<終末を背負う者- Terminal Hazard ->


『―――私は迷わない』


ステータス ス キ ル プロフィール
攻撃 20 1 赤色領域 名前の読み しゅうまつをせおうもの
防御 0 2 最後の審判 性別 女性
体力 35 3 絶世の美女 衣装 キャスケット+アウター+包帯+セーラー服+ローラースケート
精神 10 胸のサイズ 控え目
反応 30 格闘スタイル ニンジャアクション
FS 30 FS名 ニンジャソウル 武器 ロジカル・デザイン
着衣 10 移動パターン 特殊(後述)

必殺技 『ソウルボディ』(消費MP:5)

効 果 :
  • 20ダメージ攻撃(ガード不可)
  • 自身に攻撃力+20付与(戦闘中継続。重複する)

制 約 :反応-30(戦闘中継続。30未満でも技の使用は可能)

説 明 :トランスポーターを用いてエイリアス(分身)を生成する。エイリアスは自らの意志を持たず、影のように自身と同じ行動をとる

スペシャルスキル

  • 『赤色領域 -Amaranth Field-』
    • 効果1:自身が一回の攻撃で受けるダメージは最大100となる
    • 効果2:自身に対するアイテムの効果を無効化する(「転校生除けのお守り」も効果が無い)
    • 効果3:戦闘終了毎に、自身のMPを10、着衣Pを1回復させる
  ★ RMX-114の永久機関「アマランス」から生じるエネルギー場が、閾値以上のあらゆる波動を捻じ曲げる

  • 『最後の審判 -Doomsday-』
    • 効果1:同じ地形にいる連戦希望者(自分以外)のマッチング反応値を+5する
    • 効果2:戦闘後の怪我判定で残り体力補正を100で計算する
  ★ RMX-114の自己修復機能を司るナノマシンを周囲に散布。
   RMX-114の体外に放たれたナノマシンは、感染者の体内で無秩序に増殖を開始する。
   無秩序な増殖の結果、ナノマシンは感染者の魔人因子を攪乱し、感染者を狂行へと走らせる。

ドロップアイテム


行動ロジック

  • 前ターン終了時に『賞品の少年』を所持しているPC/転校生が移動する地形へ移動し、そのPC/転校生を狙う。『賞品の少年』がNPC化していればその地形に移動して『賞品の少年』を狙う。
  • マッチングに使用する反応値はステータス依存ではなく、0を基準とする(ダイス目修正は加わる)
  • PCと同じように行動提出処理を行う。
    • <対戦希望>……『賞品の少年』を所持しているPC/転校生。
    • <対戦回避>……なし。
    • <連戦>…………する。対象は『賞品の少年』を所持しているPC/転校生。但し戦闘回数は初戦含めて1ターンに3回まで。『賞品の少年』を所持した場合は自分からそれ以上の連戦を行わない。但し挑まれれば戦闘には応じる。

キャラクター説明

【名前】
 χ(きぃ)

【容姿】
 黒髪ショートカット。血の色の瞳を持つ。
「顔」と「ひじから指の先まで」を包帯でぐるぐる巻きにしている。
 重量:40kg 全長155cm
 http://cdn18.atwikiimg.com/drsx2/pub/X5.png (1)
 http://cdn18.atwikiimg.com/drsx2/pub/xx2.png (2)
 http://cdn18.atwikiimg.com/drsx2/pub/X2.jpg (中破)

【強化型人造魔人-タイプ・エクスブリッド- CodeName:RMX-114 (Reinforced Magusoid X 114)】
 未来世界から送り込まれた強化型人造魔人の第114号実験機。
 生体の限界を遥かに上回る情報処理能力と反応速度を持つ。
 トランスフォーム能力により、瞬時に身体の各部を機械化できる。機械化によって自在に兵器を構築し、その操作が可能。
 その高い回避性能ゆえに、耐久性能は他スペックに比べて低く設計されている。

【魔人化人工細胞 -Artificial Cell Typed Magus- (A.C.T.M)】
 魔人因子を埋め込んだ人工の細胞。
 RMX-114の肉体は、人体を構成する細胞数とほぼ同じく、約60兆個ものA.C.T.Mによって構成されている。
 ▽
【Matrixer】
 A.C.T.Mの超有機的結合体。トランスフォーム能力の発動が可能な最小単位。数千から数万のA.C.T.Mから成る。
 RMX-114にインストールされたオペレーティングシステムによってシステム化されている。システム化されることでA.C.T.Mは互いに結びつき、Matrixerを形成する。
 トランスフォームは物理法則の制限を受けずに、質量等を無視して行うことが可能。
 ただし、より超高々度な機械化ほど極端に発動率は下がってしまう。それでもトランスフォームに関わるMatrixerが多いほど、その発動率は指数関数的に跳ね上がる。
 ▽
【BouleOS】
 RMX-114にインストールされているオペレーティングシステム。
 ▽
【Virtual Brain(VB)】
 数多の強化型魔人の頭脳を解析して仮想化した人工頭脳。BouleOSのカーネル。
 ▽
【Logical Design(LD)】
 トランスフォームに必要なデータの管理等を行うソフトウェア。機械(サイボーグ)化能力に特化している。
 主な機能としては、生体の汎用性と機械の専門性を適時自動的に(瞬時に)切り替えることで身体機能を合理化する。
 壁蹴りやダッシュなどのアクロバティックなアクションや高速自動修復等を可能にしている。
 ▽
【特殊武器】
 RMX-114にプリインストールされた専用特殊武器。LDによってデータファイルは管理されている。
 構築される武器は、数千から数千億以上の魔人因子が、RMX-114と同様に超有機的に働いている。その関わっている魔人因子の規模が、結果的にコピー防止機能の役割を果たしている。

