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「…はいよ!ドードーのグリルとランドトラップサラダお待ちどうさま!」

大勢の人でごった返す街路に面した食堂は満員の有様で、料理を運んできた太った女は、狭い店内を料理の乗った皿を頭上に掲げるようにして客をかき分けながら俺達のテーブルまでやってきた。

女はテーブルの上に皿を置くと、俺の向かいに座っているミコッテの娘に気づいて少し怪訝な顔をした。当然だろう、客は二人なのに料理が一人分なのだから。

「あれ、一人前でよかったかい?」

「ああ、いいんだ。これで合っている」

俺達のテーブルに食欲をそそる焦げ目のついたドードーのもも肉の香ばしい匂いが漂う。向かいの席から微かに息を呑む気配がしたが、俺は気にせずナイフでよく焼けた肉に切れ目を入れた。引き締まった肉の間から肉汁があふれだすと、ゴクリとつばを飲み込む音が聞こえたような気がしたが、それにも聞こえないふりをして切り分けた肉を口へと運ぶ。

しっかりした歯ごたえのある肉質と、少し野性味のある独特の旨味が口いっぱいに広がった。続いて俺は木製のサラダボールに入ったランドトラップサラダに手を伸ばす。砂漠の街とは思えないほどのみずみずしい野菜からしみだした水分が、口の中をさっぱりと洗い流してくれる。ランドトラップの程よい苦味とドレッシングに効かせたハーブが絶妙のアクセントとなってますます食欲が増していった。

もじもじと落ち着かなげに身じろぎをする向かいの娘を盗み見ると、その視線は俺の目の前のドードーの皿に釘付けになっており、だらしなく半開きになった口元には大量のよだれが溜まっているのが見て取れた。しかし、俺がはっきりと娘の方に目を向けると、娘は慌てて目をそらして口元のよだれを拭う。

俺もまた、何事もなかったように視線を戻して食事に戻る。そう、別に気にすることはない。この娘が今こうしているのも全て娘自身が招いたこと。自業自得だからだ。はじめからこうなることは解っていた。なのに娘は自分の意志でこの結果を受け入れたのだから、それに対して俺がどうこうする言われはない。

俺はイリュリオ。エレゼンの…冒険者だ。向かいの席で再び俺の皿を凝視し始めているのはルールー。…これはあだ名だ。俺がつけた。本名はサラマンドラ・ルゥといったか。ミコッテにしては珍しい響きだが、これは彼女の村の伝統なのだそうだ。

彼女と出会ったのはここから遥か北にある森の街グリダニアだった。共に仕事をこなすようになった経緯は少し複雑なので今は省くが、以来、甚だ不本意ながらも結果的にコンビを組むような形になっている。…いや、むしろ放っておくと危なっかしいルールーの面倒を見ているようなものだから、保護者といったほうが正確だろう。

グリダニアの冒険者ギルドで諸国を回る旅商の護衛を引き受けた俺達は、一昨日の夕方にはエオルゼアの交易と商業の中心地、砂漠の城塞都市ウルダハに到着した。予想外に順調な行程に気を良くした依頼人からたんまりと上乗せされた報酬を受け取った俺達の懐は十分に暖かくなっていたのだ。

それが、なぜルールーだけがこうして俺の食事を黙って見つめることになったかというと、話は一昨日の夜に遡る。実にくだらない、馬鹿馬鹿しい話だ。


◇◇◇


そう、ウルダハに到着し積荷の護衛を終えた俺達は、明らかに通常よりも重みのある報酬の袋を渡されて依頼主の商店を出た。ルールーは他愛もなくはしゃいでいたが、これほどの店構えだ。今運んだ積荷が明日にはどれほどの富に化けるのか、それを思えばこの程度の金などまるで問題にならないのだろう。

俺達は表の商店街で今後必要な消耗品を調達すべく、近道となる裏通りを歩いていた。しばらく歩いて気がついたが、随分と治安の悪そうな一帯だ。路地の所々にたむろす男たちは痩せ細っていたが目だけはギラギラと光り、俺たちに気がつくと、会話をやめてこちらをじっと見つめている。

ふと感じた視線に目を上げると、左右に立ち並ぶ建物の窓からも、幾つもの目が俺達を見下ろしているのが見えた。感じの悪い場所だ。冒険者相手に滅多なことはして来ないだろうが、ここは早々に通り抜けたほうがいいだろう。少なくとも、俺達の懐に大金が入っていることはくれぐれも…。

