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タイトル:名も無き戦士第三話:雌伏
難民キャンプのはずれの空き地。
何もかもが乾いている。乾いた大地。乾いた空気。枯れ果てた立ち木。枯れ果てた雑草。風がカサカサと音を立てて、枯れ草の塊を転がしてゆく・・・・・
「何ぼんやりしてるんだ。」突っ立っている俺に、がっしりした感じの男の声がかけられた。振り向く。声の主は声よりがっしりしていた。難民のリーダー、ガラドだ。俺は黙ってガラドの横を通り、空き地を後にした。「ゲール、生きてるんだってな。」俺の足が止まる。「仇を討とうなんて考えるな。お前ではヤツに勝てない。」「訓練をする・・・鍛える。いつかヤツに追い付いてやる。」「だから無理だと言うのだ。お前がアイツを憎んでいる事は誰もが知っている。当然ゲールもだ。 アイツが、お前が自分以上に強くなるのを、のんびり待ってくれると思っているのか? いずれそのうちお前が”事故死”するだけなんだよ。」
とはいえ・・・・こいつの怒りと憎しみが収まる訳もなし、いずれひっそりと暗殺されるのは目に見えているな・・・・分の悪い賭けだがしょうがない・・・・
再び歩き出そうとした俺に、ガラドが声をかけた。「しょうがないな・・・・・今度は俺が稽古をつけてやろう。 ライラほど有名じゃあないが、これでも引退する前はそこそこ名の通った剣士だったんだぜ?」「アンタ・・・・ゲールを知っているようだが、ヤツより強いのか?」「正直、ヤツとは一戦しかやった事がない。結果は・・・・コレだ。」ズボンの右裾をたくし上げる。無残な切り傷が無数にある。足の形が変わるほどに。「文字通り・・・・・右足をズタズタにされたよ。ナマクラ剣じゃこうはならない。ヤツはその時、本身の剣を使っていたのさ。」「そこがおかしい・・・・ヤツは試合で本身の剣を使う。あれはルール違反だ。試合前のチェックで判りそうなものなんだが。」「そうか、知らないんだな・・・・ヤツは、ゲールは”処刑人”なんだ。」「”処刑人”?」「ああ。ウルダハにとって害になると判断された犯罪者、獣人と通じた者、有力者に睨まれた者・・・・そういう者を試合と称して公開処刑をする。 その処刑人がゲールなんだ。 そんな汚い仕事をしているおかげで、ヤツはウルダハの上層部と繋がりがある。裏社会とも繋がりがある。 時には裏社会と上層部の橋渡しをする事さえある。 ヤツは、両方の世界から”便利なヤツ”として重宝されてるのさ。 だから、ギルドマスターでさえ、ヤツのやる事には目をつぶるしかなくなるんだ。」「そんな・・・・そんな馬鹿な事って・・・・・」「判ったか?ゲールが刃を振るうまでもなく、別の誰かによって暗殺される可能性だってあるんだよ。」「俺は・・・・俺はどうすれば。」「しばらく旅に出ろ・・・・・・・と言うか、出た事にしろ。 ここでかくまってやる。 どうせいずれ、かくまい切れなくなるが・・・・その時はどうするか、自分で決めろ。 それまでは、俺がお前の剣の特訓に付き合ってやる。」「わかった・・・・・」俺は自室に急いだ・・・・荷物をまとめるために。
俺が荷物を纏めていると、親方がやってきた。「なんだ?旅にでも出るのか?」「ああ・・・・ちょっと嫌な事があったものでね。」「ゲールの復帰か。」一瞬だけ手を止め・・・・・荷造りを再開しながら何気ない風に。「復帰か・・・・いつなんだ?」「今はグリダニアの幻術ギルドで、腕利きの幻術師による集中治療中だ。 治療が終わるのがあと10日ほど。 固まった筋肉をほぐし、現場復帰できるまで体を作るのに30日以上かかるだろうな。 一ヶ月半後くらいになるか。」「一ヶ月半か・・・・」「言っておくが・・・・一ヶ月半修行をしたくらいじゃ、お前はゲールに勝てないぞ。 尤も、そんなカード俺が組ませないがな。」「親方・・・・・俺はゲールと戦い・・」「だめだ。」俺の言葉を親方が遮った。「お前もコロシアムのルールは知っているだろう・・・・・個人的な恨みを持つ者同士のカードは絶対に組まれない。 間違いなく殺し合いになるからな。」俺は荷造りを終えると、親方に、「じゃあ・・・・一ヵ月半ほど旅に・・・」「二ヶ月行って来い。」「・・・・・・一ヵ月半で戻ってくるよ。」「お前が望むなら、双蛇党にでも黒渦団にでも紹介状を書いてやる。考え直せ。」「一ヶ月半で帰る。」はっきりと言い、俺は部屋を後にした。
俺はライラとリックが使っていたテントに案内された。中は綺麗に片付けられていた。リックが使っていた寝台に、丁寧に折りたたまれたリックの衣類が置かれていた。「ここを使え。」ガラドが感情のないぶっきらぼうな声で指示をした。ライラは彼の親友であり、彼がリックを我が子のように可愛がっていた事を、俺は知っている。つらいのは・・・・そしてゲールを憎んでいるのは俺だけじゃないんだな・・・・・「明日は朝から倒れるまで訓練だ。いや、明日から一ヵ月半は、か。」
ガラドの訓練は、ライラの訓練より遥かに過酷なものだった。俺かガラド、どちらかが倒れるまで、深夜になろうが続けられた。食べるものはガラドの保存食だけだったが、いつ頃か難民達が食べ物を運んでくれるようになった。自分達が食べるものすら、満足に手に入らないというのに・・・・「あんたたちが、何をやってるのかわかるよ。ワシらもライラには世話になった。 ガラドにも世話になっとるがな。 それに・・・・・リックはいい子じゃったよ。」食事を持って来てくれた老婆が、寂しそうにつぶやいた。
ある日。
テントにガラドが入ってくるなり。「起きろ・・・・・かぎつけられた。いずれ刺客がやってくるだろう。」緊張したガラドの声に、俺は一瞬で目が覚めた。こんな事もあろうかと、いつでも旅立てるように荷物は纏めてある。「目をつけておいた洞窟がいくつかある。まずはそこに隠れよう。俺も同行する。」見るとガラドはすでに荷物をくくりつけたチョコボを待機させてあった。俺の荷物は・・・・・乗せるのは無理か・・・・・仕方が無い、担いでいくか。
俺とガラドはそれから半月ほど、ザナラーン各地の洞窟を移動しながら時を待った。
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