  • WOZ-041「雷神」
 ⇒Matrixer:掌
 ⇒構築兵器:エネルギーソード
 ⇒備  考:基本兵装、紫色に発光するエネルギー体を利用した近接兵器
       伸縮自在、太刀のようにモノを切り裂くでなく、鞭のようにしならせることも可能
       貫かれたものは感電する
  • WOZ-043「飛燕」
 ⇒Matrixer:背部/脚部
 ⇒構築兵器:イオンスラスター
 ⇒備  考:イオンエンジンを搭載した推進システム
       主にダッシュなどの高速移動や多段ジャンプ、壁蹴り、ホバリングなどの移動能力の拡張に貢献している
       戦闘における応用性は非常に高く、イオンスラスターの推進力を利用した強力な蹴り技など、RMX-114の学習機能と相まって想定以上の能力を発揮している
  • WOZ-056「双幻」
 ⇒Matrixer:頭部
 ⇒構築兵器:トランスポーター
 ⇒備  考:物体の非実体化⇒転送⇒実体化の連続したプロセスを瞬時に行う装置⇒転送機
       特殊な使用方法ではあるが、複数のワームホールをボット化し、それらのワームホールと使用者を常時接続することで使用者のエイリアス(分身)を発生させる
  • WOZ-057「闇掌」
 ⇒Matrixer:胸部
 ⇒構築兵器:タイムブースター
 ⇒備  考:使用者の周囲の時間を1/1000に減速させる装置、周囲にとっては使用者の動きが1000倍になる
       使用中は慣性が1000倍になることに加えて、莫大なエネルギーを消費することから、その使用時間は非常に短い
  • WOZ-068「裂光」
 ⇒Matrixer:左腕
 ⇒構築兵器:ポジトロンライフル
 ⇒備  考:陽電子を加速して射出する兵器
       魔人因子を導入することで加速器の超小型化および諸々の技術的問題の解決に成功している
       対転校生戦を想定して採用され、対人兵器としてはオーバースペックな威力を誇る
  • WOZ-088「葉断」
 ⇒Matrixer:右腕
 ⇒構築兵器:パイルバンカー
 ⇒備  考:金属製の槍を電磁力を用いて爆発的に射出する兵器
       格闘戦においては、槍を射出せず、その爆発力とイオンスラスターの推進力を利用した突撃も行われる
 ▽
【人格エミュレートプログラム:Key】
 命令を遂行する上で、人とのコミュニケーションが必要な状況を想定してインストールされている。
 エミュレートする人格情報は「被験体169号」との生活を元に学習したもの。
 RMX-114の生体デザインも「被験体169号」をモデルにしている。
 一人称は「私」。
 ▽
【一 六九】
 一族中の魔人率が99%を超える戦闘破壊家族、一家(にのまえけ)の一人。華奢な体躯の絶世の美少女。
 14歳にして燃え滾る熱いソウルを持つ、生まれながらのパンクロッカーにしてベーシスト。実は男性恐怖症。顔を隠すのはそのため。
 魔人能力「Baby King Kitchen」を持つらしいが、その能力の発動を見たものは誰もいない。 
 腕っ節の強さからか、その容姿に似合わず「オンナゴリラ」「狂犬」「Gオンナ」など、様々な渾名を持つ。
 そのパワーは鋼鉄製の壁を軽々と貫き、たとえ魔人能力を使わずとも、その格闘センスだけで並の魔人を凌駕している。
 友人関係は良好で、義に篤く、割と社交的な面もあることから、何でも屋ポジが定着し、他校の生徒にまで頼られることもしばしば。
 ▽
 その正体は未来世界から送り込まれた要人抹殺用のマグソイド。
 当時、まだ胎児であった「一六九」へとタイムリープすることで、一六九と入れ替わった。
 構成する細胞の入れ替わり自体はおよそ7年で完了したが、RMX-114としての各種機能の復元にさらに7年を費やす。
 その間の潜伏中は、一家の一員として振舞い続け、学校にも通う。
 だが一六九としての人格はすべてエミュレートされたものにすぎず、現状、RMX-114には「ココロ」と呼べるものはない。
 不必要な言動を一切せず、ひたすら命令に対して絶対的なその姿は殺戮兵器そのもの。
 ▽
【被験体169号】
 一六九のクローン体。
 http://cdn18.atwikiimg.com/drsx2/pub/6029.jpg
 ▽
 RMX-114のタイムリープ先を、過去のある時点へと固定するために利用された。
 RMX-114を妹のように思っており、製造されてから処分されるまでの14年間、RMX-114と共に過ごしてきた。
 幼いころから機関による教育を受けていた割に、どこか抜けたところがある。自身を製造した機関を生みの親のように思い、その愛情を信じていた。
 RMX-114を構成するA.C.T.M(人工細胞)の製造には、彼女の遺伝子情報が使われているため、RMX-114も厳密には一六九のクローンと言える。
 機関は彼女の処分を命令の実行能力の試験を兼ねてRMX-114に行わせた。これは、万が一ココロが芽生えた場合でも、その重みにRMX-114自身が耐えられず、その心が壊れるように仕組んだからである。
 誰よりもRMX-114に心が芽生えることを望んだ彼女であるが、皮肉にも彼女自身がその心の形成を阻害する最大のストッパーと化している。