「やったねイリュりゅん、こんなに報酬上乗せしてくれるなんて驚きだよね!」

「…………」

俺の眼の前で、スキップするように軽い足取りを見せるこの脳天気な小娘は、周りの不穏な雰囲気も、たった今放った一言が、自分の身を危険に晒すかもしれない事も露ほども考えていないのだろう。俺は苛立ちを押さえ、油断なく周りに視線を送りながら絞りだすようにささやいた。

「…ルールー、今は金の話はするな。それから……俺をその名前で呼ぶんじゃない!」

ルールーは何故か俺のことをイリュりゅんと呼ぶ。確かにイリュリオというのは他種族には発音がしにくいのかもしれないが、それにしてもイリュりゅんとは何事だ。むしろ呼びにくくなっているではないか。勝手に人の名前を省略することにも腹が立つが、「りゅん」の部分に格別の怒りを覚える。

そうやって俺を馬鹿にして笑い転げている自分の方がよほど子供のようななりをしているくせに、全く理不尽この上ない。自分とてどうみてもサラマンドラなどというご大層な名前が似合うとも思えん。そこで俺も奴に何か屈辱的なあだ名を付けてやろうと考えた。本人はサリィと呼んでもらいたい様だが、誰が呼んでやるものか。貴様などには子供っぽい名前がお似合いなのだ。

そこで俺は一計を案じた。奴の苗字はルゥというらしい。偶然だが、俺は幼い頃ルルーという愛称で呼ばれていた。子供の呼び名なら奴にはお似合いだろう。それから俺はサラマンドラのことをルールーと呼ぶことにしたのだ。

「えー?イリュりゅんっていいじゃんっ!可愛いしさっ」

よほど報酬の上乗せが嬉しいのか、踊るように振り向くと腰の後ろで手を組んでにっこりと微笑む。彼女の動きに合わせて薄汚れた路地裏に青いローブの裾がふわりとひらめいた。その時、前方から走ってきた小さな影が、後ろ向きのルールーに思い切りぶつかった。無防備だったルールーはよろけたが、相手が思いのほか小さかったのと、相手も深くかぶったフードで前方が見えていなかったようで、薄汚い路面に転がったのはぶつかってきた影のほうだった。

「うわぁっと…ね、大丈夫?」

「あ、ありがとう…」

少し迷ったあと、ルールーが伸ばした手をとって立ち上がった影がフードを背中に下ろすと、それは痩せ細ったヒューランの少女だった。他種族の年齢はわかりにくいが、おそらく10歳くらいだろうか。櫛も通していない髪は埃と脂で肌にこびりつき、薄汚れて色褪せた服から覗いた手脚も頬も垢にまみれて黒ずんで、かすかに悪臭を漂わせていた。おそらくこの一帯に住む住民か、さもなければアラミゴからの難民だろう。

少女は背後を気にして落ち着かない様子だったが、しばらくしても誰も姿を表さないことに安心したのか、再びフードを目深にかぶり直すとルールーに頭を下げて立ち去りかけた。…が、ふと立ち止まるとルールーのもとに戻ってきてうつむく。

「ん、どうしたの?」

「あの…お姉さん、冒険者?」

俺の心に嫌な予感が湧き上がる。この少女の風体、後ろを気にした様子からも真っ当な話ではあるまい。せっかくウルダハに来た早々、大商人に良い印象を与えることが出来たのだ。ここで面倒事に巻き込まれると、今後の仕事にも差支えがある。しかし、俺が口を出そうとした瞬間、ルールーは目をキラキラと輝かせて少女の両肩に手を置いて彼女に太鼓判を押してしまっていた。

「そうだよ、お譲ちゃん何か相談事?おねーさんにドーンと任せちゃってよ!」

「おい、ルールー…」

もうダメだ。既に俺の話など耳に入っていない。経験上、このスイッチが入ってしまったらルールーを止めることは出来ない。タイミングを見て状況が悪い方向へ向かわないようにするしか無いだろう。俺は少女のこわばっていた表情が安堵で緩むのを見ながらため息をついた。

 

 

 


