはなかった。 夜になると気温も下がり、どこかで行き倒れていたりすると命に関わる。 憂「お姉ちゃーん!」 池沼である唯の行動範囲はそれほど広くはない。 おそらく家からなかよし学校程度の距離であろう。 そう推理し憂はそちらの方向へと歩みを進めた。 少し歩くと右手に大きな公園の見えてくる。 と、公園の入り口から2人の少年が自転車で出てきた。 唯が公園へ行った可能性もある。彼らに話を聞こうと近づいたときだった。 小学生A「おいB。お前大丈夫か。池沼って絶対やばい病気とか持ってるぞ」 小学生B「ち、あの豚、トドメさしておくべきだったな。ちょっとAの家で救急箱貸してくれよ。さっさと消毒したいわ」 憂は彼らの話す「池沼」という言葉を聞き逃さなかった。 憂(やっぱりお姉ちゃんは公園にいる!) 憂は駆けだした。 憂「お姉ちゃーん!どこー!?」 必死に叫び、唯を探す。しかし唯の姿はどこにも見当たらない。 と、公園の奥の林の前に来たときだった。 憂「臭い!」 林の向こうから、すさまじい悪臭が漂ってきている。 憂(これは…お姉ちゃんのウンチの臭いだ!) 人生のほとんどを唯の介護に当てている憂である。 オムツも数え切れないほど交換しており、唯のウンチの臭いを嗅ぎ間違うことなどありえなかった。 憂「お姉ちゃーん!」 憂は唯を探して林の中へ入って行く。 暗闇で何度も足を取られながらウンチの臭いをたどって懸命に走る。 憂「きゃっ」 やがて大きく張り出した木の根に躓き、派手に転んでしまった。 憂「痛ーい…」 顔を上げると木々がとぎれて視界が開けた場所に出ていることに気づく。 ウンチの臭いは間違いなくこの辺りから漂ってきていた。 が、唯の姿は見当たらない。 憂「どこにいるのー!でてこないとお仕置きするよー!」 そのとき空を覆っていた雲が切れて月が姿を現し、辺りを明るく照らす。 憂「…え」 憂の視線の先に大きく汚い、悪臭を放つ肉塊が落ちていた。 憂「お姉ちゃん!!!」 仰向けに倒れている肉塊は頭が潰れ、纏っているTシャツはビリビリに破けているが、かろうじて「ハネムーン」という文字が読み取れる。 憂はその肉塊に駆け寄り、服が汚れるのも構わずに抱き上げる。 肉塊はピクリとも動かなかった。 憂「お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!」 憂は半狂乱になりながら肉塊に呼びかけ、何度も揺さぶった。 肉塊の頭は無残に潰れて原型を留めていない。 辺りの地面には粉々になったギターの破片に混じり、頭蓋骨や脳の一部が散乱している。 憂「うああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」 月明かりに照らされ木々に憂の絶叫が響くのだった。 そうさ! それからのことはよく覚えていない。 気がつくと憂は最寄りの警察署で取り調べを受けていた。 虚ろな目をして汚い肉塊を引きずっているところを通報され、保護されたのだった。 取り調べが始まった直後はパニックになり泣き叫んで手に負えなかったが、今は落ち着いてきて、 唯が家を出た経緯や公園の入り口で見た少年達のことも全て話した。 憂「おまわりさん、お姉ちゃんを殺した犯人はあいつらなんです…絶対に死刑にしてください…」 状況や憂が聞いた会話の内容からして、あの2人が唯を殺したのは間違いなかった。それに憂は彼らの名前も人相も覚えており、身元を割るのもそう難しくないと考えた。 この付近の子供達は皆、憂の母校の小学校に通っているのだ。 が、目の前に座っている警察官は信じられないことを口にする。 警察官A「犯人とはどういうことですかな?」 憂「は?」 警察官B「お姉さんの死因は事故死です。犯人などいませんよ?」 憂「な…何を言ってるんですか!?」 警察官A「池沼には判断力がありませんからなあ。ああいう悲惨な事故死はよくあることなんです」 憂「そんな…!?」 警察がそういう結論を出すのも無理はなかった。 何しろ死んだのはただの池沼なのだ。 おまけに唯は何度も問題を起こし、警察のやっかいになっている。 唯の死はむしろ健常者の彼らにとって願ったり叶ったりなのである。 憂「馬鹿なこと言わないでください!事故であんな死に方するわけないじゃないですか!」 警察官B「そう言われましても」 憂「私は犯人を見ているんですよ!」 警察官A「妹さんの聞き違いでしょう」 憂「あなたがたはこんなときにまでお姉ちゃんを差別するんですか!」 当然だった。