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『Bird Watching』


 木々の梢で羽を休める渡り鳥。そんな光景は開発の進んだ都会にあっては今や、なかなか目にする事が出来るものではない。或いは、それに目を向ける心の余裕が人々から失われているのかもしれない。
  人々の行き交う雑踏、交差点の一角を占めるショッピングビル。その屋上には一羽の美しい鳥が静かに眼下の光景を眺めていた。
 美しすぎるその鳥──────────いや、人の身に大いなる翼を持つ美女にとって、数十メートル離れた人混みの中から見知った姿を見つけ出す事など児戯にも等しい。
 「まぁ、ぼうやったら。あんなに必死に逃げちゃって」
 思わずその微笑ましさに口元が緩む。彼女にとってその少年は興味深い観察対象であり、良い玩具であり、素晴らしい退屈しのぎの存在だった。そして、おいそれと口には出せぬもう一つの関係。
 少年が『世界格闘大会』の賞品にされたと聞き及んだ際、彼女の脳裏を過ぎったのは他の三人の少女のものとは別種の感情──────────好奇だった。如何なる理由で選ばれ、如何なる政治的力が働いたのかは知らないが、黙っていても問題を起こす少年を渦中に据えたイベントの開催に有翼の美女はこの上なく心を躍らせた。
 美姫たちの闘いの行方を、当初は同じ部の仲間が出場する事もあって応援しながら観戦していたものの、どうせなら直接現場で見てやろう、と街に繰り出してきた彼女が目にしたもの。それが先程の少年の姿である。
 彼女の期待通り、既にこの大会には何がしかのトラブルが生じているようだ。
 「さてと、どうしようかしら」
 単純に、そして常識的に考えれば、決して浅からぬ仲である少年を助けてあげるべきなのだろう。きっと少年は深く感謝してくれるに違いない。
 だが──────────。
 「それじゃ、面白くないのよね」
 彼女の行動原理、欲求を満たすには到らない。
 有翼の美女が最も望む展開、その為には。
 彼女は取り出したスマホを慣れた手つきで操ると、『世界格闘大会』の公式サイトを開く。その中には当然運営事務局への連絡先もあれば、観衆たちが交流を深める掲示板もある。そして、選手同士が情報交換を行うものさえ。
 リズミカルなタッチで文字入力を終えると、送信。
 「…………頑張ってね、ご・しゅ・じ・ん・さ・ま♪」
 無邪気さと妖艶さがミックスされた囀りが、都会の空に静かに溶けた。

                                                       <了>