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『“The Transfer” No.2』


 今までの自分は、長い夢を見ていたようなもの。
 屋良励子(やら・れいこ)は唐突に気付いた。
 真実の愛、博愛的寝取られ至上主義が誤りだったとは今でも思ってはいない。奪われる事で本当に大切なものをお互いに知り、より一層の愛が深まる。
 世界はそうして愛が循環してゆく。
 しかし、励子は少年に出会った事でその考えを少しだけ改めた。
 次々に男を変えてゆく、様々な相手に愛を伝えてゆく。たしかにそれは素晴らしい事だ。
 だが、それは果たして永遠に続くものだろうか?
 人間の記憶ほど、頼りにならないものはない。深く激しい愛の記憶もいつしか思い出に変わり、忘却の風の中へと溶けてゆく。過去の男たちは、果たして今でも自分の事を、交わした愛をどれだけ覚えているだろう。
 自分を鑑みれば、それがどれだけあやふやなものかは言うまでもない。

 そんな時に出会った少年。
 彼の周囲には複数の女性がいるという。倫理的、道徳的に見れば決して褒められたものではないが、それを批難する資格は自分にはない。
 そして、ふと考える。
 少年を他の女性から奪い、奪われる。それは繰り返される濃密な円環。色褪せぬ日常は決して薄まらない。自分も他の女性も、愛する者を奪われ、奪い返す繰り返しが地層のように積み重なり、圧縮され、濃縮されてゆく。
 形は違えど、それもまた励子が目指した愛の世界。
 励子の思考は、決して元の思想に還らない。
 少年を巡る甘蜜の世界にどっぷりと浸かり、かつて抱いた理想を緩やかに陵辱される事を良しとして。
 自ら定めた新しい世界に、更なる住人が増える事を願って。
 誰に命じられるまでもなく、彼女は行動を開始する。
 「待っててね、ダーリン…………もっと愛人を増やしてあげるからね♪」
 判を押した離婚届をポストに投げ入れて過去を切り捨てると、励子は──────────『寝取られの聖女』は再び戦いの場へ赴く。

                                         <了>