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トラロック

ステータス ス キ ル プロフィール
攻撃 0 1 魔弾の射手 名前の読み トラロック
防御 0 2 闘いの年季 性別 女性
体力 13 3 蒲柳の質 衣装 レインコート
精神 2 胸のサイズ 巨乳
反応 0 格闘スタイル 衣道
FS 20 FS名 武器 レインコート

必殺技 『郭投げ』 (消費MP:2)

効 果 : 相手から受けたダメージと同量のダメージ攻撃(ガード不可)

制 約 :
  • 必ず後手になる
  • 相手の行動種別が攻撃の場合のみ発動
  • このラウンドの相手クリティカル率+10%

説 明 :
 相手の攻撃を避けずにわざと受け、そこから身体を絡ませた状態で投げ飛ばす技。
 投げながら相手の服も脱がせることを目的とした技だが、それ故に睦み合いを連想させて「郭投げ」の名がついた。
 激しく絡み合っているので自分の服が脱がされる危険も高い。


(効果補足)
  • 相手のダメージが0であっても効果が発生する(0ダメージ攻撃を行う)
  • この技は自身の「蒲柳の質」の効果対象外となる(同ラウンドに2回使えない)
  • この技は「反撃」ではない

キャラクター説明

ミニワンピース程の丈のコートに身を包み、フードをすっぽりと被った正体不明の女戦士。コートは彼女の意志で素材や形状を変化させ、それを巧みに操って戦う。

コートのデザインはかなり特徴的で、フードに付いた怪物的な(しかしデフォルメされた)双眸や牙の装飾、異様に大きなファスナーのクリップ、手首を完全に隠して尚ダラリと垂れ下がる萌え袖と、何かのコスプレのようにも見える。

基本的に愛想はよく、初対面の相手でも勝手に付けたあだ名で呼ぶことが多い。同性相手のスキンシップには割りと積極的で、特に胸の大きな女性を見ると手をワキワキさせるほど。自身も小柄な割にかなり胸は大きいが、時折不自然な揺れ方をしている。


エピソード

 時折吹く風に葉の擦れ合う音の響きが、却って辺りを包む静寂の深さを物語る。都心の喧騒を幾らか離れた高台の竹林にて、対峙する大小の影2つーー。
 大きな影でまず目を引くのは紅い番傘だった。群緑の海に浮かぶ臙脂色は大輪の花のように艶やかだが、それを差すのは身の丈2mを軽く超える偉丈夫で、しかもその番傘自体、普通人には恐らく持つことすら叶わぬ長大な代物。ただ男のざんばら髪が風になびき、傘がくるくると回る様の取り合わせには意外な程の涼やかさがあった。
 もう一方の小さな影はコートに身を包んでいる。フードをすっぽりと被っているが、たおやかなラインを描く肢体、裾から覗くまだどこか少年めいて未成熟な脚線からは少女であることがわかる。それに加え、手首を隠して尚ダラリと垂れ下がる長さの袖に、フードに付いた怪物的な(しかしデフォルメされた)双眸や牙の装飾がアニメ的ゲーム的な雰囲気を醸し出している。

「行っていいかな?」

 フードの奥からやや鼻にかかる声が発せられる。やはり少女のそれだった。

「いつでも来なよ」

 男が野太い声で答え、右手を「誘う」ように小さく動かすや否や、少女はその場で小さく跳ね出した。

 ――ザッザッザッ――と、静寂をかき乱しながら、タイミングを計るように跳躍を繰り返し、そして幾度目かの着地と同時に彼女は前方、眼前の男に向かって跳ぶ。
 男……雨竜院雨弓は迫り来る少女戦士に対し、浮かべた笑みを更に深くすると迎え撃たんと手にした得物・武傘「九頭龍」の先端を向けた



「雨衣(うい)ー、起きなさーい」

「……ふぁ~~い」

 母親が階下から呼ぶ声に、衣紗早(いさはや)雨衣は目を覚ました。目をこすりながら間延びした声で返事をする。枕元の時計に目をやれば、ぼやけた視界の中、長針が指す数字は目覚ましをセットした時刻のそれを1クオーター程過ぎていた。どうやら気づかぬうちに止めてしまったらしい。半ば微睡の中にあった意識が一気に覚醒した。

「やっば!」

 ベッドから転げるように飛び出すと、脇にかかっている制服に目もくれずパジャマ姿で部屋を飛び出していく。学生の彼女にパジャマでの登校など許されないのだが、もちろん着るのを忘れたわけでは無い。そんなことが許されるのは萌えアニメの主人公だけだ。ならばなぜ着替えないのか――?

「変身!」

 階段を降りようと第1歩を踏みだしつつ、毎週欠かさず見ているニチアサの変身ヒーローの如く、雨衣は叫んだ。直後、やけにメカニカルなバックルのついたベルトが腰に巻かれ……はしないが、それはともかく変化は始まっていた。彼女の肢体を包むパジャマ、それが淡い光を発しながら不定形生物の如くに、しかし早送りしたかのような速度で形状を変え始めたのだ。
 パジャマだった物のズボンがホットパンツ程度の丈から上下に分かれ、それより上は上着とスカート、下はニーハイソックスの形状へと変わっていった。もちろん、一晩その下に隠していた乙女の柔肌に、スポーティ(色気が無いとも言える)な下着を晒しながら。PTAがうるさい昨今の朝アニメではお目にかかれない、古き良き変身バンクである。意識するのが特撮なのか幼女向けアニメなのかよくわからないことになっていたが。
 この現象を引き起こすは魔人衣紗早雨衣の能力ーーその名を有衣纏変(ういてんぺん)。彼女は自身の着衣の素材、形状を意のままに変え、手足のごとくに動かすことさえ可能なのだ。その力を以てすれば、このような「変身」も文字通り朝飯前であった。
 階段の半ばを過ぎた頃、時間にして2秒かそこらで、パジャマ姿の雨衣は希望崎学園の女子制服姿へと変身を完了していた。していたのだが……。

