『Next battle』
夕焼けに染まる廃墟。そこには二人の少女の姿があった。
激闘を終え、逆光を浴びる傷だらけの二人はそれでもなお、美しい。
勝者と敗者。
その二つを分けるのはほんの僅かの差であり、事実、一週間前ではお互いの立場は逆だった。今回でさえ、反対の結末になっていてもおかしくはなかった。
実力の伯仲と結果の逆転は、激戦を潜り抜けた少女の成長の証。
いや、それだけではない。
大会参加前には知らなかった、別の強さを身に付けたから。
前回完敗を喫したのは、相手の強さの理由──────────闘う動機を支える意思に想いが及ばなかったからだった。だが、今は違う。
「…………私の我が儘に付き合って頂いて、感謝ですわ」
「…………この私が挑まれた闘いから逃げる訳には行かないのよ」
瓦礫に腰を下ろし、背中合わせの少女二人。お互い死力を尽くし、息も絶え絶えながらも決して相手に弱みは見せない。
それは、好敵手に対する譲れない矜持。
「まぁ、悔しいけどあんたの勝ちね……」
「それは違いますわね」
「…………?」
怪訝な表情が、見えずとも背中越しに伝わってくる。
「これで一勝一敗の引き分けですわ。そうでしょう?」
律儀にも、愚直にも対戦成績を通算する。それに対し、問われた少女も意を悟って同意した。
「確かにその通りね。じゃあ決着はまだ着いてないって訳か」
それは、次なる闘いの訪れを予感させる言葉。
だが、決して今までと同じものを意味しない。
二人の脳裏に、同じ人物の顔が浮かぶ。言葉を交わさずとも、お互いの考えが分かる。
「ええ、負けませんわよ」
「その台詞、そっくりそのままお返しするわ!」
二人の手の甲が、こつん、と合わさった。
闘いは終わった。だが、少女たちの次の勝負は既に始まっている。
それは絶対に負けられない戦い。拳の勝負ではない、恋する乙女の戦い──────────。
<了>
最終更新:2014年01月05日 22:39