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その名はラ・ピュセル




~~2週間前~~


○ファンサイド
岸颯太(きし そうた)は短い人生経験の中で最大の危機に直面していた。

「……コスモエナジーの反応を検知。……貴方は何者? 何を企んでいるの?」

台風が近づき、黒い雲が渦を巻くように空を流れ、強まりだした風が周囲の廃ビル群と荒野を洗っていく。
荒れ模様の天気を他所に、颯太の前に立ちはだかるのは天気以上に不穏な雰囲気をまき散らす銀髪の女性。
自分よりもだいぶ年上、高校生くらいだろうかと颯太は思う。その女性の目が金色に光り、自分を睨みつけている。

「ええと……ひ、人違いじゃ……」
「誤魔化しても無駄。検知したコスモエナジーはビッグバン大帝国の標準仕様だから……この星の物ではない」

弱々しい疑問の声を意に介さず語気を強める女性の、手に握られた物が颯太の顔を狙っている。
見たこともない機械だが、この状況から考えて友好的な代物とは思えない。銃だろうか。颯太の全身に震えが走る。
なんでも出来る気になって浮かれて出かけてきてみればこの事態である。

「あの……」
「!」

訳もわからず、すがるように女性へと手を伸ばした颯太は、直後に脳天へ強い衝撃を感じた。

「――あ――れ?」

遠のく意識の中。颯太が最後に意識した事。
颯太の動きに反応した女性が、手にした機械で何かをしたらしい。
そして、

「ちょっと!? 何をやってるの!!」

どこか遠くから、聞き覚えのない女性の声がかすかに届いた――――気が、した。





颯太は幼くして魔人となった少年だった。
幼なじみの何かと世話を焼きたくなる少女に影響されてか、同年代の男子達より精神的に早熟だったのかもしれない。
その土壌が魔人化を早めたのか。幼なじみの少女が何だかという難しい名前の病気になった時、颯太は魔人となった。

魔人は社会的に迫害される。両親は颯太の魔人化を隠し、颯太にも魔人である事を隠すよう諭した。
幸いにも颯太の魔人能力は周囲の人間に気付かれやすい類ではなく、颯太の性格もあって、隠匿は成功していた。
常人を凌駕する身体能力だけは隠すのに苦労した。体育の授業はいつもヒヤヒヤした。

趣味だったサッカーは、どうやってバレずに力を抜いてボールを蹴るかの精密作業になった。

そうした生活が、颯太の性格をいっそう鍛えた。
そんな日々を送りながら、幼なじみの少女の見舞いも日課としてこなした。
幼なじみの少女には、妃芽小雪(ひめ こゆき)にはどうか笑顔でいて欲しいと、彼女の前ではことに明るく振舞った。

小雪の趣味に、アニメ鑑賞があった。
病院のベッドで過ごすようになる前から、颯太と小雪は一緒にアニメを観る事もままあった。
アニメのヒーローやヒロインに憧れる小雪に、こんな性格のままで大丈夫かと、颯太はよく心配していたものだった。

小雪の手術が2週間後に迫った日。颯太の元に不思議な小包が届いた。
それは小雪と一緒によく観ていた『魔法騎士 ラ・ピュセル』のファン宛てに送られた、プレゼント企画。
包装には、ラ・ピュセルの変身装置である『シンデレラ limited』と書かれていた。

半信半疑のまま装置を起動させた颯太が見たのは、鏡に映る『ラ・ピュセル』の姿だった。
自分の手を見て、いつもより長く白いその腕を確認する。手を握り、開く。視線を下げると胸の膨らみに視界を塞がれた。
上を見れば天井がいつもよりもだいぶ近い。改めて鏡を見て、そこに映るラ・ピュセルが自分であると理解した。

まず、颯太は小雪のいる病院へ行こうと考えた。
手術を前に、小雪は怯えていた。ファンであるラ・ピュセルが励ましに来たなら、元気づけられるかもしれない。
だが、そこで颯太は問題に気づいた。姿がラ・ピュセルそっくりになっても、自分には出来ない事がある。

ラ・ピュセルといえば、必殺技のコスモビームである。指先や剣先から放つまばゆい光が敵を容赦なく撃ち倒す。
試しにビームの構えを取ってみるも、当然ながら颯太にビームを撃つ事は出来なかった。
身体能力は低くとも魔法の道具とビームで闘うラ・ピュセルと、身体能力は高い、それだけの自分。颯太は考えた。

そういえば――――と、颯太は学校で聞いた噂話を思い出した。
自分の住む街の隣、修羅の国CHIBAに「気」を操る不思議な武術を教えてくれる仙人がいるという、そんな話。
担任の先生からは近づかないようにと言われているCHIBAの中の事ではあったが、颯太は迷わず家を飛び出した。

普段の自分ならもっと冷静な行動を取ったかもしれない。思いながら颯太はラ・ピュセルの姿のまま駆けた。
颯太の心は不思議な高揚感で満ちていた。魔人としての身体能力を発揮できなかった鬱憤晴らしだったのかもしれない。
小雪と一緒に見続けて、影響されて颯太もラ・ピュセルに憧れを抱いていたのかもしれない。

今ならどんな事も出来るような気がする。どんな困難も解決出来る気がする。そう思ってCHIBAへと足を踏み入れ――――





「あっ! 目を覚ました? 大丈夫? 頭は痛くない?」

颯太が目を覚ましたのは、飲食店を思わせる建物の一室だった。
テーブルを並べ、その上に布団を敷いた、簡易ベッドの上で身体を起こした颯太に、横合いから心配の声がかけられた。
声のした方向を見れば、目に映える水色の髪を揺らした女性が心配そうに颯太の顔を覗きこんでいた。

