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『Treasure Shooter Ⅱ』


 都内高級ホテルのスイートルーム。間違いなく一泊数十万円は取られそうな部屋の中、キングサイズベッドに寝転がってノートPCのキーボードを叩いている女性が一人。
 映明裏(あきら・めいり)。
 世界格闘大会の契約カメラマンである彼女が今このひととき、部屋の主だった。
 勿論、彼女の年収で泊まれるグレードの部屋ではない。腕が良い、と言ってもカメラマンの収入は限られている。
 となると当然、宿泊費の出処は別の財布。それも潤沢過ぎる程の。
 「まぁ、折角経費で落ちるんだし。たまには豪遊豪遊」
 ルームサービスで頼んだビールをくぴくぴとやりながら、キャビアの載ったクラッカーをつまむ。高そうなワインやらブランデーやらもあったのだが、どうせ自分には高い酒の味は分からないのでやめておいた。
 空調の効いた部屋で、タンクトップに下着姿という実にリラックスした様子で足をばたばたとさせながら、彼女は昼間の仕事の成果をPCにまとめる。
 彼女の仕事は言うまでもなく今大会の試合の様子を撮影する事だが、なかでもその興味は一つの存在に向けられていた。
 ”転校生”。
 正規の大会参加者ではない、所謂乱入者である。
 招待もされておらず、予選を勝ち抜いてもいない彼女たちは招かれざる客であり、本来なら大会運営によってさっさと排除されてしかるべき存在なのだが、如何なる理由からかその行動は放置されており、飛び入り参加を半ば黙認されていた。
 と言ってもランキングに名前が載る事もなければ賞金が支払われる事もない。仮に彼女たち以外の参加者が全て脱落してしまったとしても、優勝者としては扱われないだろう。
 ひょっとして、大会運営が予め用意しておいた”仕込み”なのではないか?
 明裏はそんな推測を立ててもみたが、確たる証拠はない。
 どちらにしろ、自分がやる事は一つ。良い試合の画を撮る事である。
 ”転校生”の正体は不明だが、華のある試合をする事だけは確かだ。
 TV局の前で激闘を繰り広げて脚光を浴び、ビルに押し潰されたと思いきやそれを跳ね返し、華麗なる体捌きで相手を切り裂き、そして鬼気迫る情念で圧倒する。
 観衆の中には、参加選手よりも彼女たちに声援を送る者も居る始末である。他の選手に負けず劣らずの美少女揃いという事も拍車を掛けているのだろう。全く現金なものである。

 と、それはさておき。
 明裏は思考を巡らせる。
 明日以降も”転校生”の試合を追う為には、彼女たちの出現場所を予測しなければならない。或いは、居場所を。
 『世界格闘大会』は都内全域を試合会場としているが、それでもある程度の縛りを設けている。そうしなければ、この広い街では偶然に出会う事すら難しい。
 工事現場。
 地下カジノ。
 刑務所。
 病院。
 TV局前。
 砂浜。
 魔人一家前の道路。
 公園。
 試合会場となるのは大きく分けてこの八つ。手際良い襲撃を鑑みるに、恐らく”転校生”の根城もこのいずれかにあるのだろう。
 名探偵ならばたちどころにずばりと言い当ててしまうのだろうが、残念ながら明裏はただのカメラマンである。愚直に、辛抱強く、或いは仮説的にでも絞り込んでいくしかない。
 幸い、フットワークの軽さなら自信はある。この三日の間に明裏は自分の足で稼いだ情報と証言、そして幾つかの事実を掴んでいた。

