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トラロックエピローグSS


「……それでは、『転校生』化は拒否するということでよろしいですか?」

「――はい。ごめんなさい」

 西日の差し込む病室で、黒服の男の勧誘を衣紗早雨衣はハッキリと、普段の彼女からするとずいぶんと冷淡に拒絶した。
 ホーリーランド初戦、「コスモビーム」により重傷を負った雨衣は病院に運び込まれた。手術を担当した鳥仮面の医師のワザマエにより治癒すれば傷跡も残らず元通りになるとのことだったが、無論大会はリタイアせざるを得ない。

「雨弓兄より強くなるって約束したのになー」

 黒服が出て行った後、窓から夕日をぼんやりと眺めて呟いた時、背の高い女性が入ってくるのが見えた。銀髪に美しく整った顔立ち、何より自分がその日敗れた相手だ。忘れるはずは無い。

「……ラピちん。お見舞い来てくれたんだ」

「ヴァファローヴェルさんがこちらにいるって教えてくれました。衣紗早雨衣さん……」

「えへへ、真名がバレちったね。ラピちんは今4位だっけ? おめでとう」

 舌を出し、冗談めかして笑う雨衣だが、ラ・ピュセルは彼女の目が赤く腫れていることにも気づきつつ、指摘することは当然出来なかった。
 数秒の沈黙の後、ラ・ピュセルは頭を下げる。そのために見舞いに来たのだ。

「本当にごめんなさい、私のせいで貴女は闘うことが出来なくなって」

 そう言って、また黙って頭を下げ続けるラ・ピュセルに雨衣の言葉が降ってくる。

「ラピちん、顔上げて」

「は、はい!」

 恐る恐る、元の直立姿勢に戻ったラ・ピュセルの目に映ったのは、真剣な眼差しで自分を見上げる雨衣だった。

「ラピちん、謝るなら、これからはビーム撃たないの? 私に初手でぶっぱしたのは間違いだった?」

「そ、それは……」

 コスモビームは敵に大ダメージを与えるラ・ピュセルの必殺技である。決まれば多くの敵はそれだけでアウトだろう。無論、この先の戦いでも可能な限り撃つつもりでいた。

「私はラピちんをカメラの前で全裸にして勝つつもりだったんだよ? 結果ラピちんがトラウマになってもさ。それで、私の方が酷いことになっちゃったから謝るって卑怯じゃない?」

「それは……」

 卑怯、と言われ返答に詰まる。幼い頃から武人として正々堂々とした戦いをするよう教えられてきたラ・ピュセルだけにそのような非難を受けたのは初めてで、そして実際言い返せないところはあった。間違いだと思わないことを謝るのは自分の罪悪感を減らすためでしか無いのかもしれないと。
 悪人は悪「役」では無い。倒されるために存在するはずは無く、正義がそうであるように彼らも相応の背景があるのだ。況してや善悪も無い対戦相手。正義のヒーローであれ一武術家であれ、勝つということは、相手の思いや事情を踏み躙ることを意味する。

「ごめんなさい衣紗早さん、覚悟が無くて」

「『雨衣』でいいよ」

「私、これからもコスモビームをバンバン撃って優勝を狙います」

「うん、頑張れラ・ピュセル!」

 そうしてごつん、と拳を突き合わせる。

 その後、2人は色々なことを話した。ラ・ピュセルの母星の先王が崩御し、後継者争いを止めるために姫の婿探しにやって来たこと。姫がよく悪戯をして自分や他の従者たちを困らせること。地球では「ラ・ピュセル」だとよく言われること。雨衣がファッションデザイナーを目指していて、資金稼ぎと宣伝活動のため大会に参加したこと。雨衣のデザインした服のウケが何故か良くないこと。近々発売されるラ・ピュセルのブルーレイボックスが欲しいこと。

 2人で話に夢中になって、気づけば外の茜空はすっかり夜の色に包まれていた。そろそろ雨衣の母が着替えを持ってくるというので退散しようとするラ・ピュセルに雨衣は言う。

「ねえ、サインも貰っちゃったけど、ラピちんにもう1つお願いしていいかな? 私の胸にも触っていいからさ。あ、傷のとこは避けてね?」

「胸は別に触らなくてもいいですけど、なんです?」

「『ラ・ピュセル』ってフランス語でしょ? 故郷の星での、真名、教えて欲しいんだ」

 そんな願いにラ・ピュセルは少しばかり目を見開いた後、数瞬の沈黙を経て返答する。

「いいですよ。教えましょう。その代わり、私から雨衣にも、やはり1つお願いしていいですか?」

「うん、いいよ。あ、下を触るとかは無しね?」

 馬鹿なことを言う雨衣に呆れつつ、カーテンの向こうにいる同室の患者たちには聞こえないよう小声で、その名を呟いた。

「私の本当の名前は――」


 大会2日目、試合場に現れたラ・ピュセルの傍らには、点滴を受けながらついてきた着ぐるみの少女・トラロックの姿があった。
 遠く銀河の彼方に浮かぶシャイニングキングダムにて、姫君の筆頭執事が異星から持ち込んだという――巨大な襟やらリボンやらファーやら、チェーンがジャラジャラのファッションが流行するのは後年のことである。