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『“The Transfer” No.4』


 恋は先手必勝、愛は独り占めするものという認識を持つ魔人と。
 恋は相互与奪、愛は皆で共有するものという認識を持つ魔人と。
 二つの異なる価値観が衝突した時、いったいどっちが勝つんですか──────────?
 そんな脳内論争が、”焔狐”──────────数胴兵香(すどう・ひょうか)の頭の中で発生していた。
 いや、実際にすぐ傍で起こっていた。
 「何を言ってるの! 愛する人は他の女に渡したくないに決まってるじゃない!」
 「それはそうだけど、だからこそ奪われた時に大事さが分かるっていうか、ぞくぞくするのよね~」
 兵香のすぐ隣。同じベンチで彼女を挟んで両側に居るのは”愛の狩人”こと葦原美代子(あしはら・みよこ)と、”寝取られの聖女”こと屋良……いや、子虎励子(ねとら・れいこ)。二人の女性がお互いの恋愛観、持論をぶつけ合っていた。
 既にその論争は一時間を超えている。二人とも自分の考えを変えるつもりがないのでどうしても話は堂々巡りになり、決着が付かない。いくら女性は恋愛話が好きとはいえ、黙って聞いている兵香の方が疲れるくらいの熱の入りようで、よくもまぁこれだけ話が続くものだと呆れを通り越して感心してしまう始末だった。
 それでも、他人事ならまだいい。聞き流すだけ聞き流して我関せずを決め込んでしまえばいいのだから。そもそも、そこまで話に付き合う義理もない。
 だが問題は、美代子と励子が話題にしている愛する人──────────その少年こそ、兵香自身も恋してしまった少年だという事だ。それだけでも悩ましい事態なのに、あろうことか、直接本人から聞いた訳ではないが兵香の慕う先輩もその少年と浅からぬ関係にあるという。頭が痛いどころの話ではない。
 兵香はそっと二人を盗み見る。いずれも自分より年上の大人の女性であり、女性としての肉体的魅力で言えばとても太刀打ちできそうにない。自分はこれからが成長期、と言い聞かせても実際問題二人の豊かな胸部を見てしまえばどうしても萎縮してしまう。少年はおっぱい好き、という未確認情報もそれに拍車をかけていた。
 「ふぅ……」
 思わずついた溜息は、思いの外大きかったらしい。それまで議論に熱中していた二人の注意を引くには充分過ぎる程に。
 「貴女はどう思う?」
 「兵香ちゃんはどっち派かしら?」
 急に矛先が自分に向き、兵香は慌てた。
 勿論、自分が彼の一番になれれば嬉しい。しかし、美代子のように他人を押しのける強引な過激さを持てというのは自分には無理な話だ。先輩を悲しませたくない、という想いもある。
 さりとて、励子のように奪われる事で愛を確認する、というのもその度に心を痛めそうで出来れば遠慮したい。そこまでの変態的に強靭なメンタリティは自分には備わっていない。
 もう少し穏当な、中庸の道はないだろうか。例えばそう、先輩と一緒に付き合うとかなら一緒に仲良くする事が出来る。自分の恋心を友人である甲藤操女(かっとう・あやめ)たちに知られて以来、そういう愛の形もある、と最近の漫画やゲームの知識を吹き込まれている兵香は漠然とそう考えていた。心なしか日を追う毎にその教材の内容が過激になりつつあるのだが、それは今はさておいて。
 「ボクはあんまり他人と争ったりはしたくない、かな…………」
 その言葉に偽りはない。また、そうでなければこの二人に付き合っておとなしく話を聞いていたりもしない。少し前は路上で荒れていた時期もあった兵香だが、本来の心根は決して争い事を好む性ではないのだ。
 しかし、優等生的な回答は美代子と励子に対しては残念ながら逆効果だった。
 「ダメよそんな事じゃ! 恋愛は弱肉強食なの! 良いわ、私がそれを教えてあげる!」
 「三人、四人同時プレイも焦らされ感があって悪くないかも? 今度一緒に迫ってみましょうか~?」
 「な、何言ってるんですか!?」
 二人のスイッチを下手に刺激してしまい、左右から迫られる兵香の明日はどっちだ。

                                              <了>