 まず、”転校生”たちの目的。
 彼女たちはどうやら何かを、或いは誰かを探しているようだ。大会参加者を襲っているのはあくまでももののついで……は言い過ぎにしても、それほど重要視していないように思われる。自分の行動が邪魔されぬよう、立ち塞がる者を排除している、といった方が正しいだろう。
 次に、”転校生”たちの連携。
 彼女たちが揃って行動しているところの目撃証言はない。前述の目的考察と合わせれば、恐らく手分けをしているのではないだろうか。それなら、根城を別にしている可能性は高い。今のところは大会運営も黙認しているが、もし排除する方針に切り替えれば”転校生”たちも固まっていては一網打尽にされるおそれがあり、それが分からない程彼女たちも愚かではないだろう。
 続いて、今までの出現場所。
 『女王蜂』。彼女は二日続けてTV局前に出現し、そして打破されている。恐らくはその近辺が根城だったのだろう。
 『秩序の守り手』。彼女も二日続けて公園に出現しているが、近隣住民への聞き込みによるとどうも目撃例は少ない。負傷で動けなかったという話もあり、公園が根城だった可能性は低い。加えて彼女も既に退場している為、その居場所を論じるのは最早労多くして功少ない。
 『闇の守護者』。彼女は三日続けて刑務所に出現している。一度や二度なら偶然という事もあるだろうが、三度となるとやはり何がしかの理由があると見るべきだろう。
 『狂気の魔女』。彼女が一番厄介で、初日は砂浜に、二日目はTV局前に、と行動範囲が一定していない。初日と三日目に参加選手の有志が魔人一家前の道路と砂浜近辺を重点的に捜索したようだが、いずれも徒労に終わっている。仮定を重ねた消去法で行けば、工事現場か地下カジノ、或いは病院……公園の可能性もゼロではない。
 だろう、だろう、の都合の良い仮定が全て当てはまっていたとしても、絞り込めるのはここまで。あとはヤマ勘しかない。
 「うーん、せめてもう少し出現場所か捜索済みの証言が増えれば……」
 と嘆いていてもどうしようもない。これ以上は明日以降の動きを待つしかないだろう。

 ”転校生”……乱入者と言えば、もう一点気になる事があった。
 戦闘不能となり、退場した筈の元参加選手が再び暴れ回っているというのだ。それも、脱落前よりも数段上の実力者として。
 今大会は期間内の戦績を競うものであり、一度や二度の敗北は特に問題はない。だが、再起不能の激しい負傷や戦闘意欲の喪失により一度失格の判定を下された者は二度と大会優勝の権利は与えられない規則である。彼女たちとてそれは理解している筈だが……。
 明裏はノートPCからデータを呼び出し、一人の参加選手の顔写真データを見つめる。
 生方キリエ。
 個性豊かな面々の揃う参加選手の中にあって、彼女はあまり特徴のない選手だった。勿論この大会に参加するだけあって、充分に実力はあったに違いない。戦運に恵まれず初日敗退となったが、今また闘いに身を投じているのは一体何が目的なのか。
 戦線に復帰した彼女の周囲では不可解なマッチメイクが行われているという。基本的に大会運営が試合を組まず、大会選手同士の偶然に任せたマッチングが本大会の趣旨であり同時に魅力ではあるのだが、対戦を望む者同士の試合も実現しづらい状況のようだ。
 無軌道に行動しているのか、それとも何がしかの意志を持って戦場を選んでいるのか……。何らかのロジックに基づいているとすれば、それは何なのか。
 「特定の地形に現れているわけでもなし……あるとすれば特定の条件……特定の、人?  初日と二日目の共通点……」
 がしがし、とショートカットを掻きむしる。情報が少なすぎて結論が出ない。
 「ダメかー、こっちももうちょっとサンプルデータがないと。せめて三日か四日あれば……」
 天を仰いで溜息をつく明裏。
 「うーん、取材と称した呼び出しの手紙でのこのこ来てくれる相手なら苦労はないんだけど、そう簡単に応じてくれそうにもないし」
 彼女の動向からも目が離せないが、確証が得られないのは先程と同じ。
 「まぁ、考えるのはこのくらいにして、そろそろ寝よっと!」
 明日も早い。
 自分の持ち味はあくまでも頭より身体なのだ。
 そう考えた明裏は思考を打ち切ると、ふかふかのベッドに身を委ねた。

                                                      <了>