[ダイス目]
1 気弾
2 強攻撃
3 神速攻撃
4 弱攻撃
5 必殺技
6 必殺技

[技表]
弱攻撃………飛燕脚
強攻撃………葉断突
神速攻撃……裂光覇
気弾…………ダークホールド
必殺技………ソウルボディ

エピソード

【始】挿話「変わる世界」

「いい度胸だね、私に戦いを挑もうなんて」
 ここは妃芽薗学園敷地内。グラウンド。
「ずっと探してたんだ。あの時の借りを忘れたとは言わせねえぞ!」
 目の前の男はわなわなと全身を震わせている。
 男は何か恨みを私に抱いているようだが、私には身に覚えがない。
「忘れるも何も。私は別に、君と関わりのある人だけを狙って遊んでるわけじゃないよ」
 ここ妃芽薗学園は女子校ということもあって、他校の特に男子の侵入者が多い。
 私は風紀委員として、そのような不埒な輩を幾度となく叩きのめしてきたのは確かだが、近頃はこういう逆恨みから挑んでくるのが多くて煩わしい。
「うるせえ! おまえのせいで! おまえのせいで……! 俺たちがどれだけ苦しんだと思ってやがる!」
 目の前の男も、その手の輩であろう。男は涙を瞳に滲ませている。まぁ、この姿だけを見れば同情しないこともない。
「で、私があんたに何やったの?」
「この俺の夢をお前は邪魔したんだ! 千人切りの金次と呼ばれるべく、今まで地道に頑張ってきたのに! お前はそれを邪魔しただけでなく、俺の! 俺たちの! 大事な……!」
 男は唇を噛みしめ、全身をぶるぶると震わせている。
 妃芽薗の学外へと強制送還される際、去勢させられたのだろう。
「命があるだけましだね」
 被害にあった子達が、私刑を行うのはよくあることだ。
「うるせえ! お前さえいなければ……! この落とし前つけさせてもらうぜ……!」
 男はどこからかモーニングスターを取り出し、内股で私の方へとにじり寄ってきた。
「あんたには、もう落とせる『前』は無いけどね」
 そう揶揄してやると、
「やめろぉ!」
 と男は顔をひきつらせながら叫んだ。
「というか、あんたも希望崎なの……?」
「たりめえよ……!」
 やはりと私は合点する。噂によると希望崎学園にはビッチとレイパーしかいないとか。この学園での彼らの蛮行の限りを見るに、こんなのまで、いちいち相手にしていたらきりがないかもしれない。
「まあまあ、お互い様ということでさ。あんたもこれで反省して、これからは女性として生きていくことを考えてみたらどうかな?」
 そう打診してみる。
「て、てめえ、ふ、ふさけんじゃねえぞ!」
 しかし男は激昂した。どうやら男としての矜持だけは捨てきれなかったらしい。




 男を叩きのめし、縄で縛っていると、背後から声をかけられた。
「よう! 相変わらず仕事熱心だな」
 私はうんざりしながら振り返る。
 そこには、今度は別の男が立っていた。
「希望崎の桐野紫檀だ」
 面倒くさくなって私は手でしっしっと宙を払う。
 しかし、紫檀と名乗る男は、なおもその場にとどまる。
「そいつ、うちのなんだ。返してくれよ」
 紫檀は縛られている男を指して言う。
「むーりー。こいつほっといたらまた、うちに来るでしょ? うっとうしいんだよね、そういうのさ」
 私がそう答えると、紫檀は盛大に笑いだした。
「要は力づくで取り返せってことか?」
 紫檀は威勢よく言う。
「男女平等! 俺は女だからって手加減しないぜ? わび入れんなら今のうちだ。何せ俺は最強。誰にも負けたことがねえからな」
 紫檀はガハハと笑う。こういう挑発は乗ってあげるのが、筋というものだろうか。
「じゃあ、その無敗北神話も今日までってことだね」
「は! いいぜ。ならやってみな! その細い腕っ節でよぉ」
 紫檀がそう言い終えるやいなや私は、彼の顔面に拳を叩きつけていた。
「あ、あれれ?」
 しかし、私の拳は紫檀に届くことなく、そのすぐ目の前で停止した。私は飛び退く。
「相手の能力もわからず突っ込んでくるとか馬鹿か? 調査通りの猪突猛進っぷりだな! どうだ? 逃げるなら今のうちだぞ?」
 紫檀は得意顔だ。
「不利なのは明らかっぽいね。じゃあ、お言葉に甘えて今日は退くよ」
「おう、逃げたければ逃げろ。俺様は逃げるものは追わない主義だ。捨て台詞忘れんなよ負け犬」
 気づけば、私は足元の石ころを紫檀に投げていた。紫檀は目を見開き、慌てたようにのけ反り、それを避けた。
「やっぱやめた。あんたムカつく」
 私の中でスイッチが入った。一方で男はなぜだか動揺した。
「お、おい! 逃げんじゃねえのかよ。だまし討ちかてめえ!?」
 狼狽して後ずさる姿は滑稽に映る。
「あれー? さっきまでの余裕はどうしたの?」
「クソ! マジかよっ! おまえら出て来い!」
 紫檀が声をあげると、草むらや、木の上、ありとあらゆる物陰から、何人もの黒装束の男達が現れ、こちらへと駆けてきた。
「フハハ! これで多勢に無勢! お前も終わりだな!」
「ださっ……」
 恥も外聞もなく仲間を呼ぶその姿勢に幻滅する私。
「あんたみたいのを卑怯者って言うんだよ。何が最強だよ。」
「ふんっ! 勝者こそが正義。俺様の辞書には勝利の二文字しかない! 卑怯者? そんな言葉は知らなくていいのさ」
「なら、今回の件で一つ勉強になるね。よくできました」
「負け惜しみを! その減らず口黙らせてやれ!」
「「「いー!」」」


