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『Queen』


 油断などなかった。
 慢心などなかった。
 最強を決める場において、勝負に挑む紫ノ宮緒子(しのみや・おこ)の心中には溢れる戦意と程良い緊張感が満ち、心身共にベストコンディションの筈だった。
 しかし、残酷な事実として──────────動かし難い現実として。
 緒子は不意の乱入者により、手痛い敗北を喫してしまった。
 大会参加者リストにない、飛び入り参加。それゆえに何の情報もない白紙の状態で戦わねばならなかった不利は確かにあった。
 だとしてもそれは言い訳にはならない──────────してはいけない事を、何よりも緒子自身のプライドが強く主張していた。
 強かった。
 『世界格闘大会』に招待される程の実力と自負を持つ緒子だからこそ、相手の実力を読み違える事などしない。
 在野にまだあれ程の実力者が埋もれていたという事実に、生まれたのは戸惑いや畏怖ではなく──────────別の感情だった。
 よくもやってくれたものね。
 おあつらえ向きにこの大会は一度の敗北で退場失格となるルールではない。その身果て、心折れるまでは何度でも戦いの場に立つ事が許されている。
 リベンジを誓う緒子の心に、乱入者の試合後の呟きが蘇る。
 「とりあえず全員叩きのめせば、あのバカも賞品とか訳の分からないものじゃなくなるでしょ」
 謎の乱入者と賞品の少年との繋がりを示唆する言葉。
 正直、それまでは自分にとってはそこまで特別な興味もなかったが──────────再戦を果たす手がかりにはなるかもしれない。
 緒子は打ち倒された身体で再び立ち上がる。
 そこにはもう、敗者の姿はない。
 次なる戦いの地に赴く、勇敢で誇り高い戦士の姿があった。

                                                           <了>