世界格闘大会六日目、ラ・ピュセル&トラロック、猫耳にて公園に立つ


「ラピちん、今日も気合い入ってるね」
「ええ。誰が相手でも気は抜けませんし、それに――今日は転校生狙いですしね」
「うん。来るかな? ここに」
「恐らくは。これまで元大会選手の転校生は公園を中心に行動している様子ですから」
「ほほー」

世界格闘大会六日目。試合が始まる、その少し前。
ラ・ピュセルと雨衣の二人は大会戦場の一つである公園にいた。
存分に闘いを楽しめる、広場。中央に二人で並び、対戦相手を待つ。

「――どうして転校生?」
「なんですか?」

広場を囲む緑の木々、足元を優しく包む青い芝生、それらを見やりながら、雨衣が聞いた。
隣のラ・ピュセルが、周囲を探っていた視線を斜め下の雨衣へと移し、聞き返す。
まだ、試合が始まるまで時間はある。

「一昨日さ、ラピちん言ってたじゃん。転校生に勝つのは難しいって」
「ああ」
「だから、今日も誰かの転校生クエストを護衛するのかなーって思ってたけど」
「私ばかり困難から逃げていられないと、あの時に言いましたからね」
「んん?」
「それならば、転校生と闘って勝ち抜く道もまた、乗り越えるべき隘路であろう、と」
「あーそっかー」

うんうんと頷き、雨衣はまた芝生に目を落とす。
夏の都会とは思えない涼やかな風が吹く。芝生に波が生まれる。
ザワザワと揺れる草を眺めているうちに、風に乗って喧騒が届く。

「ん、TV局の中継かな? そろそろみんな来たのかな」
「そのようですね」

一歩、前へと踏み出したラ・ピュセルの背中を後ろから見上げ、雨衣はその時不意に飛び上がり、

「――ほいっ!」

ラ・ピュセルの頭へと袖の中に隠していた猫耳バンドを乗せた。

「なんですか――これは、猫耳?」
「そうだニャー。勝利のおまじないだニャ」

頭に手をやり、振り返ったラ・ピュセルにおどけた口調で言葉を返すと、雨衣はそのまま腰の前で両腕を交差した。

「変身!」

広場に高らかな宣言が響く。続く発光。
次の瞬間には右腕を天高くかかげ、左腕を大地にかざし、堂々と立つトラロックの姿がそこにあった。

「覚えてるかニャ? ここはトラロックとラ・ピュセルが初めて出会った場所だニャー」

登場のポーズを崩し、おどけた口調のままでトラロックが語る。
深々とかぶったフードの下、ラ・ピュセルを見上げるその表情は、しかして真剣そのものである。
頭に手をやっていたラ・ピュセルは、その表情を見て、猫耳をしっかりと頭にはめ直した。

「覚えていますよ。もちろんです」
「ラ・ピュセルは強いヒーローだニャ。転校生にだって負けないニャ」
「そうありたいと思います」
「だから、絶対に勝つんニャー!」

長く余った袖をブンブンと上下に振り、大声で応援の言葉を吐く。
そんなファンの声援を受け、ラ・ピュセルは薄っすらと微笑んだ。

「ありがとう、雨衣」
「ラピちん頑張れ」

二人は向き直り、既に目指できる位置に近づいていた喧騒の元を見据える。
テレビカメラやマイクや、それら機材を運ぶスタッフの群れから、小さな、しかし巨大な威圧感を放つ体躯が現れる。
賑やかな色彩の布を幾重にも巻きつけ、寸をつめたような衣装。頭を飾る大きな羽飾り。その手に握られた樫の棍。

「――来た!」

クェル・クス――――改め、転校生『無垢なる導き手』。雨衣が小さく声をあげた。

「では、行ってきますね」

目的の相手を見つけ、ラ・ピュセルが颯々と長い足を運び、そちらへと進む。

「頑張れ!」

繰り返される雨衣の声援を背に、ラ・ピュセルは進む。
その姿が先ほどの雨衣と同じように淡い光に包まれ、瞬く間に、全身を女騎士然とした衣装へと変わる。
ふわりと広がるドレスの裾。その上を覆う花の意匠が刻まれた鎧。長い尾を振り、頭には真っ直ぐな二本の角。

そして、猫耳。
夏の空。緑の風。
融け合う景色の只中で、銀の光が高く伸びやかに宣言した。





「戦場を駆ける星の煌めき! ラ・ピュセル――――推参にゃ!」





<世界格闘大会六日目、ラ・ピュセル&トラロック、猫耳にて公園に立つ>



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年12月02日 21:56