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『”The Transfer”No.7』


 夜空の下で眠るのは、果たして何年ぶりだろう。
 満天の星空を見上げながら、鴻畔(おおとり・ほとり)はぼんやりと考えていた。

 遥か昔、この国がまだ武士の統治下にあった時代。半妖と畏れられ、忌み嫌われていた彼女は人と交わらず山中で静かに暮らしていた。人から弾かれたその暮らしは決して望んだものではなかったが、しかし一方でそれも仕方が無い、と諦めてもいた。
 人は本能的に己と異なるものを恐れ、遠ざける。現代に比べればとても文明的とは言えないその時代で、怪物として討伐されなかっただけでも、命があっただけでも幸運と言えただろう。
 それでも、彼女とて木石ではない。人恋しさが募り、時折人里に下りては幼い童と遊んだ。物の分別が付かない童たちは決して彼女を差別せず、怖がらず、優しいお姉さんとしての彼女に接してくれたからだ。
 もっとも、その幸せな期間は彼らが成長するまでの束の間にしか過ぎなかったが。
 長じてしまえば、彼らの目に映っていた優しいお姉さんは妖の姿へと変わる。
 彼女自身に何の変わりがなくとも。

 時代が変わり、現代。
 魔人と呼ばれる存在が人々に認知されるようになっても、彼女を取り巻く環境は本質的には何も変わらなかった。人の世に交じり、人のように暮らしていても、彼女は異物のままだった。
 彼女と似た境遇の者を集め、利用していた組織は今はもう無い。仮宿にしか過ぎなかったが、利用されているのを承知の上で自分も利用していたものが唐突になくなり、彼女は自分も驚く程に不安に襲われた。孤独に襲われた。
 彼女は自分が思っていた以上に、寂しがり屋だった。

 途方に暮れていた彼女の前に現れた少年。既に大会から敗退していた彼女にとっては何の関係もない相手だった彼と、彼女はほんの少しだけ話をした。
 それは他愛もない身の上話で、取り留めもない四方山話で、ありふれたひとときだった。
 だが、そんな些細な事が。それだけの事が。
 幼さの残る童女のような彼の笑顔こそが。
 鴻畔のずっと望んでいた、願っていた。
 掌に収まる程の小さな小さな幸せだった。
 もっと早く、それに気付いていれば。
 いや、今からでも遅くはない。自覚こそ、人を動かす。
 後悔を、決意が上回る。
 それを自分に言い聞かせると、彼女はゆっくりと立ち上がる。不退転の覚悟と、断固たる宣言と共に。
 「年下少年趣味(ショタコン)で何が悪い!」

 人、それを開き直りと言う。

                                   <了>