「こら雨衣! 能力を使わないでちゃんと着替えなさいって言ってるでしょ! だらしない!」

「うぇえ~、時間無いしさあ……いいじゃんお母さん……」

「寝汗とか吸ってて臭いでしょ! 制服があるんだからそっちを着なさい」

 階段下に待ち構えていた母には敵わず、すごすごと階段を昇っていく雨衣。親が海外赴任してる系主人公が少しだけ羨ましいと、こんなとき彼女は思うのだった。



 ――希望崎学園、手芸部。

 魔人犇めく希望崎の中でも「七芸部」の一角に数えられ恐れられているが、今の部室内の光景は平和なモノだった。柔らかな日差しが差し込み、ミシンの音がカタカタと響く中、部員達は裁縫や編み物、パッチワークに勤しんでいる。

「……!」

 そんな部員達の1人である1年生の男子・日谷創面(ひや そうめん)は秀麗な眉目に皺を寄せ、この空間には似つかわしく無い張り詰めた空気を纏いながら小刻みに震える手元を見つめていた。左手には針、右手には糸。湿った糸の先端は自身より幾らか大きい穴を通ろうとするも、その軌道は僅かに狙いを逸れ針の頬を優しく掠めるばかり。2、3度同じことを繰り返すが、ずれる方向に左右の違いはあれど結果もまた同じ。つまり、彼は糸通しに苦心しているのだった。

 手芸部員の創面だが、彼の入部目的は陶芸。狭義的には手芸の範疇か怪しいところだ。日奴家では代々豆腐屋を営むのと並行して「手芸者」としての理法を継承してきたのだが、創面にはその才能が欠けており、その劣等感もあって狭義的な意味での手芸からは距離を置いていたのだ。そんな彼がとある武闘大会に出場し、師との出会いを経て手芸の鍛錬に励むようになったのはごく最近のこと。

『ソメン……情けないぞ。その様で手芸者を名乗るとは呆れた厚顔ぶり。「きし麺」にでも改名するがいい』

「うるせえな。さっきまでの站椿(tang-to、站椿という意味の英語)で筋肉痛半端ないんだよ………」

『あの男が言っていたろう。疲労困憊しても技の精緻さが保てねば真の強者では無いと。力が無ければ技が使えないのは無駄に力を必要としているからだ』

 内なる神の小言に応じつつ糸通しを続ける創面。傍目には完全に危ない人だが本人は至って真面目で、集中を乱してくるこの手芸者ソウルをどうにか黙らせられないか……否、そんな気持ちもまた雑念、動じない心の強さを持たねばなどと思ったその時、更に彼の集中を乱す存在が現れたのだった。

「オイーッス!」

 派手な音を立ててドアを開け、元気な挨拶をかましたのは創面の同級生の女子部員・衣紗早雨衣。小柄な体躯でちょこまかと動き回り、猫を思わせる童顔はコロコロと表情を変える、お喋りなムードメーカーでトラブルメーカー。後、袖がダボダボのカーディガンとニーソックスがあざとい。そんな存在だった。

「やあやあ創君。糸通し?」

「……ん、まあ」

 椅子に座った創面のもとへ駆け寄って声をかけてくる。針と糸へ落としていた視線をちらりと上げれば何が面白いのかにこにことした顔。視線をまた下げた創面に雨衣が「昨日のアニメ見た?」とか「あのマンガ読んだ?」とか聞いてくるのに対し、彼は「うん」とか「いや」とか生返事をしつつ、幾分肩の力が抜けた心持で幾度目かわからない挑戦を試みる。

「おっ」

「おお!」

 力みが取れたためか、今度はさっきまでの失敗が嘘のように、糸は穴をするりと抜けた。

「やったじゃないスかー、手プルプルの状態で。手芸の神様が微笑んだんだね」

「そのくらいで神様のおかげな俺って……」

 その手芸の神が自分に宿っていて、しかも酷く根性悪な笑うことなど無い決して奴だなどという、雨衣がよく言う「厨設定」顔負けの事実(残念なことに神が美少女でもなんでもないのが誹りを免れる唯一の救いだ)はもちろん明かせない。

 それはそれとして、創面は大げさなリアクションを取るこの少女が、嫌いでは無いが少し苦手だった。やたらとハイテンションなところや、自分が密かに溺愛する姉・奴子の話を振ってくるところ、デザインした服を強引に着せようとしてくるところ(これは彼以外の部員にもだが)などが。

「そんでさー創君、ちょっと見てよ、これが次に考えてるやつ」

 そんな創面の心境など知らぬ雨衣は、背負っていたナップサックから取り出したスケッチブックを開き、彼に見せつける。それは所謂デザイン画だった。手芸部の活動は文化部の中でもかなり多岐に渡るが、彼女は服のデザインをし、実際に作ってもいる。将来は本格的に服飾を学び、自分のブランドを立ち上げたいのだという。
 その夢については、創面も素直に応援できたし、叶えられればいいと思っている。しかし、実際叶うと思うかと言われば、かなり怪しいというのが正直な気持ちだ。何故なら……

「ほらほらー、かっこいいっしょ?」

「お、おう……」

 デザイン画は男性用のロングコートだった。当然の黒、フードと袖、裾は白いファー付きで、どういうわけか左側がノースリーブ、拘束衣かと思うくらいに謎のベルトでグルグル巻き。ダメ押しに背中には十字架のレリーフまでついている。

