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最後の審判

閻魔:元無関心ギャル:制服:荻原
弁護士:元いじめられっ子:スーツ:村井
正しい女(主人公):スーツ:大坂
スーパーアルバイター:元引きこもり:作務衣:えの

■序:あの世の裁判所
閻魔:はい、次―。
女:(コンコン!)失礼します!
閻魔:どうぞー。何の御用かしら。ウチ今から美容院行きたいんだよねー。
弁護士:彼女はですね、判決に不服があって来られたそうです。
閻魔:またかよー、めんどくせーなー。雨宮、閻魔帳貸して。
弁護士:はい、こちらです。
閻魔:どれどれ。あー、やっちゃってんね。
弁護士:ええ、やってしまってますね。
閻魔:ダメじゃね、これ?
弁護士:ええ、ダメですよね。
閻魔:正し過ぎる。
弁護士:ええ、正しい。
閻魔:幸せすぎる。
弁護士:ええ、幸福だ。
閻魔:地獄行きです。
弁護士:異議ナシです。
女:ちょっと!弁護士!!
弁護士:はい?
女:ちゃんと弁護してよ!私は、一度も嘘を吐いたことが無いし、勉強も出来たし、会社でも真面目に働いて、社会貢献も一杯して、立派に子供も育てて、仲のいい家庭を作ったのよ。それなのに、なんで地獄行きなわけ?不服申し立てるわ。再審を要求するわ。
弁護士:まあまあまあ、落ち着いて下さい。
閻魔:は~~~~、最近多いんだよねー、こういうタイプ。ね、雨宮。
弁護士:はい。
女:ていうか、誰よこの子?!
弁護士:ああ、閻魔様ですよ。
女:はあ???なんで私がこんな小娘に裁かれなくちゃいけないのよ!てか、嘘でしょ?普通閻魔様って言ったら、でっっかくて、おっさんで、目がぎょろぎょろしてて、赤ら顔で、冠とか着物みたいの着てて、(えのさんを指して)こういう奴じゃん!こいつが閻魔役すべきじゃん!
閻魔:ほら来た!来たよ来たよ来たよ、これ。
弁護士:あちゃーー。
閻魔:正っしいイメージ。完璧な解答。想像物の内容すら正しいっていうね。
弁護士:弁護の仕様も無いですね。
女:や、だから正しいんでしょ?
弁護士:正し過ぎる罪です。
女:は?訳分かんない。大体ねぇ、あんた、雨宮さんですっけ?すごく親身で腕利きだって聞いたから、弁護を頼んだのよ?詐欺だわよ!あんた達こそ地獄行きよ!
閻魔:…(シリアスに)雨宮、(無気力に戻って)ジュース頂戴~。
弁護士:はい、閻魔様。
女:おい!お前ら!!
閻魔:分かったよ。ええと、正義(まさよし)良子(りょうこ)。ねえ、雨宮すごいよ。苗字が、正義って書いてまさよしだって。りょうこも良い子の良子。
弁護士:名は体を表すと言いますからね。
女:そうよ、その名に恥じないように生きて来たわ。
閻魔:享年94歳。すっげ、大往生なんすけど。
弁護士:葬儀の参列者は300人。人望も厚かったようですね。
女:当り前よ、お友達も多かったんだから。
閻魔:東京のそこそこ裕福な家庭に生まれ、小学校から大学までお嬢様学校に通う。
弁護士:ほう。
閻魔:中高時代は、学級委員や生徒会長などを歴任。スポーツも万能で文武両道タイプ。…なんか漫画の主人公にいるよね、こーゆーの、ねえ、雨宮。
弁護士:はい、こうゆう主人公好きじゃないっすね。僕はもっとこう、ちょっと影を背負っているっていうか、苦労してるタイプの女の子の方が好きですね。応援したくなる。
女:あんたらのタイプなんて聞いてないし。
閻魔:大学時代はボランティア等の社会活動に熱心に参加。卒業後は一流企業に就職し、会社の業績向上に貢献した後、独立してアロマテラピーやサプリメントなどのヒーリングサロンを企業。うわー、女社長だ。
弁護士:働く女性に癒しの場所を提供し、相当流行ったようですね。
閻魔:でー、IT企業に勤める男と結婚。働きながら二人の子供育て上げ、どちらも有名国立大学に進学し、医者や官僚として活躍。やばい、完璧なんですけど。
弁護士:PTA役員は勿論、ご近所付き合いも積極的にして、全国仲良し町内会NO.1に選ばれたことも。
女:そうよ、テレビにも出たことあるわ。
閻魔:おばさんさー、
女:おばさん言うな。
閻魔:キモくないですか?幸せすぎて。
女:どういうこと?あんた達の感覚がおかしいのよ。ひがんでるんでしょ?
閻魔:ぷぷっ、嫌だし、こんな道徳の教科書みたいな人生。お断りだしー。あははは。
弁護士:(同時に)あはははは…
女:おいっ!
閻魔:ははは。(真面目風に)疑問に感じたこととか無いんですか?完璧で、理想的で、幸せ過ぎる人生を送れていることに。
女:はあ?無いわよ。確かに、家庭環境とかは恵まれていた方かもしれないわ。でもね、それ以外は努力したのよ!勉強して知識を蓄えて、人脈を築いて、どんどん色んな事をして、それで幸せを掴んできたわ。
閻魔:違うよ、おばさんはー、
女:また、おばさんて。
閻魔:社会の深い所に触れたことがないだけです。
女:は?
弁護士:人間の生々しさを見たことがないだけです。
女:え?なに?
閻魔:他人の傷みを体験したことがないだけです。
弁護士:世界に傷みがあることに気付かなかっただけです。
閻魔:たまたま幸運にも、そういうことに行き合わずに生きて来れた、ただそれだけです。
女:なによ…どうゆう…
男:ちゃーーーす!!只今、戻りましたーー!!
閻魔:おう、ハゲ、御苦労!
男:ちす!!こんにちは!
女:あ、こ、こんにちは。
閻魔:調子はどう?
男:はい、めっちゃ働いてますよ!!次ももうシフト入ってます!
閻魔:ようし、じゃあさ、このおばさんも一緒に連れてってよ。
男:お、新入りですか?いいっすねえ!ちょっとツンとしてて、おばさん、俺、めっちゃタイプです。
女:嫌よこんなハゲ!そしておばさんて言うな!
弁護士:まあまあ。このままだとどうせ地獄行きですし、一緒に服役してきたら如何ですか?
女:服役?
弁護士:と言っても、お仕事してくるだけです。それで地獄行きが免除になるかもしれませんよ。
女:本当に?
弁護士:ええ。因みに、今あなたは28歳の姿です。色んな体験、して来て下さい。
男:おばさん、早く!遅刻しちゃうよ!
女:ええ?
男:早く早く!
女:ああ…
弁護士:行ってらっしゃいませ。