池沼の存在など、家族の他には人権団体のようなプロ市民くらいにしか価値がない。 だから池沼の家族は追い詰められ、総じてキチガイになるのだ。 取調室という狭い空間でありったけの声を張り上げて池沼の人権を叫ぶ憂は、間違いなくキチガイの顔だった。 憂「池沼だって一生懸命生きているんです!天使なんです!」 警察官たちは顔を見合わせて溜息をついた。 警察官B「唯さんの身体には、致命傷となった頭の傷の他にも、たくさんの暴行の跡がありました」 憂「ほら見なさい!あいつらはどれだけお姉ちゃんを苦しめたっていうの!」 警察官A「いえ、その傷はあの場所でつけられたものではありません。それに、あまりに異質でして」 憂「どういうことですか」 警察官A「鞭の跡ですよ」 憂「!」 警察官A「一番新しいものは死ぬ直前につけられたようですが、唯さんの身体にはそれ以外にもたくさん鞭で叩かれた跡がありました」 警察官B「どうやら唯さんは、日常的に暴行を受けていたようですね」 憂「…」 暴行ではない。躾である。が、そんな話が第三者に通用するはずもない。 警察官B「もしかしたら、その暴行がエスカレートして殺してしまったのかもしれませんなあ」 憂「な…!」 警察官A「日常的に暴行を加えることのできる人間は限られているでしょう」 警察官B「まあもしも仮にこれが殺人だとしたら…いえ、池沼を人と言うのもどうかと思いますが…スピード解決でしょうな」 憂は唇を噛み、立ち上がる。 警察官Aが扉を開けて出口まで付きそう。 警察官A「では、お姉さんの遺体は後ほどお返ししますので」 憂は無言で警察署を後にした。 ただいま! その後憂は警察病院に立ち寄って唯を引き取って家に戻った。 翌朝に霊柩車で家まで届けると言われたが憂は断り、唯をおぶって歩いて帰った。 もう誰にも頼らない。そう誓った。 憂「お姉ちゃん、お帰り。疲れたね」 憂はリビングのソファに唯を寝かせる。 膨らんだオムツを外してウンチまみれのブヨブヨしたお尻を綺麗に拭いて、新品のオムツに交換してやる。 破れたTシャツも脱がせ、一番のお気に入りである「ロマンス」と書かれたものを着せてやった。 憂「ご飯作ったのに冷めちゃったよ。お腹すいたでしょう。今暖めるからね」 そう言い、憂はキッチンへ向かう。 憂「あ、そうそう。今日はお姉ちゃん頑張ったから、ご褒美にアイス食べていいよ」 そう言って憂はキッチンの冷凍庫からガリガリ君のソーダ味を取り出してきて唯の前に置き、また戻って行く。 15分程経つと、リビングのテーブルに2人分の夕食が並んだ。 憂はソファに寝ている唯に、豚の顔が描かれた涎掛けをつけてやる。 憂「じゃあ、いただきます!」 憂は夕食を頬張りながら唯に話しかける。 憂「お姉ちゃん、お手紙ありがとう」 憂「でももっとひらがなの練習しなきゃね」 憂「今日はぎいたを上手く弾けたね」 憂「今度はGを練習しよう」 憂「明日のお弁当はお姉ちゃんが大好きなハンバーグにするよ」 何度も話しかけるが唯は無言だった。 やがて憂は箸を置き、顔を俯ける。 憂「う…う、う、うわああああん!!」 2人だけの空間に、憂の泣き声が響く。 憂「お姉ちゃん、ごめんね、ごめんね。守ってあげられなくて」 何も出来ない池沼。憂がいなければ生きることが出来ない池沼。 ずっと守ってゆくと誓ったのに。 Cっぽいコードを弾けた瞬間、新しい未来が広がったのに。 憂は唯の潰れた頭を抱きしめた。 やがて憂はソファに唯を戻し、顔を上げる。 憂「お姉ちゃん。私たち、まだ幸せになれるかな。…ううん、お姉ちゃんは私が絶対に幸せにする」 憂はお気に入りのヘアゴムを外して髪を解くと、醜く潰れた唯の頭に手を伸ばし、脂ぎったフケだらけの髪からヘアピンを外した。 その夜、憂の住む街で猟奇殺人が2件起こった。 被害者は一家皆殺しにあっており、特に小学生の子供の殺され方はひどく、体中をめった刺しにされた上に頭部を無残に潰されていた。 犯行の数時間前に被害者宅の子供が通う小学校から名簿が盗まれており、事件の関連性が囁かれたが犯人は見つからなかった。 翌朝のマスコミはこぞってこの事件を報道したため、池沼が事故死したというニュースなど新聞の片隅にも載らなかった。 つや! 翌朝の学校は事件の話で持ちきりだった。 憂は朝のHRの時間になっても登校していない。 純「憂が遅刻するなんてめずらしいね」 梓「うん。何かあったのかなあ」 憂が、いつも遅刻ぎみの純よりも遅く登校することなどこれまでなかったので、純と梓は少し心配になる。 