「あらー、雨衣ちゃんの新作かっこいいねー」

 雨衣に甘い先輩の女子部員がそんな風に彼女を褒めるのを、「いやいや」と言いたげな目で創面は見ていた。雨衣は平坦すぎる胸を張り、「先輩わかります?」とドヤ顔を隠そうともしないが、自分はそんな彼女に果たして現実をつきつけるべきだろうかと思う。

 雨衣の考える服のデザインは、彼女がよく摂取するメディアの影響か、端的に言って中二病的というかアニメ的というか、そんな印象のモノが多かった。
 男子小学生などはアホなので家庭科で使う裁縫セットは迷わずドラゴンのキャラクター物を選んだり母親に指貫の防寒手袋を買ってほしいとせがんだりする。男子中学生は暴力的なプリントのデスメタルTシャツを買ったり、ジーンズのポケットからジャラジャラと鎖を垂らしたり、こういった装飾過多なデザインの服に憧れたりもする。雨衣のように可愛らしい外見の少女なら、ゴスロリやパンクファッションも「あり」かも知れない。
 しかし恐らく雨衣は、これを大人の男性が着ることを想定しているのだろう。それは痛すぎると創面は言いたくないが言いたかった。



「創君は、どう思うかな? 男の子的に」

「ん!? ああ……」

『おいソメン!! こんな小娘に構っていないで修行を続けろ』

(うるせえっての!!)

 じっと見つめるばかりで沈黙を保っているのが気になったのか、コメントを求めた雨衣に対し創面は慌てて何か返答しようと考える。内なる声を無視し、何を言うべきかと考えた結果……

「えーと……衣紗早の考える服は、なんかこう……個性的だよな」

 内心痛いと思っているのにおべんちゃらで適当に流すのは不誠実、かと言って「お前のセンス痛いと思う」と言い捨てるのもまた酷薄に過ぎる……、そんな逡巡の末、中途半端な答えとなってしまっていた。

「個性的?」

「ほら、あの……コスプレ? っぽいっていうか――」

「あー! うん!」

 出来るだけオブラートに包んで伝えたつもりだったが、雨衣が嬉しそうに頷くので創面は困惑する。

「コスプレ用の衣装なの?」

 ならばこれもありかも知れない。絶賛休載中のとある漫画の人気キャラは26歳でこんな感じの痛すぎる格好だったが、二次元キャラならありだ。

「いやーなんていうかね……」

 視線を少し上げ、数瞬の思案の後雨衣は途切れた言葉をつないだ。

「『外見と中身は関係ない』って言うけど、そんなこと無くて、他の人だけじゃなく自分の気持ちだって着てる服で変わると思うんだ――」

 一旦言葉を切って、スカートの裾を摘まみ上げながら、更に続ける。

「私たちが着てるこの制服とか、先生のスーツとか、用務員さんの作業着とか、仕事とか学校の服があって。
 そんで、友達と遊ぶ日はこれ来てこーとかね。彼氏彼女がいる人はきっとデートの時、いっぱいお洒落するでしょ?」

「だから、イベントとかじゃなくても、服を着るだけで人はコスプレしてるんだよ。アニメやゲームのキャラじゃなくて、ちょっとだけ違う自分の。
 創君だって、戦ってる時は海パン一丁だったじゃん?」

「……」

 アレは能力を発揮するための格好でコスプレなどでは無い、との反論を創面はする気にならなかった。たしかに、戦いのための格好――裸というコスチューム――になることで、奮い立たせられる部分(股間では無い)が自分の中にもあったかも知れない、と雨衣の言葉に思わされたから。

「それで……服を着る人には、いつだって『ちょっと違う自分』を楽しんでほしいなって。だから、私の服はみんなコスプレ」

 服への想いを語る雨衣のどこか凛とした表情は先輩に褒められた時以上に誇らしげで、それを見た創面の胸には懐かしさが去来する。最愛の姉や父の、嘗ての自分には鬱陶しく思われた、豆腐屋としての顔に似ていたのだ。
 傍で聞いていたさっきの先輩が感激して手を握ると、雨衣は「にへら」と表情を崩してしまうが、それでも創面の心には先ほどの彼女の言葉と表情が刻まれていた。これまではあまり関わりたく無かった少女に、微かな敬意を抱かせる程度には。

「創君も、出来上がったら試着してみて! 右腕が疼いたり額に呪印が浮かんだりする気持ちになれると思う!」

「それは嫌だな」

 雨衣のセンスが痛いと思う気持ちはそれでも消えなかったが。



 創面との一件があった週の土曜――「修行」を終えた後、サロペットパンツにパーカーという私服姿の雨衣は希望崎の敷地内をあてどなく歩いていた。入学して半年以上経つが、広大な敷地内は普通に学校生活を送るだけなら立ち入らないエリアの方が圧倒的に多い。今彼女が歩くのもまさにそうで、迷わぬようにと来た道を確認しながらも下ろしたての服に袖を通す瞬間のような、未踏の地の新鮮な感覚に胸が弾む(ほどは無いが)。
 時折立ち止まって、腕時計をちらりと見る。

(みずきちゃんとの待ち合わせまでは、まだ暫くあるねえ……。もうちょっと探検しよっか)

