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世界格闘大会二日目、ラ・ピュセル&トラロック、転校生クエストに挑む


「ラピちん本当にやるんだ……」
「望む相手が、向かう場にいれば、ですが」
「『転校生クエスト』――んんっ! なんか私も燃えてきたよー! ばっちり応援しちゃうからっ!」

TOKYOの都心。区画整理され、広々とした団地脇の歩道をラ・ピュセルと衣紗早雨衣の二人が歩いていた。
街路樹や歩道に沿う生垣がせめてもの生命力を演出する、人影の見えない無機質な道を、大小二輪の華が進む。
辺りはこの時間に出歩く人も無く、大通りから一区画外れるだけで閑散とする都会の不思議さがよく表れていた。

静かな夏の風に吹かれながらゆるゆると歩き、話す二人から離れること幾百メートル程。
大通りでは世界格闘大会目当ての観光客が自動車の列を作り排煙で空を曇らせている。
かすむ空を見あげれば、巨大な街頭テレビジョンに大会の各試合決着の瞬間が編集され、繰りかえし喧伝されている。

そのお祭り騒ぎの真っ只中。交通整理の係員が必死で歩行者を誘導し、その人数と熱気にうんざりとしている、その背後。
普段ならば二十四時間、溢れかえる人混みに埋まっているTOKYOの観光地、TV局前が広く空けられている。
複数台のTVカメラが空間を隙間なく捉えているこの場こそが、ラ・ピュセル達の目的地、次の試合場であった。

おそらくは転校生と闘う事になる、決闘の場所――――世界格闘大会試合場、TV局前。

「ラピちん、もう脳震盪は大丈夫なんスか?」

遠く、それでも空から漂ってくる大会の熱気を感じながら、雨衣が隣を歩くラ・ピュセルを見あげて聞いた。

「ええ。大会の医者に診てもらったので」
「ならこんなにノンビリしてないでさっさと試合場に行っちゃおうよ――って、まさかラピちん私の怪我を気にして?」
「まだ点滴を受けている人に無理はさせられないでしょう」
「そんな病人扱いされないでも平気だけどなー……って、これじゃまだ走ったりは無理かー。はは」

衣服の一部を『有衣纏変』により松葉杖代わりにして歩く自分の姿を見返し、雨衣は笑った。
試合で折れた左足は、同じく能力によりギプス代わりの服で固められている。可愛い見た目を損なわない努力である。
昨日の試合――――と、そこまで考えて、ラ・ピュセルを気遣い、雨衣が話の方向を素早く変えた。

「へへ……でもこれから転校生と闘おうってのに私の心配なんて、さすが『ラ・ピュセル』! 歴戦のツワモノだねー」
「精神力が私の武器ですから。特に、この大会ではそれが唯一の」
「くーっ! 決まってるー!」

ニコニコとした雨衣の明るい笑顔を見て、少し考えた後、ラ・ピュセルは表情を和らげ、それと、と言葉を続けた。

「今は、雨衣というファンの応援がありますしね」
「おおっ!?」
「どうしました?」
「いやぁ……そんな事を言われちゃったら……なんか、すっげぇ嬉しいッスね!」

ラ・ピュセルからの思わぬ一言に、雨衣は喜びの声をあげた。
片手をブンブンと振りまわし、飛び跳ねる小動物じみて、雨衣は嬉しさを全身で表現する。
もしも怪我をしていなければ、それこそ本当に飛び跳ねていたかもしれない。ラ・ピュセルは思った。

「あ! それじゃ、ラピちんにひとつ頼み事しちゃってもいいかな!?」

そして、ラ・ピュセルの腕をはたいたり身をよじったり、ひとしきり喜びの舞を見せた後。
雨衣は良い事を思いついたと、大袈裟に手を叩いた。
やや恥ずかしげに頬を染め、上目遣いでラ・ピュセルの手を取り、思い切って雨衣が言った。

「試合じゃなければイロイロと使えるんだよね? パワード・システムとか」
「ええ、持ってきてはいますから。……ああ、なるほど」
「へへへえ……ラピちんが私を抱きあげてくれれば、ビルの上もひとっ走り――だよね?」
「直線を最短距離で走れますね」
「『ラ・ピュセル』の22話で病気の女の子をお姫様抱っこで運んでたアレ、私も憧れたもんなんスよー」

期待の眼差しで見あげてくる雨衣に、ラ・ピュセルが笑って応えた。

「ええ、いいですよ」
「マジで!? ぃやったあぁぁぁ!!」

ガッツポーズを決める雨衣を、通りかかった野良猫がビクリと顔をあげて、見つめた。





銀の鎧に身を包んだラ・ピュセルが、雨衣の膝裏に腕を通し、背中を優しく支え、素早く抱きあげた。

「おわあっ!! 私、『ラ・ピュセル』に抱きあげられてるっ!! ラッキー!!」
「それでは、行きますよ!」

腕の中ではしゃぐ雨衣に軽く視線を送り、一声あげてラ・ピュセルが地面を蹴る。
重なりあった二人で一つの人影が、またたく間に銀色の風になり、その場からかき消えた。
残された人のいない路上で、目を丸くした野良猫がぼんやりと風の行く先を見送っていた。





「……胸は触らないでくれる?」
「あははっ、こんなに立派なのが目の前にあるとつい……」





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