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『Fixer』


 一兆円。
 言うまでもなく途方も無い数字である。世界でもごく一握りの資産家、有数の大企業でもなければ準備できない額である。
 大金というのも馬鹿らしい優勝賞金を用意したのは、全面的に大会運営をバックアップする存在──────────日本政府である。経済効果を考えれば決して無駄金ではない。むしろ充分に元の取れるハイリターンな投資であったが、仮にも国民の血税を投入するからには議会の承認が必要になるのは言うに及ばず、財界の調整、各利益団体の橋渡し、それこそ表から裏に至るまで複雑に絡み合った利権を把握し、それぞれを従わせる力を持った者が必要だった。
 ”フィクサー”と呼ばれる存在が。
 彼の前では歴代の首相も大企業の重役も、各省庁の実質トップを務める次官も、代紋を背負った一大暴力集団の大親分でさえ等しく頭を垂れる。
 垂れざるを得ない。
 彼の権力は、財力は、武力はそれ程までに圧倒的であったし、彼の存在と意思なくば日本という国そのものが立ち行かない。
 ”黒幕”である彼はしかし、決して私利私欲で動く事はない。既に巨万の富を得ている彼にとって──────────いや、国家予算さえ自由に出来る彼は最早、金銭欲などから最も遠い存在と言っても過言ではなかった。
 そんな彼の行動原理は──────────理念は。
 信じられないほどに単純で、愚直で、時代遅れで。
 何よりも純粋だった。
 すなわち。
 彼の望みは国家繁栄。
 憂うのは日本の未来。
 その為には──────────ありとあらゆる労を惜しまない。

 『世界格闘大会』の主催者は、彼ではない。そもそも彼が表舞台に出ることなどあり得ないからだ。
 彼なくして大会の開催は実現しなかったし、その意向は決して無視できるものではない。
 しかし──────────。


                                                       <了>