 彼女が休日にも関わらず出校しているのは、友人・白王みずきとの待ち合わせのためだった。
 以前、希望崎に大量発生したモヒカンを撃退するみずきの姿を雨衣が目撃して惚れ込み、「能力が似ている」とのことから仲良くなったのである。尤も、自分の能力を気に入っている雨衣に対しコンプレックスを抱くみずきという違いはあるが。
 そして、風紀委員であるみずきは今年の度重なるハルマゲドンで破壊された校内施設の復旧作業に今日も参加しているのだが、それも14時半までなのでその後一緒に買物に行こうとの約束をしていた。
 それまで歩いていた森が開けて、新たな場所に出る。視界を覆っていた樹々が無くなり、新たに飛び込んできたのは半壊した建物と大量の瓦礫だった。

「おお……!」

 目を丸くしてそれに歩み寄る。雨衣は知らないが、それは先々代の番長グループがアジトの1つにしていた物で、ハルマゲドンの戦闘において破壊されたのだが、学園の施設としての重要度は低いため、復旧は後回しにされていたのだ。このままほったらかしの可能性もある。
 壁に空いた巨大な穴は爆発系の能力によるものか、断面のコンクリートや露出した鉄筋に焦げたり溶けたりした跡が見受けられる。

 普通に学校生活を送っていても破損した校舎の一部を目にすることはあるが、多くの生徒は存在すら知らないのでは、と思うような建物を目の前にすると巨大なおもちゃを独り占めにしたようなワクワク感が湧いてくる。
 とはいえ、何をするでもなくペタペタ触ってみるだけなのだが。

「おっほー、なんか、いいなあ。戦場! 兵どもが夢の跡!」

 やや不謹慎な感慨に浸りながら、雨衣は触ることをやめない。壁にはねた血の痕を見ると背筋がぞくぞくした。

「瓦礫の街(?)、永遠のロックランド、マッポー……世紀末だね。
 ユワッショーッ! 愛で空が落ちてく~る♪」

「ヒャッハー!!」「おい、なんか女がいるぜ!!」

「っ!?」

 びくうっ! と肩が大きく跳ねる。自分1人だけだと思っていたところに背後から響き渡るまさに世紀末めいた歓声。驚いて振り向けば、そこにいたのは肩パッド付きの革ジャンにトゲ付き棍棒や手斧、そして何より立派に逆立ったモヒカンヘアがトレードマークのモヒカンザコ達がぞろぞろ。

「…………な、何です皆さん、聖地巡礼? 凄いリアルですねー」

 冗談めかしてそんな風に言うが、彼らの格好が「北斗の拳」のモヒカンザコのコスプレなどではなく、純正のそれであることは明らかだった。もちろん雨衣にもそれはわかっていて、表情は笑っているが冷や汗が頬を伝う。

(何でこんなところに? モヒカンザコが出てたのってちょっと前じゃなかったっけ? もうハルマゲドンが終わって随分経つのに――)

「おいおいこいつどうするよ!? ボスは誰もいねえって言ってたよな?」「たまたま来てたんだろ? 構わねえ捕まえた奴から挿れようぜ~!」

 不吉な言葉が飛び交う。モヒカンザコの行動原理は至極単純だ。食糧は奪う、種籾は食う、邪魔者は殺す、拳法家には殺される、女は――

「犯せーッ!!」「「「「「「ヒャッハーーー!!!」」」」」」

 10人弱のモヒカンザコが手にした得物を振りかざしながら雨衣に襲いかかる。

(逃げる……? 全員から逃げられる? 出来るかも知れないけど、それより……)

「ヒャッ……ハァッ!?」

 最初に雨衣のところへ迫り、胸をはだけさせようと襟を掴んだモヒカンザコA。だが直後、逆に雨衣の細腕が着ている革ジャンを掴んでいた。そして、その巨体がふわりと宙を舞い頭から地面に叩きつけられる。自慢のモヒカンがグシャリと潰れ、意識を失った。

「ヒャ?」

 2人から最も近い場所にいたモヒカンザコBが驚いて声をあげる。今度は彼が、雨衣はまだ間合いの外にいたにも関わらず何かに足を払われ、そしてまた叩きつけられた。

「な、何をしやがったぁ?」「柔道?」

 残ったモヒカンザコは慌てて後退し、雨衣の放った技について口々に言う。

「柔道じゃ無いよ♪ 『衣道』」

 柔道・柔術に限らず相手の服を掴むのは対人格闘において当然の行動であり、古武道や中国拳法においてもその型は数多く存在し、古代ローマの総合格闘技(パンクラチオン)が全裸で行われていたこともまた逆説的にその事実を証明している。
 そして、着衣を以って相手を制する技術に特化し、それに留まらず自身のそれを武器とする域に至ったのが雨衣の修めた「衣道」である。その上……。

「な、なんだ? 袖が帯びみてーに解けて伸びた!!」「あいつ、魔人だぜ!!」

「『蛇袖鞭(じゃしゅうべん)』……とくと味わえ! なんちゃって☆」

 この技術と着衣を自在に操る雨衣の「有衣纏変」は、『爆弾』と『空気』ほどに相性のいい組み合わせと言えた。雨衣の腕から伸びた双条の布が空を切り裂き、モヒカンザコ達に襲いかかる!