■破:バイトのシークエンス
女:どこ行くのよ?
男:ラブホのお掃除バイトっす!時給いいんすよ。
女:ひええええ、嫌よっ、嫌だ!
男:我儘だなあ。ほら、シーツ取り替えに行きますよ。
女:こんな所に来る人とか信じられない!
男:ちょっとー、それ偏見だよ~?お、あれは援助交際ですな、こんな昼間っからねえ。
女:あの子、泣いてるじゃない。
男:騙されてヤリ逃げされたんじゃないんすか?おばさん、お小遣いあげますんで、彼女、ファミレスにでも連れてって、話聞いてあげて下さいよ。
女:えええ?何、私が、援助交際辞めさせるの?
男:早く早く。俺、シーツ取り替えとくんで。
女:ああ…はい。
(間)
男:あ!お帰んなさい!どうだった?
女:……罵倒された…おばさんなんかに何が分かるかって。
男:そう。
女:でも、5時間もドリンクバーで粘った結果、明日は学校には、行ってみるって言ってくれたから…、いい、かな。
男:(微笑)ふうん。
女:ていうかさ、私、そんなにおばさんかな?
男:俺よりはおばさんですよ、俺19なんで。
女:え〝ーーーっっっ!!!

男:はい、次は、ホームレスピーポーの散髪のバイトです。
女:げーーー、そんな人種近寄ったことないわ。
男:おばさんてさあ、全然いい人じゃないよね。なんで今まで幸せにのうのうと生きて来られたんだろう?不公平だなあ。
女:うるさい!でもやるとなったらやるわよ!頑張り屋さんだから!
男:じゃあおばさんは、あそこの三好さんを担当して。
女:分かったわ。じゃあ後で。
(間)
男:あ!お帰んなさい!どうだった?
女:…罵倒された…面接先の人に。
男:面接?
女:髪切るだけじゃ勿体ないので、お洋服もコーディネートしてみたら、結構いい感じのオヤジでさあ。履歴書を書いて面接に付いて行ったの。
男:へええ、やるじゃん、流石、元敏腕女社長。
女:けど、こんな職歴じゃだめだって、梨のつぶてだった…
男:そう。
女:でも、明日も違う所にチャレンジしてみようって、約束したから、まいいかな。
男:(微笑)ふうん。じゃあ、次はね、内戦してる国で粉ミルクを配るバイト。
女:ええ?外国にも行くの?
男:そうよ~~、はい、お帰りなさい!
女:早っ!早いだろ!間を取れよ!
男:まあまあ時間の都合でね、大人の事情でね。どうだった?
女:……腕の中で、赤ちゃんが亡くなりました…
男:…そう。
女:…(泣く)
男:…いいよ、それ以上言わなくて。
女:…ありがと。