「てめえら、そんなやつにやられて恥ずかしくないのか!」
 紫檀は黒装束らに向かってそう声を荒げた。黒装束らはグラウンドのあちこちで、力尽きたように横たわっている。
「あんたらみたいなのを有象無象っていうんだよ」
「俺の顔に泥を塗りやがって!」
「口だけの人がそれを言う?」
「てめえは黙っていろ!」
「あんたが黙ればね」
 紫檀は拳を震わせている。
「もういい! おまえら下がれ! 来い『楓』!」
 その瞬間、紫檀の影から何者かが飛び出し、私の背後に立つ。
「結局、他人使うんだ。さすが自称最強なだけはあるね」
「ふふふ」
 紫檀は笑った。
「気持ち悪いなぁ」
「ふははは! 楓は我がチームの中でも群を抜くほどの強さ。おまえなんかに負けるわけがない。なあ楓?」
「……あの、そういうフラグとかはやめてください」
 楓と呼ばれた黒装束の少女は迷惑そうに顔をしかめた。
「というか、兄様。ちょっと無理かも……」
「玉砕だ! 玉砕! ひるまずいけ、楓!」
「はぁ」
 楓は気の抜けたような返事をし、こちらを見る。
「では、行きます」
 そう告げると同時に、楓の姿がいくつにも分かれていく。
「え、ちょ……分身?」
 思わず感嘆する。
 気づけば私は楓の分身たちに取り囲まれていた。
 楓はニヤリと口元をゆがませる。
「忠告しとくよ……。こんなことは無意味だと……」
 意味深な言葉に私は眉をひそめる。
「何それ?」
「まあ、信じる信じないは君しだいさ……。どうする?」
 どうするも何もないと私は思った。
「バカじゃないの」
 そうきっぱりと告げた。
「ふふ……。なら僕がここにいる意味はないね……。じゃ、兄様頑張って」
 結局何がしたいのかわからないまま、楓はどこかへと文字通り飛び去っていった。
 紫檀は口を空けてぽかんとしている。
「逃げちゃったよ」
 呆れつつ紫檀に声をかける。
「そうだな」
 と紫檀は楓の飛んでいった空を見上げている。
「もう仲間は呼ばないの? それとも終わりにする?」
「その必要はねえ!」
 紫檀は突如大声をあげた。ハッと私は身構える。
 その刹那に、紫檀はグラウンドの隅へとすでに駆けだしていた。
「今日はもう遅いからな! 仕切り直しだ!」
 小さくなっていく紫檀の背中に、私は足元にあった小石を投げつけた。

【終】挿話「変わる世界」

【始】本筋「前日譚」

 目の奥に焼き付くような光。
 燦々と輝き、この身を焼いていく赤熱。
「バカみたいだ」
 思わずそんな言葉が口をつく。
 幾つもの好奇のまなざしと反響する嘲笑。
 やはり体は動かない。薬でも打たれたのか、身体にまるで力が入らない。

 ――これでこいつも少しは可愛げのある顔になったな。

 男達はせせら笑っている。
 眼前に突きつけられる鏡。白く歪んだ皮膚が私の右目を塗りつぶし、視界の右半分がごっそりと抜け落ちていた。

 ――もうやめて……。

 級友たちの悲鳴が木霊する。
 視界の隅には見知った顔があり、口元に手を当て、私を見て青ざめている。

「これくらいヘイキだから」
 そう微笑みかけようと試みたところ、側頭部を何かが駆け抜けた。

 ――へらへらするなよ、萎えちまうだろ。

 男が拳を振り下ろして、私にそう告げる。
 薄暗い部屋の中に、男が五人と少女が三人。私を入れれば九人がここにはいた。死者を含めるなら、おそらくその数は両手を使っても足りない。

「もう縮み上がってんのかと思った」

 私は鼻で笑う。周囲の男たちはゲラゲラと声をあげ、目の前の男は激昂した。
 意味不明な言葉を喚き散らし、私の胸倉をつかんで何度も拳を振り下ろす。

 人助けなんて趣味でするもんじゃない。あまりにも割に合わない。
 ぐらぐらする意識の中で、この場には不釣り合いなほど、景気のいい声が聞こえた。

 ――さぁ、パーティー再開と行こうか。

 それに続く男達の下卑た声。少女らはあられもない姿で男達に抱えられ、それぞれが苦痛に顔をゆがませている。
 ああ、少女のカラダとココロを壊すことに、どれほどの価値があるというのか。
 男達――とは言っても、彼らの年齢は少女らとさほど変わらない。纏っている制服とその体格からして希望崎学園の生徒であろうが、まだ中学に入って間もない彼女らにとって、獣欲に狂った彼らは得体のしれない化けものだった。彼女らにとって彼らは、決して「少年」などという言葉で言い換えられるような存在ではない。

 あんな奴ら殺しちゃえばいいのに。 

 かつての級友の影が脳裏によぎる。彼女は私をそう詰った。その級友もまた彼らの犠牲者であり、「人助け」なんていう私のこの気まぐれに救われた人間の一人だった。

 そんなやり方じゃ……いつかさ、痛い目見るよ?