「あー、結構キツかったにゃあ」

 数分後、大きく息を吐く雨衣の周囲には返り討ちにされたモヒカンザコ達が転がっていた。全員、「衣道」の技法により自身の革ジャンで縛り上げられ身動きが取れなくなっている。
 稽古や試合以外の「実戦」に挑むのは初めてで、今の自分でもモヒカンザコ10人くらいは捌けるだろうと臨んでどうにかそれは叶ったわけだが、しかし相応に消耗もさせられていた。他に仲間がいないとも限らない。後始末は生徒会にでも任せ、この場を離れた方がいいだろう。

「みずきちゃんにも伝えないとねー」

 そう呟き、「大会」に向けてもっともっと修行しなきゃ、と思いながらその場を離れようとした時、背後の森からガサリと音がする。
 もう仲間が? と先ほどのように振り向いたが、しかし視線の先にいたのはモヒカンザコでは無かった。
 紺の作業着に身を包んだ壮年の男。希望崎で雇われている用務員である。雨衣は知らないが、名を藤原と言った。

「これは……君がやったのかい?」

「あ、はい。正当防衛っスからね! おじさんも、仲間が来るかもだから一緒にこの場を離れよ?」

 雨衣はそう促すが、しかし藤原はそれに反応も示さず、モヒカンザコ達に向けた視線を動かさない。

「……用務員さん?」

「ふむ……食糧を取りに行かせたのに帰って来ないと思ったら、君みたいなコにねえ。
 それに……『みずきちゃん』と呼んでいたが、彼女の知り合いかい?」

 目の前の男の言っていることが、一瞬雨衣には理解できなかった。だが、呆けたような雨衣を前に藤原は懐からあるものを取り出す。一体どこにしまっていたのか、それはカツラだった。もちろんモヒカンの。

「あ…………」

「この人数を1人で、なかなか有望そうだ。いいね君、欲しいよ」

 そう言って彼は、儚げな毛髪が覆う自身の頭部に、そのモヒカンのズラを被せた。



「ヒャッハー!! 汚物は消毒だ~」

 違法改造されたバギーの上でモヒカンザコが眼前の少女へと火炎放射器を向け、引き金を引く。少女の柔肌を焼かんと放たれる猛烈な火炎。だがその瞬間、少女の身体を包む、既に損耗の激しい制服の胸の下から臍のあたりまでが一瞬で水の塊と化し、まるでビーダマンの如くにモヒカンザコに向けて放たれた。

「なっなに~~!? うわらばっ!!」

 水弾は蒸気をあげながら迫る火炎を打ち消し、そして車上のモヒカンザコの顔面を直撃。サングラスは粉砕され、身体は車体から数m後方に吹き飛ぶ。意識を失った男の頭部から、ごろりとモヒカンのカツラが外れて落ちたのが少女には見えていなかった。

「ふう……終わりましたね」

 額の汗を拭いつつ戦果を確認するのは、1年生の風紀委員・白王みずき。仲良しの先輩が用事で来られないため、1人で従事していた復旧作業のノルマが終わった頃、モヒカンザコの群れが来襲したのである。雨衣と同様彼女もどうして今更、と思いながら自身の魔人能力「みずのはごろも」にて衣服から生成した(というか戻した)水弾を放って撃退していき、たった今全滅させたところだった。

「私、1人でこれだけの数を……」

 以前モヒカンザコに襲われた時は先輩・吾妻操子と2人がかりだったが、今回はその時と同じくらいの数を独力で撃退できていた。制服は前回同様半裸と呼ぶのも怪しい状態になっているが、しかし前回とは違ってきちんと上下の下着を残すに留まっている。
 その成長は紛れも無く『SNOW-SNOWトーナメントオブ女神オブトーナメント ~「第一回結昨日の使いやあらへんで!チキチキ秋の大トーナメント」~』での経験の成果で、戦いを嫌う身とはいえ、あの大会での数々の出会いや少年との別れが無駄では無かったと言われているようで嬉しかった。

「兄さん、明良君……私強くなれたみたいです」

 虚空に兄の顔を浮かべ、ぐっと拳を握るみずき。しばし感慨に浸っていたが、はっとして自分がすべきことを思い出す。風紀委員会・生徒会にこの件を報告し、モヒカンザコ達の身柄を引き渡し、どこかシャワー室でも借りて「お着替え」し直さねばならないのだ。

(雨衣さんには少し待ってもらわないといけませんね)

 少し申し訳なく思いながら、とりあえず連絡を済ませようと顔をあげた時、そこには2人の人物がいた。まずみずきの目が行ったのは、頭部のモヒカンである。撃ち漏らした者、或いはまだ仲間がいたのかと思ったが、それだけで済む問題では無かった。モヒカンは2人共みずきの知った顔だったのだ。
 1人は少女で、みずきの友人。凶悪な表情を浮かべているが可愛らしい顔立ちをしており、前を肌蹴た革ジャンからはみずき以上に平坦な胸の先端までが覗いている。衣紗早雨衣である。

「雨衣さん……? なんで……?」

 雨衣はよくコスプレめいた服装をしていたが、こんな格好をすることは無く、そして状況から考えてもそれはありえない。

「ヒャーッハーア!! みずきちゃんも『こっち』に来なよお……楽しいよお」

 醜悪な笑みを深くして雨衣は言う。その表情はどこか不自然だった。いつもの雨衣とのギャップが大きすぎるのはあるだろうが、いやしかし、と思いつつみずきはもう1人に問いかける。

「それに藤原さん……あなたまで……」

「フッフッフッ……やはり君はこんなになっても私だとわかってくれるのか。嬉しいよ」

 用務員の藤原は目立たない男だった。用務員の顔を覚えている生徒など殆どいないが、藤原は相応に接触しているはずの教職員からも忘れられるほどで、そんな彼の名前まで覚えて帰り際「お疲れ様です」と声をかけてくれる数少ない生徒がみずきだった。
 みずきが出場するというので観戦した「ユキ使」の試合でも、彼女は清廉潔白にして果敢、そしてあざとい戦いぶりを見せていた。

「ウチの娘なんかと違って真面目で優しくて、今時こんないい子がいるのかと感心したものだよ」

「藤原さん……?」

 リーダー的役割を担う者まで含めた他のモヒカンザコ達と藤原には明らかな差異があった。この異様な落ち着きである。モヒカンザコ化した人間は元の人格の如何を問わず押しなべて原始的な欲求に忠実に、行動は極めて短絡的になるが、今の藤原は完全に平静さを保ってモヒカン化している。
 何故彼は例外なのか? そして、何故雨衣が今モヒカン化しているのか? 何故ハルマゲドンから日数を経た今モヒカンが発生するのか?