「お母さんの形見の指輪?」

「うん…お父さんとお母さん、霊災の時に…それからずっと大事に持ってたんだけど…」

暗い路地の片隅で、ルールーは少女とともにひびの入った石段に腰を下ろして事の経緯を詳しく聞いている。俺は建物の壁に寄りかかって二人の話に耳を傾けた。ルールーは冒険者というものに強い幻想を持っていて、冒険者を、まるでお伽話に出てくる正義の味方か何かと勘違いしているふしがった。そしてなぜだか貧しい者への感情移入がとても強い。普段から暴走気味なところがあるが、そういった者達が絡んでくると、とりわけ歯止めが効かなくなって来るのだった。

「昨夜、気がついたら無くなってて…ずっと探してたんだけど…」

「見つけたの?」

「…うん、商店街の露天に並んでたの…」

「ええ!?じゃあ、盗まれて売られたってこと!?」

「たぶん…スリだと思う…この街には多いから…」

少女は形見の指輪に紐を通して、それをペンダントのように首からかけていたそうだ。それが、昨夜雑踏を歩いている間に無くなり、探し回っていると、先ほど商店街の外れにある露天でそれを見つけたというのだ。少女はすぐに露天商にそれは自分のものだと詰め寄ったが、当然ながら相手にされず、逆に用心棒らしい男に追いかけられたのだそうだ。ルールーにぶつかったのは、その用心棒から逃げていたかららしい。

俺達はまずその指輪を確認すべく、町外れの露天へと向かった。商店街も外れのこの辺りに来ると、大部分の店がきちんとした店舗を持たず、街路にただ敷物を広げただけ、その粗末な敷物の上に並んでいる品もがらくたや怪しげなものばかりだった。

少女が指し示したのはそんな怪しい店の一つで、その店もまた染みだらけの敷物の上に欠けた器だの陽に焼けた書物だの得体のしれない生き物の干物だのが乱雑に並べられていた。店の主らしき男は無精髭だらけの目付きの鋭い男で、顔のあちこちに刻まれた傷跡や酒に濁った赤い目を見るまでもなく、真っ当な商売人には見えなかった。

俺がどうしたものかと考えていると、ルールーが腕まくりをして鼻息も荒く商店へと歩み寄っていく。遠目なので聞こえないが、店主と何やらやりあっている。おそらく何の作戦もなく指輪を返せとまくし立てているのだろう。少女の依頼を受けておいてやることがその依頼人と同じとは、全く役に立てていない。

俺は激しくやりあう二人は一旦無視して店主がつまみ上げている指輪に目を凝らした。真っ赤な大ぶりの宝石のついた指輪で、装飾のたぐいはなくシンプルな形をしている。俺は指輪を見つめたまま、傍らの少女に尋ねた。

「おい、貴様が探しているのはあの指輪で間違いないな?」

「…う、うん、あれだよ」

「母の形見といったか。貴様の母親はどんな仕事をしていた?」

「え…畑仕事とか…霊災で畑はなくなっちゃったけど…」

何でそんなこと聞くの?という怪訝な顔。俺は騒ぎを聞きつけ徐々に人が集まってきた露天の方を見つめたまま、感情を込めずにただ、必要なことを少女に訪ね続けた。

「随分大きな宝石がついているな、高いものではないのか?」

「えっと…お父さんにプロポーズされた時にもらったって…」

「ふむ、では父は冒険者か何かだったのか?」

「ううん、お父さんも畑仕事だよ」

「…そうか。よほど貴様の母が気に入ったと見えるな」

露天の周りの人垣が騒がしくなってきた。そろそろ頃合いか。俺はリンクシェルを取り出して群衆の中で声をはりあげているルールーに声をかけた。

「おいルールー、一旦戻って来い。そろそろ警備の者が来る、作戦を立ててやり直しだ」

ルールーはまだ納得がいかないのか、しばらくギリギリと歯ぎしりをしていたが、店主に一言「覚えてなさい!」と捨て台詞を吐くと路地の方へと戻ってきた。俺達は一旦路地の奥、先ほど少女の話しを聞いていたあたりまで戻ると、今後の作戦を練ることにした。

「ふん…で?店主はなんと言っていたのだ?」

「何もかにもないわよ!あれは正規のルートで仕入れたもので、欲しいなら金を払えと言われたわ!5千ギルだって!」

「怪しいものだな。商品をざっと眺めてみたが、あの指輪以外はゴミ捨て場にあるようなガラクタばかりだ。どのみち真っ当なルートで入手したものではあるまい」

「だよね!絶対そうだよ!あたしピーンと来たもん、こいつは絶対嘘ついてるってね!」

そんなことはあの店主を見れば誰にでもわかりそうなものだが、問題はそこではない。あの指輪が正規ルートの品かどうかはともかく、問題は既にあの男の所有下に置かれ、店頭に並んでいるということだ。それを取り戻すにはあの指輪の正当な持ち主が誰かを証明するか、さもなくば、あの男の不正を暴くしか道はあるまい。