 けれど彼女は、その言葉を残して校舎の屋上から身を投げた。手の届く位置にいながらも、私は誰も救えていない。
 この手を血に染めず、この心を怒りに染めず、中途半端に「人助け」なんてことをしている私は、きっと誰よりも彼女の心を踏みにじった。

「おい油もってこい!」

 声が続く。

「もっとビジンにしてやるよ」

 意識が遠のいていく。



【続】本筋「前日譚」

【始】挿話「蠢動」



 雪景色が広がっている。
 降り積もった雪が、屋根を滑り落ち、軒下に大きな雪山を築いている。

 空を見上げれば灰色の空。
 想い馳せるは、かつての記憶。しかし、現実においてはただの幻。
 とらえどころのない雪が、私の掌で溶けて消えていく。

 これが単に妄想であるならば、きっと私はすでに気が触れている。
 生まれ変わりなんてものが、もしあったとしても、この私に宿る記憶は空想(ファンタジー)と一笑にふされる絵空事。

 ――未来世界から送り込まれた殺戮兵器。

 なんともリアリティがなく、何とも夢のないことを想うのか。
 かつてオカルト雑誌のコラムでみた前世の記憶の持ち主は、世界を救うべく立ち上がり、仲間とともに敵を払った。
 強化型人造魔人。タイムリープ。
 すべてを忘れろと、現実が私に迫りくる。すべてはお前の妄想だと、現実が私に突きつける。
 限りなく人間に近い身体。
「復元には、まだまだ時間がかかる」
 けれど脳裏によぎるのは疑念。誰もそれを保証しない。 
 未だに私の能力は魔人の域を出ない。身体能力が頭一つ飛び抜けてるだけ。

 あいまいな記憶、あいまいなココロ、あいまいな居場所。
 ふとした瞬間、冷静な自分が問いかけてくる。

 そういう設定? 

 現実逃避。

 妄想癖。

 古い記憶は思い出す回数もやがて減る。
 降り積もる雪のように、古い層の上に新たな記憶が降り積もる。

「何か悩み事?」

 背後からかけられる声。振り返ると、一一(にのまえはじめ)がそこにいた。私の標的、定められた目標。
 時期はお正月、親族のうちの何割かが一同に介し、団欒と会食している。
 こんこんと降りしきる雪。こっそりと抜け出して、ぼんやりと空を仰いでいた姿は、はた目にも物憂げに見えたらしい。
 家の中からは、大人たちの楽しげな声がする。
「ちょっと食べすぎちゃって」
 私はお腹に手を当て、笑って取り繕う。
 少年は心配げに私に歩み寄り、自身が纏っていたカーディガンを私に羽織らせた。
「冷え込むらしいからさ、あまり長居しちゃダメだよ」
 少年はそう言い残して、家の中へと戻っていった。

 噂によれば、親族内にも、その少年に並々ならぬ恋慕の念を抱いているものが一定数いるらしい。
 魔人は思い込みの強い生き物だ。優しさがときに罪となることが少なからずあるのだろう。
 このときも、一三九六が物陰から私をじっと見ていた。
「おいでよ」
 そう声をかけると、彼女はハッとしたように目を見開き、私に背を向けた。
「逃げることないよ」
 瞬時に彼女の目の前に回り込み、私はその行く手を阻んだ。
「え、え……?」
 戸惑う三九六に、私は羽織わされていたカーディガンを脱いで渡した。
「風邪ひくよ?」
 押し付けるようにそれを彼女の胸に差し出す。
 三九六はカーディガンをその手にしっかりと握りつつ、怪訝な顔を向けてくる。
「頑張ってね」
 ぽんと肩をたたいて、私はその場を後にした。

 行く当てもなく歩いていると、神社の境内が目に映る。
「おーい」
 見なれた後ろ姿を見つけ、私は声をかけた。
 一三五が振り返ってこちらを見る。
「初詣に来た」
 にっと笑ってみせると、三五はやれやれと首を振った。
「おぬしなぁ」
 三五は本殿の下のテントの中で、初詣に来た人々に甘酒を配っていた。
 彼女の元へ行くと、彼女は手を伸ばして、私の頭に積もった雪を払う。
「儲かってる?」
「ほら」
 私のその言葉は無視し、彼女は甘酒を私の方へと差し出す。
「見てわかる通り、忙しいからな。それ飲んだら帰るのじゃぞ」
 私は甘酒を受け取ると、テントの空いてるスペースに腰を下ろす。
 ちょびちょび飲んでいると、三五が私のところへやってきて、すっと傘を差し出した。
「返さないよ?」
 私は眉をひそめる。
「おぬしみたいなのも一応は家族じゃからな」
 三五はその場に傘を置くと、甘酒を配りに戻っていった。
「……一人は家族の為に、家族は一人の為にか」

