財前さんと愉快な仲間たち(?)


その闘いを偶然目撃した近所の住民は、後にこう語った。

――――コンクリートに根を張るビルを引っこ抜ける人間がいるか、だって?
――――馬鹿を言っちゃいけない。そんな人間が居るわけないだろう。

――――巨大な鉄の塊であるビルを持ち上げられる人間がいるか、だって?
――――馬鹿を言っちゃいけない。そんな人間が居るわけないだろう。

――――じゃあ、さっきのアレはなんだったんだ、だって?
――――俺が知るわけないだろう。でもまぁ、一つ言えるとすれば。

――――ビル投げマジクール。

――――え?その女性?
――――さぁ、試合が終わったらどっか行っちゃったけど。金持ってそうだったよ。

◇◇◇

財前倉持は敗退した。
公園に集まったはいいものの、相手が見当たらずに転校生に襲われることになってしまったのだ。

敗北という事実は心身共に財前へ大きな損害を与えた。
まず、網膜剥離という怪我。
金さえ払えば治るが、受けた痛みと体を傷つけられたという事実は変わらない。

へし折られたプライド。
ケジメ・マネジメントの社長として君臨する財前が、全国放送で地に伏せられたのだ。
財前が受けた精神ダメージは計り知れない。

そして、信用も地に落ちた。
社員は労るように接してくるが、その表情の内に哀れみや失望が混じっていたのを財前は見逃さなかった。
会社の株が暴落しているのが、信頼低下の何よりの証だろう。

「――ク、ククク」

自然と笑いが漏れてくる。
惨めな自分への滑稽さからくる笑いか? 否。
総てを諦めたが故の乾いた笑いか? 否。
潔さを履き違えた諦めなど、負け犬以外の何者でもないだろう。

「……転校生、転校生か。経済界の悪魔、人外と呼ばれた私を凌駕する存在か。面白い!」

なまじ優秀過ぎたが故に生涯味わうことの少なかった敗北感。
そんなものを与えてくれた相手をどうするかって? 

「潰したい……と言いたい所だがな。まぁ今はその時ではないだろう。何やら依頼も入っているようだし、探しにいってやるかな。」

本社ビルの最上階、社長室を出てエレベーターに乗る。
向かう場所は――魔人一家前の道路。

◇◇◇

「こんにちはーっ」

目的地に着いてまず聞こえてきたのは白昼堂々バニースーツを来た娘の声。
服装は違うが見覚えがある。確か、天王星といったか。昨日は財前が戦ったのと同じ公園で宇多津泡沫を一発KOにしていた。

「なんだ、私の邪魔でもしに来たか?」
「いえ、お手伝いに来ました!」
「転校生と戦うといっても今回はちょっかいを出す程度のものだ。昨日まではお前のようなぶっぱ勢だったが、目に合気道を受けてしまってな…。あまり戦力としても期待に添えそうにはないよ。それに正直私とお前二人では……。」
「それなら大丈夫です。実際に来て頂けるかは少し不安ですが……」
「?」

財前が首を傾げた数瞬後、二つの影が現れた。

「あまり私を見くびってもらっては困りますよ。」
「待ち合わせ場所はこちらでよろしかったでしょうか?」

ヴァッファローヴェルと森乃九。
天王星ちゃんが協力を要請した二人だ。

「来てくれたんですね! 疑ってすいませんでした。お二方がいれば頼もしいです!」
「ふふんっ」
「えへへ」
「どうでしょう、財前さん。この四人ならもしかしたら……ね?」
「なるほど。また強者を集めてきたな。」
財前も思わず頷いた。こいつらならやってくれるかもしれない、そんな期待を少し持ち始める。

「ちょっと待ったぁー!」

「「「「!?」」」」

音源は上方。
四人が上を見上げると、一家の反対側に位置する家の屋根から赤と黒の影が飛び降りた。

「クリムゾンロータス参上! 何やら転校生に闘いを挑むようだな。邪魔者が来ないようにこの私が護衛してやろうじゃないか!!」
「「「おぉー!」」」
「ふんっ…なかなか面白くなってきたじゃないか。」

運が向いてきたな、と財前は不敵に笑い社長らしく号令をかける。

「よぉーし、お前ら! ここに居ると思われる転校生を探せ! 一番手は私が担うから、見つけたら私に知らせろよ!」
「「「「おぉー!!」」」」

◇◇◇

「いない…だと?」
「メイド服着てる人間とかいたら怪しいだろうと思ったけどいませんでした」
「着ぐるみきてる人間とかいたら怪しいだろうと思ったけどいませんでした」
「寝てたけど、夢の中でも出会えませんでした―!」
「屋根の上も探してみたがいなかったぞ!」
「ふむ…」

(ここにいるものだと思っていたのだがな。私が目論見を間違うとは……。転校生、やってくれるじゃないか。それはそれとしてサボってた奴が一人いたみたいだな、奴は後でぶっとばす! しかしここにいないとなるとどこに居るのだろうか……うーむ……。)

考えこみ始める財前だったが。

「んーまぁ転校生いないならしょうがないしね。じゃあ……」
「そうだね、天王星ちゃんやろうか」
「やろうやろう!」

「えっ」

「クリムゾンロータスさん私と対戦します?」
「いいだろう、受けて立とうではないか!」

「ちょっ」

財前以外のメンバーで対戦組み合わせが着々と決まっていった。
自由に動けるだけの場所を確保する為に彼らは左右に散らばっていく。

「……」

思い出したのは昨日の公園での出来事。
天王星ちゃんを含む集まったメンバーで財前を置き去りに組み合わせが決まっていたあの時。

――――もしかしたら、私は二人組を作るのが苦手なのかもしれない。

「ケジメ・マネジメント」の若き女社長は愕然としてその場に膝を突いた。

【END】



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最終更新:2013年11月13日 03:12