「まさか……!」

 それらの疑問を擦り合わせ、みずきの脳内で1つの、信じたくない解答が導き出された。

「察しがついたようだね……。そう、私は人間をモヒカンザコ化出来る魔人だ」

 用務員・藤原康明は「冴えない男」という評価がピタリと来る人物だった。子供時代から優秀では無いが特に劣っているわけでも無く、学業も仕事も真面目にこなしてきた。しかし、口数も少なく何を言われても同意する彼を、周囲はハッキリと表には出さないものの、どこかで軽んじることが多かった。そんな周囲の態度は彼もわかってはいたが、特に憤慨するわけでもなく過ごしてきた。
 妻がよそに男を作っていることも知っていた。みずきと同い年の娘はずいぶん年上の男の家に入り浸っている。          
 そんな彼女らに対して堂々と怒ることも出来ない。娘を叱ろうとしたことがあったが、「うるせえ」と言われ、それ以上何も言えなくなった。
 彼の根底にあるのは自己に対する1つの諦観だった。自分はこういう人間なのだ。そういう性格だ、と。
 だが、ハルマゲドンの頻発でモヒカンザコ化していく生徒達を見て思った。性格――若者言葉で言えば「キャラ」――というのはこんなにも簡単に変わってしまうものかと。
 そして藤原泰昭は45歳にして魔人化を遂げる。


「君みたいな子は『委員長キャラ』とか言われるらしいね? 
 でも、そんな清廉潔白で、モヒカンザコとは対極にいるような子も……私の手にかかればモヒカンザコ化してしまう……」

 人格を塗り潰す、精神の陵辱。乙女の純潔を奪いアヘ顔ダブルピース調教する以上の悦楽がそこにはあると彼は考えた。そしてその牙が今、みずきへと向けられている。

「さあ、これを被るんだ。そうすれば君は仲間になれる。
 言っておくが、抵抗は考えない方がいいぞ」

 藤原は雨衣に被せたのと同じモヒカンのカツラを掲げ、そして空いた手で手刀を作ると不可視の速度で振り下ろした。凄絶な音と共に足元の地面に大きな裂け目が生じる。

「モヒカンザコも私くらいになるとね……南斗聖拳の真似事くらいはお手の物さ。今の君では勝てないだろう」

 呆けたような表情だったみずきだが、眉間に皺を寄せグッと唇を噛んだ。学園の平和を乱したこともそうだが、各々の個性、きっと何より大切な物を壊して喜ぶ男への怒り故に。
 しかし藤原の言った通り今の自分に彼を倒せそうに無いのもまた事実だった。ならばどうするか。
 雨衣だけでも逃せないか。藤原の口ぶりからするとモヒカンのカツラをかぶせるのが能力発動の条件。ならば、カツラを飛ばせば正気に戻せるのでは。雨衣も衣道を学んだ相応の使い手。藤原から逃げおおせるだけなら期待できるかも知れない。

(ごめんなさい兄さん、立派な女性どころかモヒカンザコになっちゃいますけど、友達は守らなきゃいけませんよね?)

 固く唇を結び、そして開く。

「わかりました。被ります……」

 その言葉に穏やかだった藤原の表情が下卑た笑みへと変わった。

「いい子だ……まあもうすぐいい子じゃなくなるんだがね」

 藤原がカツラを投げ渡そうとする。あれを自分が被る瞬間、藤原の心中からは雨衣のことなど完全に消えているはずだ。そうしたら最後の水弾を雨衣の頭部に――。

(雨衣さん……頑張って逃げてくださいね)

 モヒカンザコになってしまった友人にそう目配せする。その意味を解するはずのない今の彼女がそれに対して不自然に、否自然に、元の彼女らしい笑みを浮かべたのがみずきには見えた。

「えっ?」

 そして、ヘルメットが藤原の手を離れる瞬間、横にいた雨衣が不意打ちでその手を蹴り上げる。

「なっ!?」

「ヒィイイイイイイイイイヤッハーーーーーッ!!」

 虚を突かれた藤原に対し、雨衣は身を捻り裏拳、正拳突きと打撃を打ち込んだ。

「何だ貴様ぁッ!!」

 横薙ぎの手刀を身を低くして回避。モヒカンヘアが半分にカットされる。雨衣は後ろに大きく跳ね、藤原から間合いを取った。

「う、雨衣さん……? どういう」

「ごめんねみずきちゃん。あのオッサン強いからさ、隙を伺おうと思ってて」

 モヒカンのまま友人の問に答える雨衣。みずきも藤原も、同じ疑問を頭に浮かべている。「何故モヒカン化していないのか」と。

「私の能力で被った瞬間にカツラの接してる面を凹ませて、頭との間にほんのちょっとの隙間を作ったんだ。そうすれば『被ってる』ことにならないんじゃないかって」

「咄嗟にそんなことを……」

 驚くみずきに雨衣は再び顔を向けてにへへ、と笑って見せる。雨衣の普段の笑顔だった。

「ま、それで防げる保証は全然無かったけど、正解だったみたい」

「雨衣さん、良かった……」

 そんな雨衣にみずきは目頭を熱くし、涙を浮かべる。

「…………ふふふ、どうやら完全にしてやられたらしいね」

 2人を前に藤原は笑った。ただし額に青筋を立てて。怒りで筋肉が怒張し、着ていた作業着がビリビリと破れる。

「だが、まだ大問題が1つ残っているだろう? 2人がかりでもお前らは勝てんよ」

 モヒカンザコと戦った疲労があるとはいえ、最初に対峙した時藤原は雨衣をまるで寄せ付けなかった。モヒカンザコ化は演技だったが、そうせざるを得なかったのは藤原の実力の証明に他ならない。
 少女達に迫る藤原。背丈はどちらかと言えば小柄だが、巨像めいた威圧感を放っている。周囲の青草が彼のオーラにざわざわと震え、千切れるものもあった。