 家に戻るなり客間から悪酔いする四一の声が聞こえてきた。
 また彼女が暴れているらしい。客間を避けて居間の方を覗くと、
「裏切り者っ……!」
 私の顔を見るなり、四が開口一番そう告げた。
 どうやら子どもらは子どもらで、こたつでトランプに興じているらしい。
「まーだ裏切ってなーい」
 ご名答と心中で皮肉りながら、私は四を押しのけてこたつに足を入れる。
「私には見えたんだから」
 そう目を細める四。けれど私はせせら笑う。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦ってね」
「私の未来予知は占いなんかじゃ――!」
「まぁまぁ、四ちゃん。六九ちゃんもする?」
 声をあげる四に、それをなだめる一。見ると、その一の両隣には千四五と三一八がしがみつくように寄り添っていた。どうやらそのポジションは競争率が激しいらしく、彼女らの背後にも幾人か控えているため、異様にそこだけ人口密度が高い。
「来たばかりだし、見学するよ」
 彼女らの身が凍り付くような眼差しに晒されたこともあり、私は誘いを断る。
 四が居心地が悪そうにもぞもぞとしているのを見て、その原因が私にあると知りつつ、どことなく親近感がわいた。
「四ちゃんの占いは外れるって評判みたいだけど、当たることってあるの?」
「う、うらないなんかじゃない……! 魔人物理学に基づいて計算された確実な予知だよ!」
 四は狼狽えつつもそう私に断言する。
「じゃーさ、四には何が見えた?」 
「え……?」
「私について何が見えたー? 断言するくらいなら教えてよ」
 私は何でもないことのように顔をきらきらさせて尋ねる。
 しかし、四は深刻な顔で押し黙った。
 この時代、この場所に、未来予知能力を持つ一四という存在は、機関にとってこの上なく厄介なものであった。
 外すことが多いとはいえ、彼女の能力は間違いなく危機に瀕した際には有効に機能することが確認されており、たとえ未来から直接的にエージェントを送っても、こちらの手駒は限られており、手を打たれれば計画そのものが瓦解する可能性さえある。
「ん、どうしたの?」
 その顔を私は覗き見た。苦悩に歪んだ表情。
 だからこそ、機関は家族の絆を、その信頼を、逆に利用することを考えた。標的に対してエージェントを送りこむのではなく、標的にとって身近な存在をエージェントに変えること。
 家族愛を逆手に取った狡猾な一手。
「……秘密」
 四は悪戯っぽく笑った。彼女はそうやって、いつもはぐらかす。私に関する予知を自分の中で抱え込んで決して人には話さない。
 一人は家族の為に、家族は一人の為に。そして家族と交わした約束は必ず守るべし。
 私は彼女と約束した。誰も裏切ったりしないと。守るつもりのない約束を。
「ケーチー」
 私は四の胸に顔をうずめて、彼女の脇腹をくすぐった。
「も、もう……! や、やめてってば……!」
 彼女は身をよじらせ、こたつから這い出て逃げて行った。
 その後姿を一瞥し、私は寝転がる。

 強化型人造魔人RMX-114は、タイムリープマシンであり、さらに言えば、時間と空間を超えて、条件に適合する人物を洗脳する兵器であった。
 RMX-114は時間軸を逆行することで、ウィルスとしての性格を発現し、タイムリープ先の生命体の遺伝情報を書き換え、自己複製を図る。適合可能者は十億人に一人。クローン個体を用いて遺伝情報の同期を行えば、三万人に一人。決してゼロではない。
 未来世界において、争いの戦火が時間軸線上にまで広がったとき、機関は最重要ターゲットである一一の掌握を図った。一方、敵は敵で一枚上手であり、一一の保全を最優先として行動し、機関が彼に直接、干渉を行うことを許しはしなかった。彼と彼に近しいものの情報は、優先的に保護され、機関の計画は早々に断念せざるを得ない状況へと追い込まれた。
 それでも、機関は探し求めた。何人もの人間を洗い出し、徹底的な調査の末に、機関は一六九を適合者としてついに特定した。 

 これが妄想の類であるならば、きっと私はすでに気が触れている。
 けれど、四の予測するならば、ほんの数パーセントであろうと、それが私の希望となる。

「バカらしい」

 思わずそう呟いていた。
 四の能力の産物であるラプラスの魔。四の予測が外れれば四を、四の予測が当たれば私を、ラプラスの魔は食らおうとする。
 誰だって死ぬのは怖い。四だってそうだ。能力の仕様を少しずつ変えることで、予測が外れてもいいように進化させている。

 当然、私も死ぬのは怖い。

 だからこそ、私は四の予測が当たればいいと思う。
 私はまだ生まれてきてもいない。そのことを四は分かっていない。


【未完】挿話「蠢動」

【再開】本筋「前日譚」


 気づけば私はけらけらと腹の底から笑っていた。
 白衣の男たちが怪訝な顔を向けている。
 私はそれでも笑い続ける。偽物のカラダと偽物のココロがぽろぽろと崩れていく。

 ――気でも触れたか?

 どこからかそんな声。
 まるで他人事のように、私はその光景を俯瞰していた。



 真っ白な天井がそこにはあった。
 ここに運ばれて一週間。右眼の欠損と全身におよぶ重度の火傷と打撲に裂傷。医者からは、この短期間でここまで回復したのは奇跡とまで言われた。
 それでも全身に及ぶ損傷は永遠に残る。私が何者かに関係なく、私はまだ一六九だから。
 あるはずのない記憶。薬品のにおいが、どこか懐かしく感じた。
「バカが」
 声の方へと視線を向ける。
「紫檀……?」
 透明なカーテンの向こうに、ぼんやりと見知った顔が浮かんでいる。
「わざわざ来てくれたんだ」
 まるで他人事のように実感がわかない。
「当たり前だろ」
 紫檀は今にも泣きだしそうな声で言う。
 身体は思うように動かず、視界もどこか左に偏っているような違和感がある。
「あんたが助けてくれたんだよね」
「……俺は助けられちゃいねえよ」
 紫檀は吐き捨てるように告げる。
 あの状況で、私たちを助けられるのは、彼しかいないだろう。
「なんで、みんな殺しちゃったの?」
「あんな奴ら! 死んで当然だ!」
 紫檀の震える声が病室に響き渡る。
「それでも、殺すのはダメだよ。我慢した私がバカみたいじゃん」
 自嘲気味に私は笑った。
 しかし、紫檀は私の冗談を笑うことなく顔をゆがませた。
「お前はなんで……! 自分を……!」
 紫檀は身を震わせている。
「みんなは無事?」
「お前は自分の心配をしろ。みんなお前と比べれば、無傷みたいなもんだよ」
「身体じゃなくてさ」
「……お前、やっぱ狂ってんぞ」
「褒め言葉として受け取るよ。でさ、みんなは無事?」
「男の俺には分からん」
「……あっそ」
 私は目をつぶり、紫檀が帰るのをじっと待つ。
 しかし、紫檀の気配は消えない。
「あのさ、いつまで居る気?」
 そう声をかけるが、紫檀は心ここにあらずといった顔で私をじっと見ている。
「見せられるような顔じゃないよ?」
 思わず苦笑いを浮かべた。包帯で覆われているとはいえ、顔の少ない部分がケロイドとなりつつある。
 しかし紫檀は首を振った。
「そんなことねえよ」
「もうお嫁にはいけないね」
「だから俺は本気で――」
「あーはいはい。ごめんね。気持ちはうれしいよ」
「……俺は諦めない。同情なんかで言ってんじゃねえぞ」
「じゃあさ――なんで私を殺さなかったの?」
「何言って……」
「私の右眼は大切にしてくれてる?」
「お前の眼は、俺は知らないが……」
「あはは、ごめん。まだちょっと混乱してるみたい。今日はもう帰ってくれない?」


