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『”The Transfer”No.9』


 ルガーと魔技姫ラクティ☆パルプ。二人の間には奇妙な縁がある。
 数多くの参加選手の中で巡り合い、三度も拳を交えた事。
 同じ相手に破れ、それが元で大会から脱落してしまった事。
 そして、もう一つ──────────。

 「…………という訳で、マリー嬢に手痛い敗北を喫してしまったよ」
 「そうだったんですか…………実は私も」
 世界格闘大会から同じタイミングで脱落し参加資格を失った両者だったが、巡り合わせによって未だ闘いの場に留まっていた。再会した二人はそれぞれの境遇を話し合う。
 「悪い事に、彼女は私の天敵と言っていい聖職者。他の相手ならまだしも、彼女の攻撃を受けてはさしもの私も一時は消滅を覚悟したものだったが…………」
 吸血鬼であるルガーは常人よりも遥かに強靭な肉体を持つが、その不滅性も神に祝福された修道女、マリーの前では甚だ相性が悪い。危うく存在の危機に瀕したという話にパルプは息を呑む。語る本人が目の前に居るのだから最悪の結末になる筈もないのだが、つい話に引っ張られてしまう。
 「それで…………どうなったんです?」
 その先が気になり、話の続きを促したパルプにルガーは軽く手を振って謝意を示す。
 「おっと、すまない。別に勿体ぶるつもりはなかったんだ。その後の事だが、殆ど無意識状態にあった私は無我夢中で通りかかった人物に襲いかかってしまい…………」
 続けられた内容はパルプにとって衝撃的という他なかった。
 「…………まさか、乙女の生き血よりも甘美な味わいがこの世にあったとはね。この私が、すっかり精気の虜になってしまったよ。あのこってりとした濃厚さ、ぷりぷりとした舌触り…………!」
 我知らず陶然とした濡れた牝の表情を浮かべるルガーに、パルプは慌てて口を挟む。
 「あ、あの、ルガーさん? それ、ひょっとして精気じゃなくて精え……」
 「ん?」
 「な、何でもないです!」
 説明しようとしたパルプは途中で口を噤んだ。誤解を解くのは簡単だが、それで彼女が少年への執着を自覚してしまっては拙い。表現方法は違えど自分も同じものを欲する身、徒にライバルが増える展開は望むところではないからだ。
 自然界において生存競争、とりわけ種の保存は綺麗事だけではすまない。どんな手を使っても最終的に目的を果たした者が勝者なのだ。求められる行いは卑怯ではなくしたたかさと呼ばれる。
 脱皮を果たし、受け入れ態勢の整った下腹部に手を添えると、パルプは決意する。
 ──────────負けられない。戦闘では負け越していても、この闘いには。
 そんなパルプの内心をつゆ知らず、ルガーは続ける。
 「というわけで私は後を追うことにするよ。あんな極上物、このまま逃してしまっては一生後悔する事になりそうだ…………いや、捕まえておかなかった事を既に後悔していると言ってもいい」
 「居場所、分かるんですか?」
 「あの芳醇な香りは忘れようと思っても忘れられそうにない。何処に居ても探し出すさ」
 ルガーはすん、と一度鼻を鳴らすとその時の事を思い出したのか、両腕で己の身体を抱えるようにしてぶるりと震えた。少年の精気への依存は、自覚のないままに吸精鬼ルガーの肢体を作り替えている。
 当然、パルプも負けてはいられない。文字通り一皮剥け、未来支配者として予知の力を限定的ながら手に入れた今の自分なら、遅れを取らず少年の元へ辿り着く事が出来る筈だ。
 優秀な遺伝子を持った配偶者を確保する事は王族たる自分の使命である。繁殖力の極めて弱いマジカニア人は精力の強い牡を交配相手に迎える事で種族の繁栄と存続を保つ。その点、少年は条件をクリアしており願ってもない相手なのは間違いない。
 強い牡が多数の牝を侍らせてハーレムを形成する動物は決して少なくない。それを理性の有る人間の身で成し遂げているのだから、そこには単純な力の強さだけではない別の強さがあるとしか考えられない。
 ──────────いや、結局のところそれは建前に過ぎない。
 パルプは少年の顔を思い浮かべる。
 先祖代々の至上命題があるからではない。
 母である女王の言葉があったからでもない。
 大会前から抱いていた想いは、決して義務から来るものではなかった。
 今はただ、再び彼に会う事を願って──────────。

                                                 <了>