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【第一話:04/08(金)――入学式】


ニホン / 首都・トウキョウから遥か十二海里、領海を隔てるラインのすぐそばに、四つの程の孤島が浮かんでいる。
それらの孤島は俗に言う人工島呼ばれるもので、上空から観察するに、確かに機械らしい名残が見受けられた。
この建造物が造られたのは数えること、幾十年。
設計者であり現在も管理人を担う≪長≫は健在しているとは言え、随分と歳を重ねたものだ。
一切の衰えを感じさせない辺り、流石は≪長≫の監視下に存ずる施設と言えるが。

施設――そう、そこは大規模な施設である。
教育機関・国立≪白湖大学附属第一高等学校≫。
孤島の一つに、教育棟を構え、もう一つの孤島に生徒寮を備えた全寮制の公式な学校。
立地条件からして異彩を放つわけだが、入学条件も、これまた常軌を逸している。
≪その1:入学試験は形式的な書類審査のみ≫
≪その2:諸々の料金は一切撤廃≫
なんていう魅惑的な料簡しか実質的には存在しない。
国立と銘打ちながら、体裁的には私立といったなんとも風変わりな学校だ。

あまりに開放的な条件なため、世間からはみ出したならず者とてこの学校へ入学を果たすことも多いが、
その実言うところの優等生がこの学校の入学を嬉々として受け入れる自体も少なくない。
なぜならば、白湖高校には――正確には大学卒業生だが――卒業生による実績が多々知られているからだ。
毎年、それなりの実力者が世間への闖入に成功を収めている。
現在のニホンを支えているのは、少なからず白湖高校のOBの存在がどこかしらに関与していることだろう。
その事実が同時に、国立でありながら≪(税金を大盤振る舞いした)全額無償≫という破格の、
否、悪巫山戯にしか見えない所業も、根拠はなくとも正当性を醸し出しているのだ。
無論非難の声は創立当初から今に至るまで、絶えず続いてはいるが、社会全体としたら、この学校は確かに≪認められている≫。
そして毎年、この学校は多数の学生を、入学させている――裏の顔を察されることもなく。

今年も春が来た。
新しい、新世代の少年少女が、ただ、贄となる。
さて――此度の入学生はどんな運命を巡るのだろう。



 ◆◇



校長先生の話がかったるい。
これは全国の学生諸君の共通認識だ。
天風晴矢(1-C/アマカゼ・ハレルヤ)は入学式の最中に欠伸を噛みしめながら小中学校に渡っての自分の人生を振り返る。
やっぱり校長先生の話と言うものはいずれもしょうもないものばかりだ。
自らの認識を正しいものだと納得させた後、瞳を閉ざす。
まさか初日から頭ぶっ叩いて生徒を起こしに来る的の外れた熱血教師もいないだろう、そう考えていて、実際そうだった。
あるいは単に気付いていないのか――なんであれ、彼は仮眠以下の睡眠を執る。
気持ちの問題ではあるが、少しは気持ちが楽になった。こういう緊迫した空気と言うものをあまり彼は好まないようだ。

校長先生――正確には学校長と呼ばれるらしいので以後そちらを準拠させてもらうとして――
学校長の長々と余計な豆知識を添えた弁論は終わりを迎えたらしい。
司会進行役の教師が生徒一同に起立を促す。
入学早々問題を起こしたくもないので瞳を開けて、周りの人間同様に彼も立ち上がる。
彼は名簿番号の都合上最前列に構えていて周りの様子など一部分しか窺えないが、後ろから「かったりぃ」と欠伸まじりの声が聞こえてきた。
彼とは友達になれそうな気がした。なんとなくではあったが。

学校長と一礼を交わし、続いては国歌。次に待ち構えていたのは校歌らしい。
国歌は彼が初めて歌った頃から変わらない――キミガヨという曲。これは適当に流せばいいが、校歌というものは初めて聞く。
生徒手帳に歌詞が書いてあるのでー、とか嘯いていたがリズムが分からなきゃ歌えるわけないだろ。
これまた生徒共通認識のようで、校歌斉唱はグダグダのままに終わった。尤も教師陣の働きが足りないというのもあろう。

これで終わりかと思いつつ、着席が促されたので中学校でも式有るたびに目にしたパイプ椅子に腰かける。
入学式なんてこんなもんだ。――ワクワクドキドキしながらやるもんじゃない。小学生じゃあるまいし。
適当に気を抜き、だらけ、同時に存在感を無駄に誇示しない。それでいいのだ。
有象無象に紛れこめたら、それは社会的には十分に『成功』なんだろう。
声に出さず嘆息し、壇上を見上げる。学園長が再びマイクを前に語ろうとしていた。

余談ではあるが、この学校の入学式に保護者は同伴していない。
通例として、というか大半の高等学校では保護者が同伴していそうなものであるが、この学校は孤島の上に建立している。
保護者にはこの孤島まで辿りつく足がないのであった。
一概にはそう言いきることは出来ないが、しかし何であれ大多数の保護者が来れない以上、特例的な保護者をわざわざ迎え入れることは学校側から断っている。
故にこの会場――体育館らしいが、ここには新一年生と教師陣しか顔を出していない。
今日は金曜日であり、月曜日に開かれる始業式には二年生、三年生も顔を出すらしいが、あまり関係のない話であると切り捨てた。

何であれ、ここで重要なのは――声を荒げても助けてくれる人間がいないということだ。
子供を助けてくれるのは、最終的には常に大人だ。
大人のに力と言うものを馬鹿にしてはいけない。――そう、馬鹿にしてはいけない。
大人と言うものは、強力である。
それは、味方であっても、敵であっても同じこと。


「前置きは一先ず省こう。悪いがきみたちには二年後――三年生になったら、殺し合いをしてもらう」



大人と言うものは強力だ。
――子供では到底かなわないぐらいに。

学校長のこの言葉を皮きりに、彼らの運命は決定づけられた。
青春の香りに誘われてやってきた生徒もいるかもしれないが、ここには血の臭いしかないだろう。
青い春ではなく、赤い冬。
青臭い始まりではなく、赤黒い終わり。

この学校長の話で体育館内が騒然としたのは、言うまでもない。
子供に課せられた試験は無理難題。
しかし彼らは逃れる術がない――大人の魔の手から、逃れる術は、どこにもない。

天風晴矢はわざとらしく、クールぶって溜息をついたが、喉が乾く。
何を言っているんだろうこのオッサン。悪態づくもどうも勢いが生まれない。
その時にしてようやく自身が恐怖しているのだと知り、目の前の景色が歪みそうになった。

それが、おわりのはじまり。
それが、――はじまりで、おわり。