【続】本筋「前日譚」

【始】挿話「病室の前で」


「兄様、振られちゃいましたね」
 病室を出た紫檀を楓が出迎える。
 にやにやと、どこか嬉しそうな表情の楓に対し、紫檀は拳を握りしめ、ツカツカと歩きだす。
「え、兄様、まさか……」
 楓はその背中を追いつつ、どこか胸騒ぎを覚えていた。


【終】挿話「病室の前で」

【再開】本筋「前日譚」


「先輩、何ですかあの人たち?」
 紫檀と入れ替わるように病室に声が響く。
 同じ風紀委員の鵠城千花だった。私に懐いているのか、私以外の他者に対する不快感を隠すことなく表情に出す素直さは、割と嫌いではなかった。
「だめですよー? あんな得体のしれない人を入れちゃ」
 千花はニコニコと私の前に座る。
「君は、私がこんなになっても変わらないね」
「ふふ! 当然です。何があってもチカは先輩一筋ですから」  
「……ねえ千花」
 私は目を閉じる。
「あ、先輩! 聞いてください。学校でですね」
「千花」
 私は千花の話を遮った。
「ん?」
 千花は目をパチクリさせてこちらを見ている。
「私の眼、どうしたの?」
 千花の表情は変わらない。
「ようやく確信が持てた」
 私はほっと胸をなでおろす。
「食べたの?」
 私のその質問にも、千花は答えない。
「ふふ、別に問い詰めるつもりじゃないの。ただ、ただ、嬉しい。あなたがそれを拾っていてくれたことが」
「先輩、何を……」
 千花はようやく口を開く。その頬には一筋の汗が伝っていた。
 私は笑う。生まれて初めて心からの笑みを浮かべた。
 千花の体の奥で、私の右眼が信号を送っている。
「せ、先輩。わ、わたし、あの……」
 千花は私の様子に慄き震えていた。
 ああ、彼女は勘違いしている。私は怒ってなどいないのだ。
 終わってみれば、むしろ、これほどまでに清々しい気分はない。
「ありがとう! ありがと! 千花っ!」
 身体が軽い。不思議と私は腹の底から笑っていた。

【未完】本筋「前日譚」

【始】挿話「本来の世界線にて」


 工場跡に男どもの下卑た声が響く。
 耳障りな破壊音が夜の闇に轟いている。
「先輩……」
 私は恐怖に押しつぶされそうな心を奮い立たせて、シャッターの前に立った。
「千花ちゃん、無理だよ……」
 同じ風紀委員のサナが私の手をつかんで首を振る。
 振り返ると、皆が不安そうな顔をしていた。ここに来て、このシャッターの向こうから漂う異様な空気に気圧されていた。
「六九ちゃんは、運が悪かったんだよ……」
 一人がぽつりと漏らす。
「六九、可愛かったからね。あいつらも、そりゃほっとかないよ」
 誰かがそう続く。
 さわさわとざわつき始め、一人が踵を返した。そして、一人、また一人と去っていく。

