とうとう往ってしまったな、お前。
それでいいんだ、それがお前の選んだ世界だ。
お前が心底嫌っていた世界だ。
思えば、私は嫌に巫山戯た存在だった。
物質精製、そして幻覚。
幻覚を媒介とした実体化。
お世辞にも人間とは呼べなかっただろう。
それに気が付き、愕然とした私に突如起きた直感。
そうだ、まるで演劇のト書きのように。
(私は近いうちに死ぬ)、ト。
途端に幾つもの心残り、未練が、心臓を廻った。
私は別の精神から引きずり出され、淘汰され、弾かれた人格。
躊躇など無かった。
いつ至るかも知らない死を察して、次に私が忘却されることが恐ろしくなった。
誰にも語られない、聞かれない、記憶されない物語など、存在しないに等しいじゃないか。
盛大に暴れ、他者に私の記憶を刻んだ。
憎悪、恐怖、憧憬、どれであれ良かった。
そのように、私は自分の意思で笑い、殺し、騙し、奪い、また笑った。
すべたの自分の挙動に、喜びを感じた。
そして、お前が来た。
子供にそぐわない、それこそ『すっかり醒めてしまった』目をしたお前が。
お前は確かに聡明だったが、視界が狭すぎた。
だから、お前に、私が人を殺す瞬間を魅せつけた。
「父親殺し」を夢見るお前に。
所詮は子供、うろたえ、いかに自分が無知だったか知るだろう。
そう思ったのにな。
お前、怯えながらもはっきりと目を凝らしていたじゃないか。
前を見据えていたじゃないか。
なんだ、なんなんだよ。
お前に全て教えたくなったんだ。魅せてやりたくなったんだ。
醜悪な真実を教え、壮麗な虚偽を魅せたくなったんだ。
嘘を重ねた実しやかな夢物語、空虚な私。皮肉なものだが、
そのために、存在していたんじゃないか?そう感じた。
だが、嘘も夢も、何時かは醒める。
元の世界へ戻ると、お前は言った。
口惜しく、名残惜しかった。
続きます☆
最終更新:2014年07月19日 02:33