The New World


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迚も――新鮮だ。

 私――メタルと云う名のかたつむりは、そんな事を考えている。
――今までは。
何があっても変わらなかった。
 死にかけている人間がいても、自分に危害が及ばない限りは決して助けようとはしないガード。
目の前で店の品物を盗んでも、一度街を出入りすれば平気な顔をしていつもの対応をする店主。
それは――別段変わった事ではない。
そう云う場所なのである、ノースティリスは。
それに。
例え核爆弾で街を吹き飛ばしても。王族や貴族を含む住人を、一人残らずミンチにしても。
少しの時間があれば、元に戻る。
これはどうなのかと云えば――矢張りおかしな所など何もない。
繰り返すが、ティリスと云うのはそんな場所なのだ。
最初に海から投げ出され、漂着した時はかなり戸惑ったものだが――すぐに慣れた。
と――云うか。
普通、かたつむりは喋らないし、何かを考える事すら無い。
脆く、非力で、不器用で、学習能力がなく、塩で溶ける。そんな種族である筈なのだ。だが。
――違うな。
意思がある。技能を習得し、成長する事も出来る。
塩で溶ける事だけは克服不能ではあるが――明らかに矛盾している。
――それも変ではない。
そもそも。別の物と比べなければ、変だ、等と思わない。
ここはそんな世界だ――と納得するだけだ。
だから、私は別に理不尽を感じている訳ではない。
ただ――飽きていたのだ。
何をしても同じ。何をしても違和感がなく、何をしても元に戻る、この世界に――である。
だから。
――新鮮だ。
改めて、私はそう思う。
こんな体験は初めての事だからだ。


何十、何百、何千年と繰り返しても、こんな事は起きなかった。
単なる信仰の対象に過ぎず、たまに褒美を寄越したり電波を飛ばしたりする程度の存在感しかなかった七柱の神が目の前に現れ、冒険者達の殺し合いを要求する。
夢のようだと感じた。
恐れなど抱かないし、パーティ会場で数えきれないほど殺してきた緑髪のエレアがまた死んだところで、最早何の感慨もない。何時ものように弓を回収できなかった事に少々残念があるだけである。
大体――自分は神と真正面から戦い、殺した事だってある。それでも何も変わらなかったが。
だからこそ、この世界に飽きと云うものを感じていたとも云えるのだ。
それが。今となって新しい出来事が発生した。
自分が大きく弱体化した事も、貴重品で埋め尽くされた持ち物が消滅した事も、この、初めてティリスを訪れた時のような興奮に比べれば何ともない。
――さて。
状況と、現在の持ち物の確認は終わった。
愉快な気持ちを隠しきれないまま、私は頭を上げ、脚を進めようと――私に頭も脚もないのだが、まあ表現方法の一種である――した。その時、
「だ――誰だッ」
物陰から、若い男の声が聞こえた。
私は、それに大いに驚いた。
何故なら――そんな言葉を発するような冒険者、いや生物など、見た事がないからだ。
いくつかの、特定の語句しか話さない。どんな者も、それが普通だった筈だ。
――いやいや、落ち着け。
ペットと云う可能性もある。
あれはどんな言葉でも話すように出来るが――否。
私以外にペットを連れている冒険者など、矢張り見たことがない。
ならば。
――どう云う事だ?
「い――いるのは分かってるぞ。分かってるからな――う、うう……」
男の声は、明らかに恐怖している。
――何故だ?
重傷を負ったり、特定の攻撃を受けたり、狂気に侵されてでもいない限り、恐怖などする筈がない。