「へへーん、確かにアンタ強いけどさ、でも負けるわけにはいかないよ。何かを押し着せられて、自分を変えられちゃうくらいなら、私は裸族でいいや」

 外見はモヒカンザコそのものと成り果てた衣紗早雨衣は、遥か強大な相手にいつもの口調で、いつもよりずっと力強い言葉でそう宣言する。革ジャン越しの小さな背中が、みずきにはこの時大きく見えていた。
 そして後ろのみずきを一瞥した後正面を向き直り、続ける。

「だから見ててよみずきちゃん。私の……『変身』!!」

 レザーパンツのベルトのバックルに交差した両手を翳し、そしてそれぞれを逆方向に、大きな円を描くように回し始める。ジャケットが、パンツが、ブーツが、モヒカンが、みずきが見て来た中で最も強い光を放ち、変じてゆく。

「な、なんだそれは……?」

「戦士の私! ……名前はアンタをやっつけたら決める……ニャ」

 発光が終わった時、天地魔闘の構えで藤原と対峙する雨衣の姿がそこにあった。手首が完全に隠れるほどに袖の長いフード付きコート。先ほどまでとは違った意味で異様な格好にみずきも目を丸くする。
 雨衣が嘗て熱中した格闘ゲームの有名タイトル。その人気キャラクターを意識した衣装は戦いの場においてふざけているとしか思えないが、しかし彼女が思い描く戦士の理想形、強くて可愛くて格好いい姿がそれなのだ。みずきはそのキャラクターのことなど知らないが、こんなデザインにするあたりやはり雨衣だなと思う。

(胸が大きくなってるのはパッド入りなんでしょうか……?)

 どうでもいい疑問も覚えつつ。


 藤原を見据え、構えを解いて脱力した雨衣は小刻みに跳躍を繰り返す。

「初変身だからね、景気よく勝たせてもらうニャッ!」


 ――ザッザッザッ……トンッ――


 軽快に走り出し、藤原へと間合いを詰める。

「図に乗るなよ小娘ぇッ!」

 怒声を放ち、足刀で迎撃する藤原。しかしそれは先ほどの手刀同様宙を切る。雨衣は蹴りが届く前に地面を蹴り、跳躍していた。それも藤原の身長を楽々と飛び越す程に。雨衣の脚力だけでは無い。ブーツの底に仕込んだ撥条の力も借りている。

「ぬうっ?」

 予想外のジャンプ力に驚く藤原に、雨衣はモヒカンへの蹴りを見舞おうとする。が、藤原は身を屈めてそれを回避。雨衣の腹に一撃入れようとするが、不意に何かに引っ張られ、バランスを崩した。

「なんだ?」

「へへーん、これこれ」

 くいくいと右腕を動かす。袖が解けた帯が、藤原のベルトへと伸びていた。


「強い……」

 藤原と渡り合う雨衣をみずきが少し離れた位置で見守る。雨衣が「衣道」の演舞を披露するのをみずきは何度か見たことがあったが、武道経験など無いみずきの目にも今の彼女の方が明らかに動きにキレがあり、身体能力も高い。あの変身は、本当に雨衣を強くしたのかとみずきが思うのも無理からぬことだろう。
 そんな考えは間違いで、且つ正解でもあった。あの衣装には靴底の撥条のようなギミックこそあるものの、雨衣自身が強くなるような効果は無い。しかし、戦士の装束を纏うという行為が、ナックモエが舞うワイクルーのように、力士の四股踏みのように、暗示めいた儀式として働き、雨衣に能力の向上をもたらしたのだ。

「けど……」

 それでも戦いは、やはり藤原が優勢だった。雨衣も善戦してはいるが有効打を入れてはおらず、藤原の手刀で装束をじわじわと削られ、ダメージも受けている。


「動きが落ちて来てるじゃあねぇか? 貴様みたいなガキが俺に勝つなんざ無謀だったんだよぉ!」

「なんか、おじさんも段々モヒカナイズされて来たニャ……」

「ヒャハーッ! 死ねっ!!」

 雨衣の腹を狙って足刀を突き出そうとした瞬間、藤原の視界の端で見ているだけだったみずきが2人に背を向け走り出す。

「逃すかっ」

 みずきを追おうと自身も走り出す藤原。その瞬間、みずきは一瞬雨衣の方を見た。その合図を受け、致命的な隙を作った藤原の背に向かって雨衣は跳躍する。だが。

「読めとるわ~ッ!!」

 藤原が走り出したのは無論、雨衣を油断させるためのブラフだった。振り返りざまに手刀を振り下ろす。今度は回避の手段は無い、が。

「くっ……!」

「今度こそ死……がっ!!!!」

 藤原の背面に強烈な冷たい衝撃が走る。みずきが残った衣服を全て水に変えて放った、最大出力にして正真正銘最後の一撃である。その威力に意識が飛びそうになるが、彼を引き戻したのはある邪念であった。今の一撃の水量は残っていた衣服を全て消費せねば得られない、つまり今のみずきは全裸に違いない、という。精神の陵辱というある種高次の欲求を持っていた藤原だが、ここに来て身も心も完全にモヒカンザコのそれへと堕ちていたのだ。
 戦いも忘れ、藤原は背後へ、全裸のみずきがいる方へ視線を向けようとする。だが、突如帯状の物が彼の汚れた目を覆い、みずきの裸を守った。

