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世界格闘大会四日目、ラ・ピュセル&トラロック、メイド服にて戦場に立つ


「おつかれさまー!」
「雨衣――ありがとう」

世界格闘大会選手用宿泊施設の一角、ラ・ピュセルの部屋の前。今日も賑やかな声が聞こえてくる。
治療を終えて戻ってきた部屋の主を、衣紗早雨衣がハンドタオル片手に出迎えたのである。
タオルを手渡すとすぐ雨衣は勝手知ったるという顔で部屋の中へと引っ込み、それにラ・ピュセルが続く。

「バニー姿のラピちんも良かったけど、その格好も――」

扉が閉められ、廊下に静寂が戻る。
けれど最後に漏れ聞こえた元気な声から、今日も部屋の中では賑やかな夜が迎えられるであろう事が伝わってきた。





「明日は転校生クエストの護衛役をやるんでしょ? 頑張ってね!」
「力を尽くしますよ」
「ヒーローっぽくさーキラッキラで格好良いところを皆にもさー」

ゆったりとしたソファに身を沈め、毛足の長い絨毯に足先を遊ばせながら、ラ・ピュセルは向かいの雨衣を見た。
ソファの前に置かれたガラス製のテーブル。その上に置かれたホットミルク入りのカップが湯気をたてる。
その先に、ラ・ピュセルへと言葉を投げかけつつも真剣な表情で手先を動かす雨衣がいる。

「角の横にウサ耳はやして、爬虫類系の尻尾が伸びてるバニー姿っていうのもアバンギャルドな感じだったけどさ」
「尾はどうにかしたらよかったかしら」
「いやーアレ良かったよ?」

激闘と激闘の間にある、わずかな安らぎの時間を精一杯に満喫するように、二人の会話は益体もなく流れる。
会話の端々、声が途切れた隙間に、シュルシュルと衣擦れの音がまぎれる。
雨衣の膝の上には大きな布の塊、一着の服が置かれ、雨衣の両手がその服の上で踊っている。

「ところで」

シュルシュル――

「なにー?」

シュルシュル――

「先ほどから雨衣がいじっているソレは」
「ちょっと待ってて――――よし! できた!」

ひと通り話を終えたタイミングで、雨衣が手に服を持ってソファの上へ立ち上がった。

「じゃーん! メイド服の完成!」

雨衣の手に持つそれは、英国のクラシカルなメイド服――をおそらく基調にしたのであろうものだった。
ロングスカートのワンピースにフリルをあしらい、大きく目立つリボンをところどころに結び、
おそらく元はメイド服であり、今もメイド服と言えなくもない、どちらかと言えば仮装に近い華美な衣装。

「私の知っているメイド服とはずいぶんと違いますが、雨衣の趣味ですか」
「チッチッ! そりゃ私の趣味も入ってるけど、最近のメイド服はこーいうのがトレンドなんだよ」
「へえ……」

そんな衣装を雨衣から受け取り、腰部に結ばれた大きなリボンを眺めつつ、

「明日はこれを着て闘って欲しいと」
「ラピちん背も高いし出るとこ出てるし、映えるよー!」
「すっかり私のコーディネーターですね」
「どっちかって言うとプロデューサー? ――Pと呼んでくれたまえ」

ラ・ピュセルの言葉に、もちろんと頷く雨衣。
おどけた雨衣の口調に、和やかだった部屋の空気はいっそう緩やかに暖かみを増した。





「それでね! そのヒラヒラはササッと動いた時に格好良く見えると思うんだ!」
「そのリボンですか」

夜も遅くなり、そろそろ寝ようかという時間。

「だから、ラピちんには是非スピードバトルやって欲しいなって。
 あ、もちろん無理は言わないから、出来るならってだけなんだけど」

クローゼットに下げたメイド服のリボンを片手に雨衣が言った。

「スピード……加速装置を使った戦法の事?」
「ビーム喰らっても平気だーって調子に乗ってたゴーレムのパンチを躱して、ゼロ距離でのカウンタービーム!
 あれ、カッコイイなーってすっごい熱くなったもんだったからさー」

少しだけ頬を紅潮させた、ファンの希望。

「あれは生身でやれるものでもないですが」
「あー、やっぱりそっか……」
「けれど、そうですね。『やらなければ何事も出来ない』ですし、やれるだけやってみましょう」
「え……いいの!? ってか、その台詞アニメのヤツ!」

激闘の前、最後の一時。そこには、ファンへの期待に応えるべく立つ、女騎士の姿があった。





<世界格闘大会四日目、ラ・ピュセル&トラロック、メイド服にて戦場に立つ>