「えっと……大丈夫……です」
「そう? 良かったあ。あ、貴方が気絶しちゃってたから、私の家に運んだんだ」
「僕が……気絶?」

中学生か、高校生くらいだろうか、リボンで可愛らしく髪をまとめている、全体的に可愛らしい雰囲気の女性。
颯太は目の前の相手を観察し、ぽつぽつと会話を続ける内に、やっと意識を失う前の記憶を思い出してきた。
そうだ。自分はCHIBAの荒野に到着したところで見覚えのない銀髪の女性に突然襲われ、それで――――

「ほら! この子、目を覚ましたよ! ちゃんと言う事あるんでしょ!」
「……う……ん」

そこまで颯太が考えたところで、水色の女性が部屋の隅に声を投げかけた。
水色の女性の視線の先へと顔を向け、颯太は慌てて立ち上がろうとして、テーブルをガタリと揺らした。
そこには、正に自分を襲った銀色の女性がこちらに歩いてきていた。

「慌てなくても大丈夫だよ。貴方を襲ったのって勘違いだったんだって。だから貴方に言いたい事があるって」
「え? え? 勘違い? 大丈夫って?」
「貴方……」

混乱する颯太を水色の女性がなだめる間に、銀色の女性が颯太のもとへと近づいた。
おそるおそる見あげた颯太を、金色の視線が見つめている。その口が、何かを言おうとむずついていた。
しばらく見つめあう二人。無言が苦しいと颯太が思い始めたとき、銀色の女性が手に持った物を差し出した。

「貴方の持っていたこの道具……確認を取ったら、私とは関係のない物だったから……」

それは、『シンデレラ limited』だった。

「あ、それは、今日、プレゼント企画で届いた、えっと……」
「わかっています。確認しましたから。……その鎧姿を見ていたら、なんだか自分を抑えられなくて……」
「そのって……あ、まだこの格好のままなんだ」
「天地に教わりました。こういう場合は、謝らないといけないって。……だから、ごめんなさい」

自分に頭を下げる女性を見ながら、颯太は現在の状況をおおまかに把握していた。
どうやら、自分が襲われたのは『シンデレラ limited』のせいだという事。目の前の女性は、何か勘違いで襲ってきた事。
自分が気絶して、それを今は成り行きを黙って見守っている水色の女性に助けられた事。

それらを頭の中で整理してから、もう一度、顔を上げた銀色の女性に目を向けた。
その表情は感情をほとんど表してはいなかったが、真剣である事が颯太にはわかった。心を隠し続けてきた経験からか。
見知らぬ場所にいる自分。時間はあまり経っていないのだろうか。目的がある外出の最中でもある。そして、

――――『誠意を持って接してきた相手には、敬意を持って対応するべき』

『魔法騎士 ラ・ピュセル』の何話目だったろうか、どこかで使われていたラ・ピュセルの台詞を颯太は思い出していた。
ラ・ピュセルならばこんなときどうするか。そして今の自分の格好は。自分がこんな格好でいる理由は。
颯太の口から、自然と謝罪を受け入れる言葉が出ていた。

「もうなんともないみたいですし、勘違いだってわかってもらえたみたいで良かったです」
「私を許してくれるの……?」
「はい!」
「いやあ、仲直り出来たみたいで良かった! やっぱり仲良くしているのが一番だよね」

その様子をずっと見守っていた水色の少女が、相好を崩して声をあげた。





予想外のハプニングはあったものの、なんとか事態を打開できたと颯太は安堵していた。
しかし、それも束の間の事であった。
看病してくれたお礼を述べ、早く目的の場所へ向かおうと建物から出ようとした時、颯太は水色の少女に引き止められた。

「あ、待って。今は外、台風で凄い事になってるから出ない方がいいよ」

言われて初めて、意識を取り戻してからずっと建物の外で強風が吹き荒れる音が鳴っていた事に颯太は気づいた。
今年は異常気象で、もうすぐCHIBAに3つの台風が同時上陸する見込みだと、今朝の天気予報で言っていたのを思い出した。
私もここで雨宿りさせてもらうんです、と、銀色の女性が言った。颯太が寝ている間に台風と話が進んでいたらしい。

急がなければ、という気持ちがまず湧いた。しかし、冷静さを取り戻した颯太の心が、今は急いでも仕方ないと諭した。
板を打ち付けて封じられている窓から外の様子は見えないが、聞こえる風と雨の音が外の状況を如実に語っていた。
どうしようもない。颯太は部屋の中央へと戻り、水色の少女に「それではしばらくお邪魔します」と頭を下げた。

「そうだ、自己紹介まだだったね」

こうして始まった、台風下での颯太と、女性二人の、短い共同生活。

「僕は岸颯太といいます」
「へえー、本当に男の子なんだ」
「私は……メノウ・プルーティアといいます」
「うん。颯太に、メノウね。私は――」

それは、誰にとってのものだったか。新たな一歩を踏み出すための舞台となった。





○ラ・ピュセルサイド
「端末は地球に届きました」
「装置は起動している?」
「はい。情報も送信されています」
「では私も出発の準備を始めますので『砂漠のヘビ』の準備をお願い。私は他の荷物を準備してきます」
「かしこまりました」