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天王星ちゃんの冒険


これは、世界格闘大会が始まるちょっと前の話である。

◇◇◇

「うーん……」

目が覚めた。ここはどこだっけ…? 
空はオレンジ色に染まりつつある。 

「夕方かな? 早く帰らないとなー。ってまずはどこに来ちゃったかだけど……あー。」
寝る前の行動を冷静に思い出す。
地球の自然と触れ合うべく山の探索を楽しんでいたのだが、山は山でもかなり小さく緩やかな山だからと見くびっていたのがきっと間違いだったのだろう。頂上に到着して気が抜けた辺りで猛烈な眠気に襲われて、どこか寝心地の良い寝場所を探して彷徨いそのまま寝てしまった……気がする。
問題は、ここが山のどこらへんというのが分からないということだ。

「うーん、とりあえず降りてみようかな。」

山なら降りていけばいずれ麓の道にたどり着くだろう。
背伸びをしてやる気を出す。服の汚れを取り払って下へ下へと歩き出した。

◇◇◇

見通しが甘かった。

「えーここどこよー」

確かに麓の道に辿り着いた。辿り着いたのだが、登ってきた道とは景色が全然違う。賑わっている希望崎方面と打って変わってどこか寂れた雰囲気を感じる。どうやら違う方面に降りてきてしまったらしい。
困りつつも、道をとりあえず進んでみる。

三叉路にぶち当たった。右と左どちらに進もうか。ここで選択を間違うと更に遠回りになるだろう。
悩んでいると、ふと道路の脇にあるひっそりとした墓地に人影を確認した。
なにやらゴソゴソしている。お盆でもないのに墓参りだろうか。感心だなぁ、と思いつつも道を尋ねるべく近づいてみる。

「あ、あのー道に迷ってしまって……。希望崎学園の近くまでいくにはどう進んでいけばいいんでしょうか……?」

一瞬、目の前の人物は動きを止めて振り向いた。
心なしかむわっと生臭い匂いが立ち込めた。その人の皮膚にはあちこちに縫い跡がある。何か大怪我でもしたことがあったのだろうか…?
手を後ろに組んでるのも、まるで何かを隠しているかのような。まるで子供が悪戯を見つかった時の態度の様な……。人の少ないこんな場所で出会った為に疑心暗鬼になっているだけだろうか。そう信じたい。

「あー希望崎ね―!そっちを左に進んでそのまま突き進むと辿り付けるッスよー。それなりに道のりは長いから気をつけてねー!おっとと、目が落ちちゃった……。」

元気に道を教えてくれた人の左目が――落ちた。
そしてその目を慌てて拾おうとする際に、その人が持っている誰かのもぎれた手も見えてしまう。

「ひ……ぁ……」
「あ、えーと、これは…あははは見つかっちゃったね―!」
「あ、ありがとうございましたあああああ!」

全力疾走で教えられた通りの左の道を突き抜けた。

◇◇◇

「ぜはぁ……はぁ……」

呼吸が辛い。肩で息をする。
普段寝てばっかりいるせいかこういう運動面ではすぐバテてしまう。
さっきの人は何だったのだろう。よく映画とかにでてくるゾンビとかいう存在なのだろうか。

「まぁでも、親切に道を教えてくれたし悪い人ではない……のかな?」

呼吸を整えながら山の斜面に接する道を進む。

と。そこで。
ズシン、と大地が揺れた。

「――!?」

一瞬、地震かとおもったが振動は一定リズムで響く。
それもどうやらこちらに近づいてくるようだ。
斜面の木々が崩れていく。

竜が現れた。
巨大な翼を持ち金色の外殻に身を包んだ巨大な竜。その外見からは美しささえ感じる。
しかし、今は見とれている場合ではない。
もしこの竜に見つかったら? 竜の目は怒っているのか険しく、とても穏やかな様には見えない。。

「――――っ」

身を潜める場所を探すが木々は倒され、視界は開けてしまっている。仕方がないので標識の影に隠れる。かつてここまで標識の細さを心細く思ったことがあっただろうか。
息を潜めてなんとかやり過ごすしか無い。
(見つかりませんように……見つかりませんように……)

内心でひたすら祈りを呟く。
一秒、一瞬が長く感じる。多分、気づかれてはいない。足音は道路を横切り下へ下へと進んでいく。
音が遠く遠く聞こえなくなるまで、動けなかった。

「……ふぅ。」

あの竜は何を思って下に向かっていったのだろう…?

「いや、今はそんなことより早く帰ろう……」

随分と時間が経っていたらしい。もう辺りは暗くなり月の明かりだけが光源となっている。
トボトボと歩き出した。

◇◇◇

「はぁ……やっと、やっと……」

見慣れた景色に戻ってきた。
街灯や家の灯りがとても眩しく暖かく感じる。
ここからアパートまではまだ多少時間がかかる。それでも山道を歩いている時よりも遥かに安心感がある。
これ以上何もない。そう、思っていた。それが間違いだった。

「きゃっ」
「わっ」

道を曲がろうとすると誰かとぶつかった。
ピンクの牛を模したキャラクター。たしか球団のマスコットだったか。テレビで見たことがある。

「あ、ごめんなさい!でも今は急いでるので、すいません!本当にごめんなさい!……あーもー追手がしつこいなー!」

そう言ってマスコットは去っていった。幸い怪我もせず、自分も不注意だったので特に悪い気もしなかった。
しかし、見てしまった。街灯に照らされて、可愛らしい顔に付着していた血液。少しひしゃげた赤く染まったバット。

「え…………? 何……?あれは一体……。う……あ……」

ゾンビに巨大竜、血まみれマスコット。
地球ってこんな恐ろしい場所だったのか。日本は比較的平和だと聞いたが、自分が知らなかっただけでカオスな国だったのか。

「もういやだ……。早く家に帰りたいよぉ……」

そう言って、歩き出した、瞬間。

「もうっ!何なのよあの男!私に興味あるように見せていざ解散となったら他の女を持ち帰るなんて……。まったく、これだから男は……。」

ぶつぶつと呟く女性の声が聞こえて、そちらに向 い て し ま っ た。

凄まじい眼力でこちらを向く鬼の顔を見てしまった。

「ぁ……ぅ……」

そこで、限界だった。
崩れ落ちるように失神して地面に倒れた。

――――涙で化粧が崩れ、怒りと悲しみが複雑に混じった表情で宙空を睨んでいただけの普通のOLだったのだが、天王星ちゃんは知る由もない。

「ちょっと! 人の顔を見るなり倒れるなんて失礼じゃない!? って大丈夫? ねぇ、ねぇったら!!」
「うーん……うーん……」

天王星ちゃんが彼女達に会うのはおよそ一週間後のことであった。

【END】