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【2ターン目終了後】林紅虎


耳元から響く、師の声。独特の言語であるが、数か月、師と共に修業した紅虎はようやくそれを理解できるようになっていた。
師の元を離れて日本へと発ってから、まだ一か月も立っていない筈だが、その声は妙に懐かしくも感じる。
見たこともない異国で戦いに挑んでいる紅虎の心に、師の言葉は今、大きな力となった。


「お師匠様お師匠様お師匠様!」
「ガウガウガウ!(紅虎紅虎紅虎!)」
「お師匠様お師匠お師匠様お師匠様!」
「ガウガウガウガウ!(紅虎紅虎紅虎紅虎!)」
「お師匠様お師匠様お師匠お師匠お師匠様!」
「ガウガウガウガウガウ!(紅虎紅虎紅虎紅虎紅虎!)」
「お師匠様お師匠様お師匠お師匠お師匠お師匠様!」
「ガウガウガウガウガウガウ!(紅虎紅虎紅虎紅虎紅虎紅虎!)」
周りも気にせず喜び合う師弟。

(屋良(子虎?)励子SS『虎虎虎』より引用)



…………………………………………
……………………
…………
……



「…………はっ!!」

林紅虎は突如、眼を覚ました。
先ほどまで自分は、師との再会を喜び、彼と熱い抱擁を交わしていたはず。
しかし気づけば師の姿はどこにも無く、今残っているのは砂浜で倒れている自分の姿だけだった。

「えっと、私、さっきまでどうしてたんだっけ??」

必死に記憶を取り戻そうとする紅虎。
そうだ、ギリギリまで師からは何の指示もなかったため、追い詰められていた彼女は全てを放り出して、眼の前の青く輝く海で泳ぐことを選択したのだ。
そんな自分の前に現れたのは……。

「誰だっけ??」

記憶がはっきりしない。
自分が何らかの戦いをしていた覚えはあるが、どうやら激しい戦いで昏倒した彼女は一瞬記憶を失ってしまったようだ。

「確か最初はお師匠様が……いや、でも」

良く考えてみれば、おかしい。
紅虎と師との絆は深いが、あんな風に抱き合うような感じではなかったし、
師は、確かにちょっとおかしなところがある人だったが、
あんな風な積極的なスキンシップは取らない、ような気がする。

あれは夢だったのか、それとも……。

「はっきりしてるのは……そう! 急に私に襲いかかってきた人がいた!!」

何やら「真実の愛を教えてあげる」やら、「愛を奪われる絶望を」やら、「そしてその先にある真の幸せを」など、紅虎には難しくて良く分からない(そもそも難しい日本語がまだはっきりと聞き取れない)キーワードを並べながら襲撃をかけてきた謎の女。
自らを『聖女』と自称していたが、その割には殺気満々であり、自分を何やら怪しげな世界へ引きずり込もうとした、おぞましい記憶だけは確かに残っている。

「うう、思い出しただけで寒気がしてきた……。やっぱり格闘大会って、世界って怖い」

紅虎の全身を襲う身の毛もよだつような感覚は、決して海水で濡れたまま昏倒していたことによるものだけではない。
先ほどの自称『聖女』との戦いの結果、自分の大切なものが奪われるかもしれない、いやあるいは既に奪われているのでは?という恐怖感であった。

「うう、頭もクラクラする……」

どうやら先ほどの自称『聖女』との戦いの衝撃で軽い脳震盪を負ってしまったようだ。
一回戦で負った鼻血も未だ止まる様子が無く、油断するとすぐに鼻から赤い液体が流れる。
もっとも、激しい魔人同士の戦いにおいて、二度も戦いに敗北しながらその程度で済んでいるのは運が良い方なのだが……。

「と、とにかく、次の戦いに行かなきゃ……お師匠様の指示を……」

早くも精神的に追い詰められてきている紅虎だが、まだ戦う気力は十分に残っている。
そしてそんな彼女に頼れるものはただ一つ、師から送られる指示、そして師の残したスマートフォンである。

今の紅虎にはそもそも一体自分がどれだけ気を失っていたのか、今どのくらいの時間なのかも分からない。
最初は使い方のよくわからなかったスマートフォンだが、紅虎は学習を重ね、今では現在の時間や自分の位置をはじめ、大会情報の把握すらそれに頼るようになっていた。
(そして、そんな師の気遣いに気づき、彼女はますます師への尊敬を深めた)

だがその便利機器はつい勢いに任せて自分のチャイナドレスと共に砂浜の上に放り出したままである。
とにかく紅虎はまず自分が着ていた服を取り戻そうと、未だおぼつかない足取りでフラフラと砂浜を歩きだした。
だが……。

