「美味しいお菓子の作り方」


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ぼくはいつの間にか、煌々と照る陽射しの中、平原にぽつんと突っ立っていた。
 
突然の事に驚きはしたが、はっと我に返ると咄嗟に近くの木陰に身を潜め、
急な不安に押しつぶされそうになりながら付近を警戒する。
殺し合い……頭にリフレインするその一言。
しばらく辺りを伺い辺りに誰も居ない事を確認すると、
緊張の糸が解け、ほっと安堵の溜息がでた。
 
 
つい先程神様達に言い渡された残酷なお告げ。
その言葉と、瞼に焼き付いて離れないあの凄惨な光景。
其れ等を同時に思いだして、ぼくは恐怖に身を震わせた。
突然そんな事を言い渡されて納得できる者がいるだろうか。
 
いや、其れより何より一番納得が行かないのは、ぼくは敬虔なジュア信者だと言う事だ。
何故信心深いぼくがこのような争い事に巻き込まれたんだろう。
ノースティリスに理不尽は付き物だ。解っている。
解っている筈だけれどコレはあまりにも行き過ぎだ。
 
神様って結構適当なんだなぁ、まぁ、今更文句を言ってもきっと無駄だろう。
 
「きっと皆強い人達だろうし、殺し合う気でいるんだろうなぁ……。」
ノースティリスでは人殺しなんて珍しいことではない。
きっと此処に集った冒険者達は、他の参加者を血眼になって探しているだろう。
なんせ生きて帰れるのは一人、たった一人の生き残りだけなのだから。
もし、そんな状態の冒険者にぼくが出くわしたら……。
すぅっと血の気が引いていく。先から青かった顔が一層青ざめた。
とても敵わない。敵うわけがない。
 
「ま、守ってくれるような人は居ないだろうしなぁ……。」
静寂が嫌に突き刺さり痛い。
危険な行為と解っていてもこうして一人言でも言って居ないと心が拉げてしまいそうだった。
「ぼくが戦わなきゃ……」
一番の問題、ぼくは戦うことが得意でないという事だ。
ぼくが生き残れる可能性は限りなく0に近いといち早く感知する程だ。

ぼくは決して死にたがりではない。
こんなぼくでも命は惜しい。当然の事だ。
けれどぼくは絶望するしかなかったのだ。
戦わないのではない、戦いたくないわけでもない。戦えないのだ。
 
 
ぼくはこんな事に巻き込まれるまでずっと、ペットの少女に守られながらのんびり旅をしていた。
旅の目的は「美味しい料理を食べる事」だ。
日がな一日作物を収穫し、水辺では釣り糸を垂らし、
料理に勤しんでは出来た側から平らげて、宿屋の柔らかなベッドですやすや眠る。
ぼくは食べることと美味しいものを愛していた。
特に甘いものを何よりも愛していた。
そんなのらりくらりの生活をずっと続けて来たのである。
果実は狩れてもモンスターは狩れない。
調理器具は扱えても武器の扱いは心得て居ないのである。
しかもこの状況下だ。
 
「料理って言っても、こんな状況じゃ役に立たないよぅ……。」
思わず涙ぐんだ声が出た。
しかも愛用のバーベキューセットも失われてしまった今、ぼくは唯の能無しじゃないか。
 
落胆し、がっくり肩を落とすと、身体が支給されたデイパックが触れる。
「望み薄だけど……中身は一応チェックしておくかぁ……。」
半ば諦めモードで支給されたデイパックを漁り始めると、
真っ先にこのバトルロワイヤルに関して記された本を探り当てた。
1ページ1ページ目を通しながら荷物を確認してゆく、と
「あぁ、ちゃんと食料がある。」
本の次に至って簡素な食料が目についた。
 
ふと、一口齧ってみると、なんとも素っ気ない味が口内に広がる。
ただ食べれるというだけで、とても美味しいとは言えない。
好き好んで食べるような人は居ないだろう。
複雑な顔をしながら飲み込むと、脳裏にぼんやりとこんな事が浮かんでくる。 
 
 
 
いつの事だったか。確か今日のようなカラッと晴れた夏の日だ。
ペットの少女と自分の為に夏みかんのパフェを作ってあげた事があった。
程よい甘酸っぱさの果肉。ひんやりと口の中で蕩ける滑らかなアイス。
あの時のパフェは最高に美味しかった。
 
ぼくは他にも美味しいものを沢山食べてきた。
ふわふわの紅茶風味のスポンジに甘さの控えたクリームをたっぷり乗せたりんごケーキ。
果実をまるごと凍らせて作った口当たりの良い大粒のいちごシャーベット。
どれも思い出すだけで口の中にじんわりと唾液が溜まってくる。
 
 
そして次第にこんな感情がふつふつとぼくの中で湧き上がり、
くっきりと形を成していた。
 
「これが人生最後の食事だなんて、ぼくは嫌だ……。」
 
気が付けばさっきまで体中に巡っていた鬱々とした感情が幾分か引いていた。
 
今のぼくには目的が出来たのだ。
出来るところまでやってみればいいじゃないか。

守ってくれる少女は居ない。
ぼくが生き残って元の世界に戻れる事はまずありえないだろう。
でも何か今達成出来そうな望みを述べるのなら、
せめて死んでしまう前に美味しいもの……甘いものが食べたい。
 
不安や恐怖は拭えないけれど、
ぼくは自分の胸に小さな火が灯るのを感じた。
まだぼくは諦めては居なかった。
今は唯その灯りの元へとよろよろ歩き出すのが精一杯だけれど。
 
 
 
あ、自己紹介が遅れちゃったけど
ぼくの名前はムイムイ。かたつむりの観光客です。
 
 
 
【H-8/中央/一日目・朝】
 
 
 
【ムイムイ@かたつむり】
【職業:観光客】
【技能・スキル:料理、旅歩き、釣り】
【宗教:癒しのジュア】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:基本支給品、かじりかけの食料、形見の鞄、遺産相続の権利書
[思考・状況] 基本:死ぬ前にせめて甘いものが食べたい
          1:襲われたら逃げる、無理そうなら諦める
【備考】
甘いものが好きなかたつむり。料理が得意でそれ以外は苦手。消極的でなよなよしている。
外見はいたって普通のかたつむりです。