「俺は街を回ってあの男のことを洗ってみる。商品の仕入れルートや評判などをな。貴様は…そうだな、あの指輪が売れないように見張っておけ」

 

 


翌日、俺は街に出るとできるだけ情報を集めてみた。だいたいの商人たちは身内のことになると口が固く、大した話は聞くことが出来なかったが、確かにあの一帯は最近特にスリや置き引きが多く、また盗品を安く買い取って販売するようなアコギな店も少なくないという話を聞くことが出来た。

その後もしばらく聞きこみを続け、俺はひと通り気になっていた情報を得ることが出来たと踏んでルールーとの待ち合わせ場所へと向かう。昨日の路地につくと、青い顔をしたルールーが立ち尽くしていた。ローブの裾を掴んで寄り添っている少女も不安そうな顔だ。

「惨めな顔だな、ルールー。どうかしたのか?」

「…どうしよう…買い手…もう決まっちゃったって…」

なるほど…やはりな。聞きこみの間にあの指輪と同じ程度の指輪の相場を聞いて回ってみたが、やはり相場よりはかなり安い設定になっていた。おそらくあれは盗品で、是が非でも早々に捌いてしまいたかったのだろう。

「今夜には引き渡すんだって…あたし、待ちなさいよって言ったんだけど…買いたかったら1万ギルよこせって。一旦売ると約束したものを横から買うんだからって…」

…そうきたか。そうなると、その買い手とやらも実在するかどうかわからんな。安く仕入れた盗品を手早く売り捌くはずが、都合よくいちゃもんをつけてきた相手に相場よりも高く売りつける。全く飛んで火に入る夏の虫になったというわけだ。

いささか残念ではあるがここまでだろう。ルールーが諦めたとしても5千ギルなら早々に買い手もつくだろうし、今回は全くもってあの店主の勝ちということだな。肝心の店主の不正についても確たる証拠は見つけることが出来なかった。限りなく怪しいのは確かだが、証拠がなくてはウルダハの衛兵も商店会も動いてはくれまい。

「…お姉さん…」

少女が不安そうにルールーを見やる。その視線を受けたルールーは、何かを決心するようにうなづくと、小さくつぶやいた。

「あたし…行ってくる」

「お、おい、待てルールー!」

青いローブをはためかせたルールーは人混みをかき分けるようにして露天へ走ると、俺が止めるまもなく店主に向かって叫んだ。

「あの指輪、あたしが買うわ!」

「お、お姉さん!」

店主はそんなルールーの様子を楽しそうに眺めていたが、口元を歪めるように嘲りの笑を浮かべると、こう答えたのだった。

「そうかい、そいつは残念だなぁ。さっき買い手が来てよ、1万で買いたがってる奴がいるって話したら、自分は1万2千出すって言い出したんだよ。こりゃあ、相手への迷惑料含めて1万5千払ってもわわねえと売れねえなぁ」

「…な…んですって…」

さすがの俺も驚いた。強欲な男だと思っていたが、ここまでとはな。1万5千といえば相場の二倍だ。こちらの事情を察して明らかに足元を見ている。

「ルールー、ここまでだ。もうそろそろ…」

「…いいわよ…1万5千出すわ…」

「ふざけるな!相場の二倍だぞ!足元を見られているのがわからんのか!」

俺達とてベテランというわけではない。1万5千といったら先日の上乗せされた報酬にそれまでコツコツと貯めた路銀をすべて合わせてその殆どを失うということだ。

「ルールー!冷静になれ!いくらなんでも割に合わん!」

「ははははっ!さすが正義の味方の冒険者様だ!こんな小汚いガキの依頼で全財産をはたきやがった!」

金を渡して指輪を受け取ると、ルールーはもう男を相手にせず、しゃがみこんで少女と視線を合わせて、その手に指輪を握らせた。

「もう、なくしちゃだめだよ」

「…お姉さん…」

少女は信じられないものを見るようににっこりと笑ったルールーの顔と自分の手の中で鈍く輝く指輪を交互に見比べていた。その口がわなわなと震え、何か言いたそうに口を開きかけたが、やがて少女はその口をきゅっと結んでルールーに頭を下げると、人混みの中に駆け込んでいった。