機関銃を眼前に突き付けようが、家族が酸に溶けて死んでいようが、何時も通りの行動を維持するのが普通である。
しかし、男の声は正常だ。声は大きくはっきりとしたもので、傷や狂気を持った者のそれではない。
そんな事を考えている内に――男は私の目の前に現れた。
「――は、ああ――」
男は何故か、安心した様子を見せて、なんだ只のかたつむりかあ――と呟いた。
――分からない。
男の考えている事が、行動が――予測できない。
何と言う――新鮮さ。ああ、
「嬉しいぞっ!」
私は、思わず叫んでしまった。やや気恥ずかしい。
すると男は、うぎゃあお助けェ等と叫びながら地面に尻餅を付いて、がくがくと震えだした。
先日自宅にやってきて、酒に酔って無謀にも私のペットの螺旋の王に挑んだ挙句に発狂してミンチになった冒険者に少し似ている。どうせ死ぬのならば装備を全部盗むまで耐え切って欲しかったなあとその時の事を思い出し、苦笑いし乍ら私は声を発した。
「いやいや――落ち着き給え。私は危害を加える気はないよ」
本心である。
この、新たな世界で初めて遭遇した、全く行動が読めない別の冒険者を殺すなど、とんでもない事だ。
神の云う事には背くことになるし、二十四時間以内に死人が出なければ全員が死亡と云うのは気になる所ではあるが――まあ、私が何かしようがしなかろうが、沢山死ぬだろう。
絶対。
間違いなく。
何も分からないこの世界でも、これだけは断言できる。
男は相変わらず震えている。
「か、かかか」
かたつむりが喋った――と、数十秒の時間をかけて、漸く男は新たな言葉を紡いだ。
「失礼だなあ、慥かに街道にいるようなかたつむりは喋らないよ。しかし私は君と同じ冒険者だ。何も怖がる事など無いじゃないか」


――怖がるのかな。
カルマは出来る限り、常に最大値を保っているつもりだが。
ここではそれが通じないのかも知れぬ。
「う――うううう……」
ほんの僅かに男は落ち着きを取り戻したようだった。
「分かってくれたかね。では、そうだね、君がここに飛ばされてくる以前は、何をしていたのか、聞かせて貰ってもいいだろうか」
私は男に向かって優しく語りかけてみた。このような経験は初めてだ。
男は、ああとかううとか、意味のない呻き声を発しながらも自分の来歴を語り始めた。
「俺は――俺の名前は、イーハンだ。その、ここに来る前は――」
イーハンと名乗った男は――驚いたことに、私と全く同じ経歴の持ち主――つまり、事故に遭い、海に流され、二人のエレアによって助けられた冒険者――だった。
こんな偶然もあるものなのか。
違うのは、私がベテランであるのに対し、彼は新米だと云う事である。
「そ、それで、あのクソエレアは――あの、に、肉を」
例によって、彼も私と同じ目に遭わされたらしい。と云うか、またやったのか、あの緑は。
しかし――人肉を食べる事によって狂気に犯される者が、私以外にいるとは思わなかった。
調理依頼の際、人肉料理を持って行っても普通の食料と変わった所など見せなかったし。
その分、腐ったものを食べると即座に死ぬのは不便だと思うが。
「何処まで話したっけな――ああ、そうそう、それで、ヴェルニースって街に向かったんだが――」
そこで自分のペットと再会した瞬間にここに連れて来られたんだと云って、イーハンは口を閉ざした。話は終わったらしい。
「有り難う。処で、そのペットと云うのは――真逆とは思うが、少女だったのではないかね?」
私は、イーハンに質問を投げかけた。ここまで一致していると、最初に出会ったペットも私と同じなのではないかと考えたのである。
しかし、イーハンは『お前は何を云っているんだ』とでも言いたげな表情になった。
「い、犬だよ、犬。ペットなんだから、犬とか猫とかだろうよ普通」
「普通かね」