「な、ない!?」

なんと彼女が脱ぎ捨てたはずのチャイドレスが無いのだ。
自分が倒れていた場所は、最初に自分が泳ぎ始めた場所からそう遠くない海岸である。
記憶のはっきりしないところはあるが、確かにこの辺で服を脱いだはずなのだが……。

「そ、そんな……あのドレスが、電話が無いと、私は何も……」

あまりのことに右往左往して辺りを徘徊する紅虎。だがいくら見回しても彼女が脱いだチャイナドレスは無い。
そんな彼女の眼に、トングとゴミ箱を手にゴミ回収をしている老人の姿がふと映った。

「あ、あのお爺サン、聞イテイイ? エット、キモノ、キモノがこの辺に落ちていませんデシタカ!!? タイガー……、いや、トラ、トラが入った!!」

片言の日本語を交えつつ、何とか老人に語りかける紅虎。

「あん~? ああ、あれか。確かに落ちていたな。捨てようかとも思ったんだが」
「す、捨テタ 捨テタノ?」

「いや~、それがな。まず、あの着物の中からやたらと音が流れとったな。音というより、歌か。なかなか良い歌じゃなと思ったんじゃが、そのまま流されては迷惑じゃ」
「ここは今、格闘大会とやらの真っ最中でもあるからな。それで片付けようと思ったが……」

「そ、それで?」

「うむ、わしがそう思って近づいたところにな。急に割り込んできた奴がおってな」
「すさまじい形相で『不愉快なことを思い出させる歌を流しやがって!! ファック!!』とか叫んでな」
「それで、その着物から……スマートフォンという奴か。それを取り出してな、ほれ。」

老人は自分が持つゴミ箱の中を指さし、紅虎に見せる。
そこには、他の様々なゴミと共に、見るも無残な姿となった、紅虎が師から渡されたスマートフォンの残骸があった。

「叩き壊しよったんじゃ。相当なパワーじゃな。砂浜に叩きつけただけで、機械がこんなに砕け散るとは」
「あ、あう。あうう……」
「それでの……、そう、あの着物か。とにかく急な出来事じゃったが、わしの仕事はあくまでこの砂浜のゴミ掃除じゃ。まずはこのゴミになってしまったもんを片付けねばと思ったわけじゃ」
「で、散らばった欠片を集めているうちにな、いつの間にか消え取ったぞ。あの虎が入った着物は」
「え、ええ~~~!!」
「いや~、一体誰が持ち去ったのか。最初にこの、スマートフォン、ってのを壊した奴かな? そうかもしれんが、確か、ゴミを集めていた時に、他にもこの辺を通った奴がいたような気もするな」
「そ、その人たちの顔は?」
「いやぁ~~それがな。なにぶん、一瞬の出来事じゃったからな~~。それに最近物忘れも激しくなってな?」
「さっぱり覚えとらん!! 男だったか、女だったかもよく分からんのよ」
「え、ええ~~」
「ありゃあ、お嬢ちゃんの着物じゃったのか? まあ災難じゃったな。とりあえず盗まれた物を探したかったら警察にでもいったらどうじゃ?」
「ああ、このバラバラになったものは返すぞ。ゴミになってはいかんからな。とりあえず手を広げて、受け取ってくれい」

老人は、トングで箱からバラバラになったスマートフォンの欠片を一つ一つ取り出し、パラパラと紅虎の前に落としていく。
紅虎は、茫然自失となったまま、言われるままにそれを手で受け取ったのだった。

「おお、なかなか器用じゃな。お嬢ちゃん。これでわしもゴミの持ち主が分かって、一つ肩の荷が降りた気分じゃ」
「じゃ、わしはまだまだ片付けが残っておるでな。これで行くぞ。お嬢ちゃん、水着のままじゃが、風邪だけはひかんようにな」

そして老人は鼻歌を歌いながら、再びトングを手にその場を立ち去った。
後には、ただ水着姿のままで茫然と立ち尽くす紅虎のみが残された。

「そ、そんな……」

あまりにも衝撃の事実。
持ち物を全て失い、一切の行動指針を失った。
一体これから自分はどう行動すればいいのか。
師から受け継いだチャイナドレスはどこへ消えたのか。

「そんなぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

夕日が沈む砂浜に、ただ紅虎の絶叫が響き渡るのだった。



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果たして一体誰が彼女のチャイナドレスを持ち去ったのか!!!?
水着一丁で砂浜に放り出された紅虎はこの後一体どうするのか!!?
スマートフォンを破壊した狂人とは何者か!?
そして彼女の師匠は一体どこへ消えてしまったのか!?
待て、次ターン!!