その時教室の扉が開いて担任が入って来た。心持ち顔色が悪い。 皆が席に着き、日直が号令をかける。 日直「きりーつ」「れいー」 みなさん「ハヨーザイヤス」 日直「ちゃくせーき」 皆が着席するのを待ち、担任が話を始めた。 担任「もしかしたら、この中にも知っている人もいるかもしれませんが…」 若干言いよどんでいる。昨夜の事件になにか関係があるのだろうか。 やがて担任は意を決したように話を再開する。 担任「昨夜、平沢憂さんが亡くなりました」 梓「な…!」 純「ええっ!?」 教室がざわめく。 純「ば、馬鹿なこと言わないでください!」 純が立ち上がり叫んだ。 梓は呆然としてどうしていいかわからないようだ。 担任「鈴木さん…あなたたちが平沢さんと仲が良かったことも知っているけど…でも、本当なの」 純「そんな…」 梓「…いったいどうして」 梓がやっとのことで口を開く。 担任「事故に巻き込まれたって聞いたわ。…今日、お通夜があるから行ける人はいってあげてね」  バターン! 担任が話し終わるのを待たずに梓が立ち上がり、走って教室を出て行った。 純「あ、梓!待って、私も!」 純もその後を追う。 担任「あ、ちょっと、あなたたち!」 担任は呼びかけたが、元より止めようという気はなかったらしい。そのまま2人を見送った。 15分後、梓と純の2人が質素に喪に服している平沢家に着いた。 純は中学の頃からの友人なので憂に身よりがないことを知っていた。 唯一の身内である姉は重度の池沼だ。 葬儀の準備などは誰が仕切っているのだろうか。  ピンポーン 梓が玄関のチャイムを鳴らす。  ガチャ 暫くした後、玄関の扉が開いた。 梓「え?」 唯「あ、あずにゃんと純ちゃん。来てくれたんだね。学校はどうしたの?」 純「う、憂?」 姿を現したのは髪を下ろしてヘアピンで留めているが、間違いなく憂だった。だが目の前の憂は不思議そうに首をかしげる。 唯「憂は死んじゃったんだよ?私は唯だよ。確かに私たちは似ているけど、間違えないでよぉ」 梓「何を言って…」 唯「とりあえず上がってよ。憂の顔を見てあげて」 天使のような憂とあの肥え太った醜い池沼の唯とでは見間違えるはずがない。 どういうことかわからず2人はパニック気味だったが、憂の言われるままに家に上がった。 和室に簡素な祭壇が作られ、棺が置かれている。 憂は棺のふたを開き、2人を促した。 純「ひっ…ひどい…」 梓「…唯先輩」 唯「きれいな顔してるでしょ。死んでるんだよ、それ」 棺の中にいたのは肥え太った醜い唯だった。 頭はぐちゃぐちゃに潰れ、醜悪さに磨きをかけている。 そして、その頭から伸びている髪の毛は憂がしていたヘアゴムで強引に括られていた。 純「どういうことよ…これ…」 唯「なんか事故に巻き込まれたらしくて。憂は結構おっちょこちょいだから」 純「ふざけないで!」 純が憂の話を遮る。 唯「純ちゃん、憂が起きちゃうよぉ」 梓「憂…茶番はやめてよ…」 純「どうしちゃったっていうのよ…」 やがて憂はわざとらしい溜息をついた。 憂「ふー、やっぱり2人にはわかっちゃったか」 純「馬鹿にしないでよ…」 梓「どういうことなの?ちゃんと説明して」 憂「どういうこともなにも、見ての通りだよ。平沢憂は死んだの」 梓「憂!」 憂「わかったよ。ふざけてる訳じゃない。頭がおかしくなったわけでも。 これはね、お姉ちゃんを守ることができなかった私の贖罪。 それは同時に私自身の希望でもある。 お姉ちゃんに幸せな人生を歩ませてあげること。それが私の希望」 憂は棺の中の唯の潰れた頭を愛しそうになでた。 純「…そうやって一生唯先輩に縛られて生きていくの?」 憂「どうだろう…まだわからないや。でもきっと、お姉ちゃんがもう一度『ありがとう』と言ってくれるまで」 純と梓はそれ以上何も言えなかった。 学校が終わると軽音部の皆も駆けつけた。事前に梓から話を聞いていた彼女達はもう一度憂の思いを確認すると、 全てを受け入れて話を合わせてくれるようになった。 火葬された唯の頭部が大きすぎて骨箱に入らなかったということをのぞき、 通夜と葬儀は滞りなく執りおこなわれた。 今回はお経を読むお坊さんの頭をたたく池沼はいなかった。 四十九日が過ぎ冬になると、純や梓と憂はなんとなく疎遠になっていた。 「平沢唯」として生きる憂とどうやって付き合ってゆけばいいのかわからなかったからだ。

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