女:…ところで、あなたは、何でこんないっぱいバイトばっかりしてるの?
男:俺、引きこもりだったの。理由は省略するが。
女:ふうん。
男:まあ、2回くらいバイトしたことあったけどー、結局40年間くらいずっと家に籠りっきり。で、あの閻魔様に社会と関われ馬鹿野郎と言われ、今、色んな仕事をしまくってるって訳ですよ!意外と楽しいもんですね、人と関わるってね。
女:そりゃそうよ。でも、こんな心が痛くなる仕事、したことなかったなー。
男:でしょー。じゃあ、最後、行こうか。

■急:収束
閻魔:雨宮?何見てんの?
弁護士:下界の様子ですよ。ほらあそこに、飛降り自殺しようとしてる子がいます。
閻魔:なに?いじめかなんか?
弁護士:どうですかねえ。
閻魔:助けたいの?
弁護士:ふふ、いえ、私達に現世の運命をいじる権利はありませんから。ただ…
閻魔:ただ?
弁護士:少し自分に重ねただけです。
閻魔:そうだね。あなたと出会ったのも、学校の屋上だった。ねえ、雨宮センセ?
弁護士:小さい頃からずっといじめられっ子でした。でも頑張って、夢だった教師になった。そして、少なくとも自分の目の届く範囲では、いじめっ子もいじめられっ子も両方とも、正しい方向に教え導こうと思ったんです。
閻魔:でも現実は違ってた。
弁護士:ええ、世間ではモンスターペアレントなどという言葉もありましたが、彼女達は決してそういう悪気は無かったと思います。
閻魔:正義良子、あなたの教え子の父兄だったわね?
弁護士:そう。彼女は正しかったですよ。全て、自分の子供のため。それが子供達なりの友情の築き方とか、子供の自由を侵害しているとは気付かなかった。
閻魔:あなたに多大なストレスを与えていたこともね。
弁護士:まあ、それは、僕が弱かっただけです。僕はただ、自分の指導力不足を責められて、ああやっぱり、大人になっても非難され続けるキャラなんだなあって。
閻魔:それで飛び降りようとしたんだ。
弁護士:そして君に助けられた。
閻魔:まあ助けらんなかったけどね。ネクタイしか掴めなかったから、首吊り状態になって植物人間に。ごめんね~。てへぺろっ。
弁護士:いいえ。こうやって君の世界で生きてるから。でも出来れば、ちゃんと生きてるうちに、こうゆう仕事したかったな。叱咤激励するっていうかね。
閻魔:そろそろいいかもよ。
弁護士:ん?
閻魔:雨宮さんの服役期間は今日で終わりです。
弁護士:えっ?
閻魔:目覚めたら、34歳のままのあなたに戻ります。折角身体が残ってるんだからさ、頑張んなよ、センセ!
弁護士:え、ちょ、君は?
閻魔:んー?あたしはまだまだ服役期間残ってんだー。ほら、ずっと無気力無関心無感動の人生やってたからさ。こうやって人の人生にケチつけて、首突っ込んで、喝ッ!てやんのよ。
弁護士:そっか。
閻魔:んふふ。じゃね、センセ。いつか先生の授業受けたいなー。ばいばーい。

男:(ヒソヒソ)しーっ!おばさん、足音うるさいよ。
女:(ヒソヒソ)しょうがないじゃない。
男:おばさんなのにヒールなんて履いてっからだよ。
女:うるさいハゲ。で、なんなのよ、ここ、病院?
男:そ。ホスピス医療の病院でね。要するに、皆末期患者だったり、意識が戻らないまま寝たきりだったり。それでも、出来るだけ幸せに死を迎えようって所だよ。あのじーさんはね、奥さんも子供もいるんだけど、何があったのか、一度も誰もお見舞いに来ないのよ。
女:かわいそう…
男:そ、話し相手してあげて。
女:うん。吉村さん、こんにちは。

閻魔:人の幸福の量は一定だと思うんです。幸せな時間の後には辛いことがあって、楽な時期の後には大変な事件があって。世界の幸福の量も一定だと思うんです。あたしがフルーツの山盛りを頬張っている時、地球の裏側で子供が飢えて死んでいる。あたしが遊園地で彼氏とジェットコースターに乗ってる時、倒産した工場長が首を吊ろうとしている。それは確かに直接あたしには関係ないし、何も出来ません。でも、そういう傷みがあることに、敏感にはなりたい。…どうですか、あなたは?あなたが死んだ頃、あたしがまだ閻魔様だったら、皆さんのお越しをお待ちしています。

男:おばさん、最後にあの人!
女:誰?…え、これって、あの弁護士さんじゃない!
男:自殺未遂で長い間植物状態なんだ。
女:そうだったの…。雨宮さん、雨宮さん!
(SE:心電図音で変化)
女:あ!雨宮さん!目ぇ覚めたのね!私のこと、分かる?
元弁護士:正、義、さん。
女:ああ…良かったあ…
元弁護士:生き返ったんですね、僕、あの子を置いて。正義さん、僕の弁護士の仕事、引き継いで頂けますか?
女:私が?
元弁護士:はい。あなたなら、きっといい弁護できると思いますよ。
女:…はい!


完(初稿2013/7/5)