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『Moon Princess Ⅱ』


 「…………飽きました」
 『世界格闘大会』出場選手のち療養に特別に借り上げられた総合病院の別棟、その一室。大会開幕から六日間治療役としてその任を果たしてきた月の巫女だったが、遂に退屈が限界に達したのか、ぽつりと呟いた。
 「姫さまー、まだ日程残ってますよー?」
 世話役の一人である蓬莱玉枝(ほうらい・たまえ)があたふたと慰める。
 「そうですわ。もう四分の三も終わりましたし、あとたった二日じゃないですか」
 御仏石鉢子(みほとけいし・はちこ)もやんわりと追随した。しかし、月の巫女はやや不満そうに答える。
 「もうちょっとこう、上下とか左右に分断された怪我人が出るかと思っていたのですが」
 「それもう死んでますって」
 火不寝見川衣(ひねずみがわ・ころも)がじっとりとした目で呆れる。
 「決めました。ちょっと運動してきます」
 立ち上がる彼女を、鍔暗女安子(つばくらめ・やすこ)が自信なさげにどもりながら押し留める。
 「あ、あの、いけません姫さま。いくら姫さまが飽きっぽいとはいえ、三日坊主では示しが…………」
 「今回は六日巫女ねー」
 混ぜっ返すように龍首玉(りゅう・しゅぎょく)が片言交じりに茶化す。
 「大丈夫です。患者が来る頃にはちゃんと病院に戻って仕事はしますので」
 「でもでも、姫さまの身にもしもがあってはいけませんし、万一怪我をされては明日以降の治療役がいなくなってしまいますよー……? 怪我した参加選手、困っちゃいますよー?」
 「その時は…………まぁ、その時ということで」
 こうなっては誰も止められない。いや、止めても無駄なのを世話役の誰もが知っているのだ。言葉を発しなかった残りの四人は自分の職務を果たすべく、女主人の為に出立の準備を整えている。
 「さて、それでは今源氏のお相手になるかもしれない方々の闘いを、もう少し間近で見てきますね」
 「あの、あまり近付き過ぎては姫さまと言えど、例の少年の影響があったりは……」
 それでも心配だけはしてしまうお供に、彼女は微笑んだ。
 「貴女達の主人が誰だと思っているのです? 私は日本史上、最も難攻不落のヒロインですよ?」


                                                    <了>