 

◇◇◇

 

食堂を出た俺達は、日が落ちてようやく気温の下がってきたウルダハの街を歩く。灼熱の太陽の名残のような焼けた砂の匂いと、火照った体を冷ますいくらか涼しい風を浴びながら、今夜の宿へと向かっていた。宿代は前払いをしておいたので追い出されることがないのが幸いだった。

俺の後ろからよろよろとついてくるルールーの腹がキュルキュルと鳴っていた。今回のことはルールーにとっていい薬だ。世の中はそう甘いものではない。割に合わないことをすれば、当然そのリスクは自分に降り掛かってくるのだ。

羽振りのいい時にはみな優しくしてくれるが、一旦落ちぶれた途端人間は手のひらを返す。世間とはそういうものだ。脳裏に浮かびかけた記憶に、口の中に苦いものがこみ上げてきて、俺は思わず顔を歪めた。

「ルールー、これに懲りたら少しは…」

この機会にしっかりと注意をしておこうと振り返ると、ルールーが呆然とした顔で一点を見つめていた。その視線の先にいるのは一人の冒険者風の男。そして…見覚えのあるみすぼらしい娘の姿だった。娘は何事かを話すと、懐から取り出した赤い石のついた指輪を冒険者に手渡し、金が入っているらしい袋を受け取っていた。その袋は昨夜ルールーがあの店主に渡したものよりもだいぶ小さい。

やはりそうだった。あの指輪はもともとあの娘のものではなかったのだろう。そもそも娘の話は不自然なことばかりだった。あの赤い石は自らの力を高める魔力のこもったもので、宝石としての価値などはない。と言って、身に着けているだけで素人が危険から逃れられるほどのものではなく、当然ながらそんなものを欲しがるのは冒険者など、日頃から戦いの中に身を置くものだけだ。

それに首から下げていたものを他人にスリとられるはずもなく、あれが娘から盗まれたという事自体が出鱈目だったのだろう。それどころか、商人たちの話ではあの娘自身が最近この辺りでスリをしている現場を何度か見つかっていた。ルールーにぶつかった時も、おそらくスッた相手から逃げるために走っていたに違いない。

霊災以降、ただでさえ多かった難民が急激に膨れ上がり、ここ最近は街のこの辺りにも子供のスリや置き引きが頻発しているのだそうだ。ぶつかったルールーが思いのほか優しかったから、うまく利用できると踏んだのだろう。結果は上々というわけだ。

「…ルールー…あいつめ、少し灸をすえてやるか?」

「まって!…いいよ、大丈夫だから…」

ルールーは、冒険者から受け取った袋からだした金で買ったパンとスープをむさぼるように食べている娘を寂しそうな、だが何故かほっとしたような顔で見つめながらその場を後にした。

俺は、何度もむせながら安物の固いパンを口に押し込んでいる娘を、もう一度見つめて小さくため息をつくと、少し大股でルールーに追いつき、後ろから首に腕を回して引き寄せて、近場の酒場に向かって引きずっていった。

「わ、わっ!なになに!?」

「ルールー、先日の依頼の祝杯を上げるつもりだったが、貴様のせいでゴタゴタして失念していたぞ。一足遅れたが、そこの酒場で乾杯と行こうじゃないか。…もちろん、貴様のぶんは貸しにさててもらう。必ず次回の報酬のお前の取り分から指し引くからな!」

「え?え?なにそれ!イリュりゅん酷いよ、あたしたち仲間じゃ~ん!」

「関係あるか!自分の食いぶちは自分で稼いでこその冒険者だろうが!」

喚くルールーを引きずり、騒がしい店内へと入っていく。なるほど、噂通り一筋縄ではいかない街のようだが、俺には悲願がある。必ず成し遂げなければならないことが。そのためには格好の修業の場になるかもしれないと思えば問題無いだろう。

ともあれ、今は火照った体を冷ます冷えた酒を心ゆくまで楽しむことにしよう。

 

 


 

<解説>

堅物エレゼンのイリュリオ君とお気楽ミコッテのサリィちゃんのお話です。

本サイトに寄稿してくださっているイリュリオ・フォアニケーさんが、「夢の続きを」に登場した、成長したサリィを気に入ってくださり、ご自分の作品に登場させてくれることになりまして、それに感化されて試しに書いてみた作品です。

死人であるサリィちゃんがどうして元気に動き回っているのか、それはイリュリオさんの本編で語られることでしょう^^