「貴様ッ! 見せろ~!!」

「女の子の裸を見ていい男は恋人だけニャッ!!」

 目を隠すのみならず、藤原の全身へと蛇のごとく絡みつく無数の帯。結果、雨衣の衣装もかなりあられもない状態となっているが、当然藤原には見えない。
 ブーツの底からスパイクを生やし、自分の身体を固定する。そこから始まる技は……奥義・変形郭投げ!!

「ひでぶっ!!」

 凄絶な勢いで槌の如く大地に打ち付けられ、藤原のモヒカンも他のザコ共と同様に力無く崩れた。


「雨衣さん……かっこよかったです」

「ありがとう、みずきちゃんのおかげで勝てたよ」

 裸を隠そうと体育座りのみずきが差し出した手を雨衣がぎゅっと握る。
 その後、生徒会室に現れた2人はピッタリとくっついた上に残り少ない布地から雨衣が生成したマントで全身を覆った状態で、それを見た風紀委員の面々は「やはり白王みずきはこういう体質なのか」と胸をときめかせつつ溜息をついた。



 カバーに覆われた九頭龍の先端が艶めかしく白い喉に接吻する。

「ぬぅ~~……今日もダメかぁ」

 衣装を殆ど剥がされ、半裸となった女戦士「トラロック」――衣紗早雨衣は負けを認めると力無く後ろに倒れた。

「まぁでも、今までで1番いい動きだったぜ…………ほらよ」

 倒れた雨衣を見下ろして彼女の戦いぶりを称賛する雨弓だが、ほぼ下着姿の彼女からすぐに目を逸らすと、自身が着ていたジャケットを脱いで渡す。

「あ、ありがとう……」

 豪放なイメージにそぐわないこの従兄の初心な一面は普段ならば笑ってやるのだが、今は悔しさの方が雨衣を支配していた。
 高齢だった「衣道」の師は女湯を覗いている最中、脳溢血でこの世を去った。元々門下生は当時中学生の雨衣1人で、師範が不名誉な死を遂げた道場は当然潰れたのだが、以来彼女は独学で稽古を積みつつ、雨弓に頼んでこうして実戦に近い試合を行っていた。
 しかし実力差はあまりに大きく、200近い数の試合をして積み上げたのは黒星ばかり。「変身」するようになってからも、魔人能力も使わない彼に攻撃を当てることさえ出来ていない。大会前最後――今度こそはと挑んだのだが、結果は同じ。雨弓は汗もかいていなかった。
 いい動きだったと褒められても、負けるのが当たり前でも、負ける悔しさは変わらない。

「ん~~……ぬぬぬ……、ッダーーッ!! ラアーーッ!!」

 渡されたジャケットを羽織るでもなく、渋い顔のまま空を見上げていた雨衣だが、突如叫び声をあげると、身体の撥条で起き上がり、走りだした。その先で高く伸びている青竹を猫科の獣のようなステップで駆け上がり、中程に達すると体重をかけ、そして竹の撓りを利用して跳んだ。空中に身を投げ出した雨衣はくるくると宙返りをして静かに着地する。驚異的な運動神経と脚力だが、武の道を行く魔人ならば、彼女と同年代の少女にもこれ以上の者はゴロゴロいると、雨衣自身もわかっていた。
 少し冷静になり、遠くを見ると高台の麓に広がる市街地の向こうに夕日が沈もうとしていた。街を、この竹林を、雨衣を茜色に照らし出している。

「ホーリーランド……」

 今回で4度目を数える、雨衣が参加する魔人同士の格闘大会だ。それに雨衣もエントリーしていた。賞金1兆円はあまりに過分(500億くらいでいい)だし、賞品の少年はどうでもよかったが、格闘家としての力試し、そしてデザイナーとしてのデビュー時に備えての資金稼ぎと売名のためにも。
 既に宣伝用のTwitterアカウントも取得している。@Tlalock_ui……閑話休題。とにかくそのために、雨衣は力を磨いて来たのだ。

「私より強い奴に会いに行く」

 その気概が無ければ、武は極められない。そして、その先にある夢も掴めない。戦いの日々を前に、雨衣は決意を新たにしていた。下着姿で。

 千切れた衣装の切れ端を集め、ほぼ元と同じ量の布を身体に纏うと、魔人能力「有衣纏変」を発動する。彼女の意志により、バラバラだった切れ端はマントのような大きな1枚の布となり、そしてさらに素材と形状を変質させる。数百回繰り返した工程だけにそれは洗練されていて、数瞬でコートだった布切れの集合は元の制服へと姿を変えていた。それに身を包んだのは戦士トラロックでは無く、学生の衣紗早雨衣。

「きっと優勝してくるからね! その時は雨弓兄より強くなって」

「おう、畢達も応援してたぜ。帰ってきたら俺も本気で相手しよう」

「うん、待ってて師匠」

 す……と九頭龍の先端を向ける雨弓。敵意ではない。傘術家の作法だ。それに対して雨衣は拳を握り、合わせることで応えた。流派どころか全く違う武術を使う武術家2人の、師弟の絆が確かにあった。

「優勝したら、私がデザインしたこのコート着てもらうかんね!?」

「それは嫌だ」

fin.