矢張り、同じ経歴を辿ったのは偶偶だと云う事なのだろうか。いや、それよりも。
――いい。
矢張り新鮮だ、
「分からねえ――そうだよ。その、あいつら、神だって名乗った連中、あれも俺は知らないんだよ、クソッタレ。言ってる事が分からねえ。大体」
どんな理由でも人殺しはいけねえだろとイーハンは真面目な顔で云った。
怒っているのか。あの緑が――死んだ事に。
本当に――面白い。
「ふふふ」
「何が面白いんだよお前。そうだ、お前もおかしいぜ。大体、なんでかたつむりが喋るんだ、ええ?」
イーハンは――多分、理不尽への怒りによって――恐怖を克服したようだった。
「それは大変哲学的な質問だねえ。まあ、そう云うものなんだよ」
「そう言うものって」
「そうだな――ちょっと、これを見給え」
私は鞄から、硝子のギャルのパンティーを取り出し、装備した。
持ち物を確かめた時点で、自然鑑定は行われている。呪いも祝福もされていない、単なるパンティーである事は確認済みだ。
「な、なな、何のつもりだよ、と言うか、何だよそれは」
「少し黙っていなさい」
そして――もう一つの支給品である中身入りのモンスターボール(プチ)を使用。
球体から出現したプチが私に擦り寄ってくる。
「うわっ――ああ、コイツか、コイツなら知ってるな。俺でも倒せる。で――あれ、大人しいぞ。もしかして、味方なのか? だったらちょっと可愛いか」
私はプチにパンティーを投擲する。
*ぷちゅ*
独特な音を響かせ、プチはミンチになった。
イーハンは何故か顔を俯かせて無言になった。
「何をやってるんだい? ほら、よく視てみろ」
「見るって――あ、あれ」


プチの残骸があった場所から、ギャルのパンティーは――消えている。
否。
最初から私の手元にあるまま、動いていない。返り血すら付いていない。
「ど」
どうなってんだとイーハンは驚愕した。
「だからね、説明はできない。そもそも、腕も手もない私がどうやってコレを投擲したのか、それは私自身にも分からないんだ。ただ云えるのは――コレは燃えたり破壊されたりしない限りは無限に使うことができる投擲用の武器であり、決して下着などではないと云う事さ。この世界はね、そう云うモノで溢れているよ」
常識である。
だが――イーハンはそれを知らない。
恐らく。イーハンはノースティリスの事を何も知らない。
そうでなければ、彼の言動を説明する事はできないのだ。
その理由を色色と考察する事はできるが――そんな事は、どうでも良い。
重要なのは、それが私にとって新鮮であると云う事、ただそれだけである。
分かんねえ、分かんねえよと繰り返し云い乍ら、イーハンは立ち上がった。
「何処へ行こうと云うのかね?」
「分かんねえよ、知らねえよ。何をしていいのかも分かんねえよ。でも」
人殺しはダメだろと、イーハンは云った。
――ああ。新鮮だ。
「では――私も同行させて貰おうかな。邪魔はしないよ」
「勝手にしやがれ」
肩を怒らせ、ぶつぶつと独り言を呟いているイーハンを、私は羽を広げて空に浮き、追う。
――さて。
何時かは、イーハンにも、この世界にも、飽きが来るのかも知れないし、その前に私が死ぬかもしれないのだが――まあ兎に角それ迄は。
素直に、冒険を楽しむとしよう。

【F-1/アクリ・テオラ中心/一日目・朝】

【メタル@かたつむり】
【職業:観光客】
【技能・スキル:窃盗、料理、自然鑑定 エーテル病:背中に羽が生える】
【宗教:幸運のエヘカトル】
[状態]:健康
[装備]:硝子のギャルのパンティー
[所持]:基本支給品、形見の鞄(不明支給品1アイテム) 
※モンスターボールは使用した事で消滅しました。
復活の魔法やバーテンダーによってプチが復活出来るかどうかは不明です。
[思考・状況] 基本:新鮮なこの世界を楽しむ。
        1:とりあえずはイーハンを観察する。
  2:出来れば他の冒険者も探す。
【備考】ベテラン冒険者。色々とやり過ぎて、世界自体に飽きを感じていた廃人ならぬ廃かたつむり。

【イーハン@イェルス】
【職業:戦士】
【技能・スキル:】
【宗教:無のエイス】
[状態]:健康
[装備]:無し
[所持]:基本支給品、形見の鞄(不明支給品3アイテム) 
[思考・状況] 基本:不明。とりあえず死にたくないし殺しもしたくない。
        1:当てもなく周囲を散策する。
【備考】新米冒険者。ティリスの常識を知らず、戸惑いっぱなしの、要するにティリス初心者。