    ◆

 少女たちの嗚咽と悲鳴が木霊する。
 薄明りの中、男たちが喜びの声を上げている。
 何人もの少女たちが裸に剥かれ、男たちとまぐわう中、ただ一人だけ、その狂気の宴にまじわらず、その光景を楽しむかのごとく見物している少女がいた。
「楓姉さんもどうすっか?」
 男の一人がニタニタとその少女に話しかける。だが、少女はケラケラと笑うだけで、首を縦には振らなかった。
 楓と呼ばれたその少女は、この宴を取り仕切っている者の妹であり、希望崎の生徒である。
 本来ならば楓は男であるが、性転換能力を受けたことで、今は女性となっている。希望崎では性別を偽ることはよくあることであるため、特段、そのことが取りざたされることはなかった。
「兄様、こいつどうする?」
 楓はのけ反り、背後へと視線を向ける。兄様と呼ばれた男は、部屋の隅でバイアルに入った目玉を光にかざし、恍惚の表情を浮かべていた。
 兄様と呼ばれたこの男こそが、このグループのリーダーであり、楓の兄である。名を紫檀と言う。
 楓の足元には全裸の少女が、力なく横たわっていた。少女の名前は一六九と言う。本来なら美しくしかったその容姿も、今となっては化け物のそれにしか見えない。右の眼窩が空っぽであることさえも可愛らしく見えるほど、彼女の全身は酷い火傷によって皮膚が変性していた。
 ――絶対に許さない。
 楓は思う。
『紫檀のお眼鏡に適ってしまった』
 ただ、それだけが彼女の罪。
 楓と六九はここで初めて出会った。六九の美しさに楓が嫉妬を覚えなかったといえば嘘になる。
 そもそも楓は紫檀に並々ならぬ想いを抱いており、楓が性転換を受け入れたのにも、そのことが大きくかかわっていた。
「べっぴんさんに、もったいないことしたっすね」
 下っ端の一人が楓の方を見てため息をつく。
「あーあ、こうなるなら、もっと楽しんでおけばよかったっす」
 別の下っ端は腰を振りつつ笑う。
 少女はここに集まった男衆全員に一通り回された後、楓によって油で全身をじわじわと焼かれ、紫檀によって右目をくりぬかれた。
 少女が痛みと恐怖で気を失うたびに、楓は少女の爪を剥いだ。そして剥ぐ爪が無くなれば、鼻孔に水を注ぎ、無理やりにでも意識を戻させた。
 紫檀が少女をここに囲い込み、仲間たちと慰み者にすること自体は、今に始まったことではない。彼も希望崎学園の生徒であり、その変態性はチームのリーダーだけあって突出していた。
 楓自身も愛する兄の行いを容認しており、女性としての自身のルックスにも自身があった。しかし、その余裕も六九を前にして、嫉妬に代わる。紫檀が六九をその手に抱く順番が回ろうという時に、楓は紫檀を押しのけ、その顔に傷をつけた。
 楓の並々ならぬ様子に、紫檀を含め周囲の男衆は楓の凶行を止めることはしなかった。
 結局、紫檀は六九の右目をくり抜くことしか、楓に許されなかった。しかし、絶世の美女となろう六九の魔性は、たとえ右眼のみと言えど、紫檀の心を奪っていた。
「兄様はやっぱり、今でもこいつを抱きたい?」
 楓の問いに紫檀は頬をひきつらせる。
「そんなもん抱けるか」
 紫檀はそう吐き捨てる。
 ホッと胸を撫で下ろす楓に、紫檀は不愉快そうに告げた。
「お前、今日は飯抜きな」


【終】挿話「本来の世界線にて」


【設定】

◆一六九
 華奢で小柄な体躯に似合わず、怪力を持つ少女。絶世の美女たる素質を持つが、その怪力っぷりによって魅力を台無しにしている。
 面倒見もよく、厄介ごとにすすんで巻き込まれている節がある。その目的は、この世界線における全イベントの回収だが、死の運命に対する足掻きというよりも、与えられた人生を少しでも充実させられればという意味合いの方が強い。
 RMX-114の能力により、未来世界からタイムリープしてきており、タイムリープの仕様上、連絡すらも取れない状況の中、単独で任務を遂行している。
 自身の存在を抹消することなく、自身の死の運命を克服することが、任務の遂行以前に必要な条件。そのフラグが立たない限りは、RMX-114としての能力は解放されない。

 この世界線においては、千花へと寄生することで、偶発的ではあるが千花の子や孫を脈々と経由することで、未来世界へとの六九のDNAが届くことになる。
 ただし死の未来は回避したが、能力解放前に受けた損傷により、本来の能力の半分も発揮できない状態へと陥っている。
 また、無理な状態での解放により、既に内部では細胞が次々にメルトダウンを起こしており、遅かれ早かれ、結局は大会終了後には跡形もなく溶けて消滅する定め。

 未来世界で魔人全ての救世主となる存在の父親となる運命を持つ一一と、救世主の母となる存在とのフラグ立ての阻止、という指令を受けている。

∴本来の世界線での設定
 絶世の美女たる少女。
 怪力を持つわけでも、面倒見が良いということもない。
 家庭的な性格であり、家事が趣味。風紀委員であったが、風紀委員としての活動にはあまり参加せず、茶道部の方によく顔を出していた。
 帰省のために、校門を出たところを、紫檀一派にさらわれ、暴行の末に殺害された。
 このとき紫檀が持ち帰った彼女の右眼は非常に保存状態が良く、未来世界において回収され、RMX-114の開発に利用される。

◆紫檀
 結成したその日に、六九によってチームを壊滅させられる。その際、六九に一目ぼれし、たびたびチョッカイをかける。
 自身のチームの元ナンバー3が結成したチームの策略によって、六九が捕らえられた際に、千花と協力して救出作戦を行った。
 しかし、時すでに遅く、六九は命は助かるが、本来の世界線と同じように男達に虐げられる。
 全身に火傷を負った六九の姿は、本来の世界線とは異なり、紫檀の覚悟を逆に固め、結果として六九に対する想いをよりいっそう強くさせた。

∴本来の世界線での設定
 この世界線では六九によってチームを崩壊させられていないため、非道の限りを尽くした結果、人格が歪んでしまう。

◆楓
 紫檀の妹。もともとは男性であるが、性転換能力を受けて女性と化している。
 兄である紫檀に対して並々ならぬ愛情を抱く。

∴本来の世界線での設定
 六九に嫉妬する。直接的には彼女が六九を殺した。

◆千花
 六九の後輩。
 六九に対して思春期ということもあってか、歪んだ想いを向けている。

∴本来の世界線での設定
 それなりに六九を慕ってはいるが、そこには特別な感情は無い。









最終更新:2013年12月03日 11:32