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一章 故郷レギスバルド
1
私の名前はベロニカ人里はなれた黒くて深い森。アルデンヌと呼ばれるその土地の極北にレギズバルドと呼ばれる小さな村がある。街との表立った接触もなく、その名を知っている、または覚えている者はごく僅か。私が生まれ育ったのはそんな村だ。
私の家は二階建て、村でいちばん大きな建物で一階が工房、二階が居室。一階にある広い工房では魔器と銃器を製造し、街のギルドや軍に販売する。これが村の最大の収入源となっている。住んでいるのは、母親と姉と私の三人家族、あと住み込みで職人が十数名。私の母は工房の責任者だ。
私が一日のうちのほとんどの時間を過ごす自室は二階の一番端っこ。南向きに窓が一つの小さな部屋。趣味は読書。本を読むことで自分の存在を保っている。と思う。
村は元々呪術師が集まって発足している為、蔵書も古い魔道書がほとんど。その魔道書は大量に保管されているものの、私が読破するのは時間の問題で、これはかなり深刻な事態だ。今読んでるのは、召還術の本。その魔術は現存するかも分からなくて、魔道書というより、空想小説みたいな内容だ。
本は窓のそばに置いてある大きめの椅子に座って読むと決めている。外のうっそうとした木々の間からわずかにこぼれるお日様の光は、かすれた古書の活字を読むのにちょうどいい。この場所と時間は私の最高の喜び。嫌な事があってもここですっきりと浄化される。
しかしこの至福のひと時は決まって母に打ち壊される。「ちょっとベロニカ下に来て!」「いま、いそがしいの、バハムート編の3章の山場なんだから」「馬鹿なこといってないで、さっさと来なさい!」いつもこうだ。本には途中で止めていい所といけない所があるのを分かってないんだから。しぶしぶ降りていくと、姉のリンも呼ばれていた。「ベル、そんなふくれっ面してないの」「だって、バハムート編のいいところだったのに」「そんなおとぎ話、読んでもしょうがないよ、もうすぐウルダハに行くからさ、面白い本を買ってきてあげる」読んでる本を馬鹿にされたのは悔しかったけど、そんなことはもうどうでもよくなった。「えっ、いついくの?いつ町いくの?」私はリン姉さんにすがりつく。「これ、静かにしなさい!」と母の怒鳴り声。「さあ、みんな、手を止めて聞いて」ハンマーでフライパンを2回叩く。工房が静まり返る。「さきほど、待望の鍛冶職人が到着しました」鍛冶職人は凄腕のハイランダー、ゲオルグさんがいるのに、と思っているうち、奥から銀髪のすらっと背の高いヒューランが現れた。「フィリオ・バイヨンです、よろしく」その男は透き通るような声で言った。横を見ると、リン姉さんは虚ろな目で、ぼぅっと彼を見つめていた。
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