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睡拳使いの邂逅


大会開会式前、控室に向かいながら選手の名前や顔写真、格闘スタイルなど簡単な紹介が書いてあるパンフレットを読んでいた天王星は驚愕した。

「お、おぉー? 睡拳が二人……私含めて三人かぁ。気になるね―」

天王星の睡拳は体系として確立された武術とは違い、格闘センスを発揮するだけで決まった型がないのだ。故にどういう宗派があるのか、そもそも武芸としての睡拳をどういうものか知らない。とっても興味がある。

「こんにちはー。」

控室。ちょっと躊躇いがちに入る。その場に居た何人かがこちらを見た。格闘大会というからには筋肉モリモリのゴリマッチョばかりだと想像していたのだが、そうでもないようだ。
年齢は様々だが誰もが美しさや可憐さを持ち、立ち振舞も凛としている。皆予選を突破できる武術を持つ上、女性としても完成している様だ。
天は二物を与えずという言葉は嘘だったのか。或いは武芸を極めんとする者は人としても完成度を上げていくものなのだろうか。
しかし、外見から見るだけでもキャラが濃い人が多い。修道服、メイド服、頭が包帯で覆われている者、というか人間ではない何かもいる。驚いたが、常時パジャマで中身は太陽系の惑星である天王星ちゃんがとやかく言える筋合いはない。

開会式の時間までもあり、選手たちも手持ち無沙汰な様子。人数を見るにまだ全員揃っているわけではないようだ。
視線を彷徨わせ、目当ての人物を探すと――いた。
宇多津泡沫と屋良励子。睡拳使いの二人はベンチに座って何か話していた。おっとりした印象を感じさせる励子が話しかけ、ボーっとしている様子の泡沫がポツポツと返答していくといった感じだ。

「あのー……」
近づき話しかけると、励子が柔らかい笑みを浮かべて応えた。

「あら、天王星さんですね? 屋良励子と申します、以後お見知りおきを。丁度よかったわ。こちらの宇多津さんとお互いの睡拳の違いについて語りあってたところなんです。」
「ど~~~も~~。宇多津泡沫っす~~~。」
「天王星と云います。宜しくお願いします」

ぺこりと頭を下げると励子が隣に座るよう促してきた。励子の両脇に泡沫と天王星が座る形になる。

「さて、私と宇多津さんは一緒だったんですけど、睡拳といえば天王星さんもやはり…?」
「?」
「武器武器~~~。」
「あ! はい、これですか!」

枕を取り出し見せると、二人も枕を取り出していた。やはり睡拳といえば武器が枕らしい。なんだか嬉しくなって、思わず頬が綻んだ。ところで励子の持っている枕は表にYESという文字が、裏にはNOと書かれているがこれは一体どういう意味なのだろう。少し気になったが、その疑問を尋ねる前に励子が質問をしてきた。

「天王星さんの睡拳はどこの流派なのですか?」
「いえ、私は流派とかなくて……うーんと、自己防衛機能みたいなものなんですよね。睡眠状態下でのみ戦えるようになる、みたいな。そちらはどの様な睡拳をお使いになるんですか?」
「睡八仙という仙人達を元にした象形拳で、主に転がる寝技が多いですね。夢遊病の様な動きで相手を撹乱したりします。」

うふふ、と笑いながらちょっと自慢気に後ろに体を反らすことで天王星よりも圧倒的に大きいバストが強調される。
自然と、目がそちらに向かってしまう。慌てて目線を上げると泡沫と目があった。そして、お互いの胸部を見てなんともいえない気持ちになる。
言葉を発さない僅かな時間での応酬だったが、そこには確かに意思疎通があった。

――実は全て励子の計算通りなのだが、二人は知る由もない。
(ふふ……嫉妬は時に莫大な原動力となりますからね! 彼女たちはこれから胸の乏しさをカバーしようと内面、外面ともに美しさに磨きをかけようとするでしょう!)
後に敵対するかもしれない選手すら女性として育てあげようとする姿勢はさすがというべきか。

ハッと我に帰った天王星は軽く咳払いをして今度は泡沫に聞く。

「……ゴホン。宇多津さんはどういう睡拳を……?」
「ん~~~私はね~~実践した見た方がいいかな~~?」

そう言って、目をつぶり眠った数秒後。
驚くことに泡沫は天王星と瓜二つの姿になった。

「こんな感じで~~他の格闘家に変身して戦うんだよね~~~~。誰になれるかは完全にランダムだから~~~あなたに変身できたのは実は凄い確率かも~~~~???」
「ほえー……」

思わず変な声がでた。自分と全く同じ容姿の人物が目の前にいるのは何だか変な気分だ。よく似た双子はいつもこんな気分を味わっているのだろうか、なんて考えてしまう。

「他人の容姿いるっていうのも~~~何気疲れちゃうから~~~体戻すね~~~~」

パチン、と指を鳴らすと同時に泡沫は元の姿に戻る。

「ふぁああ~~~一度寝たら眠くなっちゃった。まだ時間があるので寝とこうかな~~~。」
「ふわぁ…。あはは、欠伸移っちゃった。」
「そうですね。ダーリンとの夜の……ゴホン。ついつい寝るのが遅くなってしまってしまって……。ちょっとまどろんでましょうかね。」
「お~~じゃあ誰が早く寝れるかやってみない~~?」
「ふふ、いいですね。睡拳使いたるもの如何に早く寝るかというのも強さの指標の一つでしょうしね!大会前の前哨戦ってことで是非やってみません?」
「おー面白そうですね!やってみましょうー!」
「お~~乗り気だね~~~」
「ふふ、負けませんよ?」

「じゃあいきますよー、よーいドン!」

(睡眠突入時間0.93秒を誇る某国民的猫型ロボットアニメの少年には流石に勝てないけど、私だって寝る速さに自信はあるんだからね…!)
そんなことを考える間にも意識が遠のいて……いって…………。

◇◇◇

「……おー」

目が覚めた。頭がぼやけてて、自分が眠る前どこで何をしてたか一瞬忘れそうになった。

「えーと、確か大会の控室で開会式の時間まで待って……て……? へ?」

冷や汗が出る。
見回すと誰もない。
確か寝る速さ競争をしていたはずの二人もいない。その代わりに泡沫が座っていた辺りにメモ用紙が置いてある。少し荒い手書きで走り書きがある。

『ぐっすり寝ていたようだから起こすのも忍びないしそっとしておいたよ~~? 寝るの
も早かったし前哨戦は君の勝利だね~~!ま、大会は遅刻で失格かもしれないけどね~~~♪』
「…………」
その下に別人と思われるちっちゃく丁寧な文字も書かれている。
『とっても可愛い寝顔でしたよ? ゆっくりおやすみなさいませー(はぁと)』
「…………」

表情が固まっていくのを感じる。
そして、トドメと言わんばかりに控室のモニターからアナウンサーの声が聞こえてきた。

『――では皆さんお待ちかね!選手の入場が始まりまーす!』


「うわあああああん、起こしてよぉーーーー!!」


涙目になりながら天王星は会場に向かい走りだす。

――この後、天王星はなんとか遅刻は許してもらったがスタッフに激しく叱られることになる。

【END】